【Day 22/365|1日1金融用語】実質GDP ——「同じ年の同じ国なのに、金額が2つあるんですか」と驚いたカナの話

【Day 22/365|1日1金融用語】実質GDP ——「同じ年の同じ国なのに、金額が2つあるんですか」と驚いたカナの話

昨日はDay 21「GDP」で、四半期の額を1年ぶんに直すと687兆7,182億円であることと、その52.6%が家計の買い物であることを見ました。
そして最後に、増えた3.2%のうち、どれだけが量でどれだけが値段かは、この数字だけでは分からないと書きました。

今日はその答え合わせです。

実質GDPを学ぶカナの4コマ・起
カナ「私のGDP比率、55.4%でした。取り分じゃないって分かってても、効きますね」

分かっていても、自分で出すと効きます。
昨日書いたとおり、一致しないのは失敗ではなく定義どおりです。

今日の問題は別のところにあります。

実質GDPを学ぶカナの4コマ・承
カナ「昨日の687兆円、増えたのは物ですか、それとも値段ですか?」

昨日いちばん最後に残した宿題です。

実質GDPを学ぶカナの4コマ・転
カナ「分けられるんですか?」
サトル「分けてあるよ。同じ経済に、値段を止めて数えた金額がもう1本ある。」

種明かしです。
GDPには最初から2本あります。 ニュースが「GDPが増えた」と言うとき、どちらの話かで結論が変わります。

実質GDPを学ぶカナの4コマ・結
カナ「同じ年の同じ国なのに、金額が2つあるんですか」

そういうことです。
ここからは、その2本目の数え方を見ていきます。

実質GDPとは?

実質GDPとは、値段をある年の水準で止めたまま数えたGDPです。

内閣府の説明を引きます。

「実質値の実額は、ある年(参照年)の価格水準を基準として金額表示したものになっており、参照年は原則として体系基準年と一致させている。」

いまの参照年は2020年です。

そしてここが分かりやすいところなのですが、

「2020年(令和2年)基準の実質値(実額)は、2020年(令和2年)の名目値と実質値が(原則として)一致するようになっている。」

つまり——2020年だけは、2本が1本に重なります。
2020年から離れれば離れるほど、値段が動いたぶんだけ2本が開いていく。

今日見るのは、その開き具合です。

計算のしかたも、いまは連鎖方式という積み上げ型になっています。「前年の価格構造をウエイトに用いて当年の伸び率を計算し、それを毎年掛け合わせ」る方式です。
昔のように「2020年の値段でずっと計算し続ける」のではなく、1年ごとに前の年の値段を使って伸びを出し、それを繋いでいく。 何年も経つと商品の顔ぶれ自体が変わるので、こうしないと現実から離れていきます。
それでも金額の目盛りを2020年に合わせて表示することは変わりません。伸び率は1年ごとに繋ぎ、目盛りだけ2020年に置く、という二段構えです。

89兆4,302億円の正体

並べます。

どちらも2026年4-6月期、季節調整済み・年率換算です。

  • 名目GDP … 687兆7,182億円
  • 実質GDP … 598兆2,880億円
  • 差 … 89兆4,302億円

この89兆円は、誰かが余分に働いた分ではありません。 同じ経済を、いまの値段で数えたか、2020年の値段で数えたかの違いだけです。

Day 21で、GDPの52.6%が家計の消費だと見ました。

あのとき「あなたが今日払ったお金が入っている」と書きましたが、その払ったお金には、値上がりの分も含まれています。
同じ牛乳を同じ本数だけ買っても、値札が上がっていればGDPは増える。 それが89兆円の中身です。

名目3.2%、実質0.7%

伸び率で見ると、もっとはっきりします。

前の年の同じ時期との比較(原系列)です。

  • GDP全体 … 名目 +3.2% / 実質 +0.7%
  • 家計の消費 … 名目 +3.6% / 実質 +0.9%
  • 政府の消費 … 名目 +5.4% / 実質 +2.6%
  • 輸出 … 名目 +14.8% / 実質 +1.3%

