【Day 6/365|1日1金融用語】購買力 ——「給料は同じなのに毎月きつい」と言ったカナの話

【Day 6/365|1日1金融用語】購買力 ——「給料は同じなのに毎月きつい」と言ったカナの話

Day 4でインフレ、Day 5でデフレをやりました。
物価が上がる話と、下がる話です。

この2日間、私はずっと同じ言い方をしてきました。
「100万円の価値が88万円になった」「現金の価値が2倍になる」。

でも、よく考えると変な言い方です。
100万円は、いつまでたっても100万円のはずです。

通帳の数字は1円も動いていません。

では何が減ったのか。
今日はそこに名前をつけます。

これがブロック1の締めです。

購買力を学ぶカナの4コマ・起
カナ「給料、去年と同じなんです。1円も変わってません」

事実として、そうなのだと思います。

購買力を学ぶカナの4コマ・承
カナ「なのに毎月きついんですよ。数字は同じなのに、なんでですか?」

いい問いです。
数字が同じなのに苦しい。

この矛盾の答えが今日の用語です。

購買力を学ぶカナの4コマ・転
カナ「じゃあ、何が変わったんですか?」
サトル「金額じゃなくて、その金額で買える量が変わったんだ。それを購買力っていうんだよ。」

種明かしです。
私たちは金額を見て安心しますが、暮らしを決めているのは金額ではなく、買える量のほうです。

購買力を学ぶカナの4コマ・結
カナ「お金って、数えるものじゃなくて、換えるものなんですね」

そういうことです。
ここからは、その「換える力」の測り方を見ていきます。

購買力とは?

購買力(purchasing power)とは、一定の金額で買える物やサービスの量のことです。
「お金の実力」と言い換えてもいいと思います。

大事なのは、購買力は金額そのものではないという点です。

  • 金額:100万円(変わらない)
  • 購買力:100万円で買える量(毎年変わる)

Day 4 と Day 5 で「100万円の価値」と書いてきたものは、正確にはこの購買力のことでした。
物価が上がれば購買力は下がり、物価が下がれば購買力は上がる。購買力は物価の裏返しです。

金額で見るか、量で見るか

抽象的なので、実物に換えます。

総務省統計局の消費者物価指数は、2020年を100として2026年6月が 113.6
2020年に800円だったラーメンが、いま909円になっている計算です。

では、100万円で何杯買えるか。

  • 2020年:1,000,000 ÷ 800 = 1,250杯
  • いま:1,000,000 ÷ 909 = 1,100杯

150杯、減りました。

金額で見ると「100万円のまま」です。
杯数で見ると「1,250杯が1,100杯になった」です。
同じ現実を語っているのに、後者のほうが痛みがはっきりします。

額面月30万円で見ても同じです。
2020年なら375杯ぶんの月給が、いまは330杯ぶん。45杯ぶん減っています。

これがカナの「数字は同じなのに毎月きつい」の正体です。

給料が上がっても、購買力は下がることがある

ここがいちばん実感に近い話だと思います。

給料が年1.0%上がったとします。

月30万円が30万3千円。
ありがたい話です。

でも同じ年、物価が1.7%上がっていたら。

  • 給料:30万円 → 30万3千円
  • ラーメン:909円 → 924円
  • 買える杯数:330杯 → 328杯

上がったのに、2杯減っています。

計算するとこうなります。
1.010 ÷ 1.017 − 1 = −0.69%

給料の上昇率が物価の上昇率を下回ると、購買力はマイナスになる。
「昇給したのに生活が楽にならない」という感覚には、こういう裏づけがあります。

だから昇給の話を聞いたとき、見るべき数字は2つです。上がった率と、物価の上昇率。 片方だけでは意味を持ちません。

この「額面と実質」の言い分けそのものは Day 23「名目値と実質値」で扱います。

今日はその手前、体感の話までです。

預金も、購買力で見ると景色が変わる

Day 4 で計算した数字をもう一度出します。

普通預金の金利は年0.400%。

100万円を1年預けると100万4千円になります。
金額は増えています。4千円、確実に増えています。

でも物価が年1.7%上がっていれば、購買力で見た1年後の価値は 98.7万円 です。

  • 金額:100万円 → 100万4千円(増えた)
  • 購買力:100万円 → 98.7万円(減った)

