昨日はDay 19「通貨供給量」で、お金の量の数え方が2つあることを確かめました。
Day 12「政策金利」からの8日間は、経済を動かしている側の話でした。
今日からは、その結果として私たちの側で何が起きているのかを見ていきます。

カナ「7つ、書き出しました。……本当に、動かせないものばかりでしたね」
それが分かったことが、8日分の成果です。

カナ「じゃあ聞きますけど、いまって景気がいいんですか、悪いんですか?」
いちばん素直な質問で、いちばん答えにくい質問です。

カナ「いつ決まるんですか?」
サトル「何年もあとだよ。山と谷は、過ぎてから決められる。いまがどっちかは、まだ誰も確定できない。」
種明かしです。
景気の判定は、後ろ向きにしか下せません。

カナ「待ってても答えは来ない、ってことですか」
そういうことです。
ここからは、その待てない中でどう測るかを見ていきます。
景気とは?
景気とは、経済全体の活動の勢いのことです。
物が売れているか、工場が動いているか、人が雇われているか、給料が増えているか。それらをひとまとめにした調子を指します。
厄介なのは、体温計のように1本の数字で測れるものではないという点です。
ある会社は好調で、隣の会社は不調。
ある業界は伸びて、別の業界は縮む。「全体としてどうか」を出すには、たくさんの数字を束ねるしかありません。
日本では内閣府がその作業をしています。景気動向指数です。
定義はこうです。
「生産、雇用など様々な経済活動での重要かつ景気に敏感に反応する指標の動きを統合することによって、景気の現状把握及び将来予測に資するために作成された指標である。」
統合することによって。 1本では測れないから、束ねる。
ここが出発点です。
「いま景気が良いか」は、あとにならないと決まらない
ここが今日いちばん大事なところです。
景気には山と谷があります。
上り坂の頂点が山、下り坂の底が谷。
この日付を景気基準日付といい、内閣府が事後的に決めます。
事後的、というのは比喩ではありません。実際に何年もあとに決まります。
直近の確定を並べます。
- 第14循環:2002年1月(谷)→ 2008年2月(山) → 2009年3月(谷)/拡張73か月・後退13か月
- 第15循環:2009年3月(谷)→ 2012年3月(山)→ 2012年11月(谷)/拡張36か月・後退8か月
- 第16循環:2012年11月(谷)→ 2018年10月(山)→ 2020年5月(谷)/拡張71か月・後退19か月
確定しているのは、ここまでです。
2020年5月の谷から、2026年8月で75か月。6年3か月が経ちました。
第14循環の拡張73か月も、第16循環の71か月もすでに超えています。
ただし——ここを間違えないでください。
「超えている」のは、まだ山が決まっていないからです。 拡張が続いていると確定したわけではありません。
あとから「実は2024年のどこかが山でした」と決まる可能性もあります。過ぎたことが、あとから書き換わる。 それが景気基準日付という仕組みです。
リーマンショックのときも同じでした。 山は2008年2月。
ですがその日付が決まったのは、ずっとあとです。当時それが山だと分かっていた人は、誰もいません。
だから、こう覚えておいてください。
「景気が良い・悪い」とニュースで言われているものは、確定した事実ではなく、いま入手できる数字からの推定です。
それでも、いまを測る道具はある
確定を待てないから、道具があります。
景気動向指数には2つの測り方があります。
「CIは構成する指標の動きを合成することで景気変動の大きさやテンポ(量感)を、DIは構成する指標のうち、改善している指標の割合を算出することで景気の各経済部門への波及の度合い(波及度)を測定することを主な目的とする。」
言い換えると、こうです。
- CI … どのくらいの勢いか(量感)
- DI … 何割の分野で良くなっているか(波及度)
「どれだけ強いか」と「どこまで広がっているか」は、別のことです。 一部の業界だけが猛烈に伸びている状態と、全業界がゆるやかに伸びている状態は、まったく違います。
そしてもう1つ、時間の軸でも3つに分かれます。
「景気に対し先行して動く先行指数、ほぼ一致して動く一致指数、遅れて動く遅行指数の3つの指数がある。景気の現状把握に一致指数を利用し、先行指数は、一般的に、一致指数に数か月先行することから、景気の動きを予測する目的で利用する。」
- 先行指数 … 数か月先を読むため
- 一致指数 … いまを把握するため
- 遅行指数 … あとから確かめるため
