昨日はDay 18「金融緩和と引き締め」で、金利を上げることと国債の買入れを絞ることが別の手段だと確かめました。
今日は、その「量」そのものをどう測るのかを見ます。Day 13「中央銀行の役割」が「この『お金の量』という測り方は Day 19」と送っていた話です。

カナ「9月18日、カレンダーに入れました。……あの日、何が増えたり減ったりするんですか?」
その「量」が今日の話です。

カナ「そもそもお金の量って、誰かが数えてるんですか?」
数えています。 毎月、日本銀行が公表しています。
ただし数え方が1つではありません。

カナ「数え方が違うと、答えも変わるんですか?」
サトル「変わる。日銀が出してる量は、いま減ってる。でも、みんなが持ってる量は増えてる。別のものを数えてるからだよ。」
種明かしです。
同じ「お金の量」という言葉が、2つの違うものを指しています。

カナ「これから『お金の量』って聞いたら、どっちの量か確かめます」
そういうことです。
ここからは、その2つの中身を見ていきます。
通貨供給量とは?
通貨供給量とは、世の中に出回っているお金の総量のことです。
日本銀行はこれをマネーストック統計として毎月公表しています。
定義はこうです。
「一般法人、個人、地方公共団体などの通貨保有主体が保有する現金通貨や預金通貨などの通貨量の残高」
大事なのは誰が持っているお金を数えるかです。
数えるのは一般法人・個人・地方公共団体が持っているぶん。中央政府や日本銀行、銀行そのものが持っているお金は、この数に入りません。
つまりマネーストックは、私たちの側にあるお金を数えた数字です。
一方、Day 13で出てきたマネタリーベースは、日本銀行が供給しているお金でした。
出す側の量と、持っている側の量。 この2つが、同じ「お金の量」という言葉で呼ばれています。
測り方は4つある
マネーストックにも、さらに4つの段階があります。どこまでを「お金」と数えるかの違いです。
- M1 = 「現金通貨+預金通貨」(預金通貨の発行者は、全預金取扱機関)
- M2 = 「現金通貨+預金通貨+準通貨+CD」(発行者は国内銀行等)
- M3 = 「現金通貨+預金通貨+準通貨+CD」(発行者は全預金取扱機関)
- 広義流動性 = 「M3+金銭の信託+投資信託+金融債+銀行発行普通社債+金融機関発行CP+国債+外債」
言い換えると、こうです。
- M1 … 財布の中と、いつでも引き出せる預金
- M3 … そこに定期預金などを足したもの
- 広義流動性 … さらに投資信託や国債まで足したもの
すぐ使えるものだけを数えるか、換金すれば使えるものまで数えるか。 その線引きの違いです。
実際の数字を並べます。2026年7月分(2026年8月12日公表)の平均残高です。
- M1:1,090.5兆円(前年比 +0.1%)
- M2:1,297.0兆円(+2.2%)
- M3:1,641.2兆円(+1.4%)
- 広義流動性:2,338.4兆円(+4.4%)
ニュースで「日本のお金の量」と言われるとき、たいていはM3を指します。1,641.2兆円です。
日銀が減らしているのに、世の中のお金は増えている
ここが今日いちばん大事なところです。
Day 13で出した数字をもう一度置きます。
- マネタリーベース(日本銀行が供給する量):2026年7月 前年比 −13.8%
- M3(私たちが持っている量):同じ2026年7月 前年比 +1.4%
同じ月の、同じ国の「お金の量」です。
片方は13.8%減り、もう片方は1.4%増えている。
なぜこうなるのか。数えている場所が違うからです。
日本銀行が国債の買入れを絞れば、日本銀行が出すお金は減ります。
でもそれは銀行と日本銀行のあいだの話です。
私たちの預金がその日に減るわけではありません。
お金は1.4%、物価は1.9%
ここでDay 4「インフレーション」に戻ります。
Day 4 で、物価が上がる原因の3つ目として、こう書きました。
「世の中に出回るお金の総量が、物やサービスの量より速く増えると、お金1単位の価値が薄まります。」
理屈としては、そのとおりです。 ただし今日の数字を、同じ土俵で並べてみてください。
- 私たちが持っているお金(M3):+1.4%
- 消費者物価:+1.9%(2026年7月・前年同月比)
※ここでマネタリーベースの−13.8%を持ち出してはいけません。
Day 4 が言っているのは「世の中に出回るお金」、つまりマネーストック側の話です。比べるなら M3 と物価です。
お金は1.4%しか増えていないのに、物価は1.9%上がっています。
お金の量だけで決まるなら、1.4%増えたぶん物価も1.4%上がる、という向きになるはずです。実際は1.9%。 残りの0.5ポイントは、量では説明がつきません。
