昨日はDay 14「金利差」で、日米の金利差が両側から縮んでいるのに円安が止まっていないことを見ました。
今日は、その円安が自分の100万円に何をしたかを数字で出します。
Day 6「購買力」で、こう書いて宿題にしていました。
「国内の物価に加えて、為替レートが動くからです。円の対外的な購買力は、国内の物価だけでは決まりません。この話は Day 15「円安と円高」と Day 16「為替レート」で扱います。」
今日はその前半です。

カナ「昨日の宿題、外貨0%でした。全部円です」
正直に出せたのが偉いです。
私も同じです。

カナ「円だけ持ってるのって、いちばん安全な気がしてたんですけど……違うんですか?」
そこが今日のいちばん大事なところです。
安全に見えるのは、測っているものさしも円だからです。

カナ「国内の物価ぶんは減るって習いました。でも、それ以外にも減ってるんですか?」
サトル「減ってる。2020年末は1ドル103円、いまは159円だ。同じ100万円で買えるドルが、3分の2になってる。」
種明かしです。
円の中にいると、円が減ったことが見えません。 ものさしごと動いているからです。

カナ「日本の中にいると、減ったのが見えないんですね……」
そういうことです。
ここからは、その見えない目減りを数字にしていきます。
円安と円高とは?
円安とは、円の価値が外貨に対して下がること。
円高はその逆です。
ここで多くの人がつまずきます。数字の向きが直感と逆だからです。
- 1ドル 103円 → 1ドル 159円 は、円安
- 1ドル 159円 → 1ドル 103円 は、円高
数字が大きくなるのに「安」。
ここが引っかかる原因です。
考え方はひとつだけです。「1ドルという商品の値段」だと思ってください。
1ドルを買うのに103円で済んでいたものが、いまは159円かかる。
値段が上がった=円の側が弱くなった。 だから円安です。
輸入品が値上がりするのと、まったく同じ理屈です。
1ドルという商品が、56円ぶん値上がりした——これが円安の中身です。
2020年末103円33銭、いま159円44〜45銭
数字を出します。
すべて日本銀行の公表値です。
- 2020年末(12月30日17時):1ドル 103円33銭
- 2022年末(12月30日17時):1ドル 132円14銭
- 2026年8月25日17時:1ドル 159円44〜45銭(中心相場159円45銭)
5年8か月で56円。
54%の値上がりです。
2022年末からでも27円31銭、20.7%の値上がりです。
同じ日のユーロ円は185円88〜92銭。
ドルだけの話ではありません。
同じ100万円が、3,406ドル減った
ここからが本題です。100万円をドルに換えたら、いくらになるか。
- 2020年末:1,000,000 ÷ 103.33 = 9,677ドル
- いま:1,000,000 ÷ 159.45 = 6,271ドル
※ドルの端数は、Day 6 の杯数と同じく「何ドル買えるか」なので切り捨てです。
差は3,406ドル。
35.2%減っています。
通帳の数字は1円も減っていません。
それでも、世界の中では3分の2になりました。
給料でも同じことが起きています。Day 7「可処分所得」から使っている額面30万円で計算します。
- 2020年末:300,000 ÷ 103.33 = 月2,903ドル
- いま:300,000 ÷ 159.45 = 月1,881ドル
月1,022ドル減。 昇給していなければ、ドル建ての給料は5年8か月で3分の2になりました。
そしてDay 11「住民税」で実額を積み上げた手取り月239,726円は、いま月1,503ドルです。
ラーメンは、日本人には高くなり、ドルで稼ぐ人には安くなった
Day 6のラーメンで見ると、いちばんはっきりします。
円で見たラーメン
- 2020年:800円
- いま:909円(+13.6%)
ドルで見たラーメン
- 2020年:800 ÷ 103.33 = 7.74ドル
- いま:909 ÷ 159.45 = 5.70ドル(−26.4%)
同じ1杯のラーメンが、日本人には13.6%高くなり、ドルで稼ぐ人には26.4%安くなりました。
同じ物の値段を国どうしで比べると、通貨の強さそのものが測れます。その測り方には名前があります。 Day 17「購買力平価」で扱います。
値段は1つです。
見る通貨で、上がったとも下がったとも言える。
Day 6で「同じ1年を、増えたとも減ったとも言える」と書いたのと、同じ形のねじれです。
そして目減りの大きさが違います。
- 国内で測った目減り:100万円が1,250杯→1,100杯。−12%
