昨日はDay 16「為替レート」で、レートは誰かが決めた数字ではなく、その日いちばん取引が多かった値段の記録だと確かめました。
最後にこう書いて終わりました。同じハンバーガーが日本とアメリカでいくらか。
それだけで、通貨の強さが測れます。
今日は、それを実際にやります。そして、いきなり壁に当たります。

カナ「昨日の宿題やりました。うちの銀行、往復で1.5%でした」
自分の銀行の数字が出せました。
使う前に消える額が見えたはずです。

カナ「それで気になったんですけど、ハンバーガーの値段で通貨の強さが測れるって、どういうことですか?」
今日はそこからです。
考え方はとても単純で、実際にやると単純ではありません。

カナ「同じ物なら、どこの国でも同じ値段になるはずってことですか?」
サトル「その考え方でやる。ただしハンバーガー1個じゃ足りない。物価全体で計算すると1ドルは106円だ。いまは159円だよ。」
種明かしです。
1個では測れないものが、束にすると測れる。 通貨の強さは、値段のつき方ではなく何が買えるかで測ります。

カナ「円って、外から見ると3割も安く値札をつけられてるんですね……」
そういうことです。
ここからは、その物差しの当て方を見ていきます。
購買力平価とは?
購買力平価とは、2つの国で同じ物が同じ値段になるように決めた為替レートのことです。
英語の頭文字をとってPPPとも書きます。
考え方は1行で済みます。
同じ商品が、日本で1,000円、アメリカで10ドルなら、1ドルは100円であるはずだ。
なぜ「はず」なのか。
もし1ドルが50円なら、その商品はアメリカで買って日本で売るだけで儲かります。
誰もがそうすれば、いずれ値段かレートが動いて差は埋まる——という理屈です。
これを一物一価といいます。同じ物には、どこでも同じ値段がつくはずだという考え方です。
昨日見たレートは、市場でついた値段でした。
購買力平価は、そのレートが妥当かどうかを外から測る物差しです。別のものです。
もうひとつ、先に断っておきます。実際に公表されている購買力平価は、ある年を基準にして、そこからの物価上昇率の差で延ばして計算されます。 今日使う数字も1973年が基準です。「いま世界中の値札を集めて出した数字」ではありません。
ハンバーガーで測ろうとすると、いきなり壁に当たる
昨日の予告どおり、ハンバーガーでやってみます。
先に断っておきます。昨日は「それだけで、通貨の強さが測れます」と書きました。
正確には、それだけで測ろうとすると壁に当たります。 その壁のほうが、今日の中身です。
日本マクドナルドの公式サイトによると、ビッグマックは500円〜(税込。
店内でも持ち帰りでも同じ価格)。
ではアメリカはいくらか。ここで止まります。
アメリカのマクドナルドには、公式サイトに載る全国統一価格がありません。 州でも店でも値段が違うからです。
日本のように「全国どこでも500円」とは書けない。だから「アメリカのビッグマックは何ドル」と一言では言えません。
これは調べ方の問題ではありません。一物一価が、現実にはそのまま成り立っていないということです。
同じ国の中ですら、同じ物に同じ値段はついていない。
だから、ハンバーガー1個で通貨の強さを測る試みは、目安として使うものです。
ニュースで見かける「ビッグマック指数」も、わかりやすさのために1商品に絞った指標であって、それ以上のものではありません。
ちなみに、日本の500円を昨日のレートで割ると3.14ドルです。
Day 15「円安と円高」で「同じ1杯のラーメンが、日本人には高くなり、ドルで稼ぐ人には安くなった」と書きました。同じねじれが、ハンバーガーにも出ています。
では、どうするか。1商品ではなく、物価全体で測ります。
1個の値段には、その店の家賃も人件費も税も混ざります。品目を増やせば、そういう個別の事情はならされていきます。
一物一価が1商品では成り立たなくても、物価全体という大きな束で比べれば、通貨どうしの力関係は測れる——購買力平価は、そういう道具です。
物価全体で測ると、1ドルは106円91銭
公益財団法人 国際通貨研究所が、ドル円の購買力平価を継続的に計算して公表しています。
1973年を基準にしたもので、2026年7月24日時点の値はこうです。
- 消費者物価でみた購買力平価:1ドル=106円91銭
- 企業物価でみた購買力平価:1ドル=94円20銭
- 輸出物価でみた購買力平価:1ドル=66円38銭
3つあります。 ここが大事なところです。
どの物価で測るかで、答えが40円も変わる。
- 消費者物価……私たちが日常で買う物やサービスの値段
- 企業物価……企業どうしが取引する物の値段
- 輸出物価……輸出される物の値段
暮らしの実感にいちばん近いのは、いちばん上の消費者物価です。
だから今日はこれを軸にします。
そして、いまの実勢レートは159円45銭(2026年8月25日17時・日本銀行)。
並べます。
- 購買力平価(消費者物価):106円91銭
- 実勢:159円45銭
実勢は、購買力平価より49.1%も円安の側にあります。
裏返して言えば、円は購買力から見て33.0%割安に評価されているということです。
企業物価でみれば40.9%、輸出物価でみれば58.4%の割安。どの物差しを当てても、円は安い側にいます。
