【Day 4/365|1日1金融用語】インフレーション ——「ランチが150円上がった」のに給料が上がらないカナの話

【Day 4/365|1日1金融用語】インフレーション ——「ランチが150円上がった」のに給料が上がらないカナの話

Day 1で複利、Day 2で単利、Day 3で72の法則。
ここまで3日間、ずっと「増える力」の話をしてきました。

今日から向きが変わります。
減る力の話です。

そしてこの力がやっかいなのは、通帳の数字がまったく減らないことです。
残高は1円も減っていないのに、その1円で買えるものが減っていく。

だから気づきません。

Day 3の最後で「今日の1手」として金利を72で割ってもらいました。
今日は、その割り算を物価に対してやります。

インフレーションを学ぶカナの4コマ・起
カナ「久しぶりに来たら、ここのランチ150円上がってました。前は850円だったのに」

よくある話です。
そして、これがまさに今日の主題です。

インフレーションを学ぶカナの4コマ・承
カナ「値上げはわかるんですけど……私の給料、上がってないんですけど」

そこが本題です。
物価だけが動いて、収入が動かないとき、何が起きているのか。

インフレーションを学ぶカナの4コマ・転
カナ「あれ。じゃあ私の貯金って、減ってるんですか?」
サトル「額面は1円も減らないよ。減るのは、その1円で買えるものの量なんだ。だから通帳を見ても気づけない。」

種明かしです。
インフレは、残高を減らさずに価値を減らします。

インフレーションを学ぶカナの4コマ・結
カナ「銀行に置いてるだけなのに、静かに減ってたってこと……?」

そういうことです。
ここからは、その「静かな減り方」を数字で見ていきます。

インフレーションとは?

インフレーション(inflation)とは、物やサービスの値段が全体的に、継続して上がっていく状態のことです。

日本語では「インフレ」と略します。

ここで大事なのは「全体的に」と「継続して」の2つです。

キャベツが台風で高くなるのはインフレではありません。

それは一時的な品目の値動きです。
そうではなく、食べ物も家賃も電気代も交通費も、全体としてじわじわ上がっていく。

それが続く。

この状態をインフレと呼びます。

そしてインフレには、必ず裏側があります。

  • 物の値段が上がる(表側)
  • 同じ金額で買えるものが減る(裏側)

この2つは同じ現象を別の角度から見ているだけです。
ラーメンが1,000円から1,100円になったとき、「ラーメンが高くなった」とも言えますし、「1,000円が安くなった」とも言えます。

この裏側、つまり「お金がどれだけのものを買えるか」という力そのものには名前があります。
購買力です。

これは Day 6 で正面から扱います。

今日は表側の話を中心にします。

実際の数字を見る

抽象論はここまでにして、日本の実データを見ます。
総務省統計局の消費者物価指数(2026年6月分)です。

消費者物価指数は、2020年の物価を100とした指数で表されます。

  • 総合:113.6(前年同月比 +1.7%)
  • 生鮮食品を除く総合:113.1(+1.6%)
  • 生鮮食品およびエネルギーを除く総合:112.2(+1.7%)

いちばん上の113.6という数字を、そのまま読んでみます。

2020年に100円で買えたものが、いま113.6円になっている。
ということは、2020年に100万円で買えたものは、いま113万6千円出さないと買えないのです。

