昨日はDay 11「住民税」で、控除欄の最後を締めました。
Day 7「可処分所得」から5話かけて、給与明細は全部読めるようになりました。
今日から、話は明細の外に出ます。
昨日の最後に「手取りが決まる場所は、明細の中だけではありません」と書きました。
正確に言い直します。明細の外の数字が決めるのは、手取りの「額」ではなく、その手取りが持つ「価値」と「行き先」です。
預金の利息は明細に載りませんが、口座の残高は動きます。
住宅ローンの返済額も明細には載りませんが、手取りから出ていきます。
今日は、その両方をたった1つの数字が同時に動かしている、という話です。

カナ「明細の数字、5つとも言えるようになりました。手取り率も、住民税倍率も」
上出来です。
ここまでで、給料から何がどれだけ引かれているかは説明できます。

カナ「でも、そのどれも私が決めた数字じゃないですよね。預金の金利も、選んだ覚えがなくて」
そこが今日の入り口です。
自分で決められない数字ほど、静かに効いてきます。

カナ「日銀が金利を決めたってニュース、私の通帳と関係あるんですか?」
サトル「2024年の春まで、その通帳の金利は0.001%だったんだ。いまは0.400%。400倍になってる。」
種明かしです。
日銀が決めているのは、あなたの通帳の金利ではありません。銀行どうしが1日だけお金を貸し借りするときの金利です。
それが、めぐりめぐって通帳に届きます。

カナ「400倍……気づかないうちに、勝手に増えてたんですね」
そういうことです。
ここからは、その「めぐりめぐって」の中身を見ていきます。
政策金利とは?
政策金利とは、中央銀行が金融政策の手段として動かす、いちばん短い金利のことです。
日本の場合、日本銀行が動かしているのは 無担保コールレート(オーバーナイト物) です。
長い名前ですが、中身は単純です。
- コール … 銀行どうしがお金を融通し合う市場
- 無担保 … 担保を取らない
- オーバーナイト物 … 今日借りて、明日返す。1日だけ
つまり、銀行が銀行から1日だけお金を借りるときの金利です。
あなたも私も、この市場には参加できません。
日銀の決め方も、少し変わっています。
「この金利を◯%にする」と命令するのではなく、「◯%程度で推移するよう促す」という言い方をします。
直接決めるのではなく、市場でそうなるように誘導する。
だから「誘導目標」と呼ばれます。
1.0%になったのは2026年6月16日の会合です(実施は翌17日)。
直近の2026年7月31日の会合では据え置かれ、示された方針はこうでした。
「無担保コールレート(オーバーナイト物)を、1.0%程度で推移するよう促す。」
この1.0%が、いまの日本の政策金利です。
決めるのは金融政策決定会合。年8回開かれます。
次回は2026年9月17日から18日です。
この2年あまりで、通帳の金利は400倍になった
ここからが本題です。日銀が動かしたのは銀行どうしの金利なのに、なぜ通帳の金利が変わるのか。
まず、何が起きたかを並べます。
日銀の決定と、三菱UFJ銀行の円普通預金金利です。
- 2024年3月19日 マイナス金利政策を解除(0〜0.1%程度)→ 普通預金 0.001% → 0.020%
- 2024年7月31日 0.25%程度 → 普通預金 0.020% → 0.100%
- 2025年1月24日 0.5%程度 → 普通預金 0.100% → 0.200%
- 2025年12月19日 0.75%程度 → 普通預金 0.200% → 0.300%
- 2026年6月16日 1.0%程度 → 普通預金 0.300% → 0.400%
0.001% から 0.400%。
400倍です。
100万円を1年預けたときに増える額で言うと、10円が4,000円になりました。
Day 6「購買力」のラーメン(1杯909円)に換えると、0杯が4杯です。
Day 1「複利」で、72の法則を普通預金に当てはめました。
72 ÷ 0.4 = 180年(Day 3「72の法則」で訂正したとおり、厳密には173.6年です)。
江戸時代の終わりごろに預けて、やっと今ごろ倍になる計算です。
もし2024年の春の0.001%で計算していたら、72,000年でした。
400倍速くなって、それでも180年。 これが「金利がついた」と言われている状態の実物です。
上がったことは事実です。
