昨日はDay 15「円安と円高」で、100万円を159円45銭で割って6,271ドルという数字を出しました。
今日は、その159円45銭のほうを見ます。
誰が決めているのか。
そして、その値段で本当に換えられるのか。

カナ「昨日の宿題やりました。100万円、6,271ドルでした」
きちんと割り算まで終わっています。

カナ「それで気になったんですけど、あの159円って、誰が決めてるんですか? 日銀ですか?」
いいところに引っかかりました。
金利を決めているのは政策委員会の9人でした(Day 13「中央銀行の役割」)。
同じ感覚でいくと、為替にも決める人がいそうに思えます。

カナ「じゃあ、あの数字はどこから来てるんですか?」
サトル「誰も決めてない。その日いちばん取引が多かった値段を、あとから聞き取って公表してるだけだよ。」
種明かしです。
為替レートは、決められた数字ではありません。
ついた値段です。

カナ「決まってるんじゃなくて、ついてるんですね……」
そういうことです。
ここからは、その「ついた値段」の中身を見ていきます。
為替レートとは?
為替レートとは、通貨と通貨を交換するときの比率のことです。
昨日、「1ドルという商品の値段だと思ってください」と書きました。
今日もその見方を使います。
1ドルという商品に、いま159円という値段がついている。では、その値段は誰がつけているのか。
答えは、誰でもありません。
政策金利には、決める人がいました。
9人の合議で、年8回、日付も事前に決まっています。
為替レートには、それがありません。売りたい人と買いたい人が出会ったところに、値段がつく。 それだけです。
ここが金利といちばん違うところです。
金利は決められるもの。
為替はつくもの。
だから為替には「正しい値段」を宣言する主体がいません。あるのは、実際に取引が成立した記録だけです。
日本銀行が出しているのは、1つの数字ではない
昨日のQ3で、レートは日本銀行が毎営業日「外国為替市況」として公表していると書きました。
実際に出ている数字を、もう一度よく見てください。
- 2026年8月25日 17時:159円44〜45銭
44と45。
数字が2つあります。 ここが今日の入り口です。
日本銀行の解説には、こう書かれています。
「インターバンク市場におけるレートに基づいてオファー(売り値)とビッド(買い値)を公表」
つまり159円44銭と159円45銭は、買う側がつけている値段と、売る側がつけている値段です。
株でも中古車でも同じですが、「買いたい値段」と「売りたい値段」はふつう一致しません。その2つの隙間が、値段の正体です。
では、ニュースで見る「1ドル159円45銭」という1つの数字は何なのか。中心相場と呼ばれるもので、17時時点のこの2つとは別に公表されています。
日本銀行の定義はこうです。
「取引金額で測ったその日の代表的なスポット相場です。ブローカーに、当該日に最も取引の多かった出来値を聴取し、その結果を公表」
聴取。
聞き取っているんです。
決めているのではなく、その日いちばん取引が多かった値段を、あとから聞いて記録している。 それが、私たちが毎日ニュースで見ている数字の中身です。
ついでに「スポット」の意味も押さえておきます。
「売買の取引が成約してから2営業日目に実際に資金の受渡が行われる取引に適用されるレート」
いま値段を決めて、お金が動くのは2営業日後。
為替の基本の取引は、この形です。
1日およそ1,531兆円が、値段をつけている
「誰も決めていない」と言われても、実感がわかないと思います。規模を見てください。
BIS(国際決済銀行)が3年ごとに行っている調査の2025年4月分によると、世界の外国為替取引高は1日あたり9.6兆ドルです。
159円45銭で換算すると、1日あたり約1,531兆円。
内訳も出ています。
- 米ドルが片側に入る取引:89.2%
- ドル円:14.3%
- 円が関与する取引:16.8%
- 東京市場の取引高:1日あたり4,402億ドル(約70兆円)
※通貨ペアは必ず2つの通貨で成り立つので、通貨別のシェアを全部足すと200%になります。
「ドルが89.2%」は「取引の89.2%で、片側がドルだった」という意味です。
ここで、東京市場の数字をもう一度見てください。
4,402億ドルは、世界9.6兆ドルの4.6%です。
円の値段は、日本の中だけでついているわけではありません。東京はおよそ22分の1で、残りはロンドンやニューヨークなど日本の外です。
日本が寝ているあいだにも、円は売り買いされています。朝起きたらレートが動いていた、というのは、そういうことです。
そしてもう1つ。米ドルが89.2%。
円を売ってユーロを買うときでさえ、いったんドルを経由することがあります。ドルは通貨のなかの通貨として使われている。 Day 14「金利差」で日米の金利差ばかりが話題になるのも、これが理由のひとつです。
あなたが実際に買える値段は、159円45銭ではない
ここが今日いちばん実用的なところです。
ニュースの159円45銭では、両替できません。
銀行が個人に示すレートは対顧客相場といって、3つの数字で出てきます。