同じ100万円で、アメリカでは同じ暮らしができない
ここからが本題です。
私の100万円で計算します。
- 実勢レート159.45で換算:6,271ドル(Day 15 で出した数字。昨日書いたとおり、これは中心相場での理論値で、窓口で実際に換えれば6,242ドルです)
- 購買力平価106.91で換算:9,353ドル
差は3,082ドル。
この差が何を指しているのか、慎重に書きます。両替でお金が消えるわけではありません。
日本で100万円ぶん買えるものを、アメリカで同じだけ買おうとすると、9,353ドルかかります。
ところが100万円を両替して手に入るのは、6,271ドル。3,082ドルぶん足りません。
6,271ドルは、アメリカで6,271ドルぶんの物が買えます。そこで何かが失われているわけではない。
そうではなくて、日本で100万円でできていた暮らしを、そのままアメリカでやろうとすると足りない——今日の中身はここです。
日本の中で使うかぎり、100万円は100万円のままです。外に持ち出したときだけ、3分の1ぶん足りなくなる。
Day 6「購買力」からのラーメンで見ると、はっきりします。
- ラーメン1杯909円を購買力平価で割ると 8.50ドル
- 同じ1杯を実勢レートで割ると 5.70ドル
Day 15 で「ドルで稼ぐ人にはラーメンが5.70ドルに見える」と書きました。その安さの中身が、今日わかりました。
日本のラーメンが安くなったのではありません。アメリカの物価で測れば8.50ドル相当の1杯が、いまのレートでは5.70ドルで買える。 その差が、円の評価の低さです。
給料も同じです。Day 7「可処分所得」から使っている額面30万円で計算します。
- 実勢:月1,881ドル
- 購買力平価:月2,806ドル
月925ドルの差。 日本の中での暮らしぶりはアメリカで月2,806ドル相当なのに、外から見た値札は1,881ドルです。
海外旅行が高く感じるのは、この差が効いているからです。 向こうの物価が上がったからだけではありません。日本の中でのものさしが、外ではそのまま通用しない。
私の100万円と、割安な通貨で測った成績
この連載では、私が実際に100万円を1年間運用しています。
昨日、記録に「ドル建ての数字は中心相場での理論値だと断る」を足しました。
今日足すのは、その手前にある事実です。
私の成績は、購買力から33%割安に評価されている通貨で測った成績である——これを書きます。
Day 6で実質を併記、Day 7で税引後、Day 8で分母、Day 9で元手の出どころ、Day 10で自分の税率、Day 11で住民税10%込み、Day 12で預金の線、Day 13で変化の原因の切り分け、Day 14で通貨の内訳、Day 15でドル建て、Day 16で理論値だと断ること。
今日足すのは、その通貨自体が割安に評価されていると明記することです。
なぜ書くのか。この33%は、私が運用でどうにかできる部分ではないからです。
Day 12「政策金利」で引いた「何もしなかった場合の線」を思い出してください。年4,000円(税引後3,187円)でした。
あの4,000円も、外から見れば33%割引きされた単位で数えた4,000円です。 実勢レートなら25ドル、購買力平価なら37ドル。
線を引いたつもりでいて、その線が乗っている紙のほうが縮んでいた——6日前に引いた線に、今日それが分かりました。
Day 13で「成績が動いたとき、自分の判断のせいか制度が動いたせいかを分けて書く」と決めました。今日のこれは、その一番外側です。 私が何をしようと、円という単位そのものが外でどう見られているかは動かせません。
断っておくと、この項目を足しても、私の成績は1円も良くなりません。 むしろ、円建てで増えた数字が外ではどう見えるかを、毎回突きつけられることになります。
それでも書くのは、持ち出せば3分の1ぶん足りなくなる単位で、増えた減ったと言っているという事実から目を離さないためです。
よくある質問(FAQ・全6問)
Q1. 購買力平価と実際のレートは、いつか一致するんですか?
長い目で見れば近づくと説明されますが、いつ、どこまで、とは決まっていません。
現に、消費者物価でみた購買力平価106円91銭に対して、実勢は159円45銭。49.1%離れたままです。
購買力平価は「そのうちこうなる」という予想ではなく、いまのレートがどれだけ離れているかを測る物差しとして使うのが実際的です。
昨日書いたとおり、1日およそ1,531兆円の売買がつける値段に、当てはまる式はありません。
Q2. なぜ購買力平価が3つもあるんですか?
どの物価で測るかが違うからです。
消費者物価は私たちが買う物とサービス、企業物価は企業どうしが取引する物、輸出物価は輸出される物の値段です。
同じ「物価」でも、中身の品目が違えば答えも変わります。
国際通貨研究所の2026年7月24日時点の値は、消費者物価106円91銭、企業物価94円20銭、輸出物価66円38銭。40円の幅があります。
暮らしの実感に近いのは消費者物価です。「購買力平価では〜」という話を見たら、どの物価のことか確かめてください。
Q3. ビッグマック指数は信用できるんですか?