- ドルで測った目減り:100万円が9,677ドル→6,271ドル。−35%
3倍近く違います。
Day 6で測ったのは、日本の中の目減りだけでした。外での目減りは、その3倍近く進んでいた。 これがDay 6の宿題への答えです。
円高だと、何が起きるか
逆側も見ておきます。
円高は「良いこと」でも「悪いこと」でもありません。得をする人と損をする人が入れ替わるだけです。
円高で得をする側
- 輸入品を買う人(食料、燃料、スマートフォン、輸入車)
- 海外旅行に行く人
- 外貨で払う人(海外のサービス、クラウドの利用料)
円高で損をする側
- 輸出する会社(同じ物を売っても、円に換えたときの手取りが減る)
- 外貨建ての資産を持っている人(円に換えると目減りする)
- 訪日客を相手にしている商売
円安のときは、これが全部ひっくり返ります。
だから「円安は日本にとって良いか悪いか」という問いには、誰にとってかを先に決めないと答えられません。
Day 12で「金利が上がるのは良いことか」を「貸す側か借りる側か」で分けたのと、同じ構造です。
そして2026年、政府は円安の側にブレーキをかけました。
財務省の公表によると、2026年4〜6月期の外国為替平衡操作は合計11兆7,349億円。
すべて米ドル売り・日本円買いです。
4月30日の1日だけで6兆2,787億円。円を買い支えたということです。
円安が進みすぎることは、政府が11兆円を使って止めにかかる事態でもある。 そのくらいの話だと思ってください。
私の100万円と、円の外から見た成績
この連載では、私が実際に100万円を1年間運用しています。
昨日、円建て100%であることを書きました。 今日それが何を意味するかが、数字になりました。
私の元手100万円は、いま6,271ドルです。 2020年末なら9,677ドルでした。
この目減りは、私が運用を始める前にすでに起きています。スタートラインが下がったところから始めているということです。
だから運用記録に、今日から1つ足します。
Day 6で実質を併記、Day 7で税引後、Day 8で分母、Day 9で元手の出どころ、Day 10で自分の税率、Day 11で住民税10%込み、Day 12で預金の線、Day 13で変化の原因の切り分け、Day 14で通貨の内訳。
今日足すのは、ドル建ての成績も併記することです。
円建てで5%増えても、そのあいだに円が5%安くなっていれば、ドルで見れば増えていません。
Day 4で「物価に負けない線」、Day 12で「何もしなかった場合の線」を引きました。今日で3本目の線です。
- 何もしなかった場合の線:年4,000円(税引後3,187円)
- 物価に負けない線:年19,000円(物価上昇率1.9%ぶん)
- 円安に負けない線:円が安くなったぶん
※2本目は、今日から17,000円 → 19,000円に引き直します。
Day 4・Day 12 で使った1.7%は、消費者物価指数(2020年=100)の2026年6月分の数字でした。
指数は2026年8月21日に2025年=100へ基準改定され、2026年7月分は前年同月比+1.9%。
この連載のラーメン単価909円は Day 6 からの通し数字なので据え置き、線の高さだけ最新の上昇率で引き直します。
3本目だけは、動く線です。
事前にいくらとは書けません。
だから毎回、その月のレートで引き直します。
正直に書いておきます。この3本目は、超えられない月のほうが多くなると思います。
円建てだけで円安を上回るには、円が安くなった率より大きく増やすしかない。不可能ではありませんが、そのぶん余計にリスクを取ることになります。
それでも書きます。書かないと、負けていることに気づけないからです。
よくある質問(FAQ・全6問)
Q1. なぜ数字が大きくなるのに「円安」なんですか?
1ドルという商品の値段だと思ってください。
103円で買えていたものが159円かかるようになった。値段が上がったのは1ドルのほうで、下がったのは円の価値です。
「1ドル=◯円」という書き方が原因です。
もし「1円=◯ドル」と書く習慣なら、円安のとき数字は小さくなり、直感と一致していました。
Q2. 円安は日本にとって良いことですか、悪いことですか?
誰にとってかで逆になります。
輸出する会社は、同じ物を売って円に換える金額が増えます。
訪日客を相手にする商売も追い風です。
一方、輸入する食料や燃料は高くなります。
海外旅行も高くなります。
立場で符号が変わる話に、全体としての答えはありません。 少なくとも、自分がどちら側かは計算できます。
Q3. 為替レートはどこで確認すればいいですか?