でも、上がったからといって預金で増えるわけではない。 ここを混ぜないでください。
決まってから、通帳に届くまでには間がある
上のリストを、日付だけもう一度見てください。日銀の決定日と、金利が変わる日がずれています。
- 2025年12月19日に日銀が決めた → 三菱UFJ銀行の普通預金金利の適用開始は2026年2月2日
- 2026年6月16日に日銀が決めた → 適用開始は2026年8月3日
直近の2回は、どちらも45日から48日。
およそ1か月半です。
ただし間隔は一定ではありません。
2024年3月の解除のときは、決定の2日後には適用されていました。
ニュースで「日銀が利上げ」と流れた日に、あなたの通帳の金利が変わるわけではありません。
適用日は銀行ごとに異なり、それぞれが発表します。ニュースの日付と、自分の通帳の日付は別物です。
政策金利は、3つの入口から届く
銀行どうしの1日の金利が、どうやって私たちのところまで来るのか。
入口は大きく3つです。
① 預金
いちばん分かりやすい入口です。
普通預金は年0.400%、1年もの(300万円未満)の定期預金はメガバンク3行とも年0.500%(2026年8月時点)。
100万円を1年置いて4,000円。
利息にも20.315%の税金がかかるので、手元に残るのは3,187円です。
なぜ政策金利1.0%が預金0.400%になるのか、銀行が何を見てその数字を決めているのかは、Day 38「預金金利の決まり方」で正面から扱います。
② 借入(変動金利)
こちらは短期プライムレートという別の金利を経由します。
銀行が優良企業に1年以内で貸すときの最優遇金利で、住宅ローンの変動金利はこれを基準に決まることが多い数字です。
- 2009年から2024年8月まで、ずっと 1.475% で据え置かれていました
- いまは 2.375%(2026年8月3日から)
15年動かなかった数字が、2年で0.9ポイント上がりました。
三菱UFJ銀行の住宅ローン変動金利は、店頭表示で年3.125%。
最大の優遇(▲2.18%)が効いて、実際の適用金利は年0.945%です(2026年8月)。
変動金利がどう動くのか、固定と比べてどうなのかは、Day 40「固定金利と変動金利」で正面から扱います。
③ 国債(固定金利のもと)
長期の固定金利は、政策金利ではなく国債の利回りを見て決まります。
10年物国債の利回りは2.887%(2026年8月24日)。
全期間固定の【フラット35】は、返済期間21年以上35年以下・融資率9割以下で年3.290%(2026年8月の最頻値)です。
①は嬉しい、②③は痛い。 同じ1つの数字が、預ける側と借りる側で真逆に効きます。
ここでDay 4「インフレーション」と食い違ったように見えるかもしれません。
あちらでは「インフレは借金の味方」と書きました。
矛盾していません。見ている軸が違います。
インフレが軽くするのは、借金の残高の実質的な重さです。
1,000万円という金額の値打ちが、物価の上昇ぶん目減りしていく。
政策金利が重くするのは、毎月払う利息の額そのものです。
こちらは名目で、そのまま口座から出ていきます。
元本は軽くなり、利息は増える。 Day 4で「恩恵を受けるには金利が固定であること」と条件をつけたのは、この2本目を止めるためでした。
だから「金利が上がるのは良いことですか」という質問には、あなたが貸す側か借りる側かを先に決めないと答えられません。
「金利を下げる余地」の話(Day 4の宿題)
Day 4「インフレーション」で、こう書いて宿題にしていました。
「景気が悪くなったとき、中央銀行は金利を下げて対応します。ところが物価上昇率が0%だと金利もほぼ0%なので、下げる余地がありません。この仕組みは Day 12「政策金利」と Day 13「中央銀行の役割」で扱います。」
いま、その「余地」を数字で見られます。
普通預金の金利が0.001%に張り付いていた時代、政策金利はマイナスでした。
下げる余地がゼロどころか、日銀はすでにマイナスまで踏み込んでいた。
それが「余地がない」の実物です。
いま政策金利は1.0%です。
0%まで下げる余地が、数字の上では1.0%ぶんあることになります。
利上げは結果として、次に下げられる幅をつくることにもなります。
Day 4で「2%は少し上がっている状態を平常運転にしておく設計」と書いたのは、この幅のことです。
物価が2%前後で動いていれば金利も2%前後に置ける。
