【Day 3/365|1日1金融用語】72の法則 ——「電卓どこ?」と言ったカナに、割り算1回で答えた話

【Day 3/365|1日1金融用語】72の法則 ——「電卓どこ?」と言ったカナに、割り算1回で答えた話

Day 1で複利の話をしたとき、最後にちらっと触れた法則があります。
72の法則です。

あのときは「便利な計算方法があります」で済ませました。
でも実のところ、この法則ひとつ覚えるだけで、お金にまつわる判断はかなり変わります。
金利の数字を見た瞬間に、それが何年で自分の資産を倍にするのか、あるいは何年で自分の借金を倍にするのかが、頭の中で勝手に出てくるようになるからです。

今日はそこをじっくりやります。
そして最後に、この法則を自分の100万円に当てはめて、少し都合の悪い数字も出します。

72の法則を学ぶカナの4コマ・起
カナ「複利はわかりました! で、私の100万円、いつ200万円になるんですか? ええと、電卓どこ……」

いい質問です。
そして、その電卓は要りません。

72の法則を学ぶカナの4コマ・承
カナ「1.05を……14回かける……? もう指が足りません」

やっぱりそうなりますよね。
正攻法で計算しようとすると、複利はとたんに面倒になります。

72の法則を学ぶカナの4コマ・転
カナ「もっと簡単な方法、ないんですか」
サトル「72をその利率で割るだけだよ。年5%なら72÷5で14.4年。実際は14.2年だから、ズレは0.2年しかない。電卓すら要らないんだ。」

種明かしです。
たった1回の割り算で、複利の年数がほぼ当たってしまう。

72の法則を学ぶカナの4コマ・結
カナ「暗算でわかるってこと!? ……あっ。じゃあ私のリボ払いも、計算できちゃう」

そういうことです。
そして、そこがこの法則のいちばん大事なところです。

72の法則とは?

72の法則は、これだけです。

72 ÷ 年利(%)= 資産が2倍になるまでのおよその年数

年6%なら、72÷6=12年。
年9%なら、72÷9=8年。
年3%なら、72÷3=24年。

複利の正しい計算式は「元本 ×(1+年利)の年数乗」で、2倍になる年数を出すには対数が必要です。
それを、小学校で習う割り算1回に置き換えてしまうのがこの法則です。

しかも精度がおかしいほど高い。
年6%の厳密な答えは11.90年で、法則の答えは12年。

差は1か月半です。

なぜ「72」なのか

ここが今日いちばんおもしろいところだと思っています。

数学的に正確な定数は、72ではありません。
金利が限りなく0に近いとき、正しい定数は 69.31 です。

自然対数の2、つまり ln2 × 100 の値です。

ではなぜ、世の中は69.31ではなく72を使うのでしょうか。
理由は2つあります。

ひとつは、72が割り切れる数だからです。
72は 1, 2, 3, 4, 6, 8, 9, 12, 18, 24, 36 で割り切れます。

暗算にこれほど向いた数字はそうありません。
69.31を暗算で割るのは、そもそも無理です。

もうひとつは、金利が上がると正しい定数も上がっていくからです。
実際に計算すると、こうなります。

  • 年1%のとき、正しい定数は69.66
  • 年3%のとき、70.35
  • 年5%のとき、71.03
  • 年8%のとき、72.05
  • 年10%のとき、72.73
  • 年15%のとき、74.39

つまり、72という数字がぴったり正解になるのは、年8%前後なのです。
そして年8%前後というのは、株式の長期平均リターンとしてよく引き合いに出される水準です。

暗算しやすくて、いちばん使いたい金利帯でいちばん当たる。
だから世界中で72が使われている。

よくできた法則です。

誤差はどこまで許されるのか

正直に、ズレの一覧を出します。

100万円が200万円になるまでの年数です。

  • 年1%:厳密69.7年/法則72年(+2.3年)
  • 年3%:厳密23.4年/法則24年(+0.6年)
  • 年5%:厳密14.2年/法則14.4年(+0.2年)
  • 年8%:厳密9.01年/法則9年(−0.01年)
  • 年10%:厳密7.27年/法則7.2年(−0.07年)
  • 年15%:厳密4.96年/法則4.8年(−0.16年)
  • 年20%:厳密3.80年/法則3.6年(−0.20年)
  • 年30%:厳密2.64年/法則2.4年(−0.24年)

実用的な結論はこうです。
年4%〜年12%の範囲なら、ズレは0.4年以内

ほぼ気にする必要がありません。

危ないのは両端です。
金利が低いときは実際より遅く見積もり、金利が高いときは実際より早く見積もります。
特に高金利側は「実際よりも早く倍になる」と出るので、借金の話をするときは要注意です。

