昨日はDay 9「社会保険料」で、控除欄でいちばん大きい塊を見ました。
本人負担は月43,965円。
会社もほぼ同額を払っていました。
今日はその隣の欄です。
控除欄の2つ目の塊——税金。
まずは所得税から。
昨日の「今日の1手」で、厚生年金の額を0.0915で割って標準報酬月額を出してもらいました。
今日はそのすぐ下の行を見ます。

カナ「標準報酬月額、30万円ぴったりでした。4〜6月は残業が少なかったみたいです」
いい結果です。
4〜6月に残業が多かった人は、ここが総支給額より高く出ます。

カナ「それで気づいたんですけど、所得税って社会保険料の10分の1くらいしかないんです」
よく見つけました。正確には12分の1です(43,965 ÷ 3,708)。
控除欄で最大の塊は社会保険料。
所得税は、そのすぐ隣にあるずいぶん小さい数字です。

カナ「じゃあ所得税って、あんまり気にしなくていいんですか?」
サトル「額は小さいよ。でも増え方が違う。額面が1割上がると、社会保険料は1割しか増えないけど、所得税は3割近く増えるんだ。」
種明かしです。
社会保険料は率が一定。
所得税は累進。
同じ「引かれる」でも、増え方の設計がまるで違います。

カナ「小さいのに、増え方は急なんだ……」
そういうことです。
ここからは、その「増え方」を見ていきます。
所得税の累進課税とは?
累進課税とは、課税所得が大きくなるほど、高い税率がかかる仕組みです。
大事なのは、収入全体に一律でかかるわけではないということ。
階段状に区切られていて、その区切りを超えた部分にだけ、高い税率がかかります。
- 課税所得 195万円まで:5%
- 195万円超 330万円まで:10%
- 330万円超 695万円まで:20%
- 695万円超 900万円まで:23%
- 900万円超 1,800万円まで:33%
- 1,800万円超 4,000万円まで:40%
- 4,000万円超:45%
課税所得が200万円の人は、200万円全部に10%がかかるのではありません。
195万円までの部分は5%、残りの5万円だけが10%。
だから「税率が上がったら急に手取りが減る」ということは起きません。
そしてもうひとつ、今日の中心になる言葉があります。
課税所得です。
課税所得 = 給与収入 − 給与所得控除 − 社会保険料控除 − 基礎控除 −(その他の控除)
税率がかかるのは、額面ではなくこの残りです。
ここを押さえないと、税率5%の人が「収入の5%を取られる」と誤解します。
実際に、いくら引かれているのか
数字を出します。
額面30万円が12か月、賞与は考えない。
独身・扶養なし・40歳未満。
令和8年分です。
① 給与収入:3,600,000円
② 給与所得控除:1,160,000円
3,600,000 × 30% + 80,000 = 1,160,000。
これは会社員の「経費」にあたる枠で、領収書は要りません。
自動で引かれます。
③ 給与所得:2,440,000円(① − ②)
④ 社会保険料控除:527,580円
昨日の43,965円 × 12か月。払った社会保険料は、全額が控除されます。
⑤ 基礎控除:1,040,000円
令和8年度の税制改正で、本則62万円+特例加算42万円になりました(合計所得489万円以下)。
⑥ 課税所得:872,000円(③ − ④ − ⑤、1,000円未満切捨て)
⑦ 所得税:43,600円(872,000 × 5%)
⑧ 復興特別所得税:915円(43,600 × 2.1% = 915.6)
年税額 44,500円(⑦+⑧ = 44,515.6 を100円未満切捨て)。
月あたり約3,700円(44,500 ÷ 12 = 3,708)です。
Day 6「購買力」のラーメン(1杯909円)で年額を並べます。
- 社会保険料 527,580円 = 580杯
- 所得税 44,500円 = 48杯
※杯数は「何杯買えるか」なので端数は切り捨てです(44,500 ÷ 909 = 48.95杯)。
同じ控除欄に並んでいて、12倍の差があります。