方向を知る目安としては使えますが、精密な物差しではありません。
今日見たとおり、アメリカのビッグマックには公式サイトに載る全国統一価格がありません。
州でも店でも違うからです。1つの国の中ですら、同じ物に同じ値段がついていない。
加えて、ハンバーガー1個の値段には、その国の人件費や家賃や税が混ざります。通貨の強さだけを取り出せているわけではありません。
あの指数は、各国で個別に価格を調べて作られています。わかりやすさのための入り口だと思ってください。数字を根拠にしたいなら、物価指数で計算されたものを見るほうが確かです。
Q4. 円が33%割安なら、いま外貨を買うのは損ですか?
割安だから戻る、とは限りません。
Q1で書いたとおり、購買力平価はいまどれだけ離れているかを測る物差しであって、いつ戻るかの予定表ではありません。
購買力平価から49%離れた状態は、今日始まったことでもありません。 離れたまま何年も続くことがあります。
Day 14「金利差」で見たとおり、理屈のうえで動くはずの方向へ、相場がそのとおり動くとは限りません。
加えて、昨日見た往復コストもかかります。
100万円を往復させれば窓口で12,641円。戻るのを待っているあいだ、その費用は先に払っています。
「割安だから買う」は、いつ戻るかを当てる賭けと同じだと思ってください。
Q5. 海外旅行が高いのは、これが理由ですか?
大きな理由のひとつです。
額面30万円は、実勢レートでは月1,881ドル、購買力平価では月2,806ドル。日本の中での暮らしぶりに比べて、外での値札は33%引きで通用しています。
向こうの物価が上がっていることも、もちろん効いています。ただ、こちら側のものさしが外では小さく扱われている——この部分は、旅行先の値段とは別に効いています。
逆に、訪日する人から見れば同じことが逆に働きます。
Day 15 で見た「ラーメンが5.70ドルに見える」がそれです。
Q6. 購買力平価はどこで確認できますか?
公益財団法人 国際通貨研究所が、ドル円の購買力平価を継続して公表しています。 1973年を基準にした系列で、消費者物価・企業物価・輸出物価の3本が出ます。
今日使った数字は2026年7月24日時点のものです。
OECDなども各国の購買力平価を公表していますが、基準年や計算方法が違うと数字も変わります。 見比べるときは、どの機関の、どの物価の、いつ時点の数字かを必ず確かめてください。
まとめ
購買力平価とは、同じ物が同じ値段になるように決めた為替レートです。
根っこにあるのは一物一価という考え方です。
ただし、ハンバーガー1個で測ろうとすると壁に当たります。アメリカのビッグマックには全国統一価格がありません(日本は500円〜)。同じ国の中ですら、同じ物に同じ値段はついていない。
だから物価全体で測ります。
国際通貨研究所の2026年7月24日時点の値は、消費者物価106円91銭・企業物価94円20銭・輸出物価66円38銭。どの物価で測るかで40円変わります。
実勢は159円45銭。
消費者物価でみた購買力平価から49.1%円安、裏返せば円は33.0%割安に評価されています。
その結果、日本で100万円ぶん買えるものは、アメリカでは9,353ドルぶん。
ところが両替して手に入るのは6,271ドルで、3,082ドル足りません。
ラーメン1杯909円も、購買力平価なら8.50ドル、実勢なら5.70ドル。
Day 15 で見た「ドルで稼ぐ人には安く見える」の中身は、これでした。
🎯 今日の1手(実践)
今日は、自分の資産を2つのレートで割ってください。
資産の合計 ÷ 159.45 = いま両替したら手に入る金額
資産の合計 ÷ 106.91 = 同じだけの物をアメリカで買うのに必要な金額
100万円なら6,271ドルと9,353ドル。その差3,082ドルが、足りない分です。
Day 15 でも2つのレートで割りました。あれは「昔と比べていくら減ったか」でした。
今日は「いま、いくら安く見られているか」です。 引き算の相手が違います。
出た差を、こう使ってください。
- 海外旅行や留学を考えている → その差が、現地で足りなくなる分です。予算はいまの実勢レートで組んでください
- 外貨や海外資産を持とうか迷っている → 割安だから買う、は賭けです。 Q4のとおり、離れたまま何年も続くことがあります
- 国内で暮らし続ける → その差は、あなたの生活には直接効きません。 円で稼いで円で使うかぎり、100万円は100万円のままです
Day 7で手取り率、Day 8で基本給比率、Day 9で標準報酬月額、Day 10で実効税率、Day 11で住民税倍率、Day 12で何もしなかった場合の額、Day 13で金利感応度、Day 14で外貨比率、Day 15でドル建て換算、Day 16で往復コスト率。
今日の割安率で11個目です。 9個目までが自分の中を測る数字、10個目が動かすときの費用でした。11個目で、自分が使っている単位そのものを測りました。
明日 Day 18「金融緩和と引き締め」では、その金利を上げ下げする手段そのものを見ます。
Day 12 と Day 13 が「上げ下げの手段には名前がある」と送っていた話です。
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- Day 4「インフレーション」 — 物価が上がると、現金は静かに減っていく
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