そうすれば、いざというときに下げられる。
金利を上げ下げすること自体にも名前があります。
Day 18「金融緩和と引き締め」で扱います。
日本銀行が「物価安定の目標」を消費者物価の前年比上昇率2%と定めたのは、2013年1月22日です。
そこから13年。
いま政策金利は1.0%まで戻りました。この13年をどう評価するかは分かれますが、金利が動く状態になったこと自体は、数字で確かめられます。
なぜ日銀にその権限があるのか。
ほかに何をしているのか。 それは明日 Day 13「中央銀行の役割」で扱います。
私の100万円と、何もしなかった場合の線
この連載では、私が実際に100万円を1年間運用しています。
今日、その運用記録に足すものが決まりました。何もしなかった場合の線です。
100万円を1年間、普通預金に置いておくだけで4,000円。
ラーメンなら4杯ぶんです。
ただし利息にも20.315%の税金がかかるので、手元に残るのは3,187円。
杯数では3杯まで落ちます。
この3杯が、私が超えなければならない最低ラインです。
2024年の春なら、この線は10円でした。線が引かれていなかったと言ってもいい。
あのころは「銀行に置いておくくらいなら投資を」と言うのが簡単でした。
比べる相手がゼロだったからです。
いまは違います。
リスクをまったく取らずに、税引後で年3,187円が手に入る。 それを上回れないなら、私の1年は何をしていたのかという話になります。
Day 4で書いたもう1本の線と、並べておきます。
- 何もしなかった場合の線:年4,000円(税引後3,187円)
- 物価に負けない線:年17,000円(物価上昇率1.7%ぶん)
低いほうの線は超えて当たり前、高いほうの線を超えて初めて「増えた」。
2本のあいだにいる状態は、金額では勝っていて、購買力では負けているという、Day 6で見たねじれです。
だから運用記録には、今日からこう書きます。
Day 6で実質を併記、Day 7で税引後、Day 8で分母、Day 9で元手の出どころ、Day 10で自分の税率、Day 11で住民税10%込み。
今日足すのは、同じ期間・同じ金額を預金に置いていたらいくらだったか、を必ず横に置くことです。
この線の高さを決めたのは、私ではありません。日銀です。 私の成績は、私が選んでいない基準で採点されます。
唯一こちらが動かせるのは、どの銀行にこの線を引かせるか、それだけです。
よくある質問(FAQ・全6問)
Q1. 政策金利が上がると、住宅ローンはすぐ上がりますか?
すぐではありません。
変動金利の基準になる短期プライムレートが動き、そのあと各行が適用日を決めます。
さらに変動金利型は、基準金利をいつ見直すかも、返済額にどう反映するかも、金融機関ごとの約款で決まっています。自分の契約書で確認してください。
日銀の決定から自分の返済額に届くまでには、いくつも段があります。 固定と変動の違いは Day 40「固定金利と変動金利」で扱います。
Q2. なぜ「1.0%」ではなく「1.0%程度」なんですか?
日銀が決めているのは誘導目標であって、価格そのものではないからです。
実際の無担保コールレートは、市場で毎日つきます。
日銀は日々の金融調節を通じて、そこが1.0%あたりに落ち着くように促す。命令ではなく誘導だから「程度」なのです。
Q3. 政策金利が1.0%なのに、私の預金金利が0.4%しかないのはなぜ?
銀行は、預金で集めたお金をそのまま日銀に置いているわけではないからです。
銀行は預金者に金利を払い、貸出や運用で利ざやを取って利益を出します。預金金利は政策金利と同じにはならず、ふつうは下に来ます。 逆に借入金利は上に来ます。
その差が銀行の収益です。
銀行がなぜその差を取れるのか、役割そのものは Day 36「金融機関の役割」で扱います。
日銀の統計では、国内銀行が新規に貸し出した金利の平均は年1.452%(2026年6月)でした。
Q4. マイナス金利のとき、預金者はお金を取られていたんですか?
取られていません。
マイナス金利が適用されていたのは、私たちの預金ではなく、銀行が日本銀行に預けているお金のほうです。
私たちの普通預金がマイナスになったわけではありません。
ただし当時の普通預金金利は年0.001%。
100万円を1年預けて10円です。取られはしないが、増えもしないという状態でした。
Q5. 政策金利は、どこで見れば確認できますか?