昨日「控除欄でいちばん大きい塊」と書いたのは、こういう意味です。
注意してください。
昨日の48杯は1か月の社会保険料、今日の48杯は1年の所得税です。
同じ48杯でも、桁が1つ違います。
額面が1割上がると、所得税は27%増える
Day 7「可処分所得」のFAQで、こう書きました。
「年収が1割上がっても、可処分所得は1割は増えない。この仕組みは Day 10 で扱います」。
その答えを出します。
額面を30万円から33万円にします。
年収396万円。
ちょうど1割増です。
- 給与所得控除:3,960,000 × 20% + 440,000 = 1,232,000円
- 給与所得:2,728,000円
- 社会保険料控除:月48,361円 × 12 = 580,332円
- 基礎控除:1,040,000円(変わりません)
- 課税所得:1,107,000円
- 年税額:56,500円
※社会保険料は本来、昨日みた標準報酬月額の等級で階段状に動きます(昇給しても随時改定まで変わりません)。
ここでは所得税と比べるために、率で概算しました。
並べます。
- 額面:360万円 → 396万円(+10.0%)
- 社会保険料:527,580円 → 580,332円(+10.0%)
- 所得税:44,500円 → 56,500円(+27.0%)
税率は5%のまま。
1段も上がっていません。 それでも所得税だけが27%増えました。
なぜか。
控除が定額だからです。
給与所得控除は収入に比例して増えますが、社会保険料控除も基礎控除も、収入の伸びほどは増えません。
基礎控除は104万円で据え置きです。
だから収入が10%増えると、課税所得は872,000円→1,107,000円で26.9%増える。
税率が同じでも、かけられる元が急に膨らむ。
これが累進課税の正体です。階段を上がらなくても、実効税率は上がります。
額面が36万円増えて、社会保険料が52,752円、所得税が12,000円。
残りは295,248円。
ここからさらに住民税が引かれます。合計でどうなるかは明日 Day 11「住民税」で締めます。
控除の価値は、税率で決まる
昨日、社会保険料について「自分ではほぼ動かせない」と書きました。
所得税は動きます。
控除があるからです。
ただし、動く幅は人によって違います。
控除を1万円増やしたときに減る所得税 = 1万円 × あなたの税率 × 1.021。(1.021 は復興特別所得税ぶん)
- 税率5%のカナ:約510円
- 税率20%の人:約2,042円
同じ1万円の控除で、4倍の差が出ます。
「iDeCoで年間◯万円お得」という記事の数字が自分に当てはまらないのは、これが理由です。
控除の額は同じでも、価値は税率で決まる。
ここで、税率区分と実効税率を分けて覚えてください。
- 税率区分(5%) … 控除を増やしたときに減る額を決める
- 実効税率(1.24%) … 44,500 ÷ 3,600,000。実際に収入の何%が所得税だったか
カナは「税率5%の人」ですが、実際に払っているのは収入の1.24%です。
控除がこれだけ効いている、ということでもあります。
なお、どの控除をどう使うかという制度の話は範囲が広いので、第6章「制度と税金」でまとめて扱います。
令和8年分は、12月の年末調整で精算される
もうひとつ、今年だけの話をしておきます。
毎月の明細から引かれている所得税は、確定した金額ではありません。
「だいたいこのくらい」という仮の金額で、12月の年末調整で1年分をまとめて精算します。
多く引かれていれば戻り、足りなければ追加で引かれます。
ただしこれは払いすぎた分が返ってくるだけです。
昨日の社会保険料のように「払った額に応じて受け取れるものが増える」わけではありません。税金は、精算で戻ることはあっても、払い終わったらそこで終わり。 昨日の対比はそのまま生きています。
そして令和8年度の税制改正は、令和8年12月1日に施行されて、令和8年分の所得税に適用されます。
つまり11月までの毎月の天引きは改正前の税額表のまま。