では逆から見ます。
2020年からずっと100万円を銀行に置いていた人の、その100万円は、いまいくらぶんの買い物ができるか。

100 ÷ 1.136 = 88.0万円

約12万円ぶん、静かに減っています。
通帳の数字は100万円のままです。

1円も減っていません。

それでも12万円ぶんの買い物ができなくなりました。

これがインフレの効き方です。

この先も続いたら、どうなるか

いまの上昇率、年1.7%がそのまま続くとします。
100万円の価値がどうなるかを並べます。

  • 1年後:98.3万円
  • 5年後:91.9万円
  • 10年後:84.5万円
  • 20年後:71.4万円
  • 35年後:55.4万円

そして半分になるのは41年後です。

ここで Day 3 の道具が使えます。
低金利には「70の法則」を使う、と書きました。

70 ÷ 1.7 = 41.2年

厳密な答えは41.1年。

ズレは0.1年です。
物価上昇率を見た瞬間に、自分のお金が半分になる年数が暗算で出てくる。

Day 3 の法則は、こういうときに効きます。

日銀が目標にしている年2%だとどうなるか。
70 ÷ 2 = 35年。

これも厳密な答えと一致します(Day 3 で計算した通りです)。

41年でも35年でも、人生の中に確実に入ってくる長さです。

なぜ物価は上がるのか

大きく3つの筋があります。

1. 需要が強い(デマンドプル型)
買いたい人が多く、物が足りないと値段は上がります。

景気が良いときのインフレはこれです。

給料も上がりやすいので、比較的健全な形と言われます。

2. コストが上がった(コストプッシュ型)
原油や原材料、輸入品、人件費、輸送費が上がると、企業は価格に転嫁します。

売れているから上げるのではなく、上げないと赤字だから上げる。
この型では給料が追いつきにくい。

カナが「値上げはわかるけど給料は上がっていない」と言ったのは、まさにこの状態です。

3. お金の量が増えた
世の中に出回るお金の総量が、物やサービスの量より速く増えると、お金1単位の価値が薄まります。
この「お金の量」の話は Day 19「通貨供給量」で扱います。

現実のインフレは、この3つが混ざって起きます。
だから「インフレは良いこと」も「悪いこと」も、単独では正しくありません。どの筋で上がっているのかを見ないと判断できない、が正確な言い方です。

なぜ「2%」なのか

日本銀行は物価安定の目標を年2%に置いています。
0%ではないのが不思議に思えるかもしれません。

物価が動かないほうが暮らしやすい気がします。

理由は主に2つあります。

ひとつは、0%を狙うと下振れしたときにマイナスに落ちるからです。

物価が下がり続ける状態はインフレより厄介で、こちらには別の名前があります。
デフレーションです。

これは明日、Day 5 で扱います。

もうひとつは、金利を下げる余地を残しておくためです。

景気が悪くなったとき、中央銀行は金利を下げて対応します。

ところが物価上昇率が0%だと金利もほぼ0%なので、下げる余地がありません。
この仕組みは Day 12「政策金利」と Day 13「中央銀行の役割」で扱います。

つまり2%は「少し上がっている状態を平常運転にしておく」という設計です。
そして少し上がっている状態が平常なら、現金をそのまま置いておくのは平常運転で負ける選択ということになります。

預金にとっては、静かな減少

ここが今日いちばん実害のある部分です。

普通預金の金利を年0.400%とします。

Day 1 で使った数字です。
物価上昇率は年1.7%。

0.400% − 1.7% = −1.3%

これが「実質」の利回りです。
名前がつく前に体感で説明すると、100万円を1年間銀行に置くと、増えるのは4,000円。

しかし買えるものは1.7%ぶん減る。

差し引きで、1年後の実質的な価値は98.7万円です。
さきほどの表の98.3万円より少しましなのは、この4,000円ぶんです。

1年で1万3千円ぶん負けています。何もしていないのに。

「名目」と「実質」という言い分けは Day 23「名目値と実質値」で正面から扱いますが、今日の時点で押さえてほしいのは1点だけです。
預金の金利は、インフレ率と並べて見ないと意味がない。

年0.5%の定期預金を「お得」と感じるかどうかは、物価が年1.7%上がっているという事実と並べた瞬間に変わります。

借金にとっては、静かな軽減

同じ現象が、逆側では味方になります。

住宅ローンを1,000万円借りているとします。

金利の話は一旦置いて、元本だけを見ます。
年1.7%のインフレが10年続くと、この1,000万円という金額の「実質的な重さ」はどうなるか。

1,000 ÷ 1.017の10乗 = 約845万円

155万円ぶん軽くなります。
返す金額は1,000万円のままです。

でも10年後の1,000万円は、いまの845万円ぶんの価値しかありません。

Day 1 と Day 3 で「複利は借金にも効く」「72の法則は借金にも効く」と書きました。
インフレは逆です。インフレは借金の味方です。

ただし条件があります。金利が固定であることと、収入がインフレに合わせて増えること
変動金利ならインフレ局面で金利が上がる可能性がありますし、給料が上がらなければ返済の負担感は軽くなりません。

この2つが揃わないと、恩恵はほとんど受け取れません。

固定と変動の話は Day 40「固定金利と変動金利」で扱います。

私の100万円は、インフレに勝てるのか

この連載では、私が実際に100万円を1年間運用しています。

インフレの観点で言えば、私が超えなければならない線は年1.7%です。
1年で1万7千円ぶん増えないと、実質的には負けている。

それだけの話です。

年1.7%を超えること自体は、そこまで難しい目標ではありません。
そして私はそんな低い線を狙っていません。

もっと上を狙って、その代わりに大きく下振れする可能性を引き受けています。

ここに、この連載の妙な構図があります。
インフレは「現金のままでは負ける」と教えてくれます。

でもそれは「だから何でもいいから買え」という意味ではありません。

年1.7%に負けたくないという理由と、1年で大きく動かしたいという理由は、まったく別のものです。
前者は堅実な話で、後者はギャンブルの話です。

私がやっているのは後者です。

だから改めて書きます。
私が1年間やることは、インフレ対策として合理的な行動ではありません。読者のみなさんは真似しないでください。
インフレに負けないという目的だけなら、必要な利回りは年1.7%です。