Day 4 は、そのことも同じ節に書いていました。
「現実のインフレは、この3つが混ざって起きます。」
Day 15「円安と円高」で見た円安も物価に効きますし、原材料の値段も効きます。お金の量は要因のひとつであって、全部ではない。
Day 14で「説明が1つしかないときは、たいてい何かを見落としています」と書きました。今日のこれも、同じ形です。
M1はほぼ動かず、広義流動性は98.6兆円増えた
もうひとつ、前年比の並びを見てください。
- M1:+0.1%(増えた額は約1.1兆円)
- M3:+1.4%(約22.7兆円)
- 広義流動性:+4.4%(約98.6兆円)
外側にいくほど、増え方が大きくなっています。
M1は現金と、いつでも引き出せる預金でした。
ここはほとんど動いていません。
一方、広義流動性に含まれる投資信託や国債まで数えると、1年で98.6兆円増えています。
数字が語っているのは、お金が預金の外側へ動いているということです。
Day 1「複利」で、カナはこう聞きました。「貯金100万円たまった! えらい! ……で、これ銀行に置いといたら、1年でいくら増えるんですか?」
あのとき出した答えは、年4,000円でした。
同じ問いを、いま日本中が考えている——この98.6兆円は、そう読める数字です。
ただしこれは私の読み方であって、統計がそう書いているわけではありません。 相続や企業の資金移動など、別の理由も混ざります。数字が示しているのは「外側が増えた」という事実だけです。
私の100万円と、16億分の1
この連載では、私が実際に100万円を1年間運用しています。
今日は、その100万円をいちばん大きな数字の隣に置いてみます。
M3が1,641.2兆円。
私の元手は100万円。
約16億4,000万分の1です。
正直に書きます。私が何をしようと、この数字は1円も動きません。
Day 12「政策金利」から8日かけて、金利・為替・お金の量と、自分では動かせないものばかりを見てきました。
年4,000円の線、33%割安な単位、9回の決定会合、そして16億分の1。どれも私が動かせません。
だから今日、記録に足すのは項目ではなく、書き方の順番です。
毎月の記録は、まず「動かせなかったもの」を先に書き、そのあとで自分の判断を書くこと。
Day 6で実質を併記、Day 7で税引後、Day 8で分母、Day 9で元手の出どころ、Day 10で自分の税率、Day 11で住民税10%込み、Day 12で預金の線、Day 13で変化の原因の切り分け、Day 14で通貨の内訳、Day 15でドル建て、Day 16で理論値だと断ること、Day 17で通貨自体が割安だと明記すること、Day 18で制度が動いた日付。
今日足すのは、その順番です。
順番を決める理由は1つです。先に自分の判断を書くと、外の要因が言い訳に見えます。 先に外を書いておけば、そのあとに残ったものだけが自分の成績になります。
16億分の1にできることは、それくらいです。
よくある質問(FAQ・全6問)
Q1. マネーストックとマネタリーベース、どちらが「お金の量」ですか?
どちらもお金の量ですが、数えている場所が違います。
マネーストックは「一般法人、個人、地方公共団体などの通貨保有主体が保有する」お金。
つまり私たちの側です。
マネタリーベースは日本銀行が供給しているお金で、Day 13で見た当座預金419兆円などが入ります。
2026年7月は、マネタリーベースが−13.8%、M3が+1.4%。同じ月でも符号が逆になります。 ニュースで「お金の量」と聞いたら、どちらの話か確かめてください。
Q2. M1・M2・M3、どれを見ればいいですか?
一般には M3 です。 2026年7月で1,641.2兆円。
M1は現金といつでも引き出せる預金だけ、M3はそこに定期預金などを足したもの、広義流動性はさらに投資信託や国債まで足したものです。
M2とM3の違いは、発行しているのが「国内銀行等」か「全預金取扱機関」か。
ゆうちょ銀行や信用組合などを含めるかどうかで数字が変わります。同じ日本のお金でも、数える範囲で340兆円以上ちがいます。
Q3. お金の量が増えると、物価は上がるんですか?
方向としてはそう説明されますが、それだけでは足りません。
2026年7月は、私たちが持つお金(M3)が+1.4%に対し、消費者物価は+1.9%。お金の伸びより物価の伸びのほうが速く、差の0.5ポイントは量では説明がつきません。
Day 4「インフレーション」で挙げた3つの原因のうち、お金の量はひとつです。
Day 15で見た円安も、原材料の値上がりも効きます。1つの数字で物価は決まりません。
Q4. 日本銀行が量を減らすと、私の預金は減るんですか?
