【Day 8/365|1日1金融用語】手取りと額面 ——「基本給は22万2千円でした」と気づいたカナの話

【Day 8/365|1日1金融用語】手取りと額面 ——「基本給は22万2千円でした」と気づいたカナの話

Day 7「可処分所得」をやりました。
収入から税金と社会保険料を引いた、実際に使えるお金。

額面30万円なら手取りは22.5万〜25.5万円という話です。

そして「今日の1手」で、こう書きました。
差引支給額 ÷ 総支給額 = 手取り率。 昨日この割り算をした方は、いま自分の手取り率を数字で言えるはずです。

今日はその割り算の、分母のほうを疑います。

昨日、「ここからDay 11まで、手取りが削られていく過程を1つずつ見ていきます」と書きました。
その約束どおり、明日から控除の中身に入ります。

ただ、その前に確かめておくことがひとつあります。
削られる元になっている数字が、そもそも何でできているのか。
分母を確かめずに割り算をしても、出てきた率の意味は分かりません。

手取りと額面を学ぶカナの4コマ・起
カナ「言われたとおり計算しました。80%でした。思ってたより引かれてます」

いい仕事です。
自分の手取り率を数字で言える人は、そんなに多くありません。

手取りと額面を学ぶカナの4コマ・承
カナ「それで明細をよく見てたんですけど……総支給額は30万円なのに、基本給って欄は22万2千円しかないんです」

そこに気づけたなら、今日の話は半分終わっています。

手取りと額面を学ぶカナの4コマ・転
カナ「残りの7万8千円って、何ですか?」
サトル「固定残業代だよ。45時間ぶんが最初から入ってる。それと、ボーナスも退職金も基本給で計算する会社が多いんだ。効いてくるのはそっちだよ。」

種明かしです。
額面は、ひとかたまりの「給料」ではありません。性質の違うお金を、足し合わせただけの合計です。

手取りと額面を学ぶカナの4コマ・結
カナ「引かれる前から、もう違ってたんだ……」

そういうことです。
ここからは、その「引かれる前」を見ていきます。

額面と手取りとは?

まず言葉を固定します。

  • 額面(がくめん) = 給与明細の総支給額。引かれる前の、支給の合計。
  • 手取り(てどり) = 給与明細の差引支給額。引かれたあと、口座に振り込まれる額。

給与明細に「額面」「手取り」という欄はありません。
この2つは会話で使う言葉で、明細に印字されているのは「総支給額」と「差引支給額」です。

だから明細を開いて額面という単語を探しても見つかりません。

昨日の可処分所得は統計や経済で使う言葉、手取りは給与明細で使う言葉。

指しているものはほぼ同じです。
今日からは明細に合わせて「額面」と「手取り」で通します。

そして明細は、上下2つの欄でできています。

  • 支給の欄(足していく):基本給、役職手当、住宅手当、家族手当、通勤手当、残業手当 → 合計が総支給額=額面
  • 控除の欄(引いていく):健康保険、介護保険、厚生年金、雇用保険、所得税、住民税 → 合計が控除合計

総支給額 −(控除合計)= 差引支給額。

昨日の割り算は、下の欄の結果を上の欄で割ったものでした。
明日から解くのは下の欄。

今日は上の欄です。

「基本給」と「額面」は、違う

ここが今日の中心です。

多くの人は、額面30万円と聞くと「基本給が30万円」だと思います。
ところが明細の支給欄を見ると、基本給はもっと小さいことがあります。

カナの求人票には、こう書いてありました。

月給 300,000円(固定残業代45時間分 78,000円を含む)

内訳はこうです。

  • 基本給:222,000円
  • 固定残業代:78,000円

45時間残業して、ようやく30万円です。
残業がゼロでも30万円もらえるという意味でもありますが、裏を返せば45時間までは、働いても1円も増えません

そして効いてくるのは、そこではありません。

ボーナスと退職金は、基本給で計算される

多くの会社で、賞与は「基本給の◯か月分」、退職金も基本給を基礎に計算されます。

カナの場合、ボーナス2か月分がいくらになるか。

  • 額面30万円で計算したつもり:60万円
  • 実際(基本給22.2万円 × 2):44万4千円

差は15万6千円。

年2回なら、年間で31万2千円の差です。
月給の欄には現れません。

求人票の「月給30万円」にも現れません。

それでも、毎年確実に効いています。

Day 6「購買力」で使ったラーメンの単位(1杯909円)で並べてみます。

  • 額面30万円 = 330杯
  • 手取り24万円 = 264杯(Day 7の数字です)
  • 基本給22万2千円 = 244杯

Day 7で「66杯、最初から存在していませんでした」と書きました。
今日わかったのは、ボーナスや退職金の土台になるのは、いちばん下の244杯のほうだということです。