輸出を見てください。 名目では14.8%増えているのに、実質では1.3%です。
金額は1割以上増えたのに、運び出した量はほとんど変わっていない。 差の大半は、値段と為替で説明がつきます。

この「名目と実質の開き」を1つの指数にしたものが、GDPデフレーターです。
2026年4-6月期は116.1(2020年=100・原系列)。

1年前の同じ時期は113.2でしたから、1年で2.6%上がりました。

名目の3.2%と実質の0.7%の差が、おおむねこの値段の上昇分です。
ただし引き算ではぴったり合いません。 どれも小数第1位に丸めた数字ですし、そもそも名目と実質は、引き算ではなく掛け算と割り算でつながっている(名目 ≒ 実質 × デフレーター)からです。
ついでにもう1つ。上に並べた687兆円と598兆円は季節調整済みの系列なので、この2つを割っても116.1にはならず115.0になります。指数と実額は別の系列から出ています。

実質で見ると、減っているものがある

ここが今日いちばん大事なところです。

季節調整済みの前の四半期からの動きを、実質で見ます。

  • GDP全体 … +0.3%(年率にすると+1.1%。年率は丸める前の+0.279%を4回かけ合わせて出すので、0.3%から計算した値とは一致しません)
  • 家計の消費 … −0.1%
  • 企業の設備投資 … −1.2%
  • 住宅への投資 … −0.5%
  • 政府の消費 … +1.6%

GDP全体はプラスですが、家計の消費は実質でマイナスです。

前の年の同じ時期と比べれば、家計の消費は名目+3.6%・実質+0.9%で、どちらもプラスでした。
ところが直近の1四半期だけを取り出すと、実質は−0.1%。 長い比較ではプラス、短い比較ではマイナスです。

同じ家計の消費が、こう変わります。
(前者は原系列の前年同期比、後者は季節調整済みの前期比。比べる期間も、季節調整の有無も違います。)

そして全体をプラスに保っている側には、政府の消費(+1.6%)がいます。

「GDPが増えた」と聞いたときに、自分の実感と合わないことがある理由の1つがここにあります。
Day 20「景気」で「世の中の景気と、あなたの景気は一致しない」と書きました。

今日はそれが、同じ統計の中でも起きていることを見ています。

円安が持っていった分

もう1つ、実質GDPにはすぐ隣にある数字があります。

実質GDPから交易損失8兆4,827億円を差し引いた589兆8,053億円。

これを実質GDI(国内総所得)といいます。

交易損失というのは、輸出するものの値段の上がり方より、輸入するものの値段の上がり方が大きくなったときに出る目減りです。
Day 15「円安と円高」で見たとおり、円は安くなりました。同じ量の原油や小麦を買うのに、より多くの円が要る。 その分だけ、同じ量を作っても、国内に残るものが減ります。

作った量(実質GDP)は増えても、手にできる量(実質GDI)はそれより少ない。 今期はその差が8兆4,827億円ありました。

私の100万円と、598兆2,880億円

この連載では、私が実際に100万円を1年間運用しています。

私の100万円は、598兆2,880億円の約5億9,829万分の1です。
昨日、名目で数えたときは約6億8,772万分の1でした。同じ100万円が、分母を実質に変えただけで「大きく」なりました。

もちろん、100万円は1円も増えていません。
(そして今日の1手で書くとおり、この2つは本来そのまま比べられません。

分子の100万円はいまの円、分母の実質GDPは2020年の円です。

ここでは、ものさしを替えると見え方がどう動くかを見るために並べています。

)

今日、記録に足すことを1つ決めました。
比率が動いたら、分子が動いたのか分母が動いたのかを書く。

私の100万円が全体の何分の1かは、どのものさしで測るかで変わります。

この先の月次報告でも、「去年より比率が上がりました」と書ける場面は必ず来ます。そのとき、上がった理由が自分の中身なのか、比べる相手のほうが動いたのかを、必ず分けて書く。