改正後の基礎控除が反映されるのは、12月の年末調整です。
改正前の基礎控除で計算すると、カナの年税額は52,600円でした。
改正後は44,500円。差は8,100円。 この分は、12月に精算されます。
今年の年末調整は、いつもより戻る人が多い年です。 12月の明細を、いつもより注意して見てください。
私の100万円と、自分の税率
この連載では、私が実際に100万円を1年間運用しています。
昨日、給与所得と金融所得の非対称について書きました。
「給料で10万円増やすと所得税・住民税+社会保険料。運用で10万円増やすと20.315%の税金だけ」。
だから投資のほうが手取りが残りやすいと言われることがある、と。
今日はそれを、少し疑います。
20.315%の中身は、所得税15.315%と住民税5%です。
ここで比べるべきは実効税率ではありません。これから増やす分にかかる税率です。
- カナが給料で増やした分にかかる所得税:5.105%(税率区分5% × 1.021)
- 運用益にかかる所得税:15.315%(一律)
3倍です。 所得税だけを見るなら、カナにとっては給料のほうがずっと軽い。
「投資は税制が有利」は、もともと高い税率を払っている人の話です。
累進しない20.315%は、税率が高い人には割安で、低い人には割高になります。
だから運用記録に、今日から1つ足します。
Day 6で「物価を差し引いた実質も併記する」、Day 7で「税引後も足す」、Day 8で「分母を明示する」、Day 9で「元手が何を払い終えたあとのお金かを書く」と決めました。
今日足すのは、自分の税率を添えることです。
税引後リターンも、節税額も、私の税率で計算した数字です。
読者の税率が違えば、同じ運用をしても手元に残る額は変わります。私の数字をそのまま自分に当てはめないでください。 当てはめるなら、節税額は自分の税率区分(5%・10%・20%…)で、運用益は一律20.315%で引き直す。
実効税率は「いま払っている総額」を測る数字で、これから増える分・減る分には使えません。
金額だけ書いて税率を書かないのは、Day 8「手取りと額面」で書いた「分母を隠す」のと同じことです。
よくある質問(FAQ・全6問)
Q1. 国税庁のサイトを見たら、基礎控除が88万円と書いてありました
タックスアンサー「No.1199 基礎控除」は令和7年4月1日現在の法令にもとづく表で、令和8年度の税制改正が反映されていません。
令和8年分の正しい額は、国税庁の「令和8年4月 源泉所得税の改正のあらまし」または「令和8年度税制改正による所得税の基礎控除の引上げ等について」で確認できます。
同じ役所のサイトでも、ページによって更新時期が違います。 日付の記載を必ず見てください。
Q2. 「年収の壁」というのは、これのことですか?
所得税に関する壁は、この計算の出口にあります。
令和8年分は 基礎控除104万円 + 給与所得控除74万円(収入220万円以下の特例)= 178万円。
給与収入が178万円までなら課税所得がゼロになり、所得税はかかりません。
ただし社会保険の壁(106万円・130万円)は別の制度で、金額も判定方法も違います。
混ぜないことです。
Q3. 税率が1段上がると、手取りが減ることはある?
ありません。
累進課税は超えた部分にだけ高い税率をかける仕組み(超過累進)なので、課税所得が195万円を1円超えても、増えるのはその1円に対する税額だけです。
「昇給したら税率が上がって手取りが減った」という話は、たいてい社会保険料の等級が変わったか、住宅ローン控除などの適用が外れたケースです。
Q4. 基礎控除104万円は、ずっと続く?
続きません。
本則は62万円で、104万円になっているのは令和8年分と令和9年分の2年限りの特例加算(+42万円)です。
令和10年分以後は、合計所得132万円以下の人が99万円、それ以外は62万円に戻る予定です。
いま得られている軽減は、期限付きだと知っておいてください。
Q5. 控除を増やせば、必ず得になりますか?