同じ1年を、増えたとも減ったとも言える。 どちらも嘘ではありません。
ただ、暮らしに効いてくるのは下の行のほうです。

自分の購買力を測る方法

Day 5 の最後に「今はこちら側と現在地を確認する習慣のほうが役に立つ」と書きました。

その確認のしかたです。

難しい統計は要りません。自分の定番を1つ決めて、値段を覚えておくだけです。

  • いつも行く店のランチ
  • いつも買う飲み物
  • 決まった銘柄のシャンプー
  • 散髪代

条件は2つ。毎年買うものであることと、中身が変わりにくいものであること。
家電やパソコンは性能が上がるので向きません。

同じ値段でも中身が別物になっていて、値上がりなのか性能向上なのか切り分けられなくなります。

そして年に1回、その値段を書き留める。
それだけで、自分の生活実感に基づいた物価指数ができあがります。

統計の数字と自分の体感がズレるのは当たり前です。 消費者物価指数は多数の品目を家計の支出割合で重み付けした平均なので、自分がよく買うものが平均より上がっていれば、体感のほうが厳しくなります。
だからこそ、平均と自分の両方を持っておくと現在地が見えます。

私の100万円の購買力

この連載では、私が実際に100万円を1年間運用しています。

1年後、口座の数字がいくらになっているかは分かりません。
ただ、判定の基準はもう決まっています。金額ではなく購買力で見て増えていること。

物価が年1.7%上がるなら、100万円が101万7千円になって、ようやく引き分けです。
105万円になっていれば「5万円の利益」に見えますが、購買力で見た本当の利益は約3万2千円です。

そして私は、この程度の差を狙っていません。
もっと上を狙い、その代わりに大きく減る可能性を引き受けています。読者のみなさんは真似しないでください。

ただ、勝ち負けの物差しだけは正確にしておきます。
月1回の運用記録では、金額と一緒に「物価を差し引いた実質」も併記します。都合よく金額だけを見せることはしません。

よくある質問(FAQ・全6問)

Q1. 購買力と物価は、どう違うの?

同じ現象を逆から見た言葉です。
物価が10%上がると、購買力はおよそ9.1%下がります(1 ÷ 1.1 = 0.909)。
「物価が上がった」は売り手側から見た言い方、「購買力が下がった」は買い手側から見た言い方です。

Q2. なぜ足し引きで計算できないの?

割り算だからです。
物価が10%上がったとき、購買力が10%下がるわけではありません。

1 ÷ 1.1 = 0.909 なので、下がるのは9.1%です。
数字が小さいうちは差もわずかですが、大きくなるほどズレます。購買力は「割る」と覚えてください。

Q3. 給料がいくら上がれば購買力を維持できる?

物価上昇率と同じだけです。
2026年6月の+1.7%なら、給料も1.7%上がってようやく現状維持。

それ以下なら実質的に減っています。
逆に言えば、昇給率が発表されたとき、物価上昇率と並べるまで喜ぶかどうか決められません。

Q4. 貯金の目標額は、購買力で考えるべき?

長い目標ほど、そうすべきです。
「30年後に3,000万円」という目標を立てても、年1.7%のインフレが続けば、30年後の3,000万円はいまの約1,800万円ぶんの購買力しかありません。
目標額は「いまの物価で何が買えるか」に翻訳しておくと、判断がぶれません。

Q5. 海外旅行が高く感じるのも購買力の話?

関係しますが、別の要素が乗っています。
国内の物価に加えて、為替レートが動くからです。

円の対外的な購買力は、国内の物価だけでは決まりません。
この話は Day 15「円安と円高」と Day 16「為替レート」で扱います。

Q6. 結局、購買力を守るにはどうすればいい?

今日の時点では「測れるようになった」で十分です。
守り方は、この先の365日で少しずつ渡していきます。

生活防衛資金(Day 27)、資産と負債(Day 30)、そして第2章以降の運用の話まで。
順番としては、測れないものは守れない

だから今日が先です。

まとめ

購買力とは、その金額で何がどれだけ買えるかという力です。
金額は変わらなくても、購買力は毎年変わります。

2020年に100万円で1,250杯だったラーメンは、いま1,100杯。

150杯ぶん減りました。
給料が1.0%上がっても物価が1.7%上がれば、購買力は0.69%のマイナスです。
そして預金は、金額では増えて購買力では減るという、ねじれた状態になり得ます。

Day 4 と Day 5 で「100万円の価値」と呼んでいたものの正体が、これでした。
お金は、数えるものではなく、換えるものです。

🎯 今日の1手(実践)

今日、自分の定番を1つ決めて、値段をメモしてください。

条件は2つだけです。

  1. 毎年買うもの(ランチ、いつもの飲み物、散髪代など)
  2. 中身が変わりにくいもの(家電やパソコンは性能が変わるので不向き)

そして「2026年8月 ◎◎ ◎◎◎円」とだけ書いて残しておく。

来年の同じ月に、もう一度その値段を見てください。
そのとき初めて、自分の購買力が上がったのか下がったのかが、統計ではなく自分の数字で分かります。
測れないものは守れません。 今日はその1行目です。

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⚠️ ご注意

本記事は筆者個人の投資記録および一般的な金融知識の解説であり、特定の金融商品の売買を推奨するものではありません。
記載の運用実績は筆者個人の資金によるものです。
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なおコンプライアンス上、当社の取引先に関連する銘柄は取引対象外としています。