年20%の借金は、法則だと3.6年で倍ですが、実際は3.8年。

少しだけ猶予があります。

慰めにはなりませんが。

ここでひとつ、Day 1の記述を訂正させてください。
Day 1で「普通預金の年0.400%なら、72÷0.4=180年」と書きました。
法則としては正しいのですが、厳密に計算すると173.6年です。

金利が低いと、72よりも69.31のほうが正解に近づきます(69.31 ÷ 0.4 = 173.3年。

ほぼ一致します)。
6.4年ぶんズレていました。

もっとも、170年待てる人はいないので実害はありません。

低金利には「70の法則」を使う

低金利側のズレが気になる場面が、ひとつだけあります。インフレです。

物価が毎年2%上がると、同じ100万円で買えるものは毎年2%ぶん減っていきます。
では、お金の価値が半分になるまで何年かかるか。

  • 72の法則:72÷2=36年
  • 70の法則:70÷2=35年
  • 厳密な答え:35.0年

70の法則のほうが、ぴったり当たります。
インフレ率のような1〜3%の低い数字を扱うときは、72ではなく70で割る。

これだけ覚えておけば十分です。

年2%のインフレが35年続けば、お金の価値は半分になる。
「現金で持っているのが一番安全」という感覚が、なぜ長期では成り立たないのか。

この1本の割り算が答えを出しています。

3倍にしたいなら「115の法則」

倍ではなく3倍を知りたいこともあります。

そのときは115です。

115 ÷ 年利(%)= 資産が3倍になるまでのおよその年数

  • 年5%なら、115÷5=23年(厳密22.5年)
  • 年8%なら、115÷8=14.4年(厳密14.3年)
  • 年10%なら、115÷10=11.5年(厳密11.5年)

倍が72、3倍が115。

この2つを覚えておけば、長期の資産形成の話はだいたい暗算で追いかけられます。

逆に使う ——「10年で倍にしたい」から必要な利率を出す

72の法則は、割る向きを変えても使えます。

72 ÷ 目標年数 = 必要な年利(%)

  • 20年で倍にしたい → 72÷20=年3.6%(厳密3.53%)
  • 10年で倍にしたい → 72÷10=年7.2%(厳密7.18%)
  • 5年で倍にしたい → 72÷5=年14.4%(厳密14.87%)

こちらの使い方のほうが、実生活では効くかもしれません。
「老後までに資産を倍にしたい」と思ったとき、必要な利回りが1回の割り算で出てくる。
そしてその数字が現実的かどうかを、その場で判断できます。

20年あれば年3.6%。

これは無理のない数字です。
5年で倍なら年14.4%。

かなり厳しい。
この線引きが即座にできることが、この法則の実用的な価値です。

借金と手数料 ——「割られる側」に立ったとき

Day 1でも書きましたが、繰り返す価値があります。
72の法則は、自分が支払う側に立ったときも同じ精度で働きます。

  • リボ払い年15%:72÷15=4.8年で借金が2倍
  • カードローン年18%:72÷18=4年で借金が2倍
  • 遅延損害金年20%:72÷20=3.6年で2倍