なりません。
生命保険料控除や iDeCo は、お金を払って控除を得る仕組みです。
税率5%のカナが1万円払って戻るのは約510円。払った額のほうが大きいのがふつうです。
得になるかどうかは「税金が減るか」ではなく「その支出自体が自分に必要か」で決まります。
医療費控除やふるさと納税のように、もともとした支出を控除に変えるものとは、性質が違います。
Q6. 副業をしたら、所得税はどうなりますか?
給与所得と合算されて、累進の階段を上がります。
本業の課税所得が872,000円のカナなら、副業で100万円の所得が増えても、195万円までは5%のまま。
そこを超えた部分から10%です。
なお給与以外の所得が年20万円以下なら確定申告が不要になる場合がありますが、住民税の申告は別に必要です。
ここは明日の話につながります。
まとめ
所得税の累進課税とは、課税所得が大きくなるほど高い税率がかかる仕組みです。
税率は5%から45%の7段階。超えた部分にだけ高い税率がかかるので、階段を上がって手取りが減ることはありません。
額面30万円・独身なら、課税所得は872,000円。
所得税43,600円+復興特別所得税915円、100円未満を切り捨てて年44,500円。
年額のラーメンで並べると、社会保険料580杯に対して所得税は1年で48杯。同じ控除欄で12倍の差があります。
ところが額面を1割上げると、社会保険料は+10.0%なのに、所得税は+27.0%。
税率は5%のまま1段も上がっていません。 控除が定額だから、課税所得の伸びが収入の伸びを追い越すのです。
これが累進の正体です。
そして控除の価値は税率で決まります。
1万円の控除で減る所得税は、税率5%なら約510円、20%なら約2,042円。
カナの実効税率は1.24%。
「税率5%の人」が実際に払っているのは、収入の1.24%です。
🎯 今日の1手(実践)
今日は、去年の源泉徴収票を探してください。
そして2つの数字を割ってください。
源泉徴収税額 ÷ 支払金額 = あなたの実効税率。
カナの令和8年分なら 44,500 ÷ 3,600,000 = 0.0124。
1.24%です。
去年(令和7年分)の源泉徴収票なら基礎控除が88万円だったので、52,600 ÷ 3,600,000 = 1.46% になります。
- 2%くらいまで → 税率5%の区分。控除がよく効いています
- 2〜3%台 → 税率10%の区分
- 4〜8%くらい → 税率20%の区分。控除を1つ増やす価値が、カナの4倍あります
- 9%以上 → 23%以上の区分
扶養や住宅ローン控除がある人は、同じ区分でも実効税率は下がります。
また収入700万円前後には、基礎控除が104万円から62万円に落ちる段差があるので、この表から1段ずれることがあります。あくまで目安です。
出てきた数字は、「税率何%の人か」ではありません。 実際に収入の何%が所得税だったか、という結果です。
この2つを混同すると、節税の記事に書いてある金額が自分に当てはまらない理由が分からなくなります。
Day 7で手取り率、Day 8で基本給比率、Day 9で標準報酬月額。
今日の実効税率で4つ目です。 この4つが言えれば、自分の給料と税金の形はほぼ説明できます。
明日 Day 11「住民税」で、控除欄の最後を締めます。
所得税と違って、住民税は税率が一律10%。
累進しません(さきほどの20.315%に含まれる住民税5%は運用益にかかる分離課税で、給与にかかる10%とは別枠です)。
そのかわり、去年の所得にかかります。 1年遅れてやってくる引き落としです。
🔗 あわせて読みたい
- Day 9「社会保険料」 — 控除欄でいちばん大きい塊。会社も同じ額を払っている話
- Day 8「手取りと額面」 — 額面の中身。基本給22万2千円と固定残業代7万8千円の話
- Day 7「可処分所得」 — 引かれたあとの、実際に使えるお金
- Day 6「購買力」 — その金額で何がどれだけ買えるか。ラーメン杯数で測る方法
⚠️ ご注意
本記事は筆者個人の投資記録および一般的な金融知識の解説であり、特定の金融商品の売買を推奨するものではありません。
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