昨日はDay 17「購買力平価」で、円が購買力から見て33.0%割安に評価されていることを見ました。
今日は、その手前にある金利そのものを動かす手段を見ます。

カナ「昨日の割安率、出してみました。……これって、誰かが直せるものなんですか?」
いい問いです。 答えを先に言うと、直接は直せません。
ただし、そこに影響を与えうる手段を持っている人たちはいます。

カナ「上げ下げって、金利を動かすことですよね。他にも何かあるんですか?」
あります。
そこが今日の中身です。

カナ「金利のほかに、何を動かしてるんですか?」
サトル「別の手段だからね。金利は借りるときの値段、買入れはそれとは別の蛇口だ。いま日銀は、値段を上げながら蛇口も絞ってる。」
種明かしです。
緩和と引き締めは、1本のレバーではありません。 少なくとも2本あります。

カナ「1つのつまみを回してるんだと思ってました」
そうなんです。
ここからは、その2本の中身を見ていきます。
金融緩和と引き締めとは?
金融緩和とは、世の中にお金が回りやすい状態をつくること。
金融引き締めとは、その逆で、回りすぎを抑えることです。
言い換えると、こうなります。
- 緩和 … 金利を下げる。借りやすくする。使いやすくする
- 引き締め … 金利を上げる。借りにくくする。抑える
なぜそんなことをするのか。Day 13「中央銀行の役割」で見た日本銀行法第2条に戻ります。理念は物価の安定でした。
Day 4「インフレーション」で見た年2%の目標に対して、物価が高すぎれば引き締め、低すぎれば緩和。目標があるから、方向が決まるという順番です。
そして、いま日本は引き締めの側にいます。
Day 12「政策金利」で見たとおり、2024年3月のマイナス金利解除から5段階で1.0%まで上げてきました。
Day 12 でこう書きました。「利上げは結果として、次に下げられる幅をつくることにもなります。」
引き締めは、次に緩和するための余地をつくる行為でもある。 緩和と引き締めは対になっていて、片方だけを続けることはできません。
どうやって「1.0%程度」にするのか
ここが、意外と説明されないところです。
日本銀行が決めているのは、「無担保コールレートをこうしろ」という命令ではありません。 決定会合の文言は、こうです。
「無担保コールレート(オーバーナイト物)を、1.0%程度で推移するよう促す。」(2026年7月31日公表)
促す。 命じるではなく、促す。
Day 16「為替レート」で見たとおり、市場でつく値段は誰も決められません。金利も同じで、銀行どうしが貸し借りする値段は市場でつきます。 日本銀行にできるのは、そうなりやすい状況をつくることだけです。
その手段が公開市場操作、通称オペです。
日本銀行の説明を引きます。
「公開市場操作(オペレーション)などを用いて、金融市場における金利の形成に影響を及ぼし、通貨および金融の調節を行うことです。」
やっていることは2方向です。
- 資金供給 … 担保を取って銀行に貸す。世の中に出るお金が増える
- 資金吸収 … 逆に手形を売るなどして資金を引き上げる
そしてもう1つ、いまの日本で効いている仕掛けがあります。銀行が日本銀行に預けているお金にも、金利がつくのです。
「補完当座預金制度の適用利率(日本銀行当座預金<所要準備額相当部分を除く>への付利金利)については、1.0%とする」(2026年6月16日決定、翌17日から適用)
Day 13で見た当座預金419兆円を思い出してください。そのうち所要準備を除いた部分に、年1.0%が付きます。
銀行の立場で考えると単純です。日本銀行に置いておけば1.0%もらえるなら、それより低い金利で他人に貸す理由がない。 だから市場の金利は、この1.0%の近くに引き寄せられます。
金利を上げるとは、日本銀行が銀行に払う額を増やすことでもある——ここは押さえておいてください。
Day 12で「マイナス金利が適用されていたのは私たちの預金ではなく、銀行が日本銀行に預けているお金」と書いたのは、この当座預金のことです。
金利を上げることと、残高を減らすことは、別の手段
ここが今日いちばん大事なところです。
Day 13で、日本銀行の総資産約643兆円、うち国債約518兆円という数字を出しました。
そのときこう書いています。
「金利を上げるのと、この残高を減らすのは、別の手段です。」
今日はその中身です。
日本銀行は毎月、国債を買っています。
買えば代金が世の中に出ます。
その買入れの予定額は、四半期ごとに事前公表されています。2026年7〜9月の月間オファー金額は、合計2兆5,000億円。 年限ごとの配分まで、買う前に出ています。
ここで大事なのは、買っていても残高が減ることがあるという点です。