三菱UFJ銀行の2026年8月25日の米ドルを例にします。
- TTS = 160円18銭(銀行が売る値段。あなたが買う値段)
- TTM = 159円18銭(仲値。銀行がその日の基準として決める真ん中の値)
- TTB = 158円18銭(銀行が買う値段。あなたが売る値段)
仲値を挟んで、上下ちょうど1円ずつ。
往復で2円です。
日本銀行の中心相場159円45銭と、この仲値159円18銭も一致しません。測っている時点が違い、測り方も違うからです。 中心相場はその日いちばん取引が多かった出来値の聞き取り、仲値は銀行がその日の基準として決める値。別のものさしの上に乗っています。
では、往復2円がいくらになるか。100万円で計算します。
- 100万円 ÷ 160.18 = 6,242ドル(端数は「何ドル買えるか」なので切り捨てです)
- 6,242ドル × 158.18 = 987,359円(円の端数も切り捨てです)
12,641円、消えました。
率にして1.264%です。
内訳は、往復2円ぶんの手数料が1.256%、ドルの端数を切り捨てたぶんが0.008%。
手数料そのものの率は1.256%、この100万円で実際に失うのは1.264%。 以降はこの2つを使い分けます。
ドルが1円も動いていなくても、買って売っただけでこうなります。
Day 6「購買力」からのラーメン単価909円で数えると、13杯ぶんです。
昨日の6,271ドルとも、ずれています。
- 中心相場で割った理論値:6,271ドル
- 窓口で実際に換えたとき:6,242ドル
29ドルの差。 昨日の数字は「世界の中でいくらぶんか」を測るための換算値で、実際に手に入るドルの枚数ではありませんでした。 今日それがはっきりしました。
そして、この往復2円は窓口で手続きしたときの幅です。同じ銀行の外貨預金でも、経路を変えれば小さくなります。
- 窓口:片道1円(往復2円=手数料率1.256%)
- インターネット取引:片道25銭(往復50銭=手数料率0.314%)
同じ銀行で、同じドルを買うのに、4倍違います。
100万円を往復させると、窓口なら12,641円、インターネット取引なら3,192円。どこで手続きするかだけの違いで、9,449円変わります。
私の100万円と、換える前に消える1.26%
この連載では、私が実際に100万円を1年間運用しています。
昨日、記録にドル建ての併記を足しました。
今日わかったのは、あの数字がまだ「換えていない数字」だということです。
だから今日、1つ足します。
ドル建てを書くときは、「中心相場での理論値」と断ること。
そして実際に換えるならコストが引かれると添えることです。
Day 6で実質を併記、Day 7で税引後、Day 8で分母、Day 9で元手の出どころ、Day 10で自分の税率、Day 11で住民税10%込み、Day 12で預金の線、Day 13で変化の原因の切り分け、Day 14で通貨の内訳、Day 15でドル建て。
今日足すのは、その換算が手数料を引く前の数字だと明記することです。
これを書かないと、自分に都合よく見えます。
円建て100%の私が「ドルなら6,271ドル」と書くのは簡単ですが、いま実際にドルへ移せば6,242ドルです。移す判断をしていないうちから、移したときの数字を使うのは正確ではありません。
そしてもう1つ、正直に書いておきます。
この1.264%は、Day 1「複利」で書いた「マイナスの複利」と同じ性質です。
往復するたびにかかります。
年に4回ドルと円を行き来すれば、それだけで約5%です。
普通預金の年0.400%を4,000円と数えていた話に照らすと、1往復で3年ぶんの利息が消える計算になります。 税引後の3,187円で数えるなら、約4年ぶんです。
為替で損をする経路は、レートが動くことだけではありません。動かなくても、触るたびに減ります。
よくある質問(FAQ・全6問)
Q1. 為替レートは、結局のところ誰が決めているんですか?
決めている主体はいません。
政策金利は日本銀行の政策委員会9人が決めますが、為替レートにはそれに当たる会議も人もいません。
売りたい人と買いたい人の取引で値段がつき、日本銀行はその結果を「当該日に最も取引の多かった出来値を聴取し、その結果を公表」しているだけです。
発表ではなく、記録です。 ここを取り違えると、「日銀が円安を放置している」といった言い方を鵜呑みにしてしまいます。
ただし、あなたが実際に両替するときの値段は別です。市場のレートは誰も決めない。
あなたが使うレートは銀行が決める。 2階建てになっています。
Q2. ニュースのレートと、銀行のレートが違うのはなぜですか?
種類が違うからです。
ニュースに出るのはインターバンク市場(銀行どうしの市場)のレートで、銀行が個人に示すのは対顧客相場です。
対顧客相場には銀行の為替手数料が乗っています。
2026年8月25日なら、日本銀行の中心相場が159円45銭に対して、三菱UFJ銀行のTTSは160円18銭、TTBは158円18銭。買う値段と売る値段が別々にあり、どちらもニュースの数字とは一致しません。
Q3. 為替レートは24時間動いているんですか?