日本銀行のサイトです。
金融政策決定会合の当日に「金融市場調節方針」が公表され、そこに「無担保コールレート(オーバーナイト物)を、◯%程度で推移するよう促す」と書かれています。
会合は年8回。日程も事前に公表されています。 次回は2026年9月17日から18日です。
ニュースの見出しではなく、この一文を自分で読むのがいちばん確実です。
Q6. 金利が上がるのは、私にとって良いことですか?
貸している側か、借りている側かで逆になります。
預金しかない人にとっては、ほぼ良い話です。
100万円あたり年4,000円が増えました。
住宅ローンを変動金利で借りている人にとっては、返済額が増える方向の話です。
両方ある人は、金額を比べてください。預金100万円で年4,000円、借入1,000万円なら金利0.1%の差で年10,000円。 住宅ローンがある家計では、借りている側の金額のほうが大きくなりがちです。
まとめ
政策金利とは、中央銀行が誘導する、いちばん短い金利のことです。
日本では無担保コールレート(オーバーナイト物)がそれで、いまは1.0%程度(2026年6月16日決定)。
決めるのは年8回の金融政策決定会合です。
2024年3月のマイナス金利解除を1段目として、日銀は5段階にわたって金利を引き上げました。
それに合わせて三菱UFJ銀行の普通預金金利は 0.001% → 0.020% → 0.100% → 0.200% → 0.300% → 0.400%。400倍です。
100万円あたり、年10円が年4,000円になりました。
ただし届き方には段があります。
直近2回では、日銀の決定から通帳への反映まで45日から48日かかりました。
入口は預金・借入・国債の3つで、預ける側には追い風、借りる側には向かい風として効きます。
そしてDay 4の宿題だった「金利を下げる余地」は、いま数字の上で1.0%ぶんあります。
0.001%に張り付いていたころには、なかったものです。
🎯 今日の1手(実践)
今日は、自分の銀行の普通預金金利を調べて、残高に掛けてください。
残高 × 金利 = あなたが何もしなくても1年で増える額。
100万円で年0.400%なら4,000円。
税引後で3,187円です。
- 0.001%〜0.020% → 明細やアプリの表示が古い可能性があります。もう一度、銀行の公式サイトで確認を
- 0.1%〜0.3% → その銀行のいまの水準です。改定の予定があるかは公式サイトで確認を
- 0.4%前後 → 三菱UFJ・みずほ・ゆうちょが2026年8月に適用した水準です
- 0.4%より高い → 条件付きの優遇金利かもしれません。条件が外れたときの金利も確認を
出てきた金額が、あなたの「何もしなかった場合の成績」です。
投資の成績を見るときは、必ずこの数字を横に置いてください。これを超えていなければ、リスクを取った意味がありません。
Day 7で手取り率、Day 8で基本給比率、Day 9で標準報酬月額、Day 10で実効税率、Day 11で住民税倍率。
今日の「何もしなかった場合の額」で6つ目です。 ここまでの5つは、制度が決めた率を自分の給料に当てはめた数字でした(Day 10・Day 11で見たとおり、控除で動かせる部分はあります)。
今日の数字だけは違います。率を決めるのは日銀ですが、どの銀行に置くかを決めるのは自分です。
明日 Day 13「中央銀行の役割」では、その金利を決めている日本銀行そのものを見ます。
なぜ、選挙で選ばれていない人たちが、あなたの通帳の金利を決められるのか。
🔗 あわせて読みたい
- Day 11「住民税」 — 控除欄の最後。去年の所得に1年遅れでかかる税金の話
- Day 1「複利」 — 72の法則。普通預金が2倍になるまで約180年かかる話
- Day 6「購買力」 — その金額で何がどれだけ買えるか。ラーメン杯数で測る方法
- Day 4「インフレーション」 — 日銀が2%を目標にする理由。物価に負けない線の出どころ
- Day 7「可処分所得」 — 引かれたあとの、実際に使えるお金
⚠️ ご注意
本記事は筆者個人の投資記録および一般的な金融知識の解説であり、特定の金融商品の売買を推奨するものではありません。
記載の運用実績は筆者個人の資金によるものです。
投資判断はご自身の責任において行ってください。
なおコンプライアンス上、当社の取引先に関連する銘柄は取引対象外としています。