ニュースで「景気動向指数」と聞いたら、どの指数の話かを確かめてください。 昨日の「お金の量」と同じで、同じ名前で別のものを指しています。
世の中の景気と、あなたの景気は一致しない
もうひとつ、押さえておいてほしいことがあります。
景気動向指数が測っているのは、全体としての勢いです。 生産や雇用の数字を束ねて、日本という単位で1つの調子を出している。
その中に、あなたが入っているとは限りません。
伸びている業界と縮んでいる業界は同時に存在します。
給料が上がった人と据え置きの人も同時にいます。
平均が上を向いていても、自分が下を向いていることは、ふつうに起きます。 そしてその逆も起きます。
だから今日の答えはこうなります。
世の中の景気は待つしかない。
でも、自分の景気なら今日測れます。
Day 11「住民税」まで積み上げた手取り月239,726円も、Day 15で出したドル建ての月1,503ドルも、自分の数字でした。
景気も同じです。自分のぶんは、自分で数えられます。
私の100万円と、答え合わせができない1年
この連載では、私が実際に100万円を1年間運用しています。
今日わかったのは、私の運用した1年が景気のどこに位置していたのかは、来年の9月になっても分からないということです。
2026年9月から2027年9月。この1年が拡張期だったのか後退期だったのかは、数年後に決まります。
だから今日、記録に1つ足します。
毎月の記録に「そのとき何が起きていたか」を、判定抜きで書き残すことです。
Day 6で実質を併記、Day 7で税引後、Day 8で分母、Day 9で元手の出どころ、Day 10で自分の税率、Day 11で住民税10%込み、Day 12で預金の線、Day 13で変化の原因の切り分け、Day 14で通貨の内訳、Day 15でドル建て、Day 16で理論値だと断ること、Day 17で通貨自体が割安だと明記すること、Day 18で制度が動いた日付、Day 19で書く順番。
今日足すのは、判定せずに事実だけを残すことです。
「今月は景気が良かった」と書くのは簡単ですが、それは数年後にしか確かめられません。
代わりに書けるのは、その月に何があったかです。
金利が動いた、レートが何円だった、物価が何%だった。判定は未来の自分に任せて、材料だけ揃えておく。
Day 13「中央銀行の役割」で、変化の原因を「自分」と「自分以外」に切り分けると決めました。今日はもう1つ、「いま決められること」と「あとでしか決まらないこと」の切り分けが加わります。
正直に書きます。1年後、私は自分の成績を語れますが、その1年がどういう年だったかは語れません。 それでいいと思っています。分からないことを分かったふりで書くほうが、記録としては劣化します。
よくある質問(FAQ・全6問)
Q1. 景気が良いか悪いかは、誰が決めるんですか?
景気の山と谷(景気基準日付)は、内閣府が事後的に決めます。
直近で確定しているのは2020年5月の谷。
それ以降の山は、まだ決まっていません。
ただし、日々のニュースで言われる「景気」は判定ではなく推定です。
景気動向指数や各種の調査から、いま入手できる数字で語られています。確定した判定と、いまの推定は別のものだと分けて聞いてください。
Q2. なぜ何年もあとにならないと決まらないんですか?
必要な統計がそろうのに時間がかかるからです。
生産や雇用の数字は、その月が終わってから集計され、あとで改定されることもあります。
山や谷は「そこが転換点だった」と前後の動きを見比べて初めて分かるので、数か月ぶんのデータが出そろうまで判定できません。
2008年2月が山だったと決まったのも、リーマンショックのただ中ではなく、ずっとあとです。
Q3. 景気が良いと、私の給料は上がりますか?
すぐには上がりません。
景気動向指数には遅行指数という区分があり、そこには賃金など「遅れて動くもの」が入ります。景気が良くなってから給料に届くまでには、時間差があります。
Day 15「円安と円高」で見たとおり、額面が変わらなくても外から見た価値は動きます。「景気が良い=自分の手取りが増える」ではありません。
Q4. 景気動向指数のCIとDI、どちらを見ればいいですか?
目的が違います。
CIは「どのくらいの勢いか」(量感)、DIは「何割の分野で良くなっているか」(波及度)。 一部だけが強い状態と、全体がゆるやかに良い状態を見分けたいならDIです。
さらに先行・一致・遅行の3つがあり、いまを知りたいなら一致指数、先を読みたいなら先行指数。「景気動向指数が上がった」だけでは、何が上がったのか分かりません。
Q5. 景気の波は、だいたい何年周期ですか?