東京の市場が閉じても、円の売買は止まりません。
BISの2025年4月調査で、東京市場の取引高は1日あたり4,402億ドル。
世界全体9.6兆ドルの4.6%です。
残りはロンドンやニューヨークなど日本の外にあります。
だから日本時間の夜中に大きく動き、朝には値段が変わっていることがあります。日本の市場が開いているかどうかと、円の値段がつくかどうかは別の話です。
Q4. 両替の手数料を安くする方法はありますか?
同じ銀行でも、どこで手続きするかで変わります。
三菱UFJ銀行の外貨預金の為替手数料は、米ドルでインターネット取引が片道25銭、窓口が片道1円。
往復では0.314%と1.256%で、4倍の差です。
100万円を往復させると、実額で3,192円と12,641円になります。
これは商品の良し悪しではなく、手続きの経路だけで決まる差です。
外貨を持つかどうかを考える前に、まず自分が使う金融機関の手数料を確認してください。
Q5. 為替レートは予想できますか?
予想を仕事にしている人が大勢いて、それでも外れます。
Day 14で、日米の金利差は約5.1ポイントから約2.6ポイントまで縮んだのに円安が止まっていないことを見ました。いちばん有力とされる説明でさえ、そのとおりに動いていません。
金利は確実に入ってきますが、為替は読めない。この非対称は、レートの決まり方そのものから来ています。 1日およそ1,531兆円ぶんの判断の集計に、当てはまる式はありません。
Q6. いまの159円は「高い」んですか、「安い」んですか?
それを測るには、別の物差しが要ります。
今日わかったのは「どうやって値段がつくか」であって、「その値段が妥当かどうか」ではありません。
市場でついた値段は、その時点で最も取引が多かったという事実でしかないからです。
同じ物の値段を国どうしで比べれば、通貨の強さそのものを測れます。その測り方は、明日 Day 17「購買力平価」で扱います。
まとめ
為替レートとは、通貨と通貨を交換するときの比率です。
決めている主体はいません。 日本銀行が公表している中心相場は、「当該日に最も取引の多かった出来値を聴取し、その結果を公表」したもの。発表ではなく記録です。
そもそも日本銀行が出しているのは1つの数字ではありません。
2026年8月25日17時は159円44〜45銭。
これはオファー(売り値)とビッド(買い値)の2つです。
規模はBISの2025年4月調査で、世界の取引高が1日あたり9.6兆ドル(約1,531兆円)。米ドルが片側に入る取引が89.2%、ドル円が14.3%、円が関与する取引が16.8%。東京市場は4,402億ドルで、世界の4.6%にすぎません。
そして、その値段で両替はできません。
三菱UFJ銀行の同じ日の米ドルは、TTS 160円18銭・TTM 159円18銭・TTB 158円18銭。
100万円をドルにして戻すと987,359円。
12,641円、率にして1.264%が消えます。 ラーメン13杯ぶんです。
昨日の6,271ドルは中心相場で割った理論値で、窓口で実際に換えれば6,242ドル。29ドルの差があります。
🎯 今日の1手(実践)
今日は、自分が使う銀行の「往復コスト率」を出してください。
調べるのは2つの数字だけです。
米ドルのTTSとTTB。
銀行のサイトに毎日出ています。
(TTS − TTB)÷ TTM × 100 = 往復コスト率(%)
三菱UFJ銀行の窓口なら(160.18 − 158.18)÷ 159.18 × 100 = 1.256%です。
これは手数料そのものの率で、ここに両替の端数が乗ると、100万円の往復では1.264%(12,641円)になります。
- 0.5%未満 → かなり安い部類です。ネット経由の外貨預金や、手数料の低いネット証券がこの帯です
- 0.5〜1.5% → 一般的な銀行の水準です。100万円の往復で5,000円から15,000円。1%なら、普通預金2年半ぶんの利息が1回で消えます
- 2%以上 → 空港や街の両替所の水準です。旅行の1回きりなら割り切れますが、資産を動かす経路には向きません
そして、その率を自分の予定に当ててみてください。
- 海外旅行を考えている → 予算 × 往復コスト率が、使う前に消える金額です
- 外貨預金や外貨建て保険を検討している → 入口と出口で2回かかります。金利や利回りの数字から、この率を引いて比べてください
- 予定が何もない → それでいいです。今日測った往復コストは、動かさないかぎりかかりません。 ただし昨日見たとおり、動かさないこと自体が無コストという意味ではありません。かからないのは、両替の手数料だけです
Day 7で手取り率、Day 8で基本給比率、Day 9で標準報酬月額、Day 10で実効税率、Day 11で住民税倍率、Day 12で何もしなかった場合の額、Day 13で金利感応度、Day 14で外貨比率、Day 15でドル建て換算。
今日の往復コスト率で10個目です。 ここまでの9つは「いま自分がどうなっているか」を測る数字でした。10個目で初めて、動かしたときにかかる費用を測ります。
明日 Day 17「購買力平価」では、その159円が高いのか安いのかを測る物差しを扱います。
同じハンバーガーが日本とアメリカでいくらか。それだけで、通貨の強さが測れます。
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