減りません。
日本銀行が国債の買入れを絞って減るのは、日本銀行と銀行のあいだにあるお金です。
あなたの通帳の残高とは別の階層にあります。
現に、マネタリーベースが13.8%減っている同じ月に、M3は1.4%増えています。
ただし間接的には効きます。 Day 18で見たとおり、金利が上がれば借りにくくなり、企業の投資や住宅ローンを通じて経済に届きます。すぐではなく、遠回りで届くと考えてください。
Q5. 広義流動性が4.4%も増えたのは、なぜですか?
理由は統計からは分かりません。
分かるのは、M1が+0.1%(約1.1兆円)に対し、広義流動性は+4.4%(約98.6兆円)という事実だけです。
広義流動性には投資信託や国債が含まれます。
現金や普通預金はほとんど動かず、外側だけが増えている。 そう読むことはできますが、相続や企業の資金移動など別の要因も混ざります。数字が示すのは「外側が増えた」ところまでです。
Q6. マネーストックはどこで確認できますか?
日本銀行が毎月公表しています。 「マネーストック速報」として、対象月の翌月に出ます。
今日使った2026年7月分は、2026年8月12日8時50分の公表です。
マネタリーベースのほうも、日本銀行が別に公表しています。2つは別の統計なので、別のページにあります。 混ぜて読まないでください。
まとめ
通貨供給量とは、世の中に出回っているお金の総量です。
日本銀行はマネーストック統計として毎月公表しています。
定義は「一般法人、個人、地方公共団体などの通貨保有主体が保有する現金通貨や預金通貨などの通貨量の残高」。中央政府・日本銀行・銀行そのものが持つお金は入りません。
測り方は4段階。2026年7月分で、M1が1,090.5兆円(+0.1%)、M2が1,297.0兆円(+2.2%)、M3が1,641.2兆円(+1.4%)、広義流動性が2,338.4兆円(+4.4%)。外側ほど増え方が大きく、増えた額でみるとM1との差は1年で約97兆円あります。
そして今日いちばん大事なこと。同じ月に、日本銀行が供給する量は−13.8%、私たちが持つ量は+1.4%。
符号が逆です。
そのうえで、比べるべき相手どうしを並べます。
お金(M3)が+1.4%に対して、物価は+1.9%。 お金の伸びより物価の伸びのほうが速く、差の0.5ポイントは量では説明がつきません。
Day 4で「お金の量が増えると価値が薄まる」と書いたのは理屈として正しいのですが、それは要因のひとつです。
🎯 今日の1手(実践)
今日は、ここまでの8日分を1枚にまとめてください。
Day 12から今日まで、金利・為替・お金の量を見てきました。
そのあいだに出した数字が7つあります。
紙を1枚用意して、あなた自身の数字を書き写してください。
- 何もしなかった場合の額(Day 12)… 預金金利 × 残高
- 金利感応度(Day 13)… 嬉しい側と痛い側、どちらが大きいか
- 外貨比率(Day 14)… 外貨建て ÷ 資産合計
- ドル建て換算(Day 15)… 資産 ÷ 159.45
- 往復コスト率(Day 16)… (TTS − TTB)÷ TTM
- 割安率(Day 17)… 実勢と購買力平価の差
- 次の決定会合(Day 18)… 2026年9月18日
この7つが、いまのあなたと世界のあいだにある距離です。
7つ全部そろっていなくてかまいません。 出せるものだけ書いてください。
空欄が多い人は、空欄の場所が、これから確かめるものの一覧になります。
そして紙のいちばん下に、1行だけ書き足してください。
「このうち、自分で動かせるものは1つもない」
- それでも気が滅入らなかった人 → 正しい反応です。 動かせないと分かっているものに、これ以上悩まなくて済みます
- 少し不安になった人 → その不安の置き場所が分かったことが、この8日間の成果です。何をしても動かないものと、自分の判断で動くものが、いま分かれました
Day 7で手取り率、Day 8で基本給比率、Day 9で標準報酬月額、Day 10で実効税率、Day 11で住民税倍率、Day 12で何もしなかった場合の額、Day 13で金利感応度、Day 14で外貨比率、Day 15でドル建て換算、Day 16で往復コスト率、Day 17で割安率、Day 18で会合の日付。
今日で13個目。
ただし今日だけは、新しい数字を出しません。 Day 12 からの7つを1枚に並べ、そのうえで記録の書き方の順番を決める——それが13個目です。
ここまでの8日間は、経済を動かしている側を見てきました。
金利を決める人、レートをつける市場、お金を供給する量。
明日 Day 20「景気」からは、その結果として私たちの側で何が起きているのかを見ていきます。
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- Day 1「複利」 — 100万円を銀行に置くと年4,000円。この連載の出発点
⚠️ ご注意
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