「45時間分」が本当かを、自分で確かめる

固定残業代には、確かめ方があります。
掛け算ひとつです。

基本給 ÷ 月平均所定労働時間 × 1.25 = 残業1時間あたりの単価

カナの場合、月平均所定労働時間を160時間とすると、

222,000 ÷ 160 = 1,387.5円(1時間あたり)
1,387.5 × 1.25 = 1,734円(残業1時間あたり)
1,734 × 45時間 = 約78,000円

求人票の「45時間分 78,000円」と一致しました。
この求人票は、時間数と金額が正しく対応しています

逆に言えば、ここが合わない求人票もあります。
「固定残業代45時間分 5万円」と書いてあったら、基本給から逆算した単価に足りていない可能性があります。

雇用契約書と就業規則を見れば、月平均所定労働時間は書いてあります。
電卓ひとつで検算できる。 これは知っているかどうかだけの差です。

「年収」という言葉は、3つある

もうひとつ、額面まわりでズレるものがあります。

「年収いくら?」という会話が噛み合わないのは、Day 7で書いた手取り率の幅のせいだけではありません。
そもそも年収という言葉が、3つの違う数字を指しているからです。

① 求人票の「月給」× 12
基本給+固定的な手当。

固定残業代を含む場合があり、通勤手当を含まないことが多い。
賞与を含むかどうかも書き方次第です。

② 源泉徴収票の「支払金額」
これが税務上の額面年収。

会社が発行する公式な数字です。
ただし通勤手当の非課税分は含まれません

電車通勤で月1万円もらっていても、この数字には入っていない。

③ 社会保険の「標準報酬月額」
健康保険料と厚生年金保険料を決める基準額。
こちらは通勤手当を含みます

しかも毎月の額面ではなく、原則4〜6月の平均で決まり、その年の9月から1年間固定されます。

月1万円の通勤手当をもらっている人は、こうなります。

  • 明細の総支給額:31万円
  • 源泉徴収票の支払金額(月あたり):30万円
  • 標準報酬月額:31万円

同じ人の、同じ1か月です。

それでも3つの数字が出ます。

なぜこうなるのか。
通勤手当は電車やバス通勤なら月15万円まで所得税が非課税です。

ところが社会保険料の計算には入ります

税金では含めず、社会保険料では含める。
このねじれが、年収の会話を噛み合わなくさせています。

住宅ローンの審査、保育園の申込、扶養の判定、クレジットカードの申込。
それぞれ見ている数字が違うことがあります。書類に「年収」と書く前に、どの年収を聞かれているのかを確認する。 これだけで防げる事故があります。

なお「通勤手当は税で優遇されているから得なのか」という問いには、今日は答えを出しません。
社会保険料が増えるということは、将来受け取る厚生年金も増えるということだからです。引かれる額が増える=損、とは限らない。 ここは明日 Day 9「社会保険料」の主題です。

私の100万円と、「額面の利回り」

この連載では、私が実際に100万円を1年間運用しています。

運用の世界にも、まったく同じ「額面の膨らみ」があります。
今日の言葉で言えば、分母がはっきりしないという問題です。

たとえば「年利回り10%」と書いてあったとき、その10%は何を分母にしているのか。

  • 入金した100万円に対してなのか
  • 途中で増えた評価額に対してなのか
  • 売買手数料を引く前なのか、引いたあとなのか
  • 税金を引く前なのか、引いたあとなのか

どれも「10%」と書けてしまいます。 求人票が「月給30万円」と書けてしまうのと同じ構造です。

だから月1回の運用記録では、分母を毎回明示します。
元手の100万円に対していくら増減したか。

手数料込みか。

税引前か税引後か。

Day 6で「物価を差し引いた実質も併記する」、Day 7で「税引後も足す」と書きました。
今日足すのは、その手前です。そもそも何を分母にしているのかを書く。

率は、分母を隠せばいくらでも良く見せられます。
給料でも、運用でも、そこは同じです。

よくある質問(FAQ・全6問)

Q1. 額面と総支給額は同じもの?