Day 6で実質を併記、Day 7で税引後、Day 8で分母、Day 9で元手の出どころ、Day 10で自分の税率、Day 11で住民税10%込み、Day 12で預金の線、Day 13で変化の原因の切り分け、Day 14で通貨の内訳、Day 15でドル建て、Day 16で理論値だと断ること、Day 17で通貨自体が割安だと明記すること、Day 18で制度が動いた日付、Day 19で書く順番、Day 20で判定せず事実だけを残すこと、Day 21で残高と流れを分けること。
今日足すのは、分子と分母のどちらが動いたかを書くことです。

正直に書きます。「比率が良くなった」は、いちばん都合よく書ける指標です。 分母が縮んだだけでも良く見える。
だから先に決めておきます。比率を出したら、その横に分子と分母の実額を必ず並べる。

よくある質問(FAQ・全6問)

Q1. 実質GDPは、どうやって計算しているんですか?

値段の動きを抜いて、数え直します。
いまは連鎖方式といって、「前年の価格構造をウエイトに用いて当年の伸び率を計算し、それを毎年掛け合わせ」る方法をとっています。

1年ごとに前年の値段で伸びを出して繋いでいく、と覚えておけば十分です。
そして同じ系列どうしで名目を実質で割ると出てくるのがGDPデフレーターです。

原系列どうしで割った2026年4-6月期は116.1(2020年=100)。本文で並べた季節調整済みの687兆円と598兆円どうしなら115.0で、系列を揃えないと数字は合いません。
デフレーターは実質を作るための道具というより、名目が実質の何倍になっているかを指数にしたものです。

Q2. なぜ2020年が基準なんですか?

参照年として決められているからです。 内閣府は「参照年は原則として体系基準年と一致させている」と説明しています。
そして2020年は、名目と実質が(原則として)同じ額になる年です。

そこを起点に、値段が動いた分だけ2本が開いていきます。
基準は数年ごとに改定されます。

改定されると過去の実質値も丸ごと引き直されます。Day 21で書いた「GDPの数字はあとから変わる」は、ここにも当てはまります。

Q3. ニュースの「GDP成長率」は、名目と実質のどちらですか?

多くは実質です。 経済成長率として語られるときは、値段の影響を除いた実質が使われるのがふつうです。
ただし「名目GDPが過去最大」といった見出しは名目の話です。同じ「GDPが増えた」でも、2026年4-6月期なら3.2%(名目)と0.7%(実質)で、印象がまったく違います。 どちらの話かを確かめてください。

Q4. 名目と実質、どちらが「本当の」GDPですか?

どちらも本当です。 目的が違います。
いま実際にいくらのお金が動いたかを知りたいなら名目。去年より多く作られたのかを知りたいなら実質。
税収や借金の重さを見るときは名目のほうが実態に近く、経済が育ったかどうかを見るときは実質です。片方だけを見て「日本経済は伸びた/伸びていない」と決めないことです。

Q5. 実質GDPが増えれば、生活は楽になりますか?

そうとは限りません。 今期がその例です。
実質GDPは前の四半期から+0.3%でしたが、家計の消費は−0.1%。

さらに交易損失8兆4,827億円の分、国内に残るもの(実質GDI)は実質GDPより少なくなっています。
作った量が増えることと、自分の手元が増えることは、別々に起きます。

Q6. この「名目と実質」の考え方は、GDP以外にも使えますか?