保有している国債には満期があります。満期が来れば、そのぶんは返ってきて残高から消えます。 買う額が、満期で消える額より少なければ、買っていても残高は減っていく。
だから、いま日本銀行がやっていることは2つです。
- 金利を上げる(値段を上げる)
- 国債の買入れを絞る(蛇口を細くする)
どちらも引き締めの方向ですが、別々の手段です。 片方だけ動かすこともできます。
ニュースで「日銀が引き締めに動いた」と聞いたら、どちらの話なのかを分けて聞いてください。
いま日本銀行がやっていること(2026年8月時点)
数字を並べます。
- 政策金利:無担保コールレートを1.0%程度(2026年6月16日決定・17日実施)
- 当座預金への付利:1.0%(同日決定)
- 2026年7月31日の会合:据え置き。賛成8・反対1
- 長期国債の買入れ:2026年7〜9月は月2兆5,000億円
- 次の決定会合:2026年9月17日(木)・18日(金)
最後の行に注目してください。次にこれが動くかもしれない日は、もう決まっています。
Day 13で、政策委員会の9人が年8回の会合で決めていることを見ました。その8回の日程は、事前に公表されています。 2026年の残りは9月17〜18日、10月29〜30日、12月17〜18日の3回です。
賛成8・反対1という数字も見ておいてください。
9人が全員一致で決めているわけではありません。割れたうえで、多数決で決まっています。
私の100万円と、日付が決まっている変化
この連載では、私が実際に100万円を1年間運用しています。
Day 13で、記録の書き方に変化の原因を「自分の判断」と「制度が動いた」に切り分けて書くことを足しました。
今日わかったのは、その「制度が動いた日」は、事前に分かっているということです。
だから今日、1つ足します。
金利が動いた月は、決定会合の日付を記録に書き添えることです。
Day 6で実質を併記、Day 7で税引後、Day 8で分母、Day 9で元手の出どころ、Day 10で自分の税率、Day 11で住民税10%込み、Day 12で預金の線、Day 13で変化の原因の切り分け、Day 14で通貨の内訳、Day 15でドル建て、Day 16で理論値だと断ること、Day 17で通貨自体が割安だと明記すること。
今日足すのは、制度が動いた日を日付で書くことです。
なぜ日付なのか。「なんとなく金利が上がってきた」では、あとから検証できないからです。
私の運用は2026年9月から2027年9月までの1年間。そのあいだに決定会合は9回あります。
2026年が9月18日・10月30日・12月18日、2027年が1月22日・3月18日・4月28日・6月11日・7月22日・9月22日(いずれも公表は会合の最終日)。
この9つの日付は、私が動かせないのに、私の成績に効く数少ない予定です。
だから先に書き出しておきます。
正直に言えば、この9日間に私ができることは何もありません。 買うのも売るのも自由ですが、何が決まるかは分かりません。
それでも書くのは、あとで「相場が動いた」と書くときに、その日が会合の翌日だったかどうかを自分で確かめられるようにするためです。
よくある質問(FAQ・全6問)
Q1. 金融緩和と金融引き締め、どちらが良いことなんですか?
どちらも「良い・悪い」ではなく、そのときの物価に対する方向です。
Day 13で見た日本銀行法第2条の理念は物価の安定。
Day 4の目標が年2%です。
この目標から離れているとき、離れている向きに応じて緩和か引き締めかが決まります。
そしてDay 12で書いたとおり、同じ利上げでも、貸す側と借りる側で符号が逆になります。 「良いこと」と一言で言えないのは、そのためです。
Q2. 「1.0%程度」の「程度」は何ですか?
幅を持たせた言い方です。
日本銀行が決めているのは「無担保コールレートを1.0%程度で推移するよう促す」という方針であって、金利そのものを命令で決めているわけではありません。
実際の金利は市場でつきます。
Day 14「金利差」で見たとおり、アメリカは「3.50〜3.75%」というレンジで示します。日本は1点+「程度」、アメリカは幅。
作法が違うだけで、どちらも市場の金利を誘導している点は同じです。
Q3. 日本銀行が国債を買うと、なぜお金が世の中に出るんですか?
買った代金を払うからです。
日本銀行が銀行から国債を買えば、その代金がその銀行の日本銀行当座預金に入ります。
銀行から見れば、国債という資産が現金に変わったことになります。
逆に、買う額を絞れば、この流れが細くなります。
さらに保有している国債は満期が来れば残高から消えるので、買う額が満期の額より少なければ残高は減っていきます。
Q4. 金利を上げると、日本銀行は損をしないんですか?