同じです。
「額面」は会話で使う言い方、「総支給額」は給与明細に印字される正式な項目名です。

会社によっては「支給合計」「総支給」と書かれていることもあります。
いずれも引かれる前の合計を指します。

Q2. 固定残業代は、違法なの?

固定残業代そのものは違法ではありません。
ただし条件があります。基本給と固定残業代が明確に区分されていること何時間分なのかが明示されていること、そしてその時間を超えた分は別途支払われること
この3つが揃っていない場合は問題になり得ます。

区分が書かれていない求人票は、その時点で確認する価値があります。

Q3. 基本給が低いと、他にどんな影響がある?

賞与と退職金のほかに、休業時の補償に効きます。
傷病手当金や出産手当金は標準報酬月額をもとに計算されるので通勤手当も含まれますが、会社独自の休職手当や見舞金は基本給ベースのことがあります。
また昇給が「基本給の◯%」で運用されている会社では、昇給額そのものも小さくなります

Q4. 転職で「年収を上げた」のに、生活が楽にならないことはある?

あります。
額面が上がっても、基本給の比率が下がっていれば賞与が減ることがあります。

固定残業代の設計が変われば、実際の労働時間あたりの単価も変わります。
さらに住民税は前年の所得ベースで遅れてかかるため、増えた年の翌年に負担が増えます(Day 11で扱います)。
比べるべきは額面ではなく、基本給・賞与・実労働時間を含めた全体です。

Q5. 明細に「基本給」の欄がない場合は?

会社によって「本給」「月例給」「基準内賃金」などの名称になっていることがあります。
判断の基準は、残業代の計算基礎になっているかどうかです。

就業規則の賃金規程に、残業代の算定基礎に含める手当と含めない手当が書かれています。
通勤手当・家族手当・住宅手当は、原則として算定基礎から除外されます。

Q6. 自分の額面の内訳は、どこで確認できる?

3つあります。給与明細の支給欄雇用契約書(労働条件通知書)就業規則の賃金規程
明細でいちばん手軽に見えますが、「何時間分の固定残業代か」まで書いてあるのは契約書のほうです。
入社時にもらったきり開いていない方は、今日それを探すところからでも十分です。

まとめ

額面とは給与明細の「総支給額」、手取りとは「差引支給額」です。
明細は上下2つの欄でできていて、上の合計が額面、そこから下の合計を引いた残りが手取りです。

ただし額面は、ひとかたまりの給料ではありません。
月給30万円の中身が、基本給22万2千円+固定残業代7万8千円ということがあります。
そしてボーナスも退職金も昇給も、膨らんだ30万円ではなく、22万2千円のほうで計算されます

ボーナス2か月分なら15万6千円の差です。

ラーメンで並べると、額面330杯、手取り264杯、基本給244杯。
Day 7で「66杯は最初から存在しなかった」と書きました。

土台になっているのは、さらに下の244杯です。

「年収」も3つに割れます。
求人票の月給、源泉徴収票の支払金額(通勤手当の非課税分を含まない)、社会保険の標準報酬月額(通勤手当を含む)。
税金では含めず、社会保険料では含める。 このねじれは明日、Day 9で正面から扱います。

🎯 今日の1手(実践)

昨日は 差引支給額 ÷ 総支給額 で手取り率を出しました。
今日は、もうひとつ割ってください。

基本給 ÷ 総支給額。

これがあなたの基本給比率です。

  • 0.9なら、額面のほとんどが基本給。賞与も退職金も額面に近い水準で計算されます
  • 0.7なら、額面の3割は手当や固定残業代。賞与の土台は思っているより小さい

そしてもうひとつ。
明細か雇用契約書に「固定残業代◯時間分」という記載があるか探してください。

あれば、その時間数をメモする。

昨日の手取り率と、今日の基本給比率。
この2つの数字が言えれば、自分の給料の形はほぼ説明できます。

明日 Day 9からは、いよいよ控除の欄に入ります。
最初は最も大きい塊——社会保険料です。

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