年18%の借金は、4年放置すれば倍になる。
投資で年18%を4年続けるのは至難の業ですが、借金の年18%は何もしなくても確実にやってきます。

もうひとつ、見えにくい「割られる側」があります。手数料です。

年5%で運用できる商品に、年1.5%の手数料がかかっているとします。
手取りは年3.5%。

倍になるまでの年数を比べます。

  • 手数料なし(年5%):72÷5=14.4年
  • 手数料あり(年3.5%):72÷3.5=20.6年

6年遅くなります。
厳密に計算しても5.9年遅い。

ほぼ同じ答えです。

たった1.5%の手数料が、あなたの資産が倍になる日を6年後ろにずらす。
パーセントで見ると小さく、年数に翻訳すると大きい。

これが72の法則の本当の使い道だと思っています。

私の100万円に当てると、法則が壊れる

さて、都合の悪い話をします。

この連載では、私が実際に100万円を1年間運用しています。
目標を「1年で200万円」に置いたとして、必要な年利を72の法則で逆算してみます。

72 ÷ 1 = 年72%

もうこの時点で相当な数字ですが、実はこれは間違っています。
厳密に計算すると、1年で倍にするのに必要な利回りは——年100%です。

当たり前ですね。

100万円を1年で200万円にするには、100万円ぶん増やすしかありません。

つまり72の法則は、期間が1年のような短い世界では成立しないのです。
さきほどの誤差表で「金利が高いほどズレが大きくなる」と書きました。

年72%や年100%という領域では、ズレは年単位ではなく倍数の話になります。

これは、この連載の企画そのものへの警告でもあります。

72の法則が教えてくれるのは、時間を味方につけた人の話です。
年8%で9年。

年5%で14年。

法則が美しく機能するのは、そういう時間軸の中だけです。

私が1年でやろうとしていることは、その外側にあります。
1年で大きく動かそうとすれば、複利の力はほとんど使えません。

使えるのは、集中と、タイミングと、運です。

つまりギャンブル性の高い方向にしか行き場がない。

だから改めて書いておきます。
私が1年間やることは、この記事で説明した72の法則が通用する世界の話ではありません。読者のみなさんは真似しないでください。
堅実に増やしたい方が見るべき数字は「72÷5=14.4年」のほうです。

私が見ているのは、その隣にある別の数字です。

その別の数字がどうなったかは、月1回の運用記録で全部出します。

よくある質問(FAQ・全6問)

Q1. どうして69.31ではなく72を使うの?

暗算しやすさと、精度のバランスです。
72は1, 2, 3, 4, 6, 8, 9, 12で割り切れるので、頭の中で計算できます。
さらに、正しい定数は金利が上がるほど大きくなり、年8%あたりでちょうど72.05になります。
「割りやすくて、よく使う金利帯でいちばん当たる」——これが72が選ばれた理由です。

Q2. どのくらいの金利まで使えるの?

年4%〜年12%なら、ズレは0.4年以内でほぼ完璧です。
年1〜3%の低金利なら「70の法則」、年15%を超えるなら「実際はもう少し遅い」と補正して使ってください。
年30%を超えると誤差が0.24年ほど出て、そもそも法則の意味が薄れます。

Q3. 毎月コツコツ積み立てる場合も使える?

使えません。
72の法則は「最初に置いた元本が2倍になるまで」の計算です。

積立は毎月元本そのものが増えていくので、前提が崩れます。
積立の場合は「積立総額の2倍」という考え方自体があまり意味を持たなくなります。

積立の計算方法は Day 186「ドルコスト平均法」で扱います。

Q4. 半年複利や月複利のときはどうする?

先に「実効年利」に直してから割ってください。
年5%の月複利なら、実効年利は5.12%。

72÷5.12=14.1年です(厳密には13.9年)。
年1回複利の14.2年と比べて、0.3年ほど早い。

複利の回数が増えるほどわずかに速くなりますが、思ったほど劇的には変わりません。

Q5. 税金は考慮されているの?

されていません。

ここは大きな落とし穴です。
利益が出るたびに20.315%課税されるとすると、年5%の実質利回りは3.98%になります。
72÷3.98=18.1年

税金のない14.4年より、約4年遅くなります
NISAのような非課税制度の価値は、この4年です。

パーセントで語られるとピンときませんが、年数に翻訳すると4年ぶんの人生です。

Q6. 株価が2倍になる年数も、これで計算できる?

理屈の上では同じ式が使えますが、実際には注意が必要です。
72の法則は「毎年きっちり同じ率で増える」ことを前提にしています。

株価はそう動きません。

40%下がる年も、30%上がる年もあります。
「平均で年8%だったから9年で倍」という計算は、あくまで平均が続いた場合の話です。

振れ幅そのものは Day 153「ボラティリティ」で扱います。

まとめ

72の法則は、「72 ÷ 年利」でお金が2倍になる年数を出す計算方法です。
年4〜12%の範囲ならズレは0.4年以内。

低金利には70、3倍には115を使います。
逆に割れば、目標年数から必要な利回りが出ます。

10年で倍なら年7.2%。
そして同じ法則が、借金にも手数料にも税金にも働きます。

年1.5%の手数料は、倍になる日を6年後ろにずらします。

パーセントは小さく見えて、年数は大きく見える。
その翻訳を1回の割り算でやってくれるのが、この法則の価値です。

🎯 今日の1手(実践)

今日、自分に関係する%を3つ書き出して、それぞれ72で割ってみてください。

たとえば、こんな3つです。

  • 銀行預金の金利 → 何年で倍になるか
  • 住宅ローンやカードの金利 → 何年で借金が倍になるか
  • 投資信託の信託報酬 → その%で割った年数が、あなたが「取られる側」で戦っている時間の目安

3つの割り算を終えたころには、%という単位が年数に見えているはずです。
そうなったら、この法則はもうあなたのものです。

🔗 あわせて読みたい

  • Day 2「単利」 — 元本にだけ利息がつく仕組み。72の法則が使えないほうの世界
  • Day 1「複利」 — 増えた分にも利息がつく仕組み。この法則が効く前提そのもの

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