日本銀行が「外国為替市況」として毎営業日公表しています。 東京市場の9時と17時の時点のレート、その日の中心相場が載ります。
今日この記事で使った159円44〜45銭は、2026年8月25日17時の値です。
なお銀行で実際に両替するときのレートは、これに手数料が乗った対顧客相場なので一致しません。ニュースのレートで両替はできません。
Q4. 円安だと、給料は上がりますか?
自動では上がりません。
円安で利益が増えるのは輸出する会社などで、それが賃金に回るかどうかは別の話です。
今日の計算どおり、額面30万円のドル建ての価値は5年8か月で月2,903ドルから1,881ドルへ下がりました。日本円の額面が変わらないまま、世界の中での賃金は下がっていることになります。
賃金そのものの話は、Day 24「実質賃金」で扱います。
Q5. 外貨を持てば円安対策になりますか?
円安のときは効きます。
ただし逆も同じだけ効きます。
外貨を持っていれば、円安のときに円換算の価値は増えます。
円高になれば減ります。両方向に効くのが為替です。
Day 14で書いたとおり、金利は確実に入り、為替は読めません。
また外貨には為替手数料がかかり、為替差益には課税もあります。「対策」と呼ぶには、コストと税を引いたあとで考える必要があります。
Q6. 政府が介入すれば、円安は止まりますか?
止まるとは限りません。
2026年4〜6月期に11兆7,349億円が投じられ、それでも8月25日のドル円は159円台です。
介入は相場の水準そのものを決める手段ではなく、動きが急なときに速度を落とす手段として説明されるのがふつうです。
Day 14で「説明が1つしかないときは、たいてい何かを見落としています」と書きました。
介入も、円安を止める万能の手段ではありません。
まとめ
円安とは、円の価値が外貨に対して下がること。
円高はその逆です。
1ドル103円→159円が円安で、数字が大きくなるのは「1ドルという商品の値段が上がった」という意味です。
日本銀行の公表値で、2020年末が1ドル103円33銭、2022年末が132円14銭、2026年8月25日17時が159円44〜45銭。5年8か月で56円、54%の値上がりです。
その結果、同じ100万円で買えるドルは9,677ドルから6,271ドルへ。
3,406ドル、35.2%の目減りです。
額面30万円の給料も、ドル建てでは月2,903ドルから1,881ドルへ下がりました。
そしてラーメン1杯は、円では800円→909円(+13.6%)、ドルでは7.74ドル→5.70ドル(−26.4%)。
同じ1杯が、日本人には高くなり、ドルで稼ぐ人には安くなりました。
Day 6で測った国内の目減りは−12%。
ドルで測った目減りは−35%。
円の対外的な購買力は、国内の物価だけでは決まらない——これがDay 6の宿題への答えです。
🎯 今日の1手(実践)
今日は、自分の資産をドルに換算してください。
資産の合計 ÷ 159.45 = いまのドル建ての金額。
そして、もう1回割ります。
資産の合計 ÷ 103.33 = 2020年末のレートなら、いくらだったか。
100万円なら 6,271ドルと9,677ドル。
この2つを並べてください。
その差が、あなたが日本円で持っているあいだに世界の中で失った金額です。
- 差が気にならない → 一生を日本円で暮らすなら、それは正しい感覚です。気にする必要がないのも1つの答えです
- 差が気になった → 何をするかの前に、まず自分の支出のうち何%が輸入品や外貨建てかを見てください。そこが実際に効いている割合です
- 海外旅行や留学、海外移住を考えている → その計画は、いまのレートで組み直す必要があります
数字を出すだけでいいのが、今日の1手です。行動は要りません。 見えていなかったものを見る、それだけです。
Day 7で手取り率、Day 8で基本給比率、Day 9で標準報酬月額、Day 10で実効税率、Day 11で住民税倍率、Day 12で何もしなかった場合の額、Day 13で金利感応度、Day 14で外貨比率。
今日のドル建て換算で9つ目です。 給与明細から始まった9つの数字が、ここで世界の中の自分にたどり着きました。
明日 Day 16「為替レート」では、その159円という数字が、そもそもどうやって決まっているのかを見ます。
🔗 あわせて読みたい
- Day 14「金利差」 — 日米の差は両側から縮んでいるのに、円安が止まらない話
- Day 6「購買力」 — 100万円が国内で1,250杯から1,100杯に減った話
- Day 12「政策金利」 — 日本の政策金利1.0%が、通帳の0.400%に届くまで
- Day 11「住民税」 — 手取り月239,726円・手取り率79.9%を実額で確かめた話
- Day 4「インフレーション」 — 物価に負けない線は年17,000円という話
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