決まっていません。
確定している直近3回で見ると、拡張期間は73か月・36か月・71か月とばらばらです。
後退期間も13か月・8か月・19か月。
平均を出すことはできますが、次がそうなる保証はありません。 2020年5月の谷からは、2026年8月時点ですでに75か月が経過しています。
Q6. 景気が悪くなったら、運用はやめたほうがいいですか?
それが判断できるなら、山と谷を事後的に決める必要はありません。
今日の話の要点は、「いまがどこか」は誰にも確定できないということです。
確定できない前提で、自分がどうするかを先に決めておくほうが現実的です。
Day 14「金利差」で「金利は確実に入り、為替は読めない」と書きました。景気も読めない側にあります。 読めないものに賭ける割合を自分で決めておく、というのが今日の答えです。
まとめ
景気とは、経済全体の活動の勢いのことです。
1本の数字では測れないので、内閣府が景気動向指数として束ねています。
定義は「生産、雇用など様々な経済活動での重要かつ景気に敏感に反応する指標の動きを統合することによって、景気の現状把握及び将来予測に資するために作成された指標」。
そして今日いちばん大事なこと。景気の山と谷は、事後的に決まります。
確定しているのは第16循環の2020年5月の谷まで。
そこから2026年8月時点で75か月が経ち、第14循環の拡張73か月も第16循環の71か月も超えていますが、それは山がまだ決まっていないだけです。
測り方は2種類×3区分。CIが量感、DIが波及度。先行・一致・遅行で時間軸が分かれます。
「景気動向指数が上がった」と聞いたら、どれの話かを確かめてください。
いま知りたいことほど、あとにならないと確定しない。 それが景気という言葉の性質です。
🎯 今日の1手(実践)
今日は、自分の景気を自分で測ってください。
内閣府がやっているDIの考え方を、そのまま自分に当てはめます。良くなっている項目の割合を出すだけです。
次の3つを、1年前と比べてください。
- 月の手取り … 増えた/変わらない/減った
- 月の固定費 … 減った/変わらない/増えた(減ったが「良い」側です)
- 仕事の量 … 残業・受注・依頼が増えた/変わらない/減った
点数の付け方は、内閣府のDIと同じにします。良くなった=1点、変わらない=0.5点、悪くなった=0点。
横ばいを0.5点として数えるのは、内閣府のDIもそうしているからです。
3項目の合計点 ÷ 3 × 100 = あなたのDI。
- 50%より上 → あなたの家計は拡張の側にいます
- ちょうど50%(全部「変わらない」)→ 横ばい。ただしDay 4で見たとおり物価は上がっているので、動かないことは現状維持ではありません
- 50%より下 → 後退の側です。3つのうち、いちばん自分で動かせるのは固定費です
3項目にした理由も書いておきます。手取り・固定費・仕事の量は、それぞれ別の経路で動くからです。 会社の業績が良くて仕事が増えても手取りが増えるとは限らず、手取りが減っても固定費を下げれば残る額は増えます。別々に動くものを並べないと、割合を数える意味がありません。
Day 7で手取り率、Day 8で基本給比率、Day 9で標準報酬月額、Day 10で実効税率、Day 11で住民税倍率、Day 12で何もしなかった場合の額、Day 13で金利感応度、Day 14で外貨比率、Day 15でドル建て換算、Day 16で往復コスト率、Day 17で割安率、Day 18で会合の日付、Day 19で7つの棚卸し。
今日の自分DIで14個目です。 昨日まとめた7つが外の世界との距離なら、今日の1つは自分の内側の勢いです。
そして14個のうち、自分で動かせるものが初めて出てきました。 固定費です。
明日 Day 21「GDP」では、その景気を1つの数字で測ろうとしたらどうなるかを見ます。
今日「1本では測れない」と書いたばかりですが、それでも1本にまとめた数字があります。
世界中がそれを使っています。
🔗 あわせて読みたい
- Day 19「通貨供給量」 — 同じ「お金の量」が2つの違うものを指していた話
- Day 13「中央銀行の役割」 — 変化の原因を「自分」と「自分以外」に切り分ける話
- Day 15「円安と円高」 — 額面が変わらなくても、外から見た価値は動くという話
- Day 14「金利差」 — 金利は確実に入り、為替は読めないという非対称
- Day 4「インフレーション」 — 変わらないことは、実質では減っているという話
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