私が見ている数字はその何倍も上にあります。

その差がリスクです。

この線引きそのものは Day 35「投資と投機の違い」で正面から扱います。

よくある質問(FAQ・全6問)

Q1. インフレは結局、良いことなの?悪いことなの?

どの筋で上がっているかで変わります。
需要が強くて上がっているなら給料も上がりやすく、比較的健全です。

原材料費や輸入価格が上がって仕方なく値上げしているなら、給料は追いつきにくく、生活は苦しくなります。
「インフレだから良い/悪い」という言い方自体があまり意味を持ちません。

Q2. 消費者物価指数の「生鮮食品を除く」って、なぜ除くの?

野菜や魚は天候で大きく振れるので、除いたほうが物価の基調が見えるからです。
2026年6月なら、総合が+1.7%、生鮮食品を除くと+1.6%。

ほとんど差がないので、この時期の上昇は天候要因ではないと読めます。
さらにエネルギーも除いた指数(+1.7%)まで同じ水準なら、値上がりが特定の要因ではなく全体に広がっていると判断できます。

Q3. 給料が上がれば、インフレは関係ない?

物価と同じだけ上がるなら、生活水準は変わりません。
ただし「貯めてあるお金」には効きません。
給料が1.7%上がっても、銀行に置いてある100万円の価値は1.7%減ります。

フローは守れても、ストックは減ります。

Q4. インフレのとき、現金はどれくらい持つべき?

いくらが正解かは人によって違いますが、考え方の順番はあります。
まず「すぐ使うお金」と「しばらく使わないお金」を分けること。

すぐ使うお金は減ろうが現金で持つしかありません。
この線引きは Day 27「生活防衛資金」で扱います。

Q5. インフレ率って、自分で実感できるもの?

体感とはズレます。
指数は多数の品目を家計の支出割合で重み付けした平均なので、自分がよく買うものが平均より上がっていれば、体感は数字より高くなります。
カナが感じた「ランチ150円上昇」は850円に対して17.6%です。

指数の1.7%より10倍高い。

体感が数字より厳しく感じるのは、こういう品目が記憶に残るからです。

Q6. 72の法則と70の法則、インフレではどっちを使う?

70です。
物価上昇率は1〜3%という低い数字なので、72だとズレが大きくなります。
年1.7%なら、70÷1.7=41.2年(厳密41.1年)、72÷1.7=42.4年(1.3年もズレる)。
Day 3 で書いたとおり、金利が低いほど正しい定数は69.31に近づきます。

まとめ

インフレーションは、物の値段が全体的に継続して上がる状態です。
2020年を100とした消費者物価指数は2026年6月で113.6。

2020年に100万円で買えたものは、いま113万6千円必要です。
裏返すと、置いておいた100万円の価値は88万円に減りました。

通帳の数字は1円も減らないまま、12万円ぶん減っています。
年1.7%が続けば、70の法則で41年後に価値は半分になります。

そして同じ力が、預金には敵として、借金には味方として働きます。
残高が減らないから気づけない。

それがインフレのいちばん厄介なところです。

🎯 今日の1手(実践)

今日、自分が「値上がりした」と気づいたものを1つ思い出してください。
ランチでも、電気代でも、いつも買う飲み物でもかまいません。

そして2つ計算します。

  1. その値上がり率(例:850円→1,000円なら、150÷850=17.6%)
  2. 70 ÷ 1.7 = 41年(いまの物価上昇率で、お金の価値が半分になる年数)

1つ目は体感、2つ目は統計です。
この2つの数字が大きく違うことに気づけたら、それが今日の収穫です。

体感は特定の品目に引っぱられ、統計は全体を平均する。

どちらも正しくて、使い分けるものです。

🔗 あわせて読みたい

⚠️ ご注意

本記事は筆者個人の投資記録および一般的な金融知識の解説であり、特定の金融商品の売買を推奨するものではありません。
記載の運用実績は筆者個人の資金によるものです。
投資判断はご自身の責任において行ってください。
なおコンプライアンス上、当社の取引先に関連する銘柄は取引対象外としています。