使えます。

ただしそれは、明日まるごと1話ぶんの話です。
今日はGDPという1つの統計に2本のものさしがあるところまで。同じ2本を、あなた自身の数字に当てるのが明日です。

まとめ

実質GDPとは、値段をある年(いまは2020年)の水準で止めて数え直したGDPです。2020年だけは名目と実質が一致し、そこから離れるほど2本が開きます。

2026年4-6月期は、名目687兆7,182億円に対して実質598兆2,880億円。差は89兆4,302億円で、これは量ではなく値段の分です。
伸び率で見ると名目+3.2%に対して実質+0.7%。

GDPデフレーターは116.1で、1年前の113.2から2.6%上がりました。

そして実質で四半期の動きを見ると、GDP全体は+0.3%でも、家計の消費は−0.1%。

プラス側にいるのは政府の消費(+1.6%)でした。
さらに交易損失8兆4,827億円の分、国内に残るもの(実質GDI 589兆8,053億円)は実質GDPより少なくなっています。

「GDPが増えた」という一文には、少なくとも2つの意味があります。

🎯 今日の1手(実践)

今日は、昨日の比率を、もう一度だけ計算し直してください。
ただし目的は、新しい数字を手に入れることではありません。やってはいけない計算を、自分の手でやってみることです。

昨日は、一人当たり名目GDP519.0万円(2024年度)で割って55.4%を出しました。
今日はその実質版、一人当たり実質GDP474.1万円(同じ2024年度)で割ってみます。

2,876,720 ÷ 4,741,000 = 60.7%。

5ポイント以上、上がりました。 ですが——

この60.7%は、比べてはいけない数字です。

理由は1つ。分母だけを実質にして、分子はそのままだからです。
手取りの2,876,720円はいまの値段の円、一人当たり実質GDPの474.1万円は2020年の値段の円。目盛りの違う2本を割っています。

そして何より、あなたの手取りは1円も動いていません。 2,876,720円のままです。
それでも比率だけが5ポイント動きました。

今日のこれは目盛りを間違えた例ですが、目盛りが正しくても同じことは起きます。 分母のGDPが増えれば比率は下がり、減れば上がる。どちらも、あなたが何もしていないのに動きます。

だから今日やってほしいことは、2つです。

1つ目。

今日出した60.7%は、記録に残さず捨ててください。

2つ目。

昨日の55.4%の横に、分子と分母の実額を書き足してください。

  • ✕ 「私のGDP比率は55.4%」
  • ○ 「2,876,720円 ÷ 5,190,000円 = 55.4%(分母は2024年度の一人当たり名目GDP。分子も分母も、いまの値段の円)」

後者なら、来年読み返したときに、何と比べた数字なのかが分かります。 前者は、来年の自分にはもう読めません。

そして、並べて書けば直せるのは、目盛りが揃っているときだけです。
60.7%のほうは、実額を並べても直りません。直すのは書き方ではなく計算のほう——というより、捨てます。

⚠️ 1点だけ。昨日の55.4%も、一人当たりGDPが2024年度、GDPの実額が2026年4-6月期という年度違いの上に乗っています。おおよその縮尺として扱ってください。

今日見てほしいのは5ポイントという数字そのものではなく、分母を替えただけで動いたという事実のほうです。

Day 7で手取り率、Day 8で基本給比率、Day 9で標準報酬月額、Day 10で実効税率、Day 11で住民税倍率、Day 12で何もしなかった場合の額、Day 13で金利感応度、Day 14で外貨比率、Day 15でドル建て換算、Day 16で往復コスト率、Day 17で割安率、Day 18で会合の日付、Day 19で7つの棚卸し、Day 20で自分DI、Day 21でGDP比率。
今日の「分母を替えて確かめる」で16個目です。 昨日と今日で同じ自分を2回測って、比率という数字の弱点を1つ見つけました。

明日 Day 23「名目値と実質値」では、このものさしの使い分けそのものを扱います。
Day 4・Day 5・Day 6の3話が、そろって明日に送っていた話です。GDPを離れて、あなたの給料と預金と100万円に、同じ2本のものさしを当てます。

🔗 あわせて読みたい

⚠️ ご注意

本記事は筆者個人の投資記録および一般的な金融知識の解説であり、特定の金融商品の売買を推奨するものではありません。
記載の運用実績は筆者個人の資金によるものです。
投資判断はご自身の責任において行ってください。
なおコンプライアンス上、当社の取引先に関連する銘柄は取引対象外としています。