払う側の額は増えます。
今日見たとおり、日本銀行の当座預金には所要準備額相当部分を除いて年1.0%が付きます。
Day 13で見た当座預金の残高は約419兆円。
金利が上がれば、日本銀行が銀行に払う利息は増えます。
一方で保有している国債の利回りはすぐには変わりません。入りは据え置き、出は増える。 Day 13で「2025年度の決算では当期剰余金が1兆9,263億円ありましたが、これは常にプラスであるという保証ではありません。」と書いたのは、こういう構造があるからです。
Q5. 緩和と引き締めは、どのくらいで効くんですか?
すぐには効きません。
Day 12で見たとおり、政策金利が普通預金の金利に届くまでにも段階があります。
企業の設備投資や住宅ローンを通じて物価に届くには、さらに時間がかかります。
だから決定会合は、いまの物価だけでなく、この先どうなりそうかを見て決めることになります。効くころには状況が変わっているという難しさが、この仕事にはついて回ります。
Q6. 次にいつ動くか、どこで分かりますか?
日本銀行のサイトに、決定会合の日程が事前に公表されています。
2026年の残りは9月17日(木)・18日(金)、10月29日・30日、12月17日・18日の3回。2027年も1月から12月まで8回、すでに日付が出ています。
決定内容は会合の最終日に公表されます。
2026年7月31日の分は12時11分の公表でした。
金利がどうなるかは分かりませんが、いつ決まるかは分かります。 これは相場では珍しいことです。
まとめ
金融緩和とは、金利を下げてお金が回りやすい状態をつくること。
引き締めはその逆です。判断の基準はDay 4で見た年2%の物価目標で、Day 13の日本銀行法第2条から降りてきています。
やり方は「命令」ではありません。
決定会合の文言は「無担保コールレート(オーバーナイト物)を、1.0%程度で推移するよう促す。」。
手段は公開市場操作と、当座預金への付利1.0%です。
そして今日いちばん大事なこと。金利を上げることと、国債の買入れを絞ることは、別の手段です。
2026年7〜9月の買入れは月2兆5,000億円。
買っていても、満期で消える額のほうが多ければ残高は減ります。
いまの状態は、政策金利1.0%程度(2026年6月16日決定・17日実施)、当座預金への付利1.0%、7月31日の会合は据え置きで賛成8・反対1。
そして次の決定会合は2026年9月17日(木)・18日(金)。動くかどうかは分かりませんが、動きうる日は決まっています。
🎯 今日の1手(実践)
今日は、次の金融政策決定会合の日をカレンダーに入れてください。
2026年9月17日(木)・18日(金)。 決定内容は18日に公表されます。
そして、Day 13で作った紙をもう一度出してきてください。金利が上がると嬉しい側と、痛い側を書き出したあの紙です。
その紙を、カレンダーの日付の横に置く。 今日はそれだけです。
- 嬉しい側が大きかった人 → その日は、あなたにとって追い風が強まるかもしれない日です
- 痛い側が大きかった人 → 同じ日が、向かい風になりうる日です
- 紙をなくした人 → Day 13に戻って、もう一度書いてください。今日の1手は、あの紙がないと成立しません
年8回、日付は事前に決まっています。
2026年の残りは9月17〜18日、10月29〜30日、12月17〜18日。
Day 7で手取り率、Day 8で基本給比率、Day 9で標準報酬月額、Day 10で実効税率、Day 11で住民税倍率、Day 12で何もしなかった場合の額、Day 13で金利感応度、Day 14で外貨比率、Day 15でドル建て換算、Day 16で往復コスト率、Day 17で割安率。
今日で12個目です。 ここまでの11個は金額や率でした。12個目は日付です。
数字ではなく、予定を1つ持ちます。
明日 Day 19「通貨供給量」では、その「量」そのものをどう測るのかを見ます。
Day 13が「この『お金の量』という測り方は Day 19」と送っていた話です。
🔗 あわせて読みたい
- Day 17「購買力平価」 — 円が購買力から見て33.0%割安に評価されている話
- Day 13「中央銀行の役割」 — 金利を決める9人と、総資産643兆円の中身
- Day 12「政策金利」 — 政策金利1.0%が、通帳の0.400%に届くまでの道筋
- Day 4「インフレーション」 — なぜ年2%を目標にするのか。緩和と引き締めの判断基準
- Day 14「金利差」 — 日本は1点+「程度」、アメリカはレンジ。決め方の作法が違う話
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