【Day 58/365|1日1金融用語】譲渡損益と損益通算 ——「損は損で終わりじゃなくて、同じ年の利益と相殺できるんですね」と気づいたカナの話

【Day 58/365|1日1金融用語】譲渡損益と損益通算 ——「損は損で終わりじゃなくて、同じ年の利益と相殺できるんですね」と気づいたカナの話

昨日はDay 57「配当控除」で、上場株式の配当の税金は、申告不要・総合課税・申告分離課税の3つから選べるという話をしました。 申告分離課税は「株を売った損と差し引きたいときに使う」と書いて、その先は今日に回していました。
今日は、その「売った損」の話です。 損が出たら、損しただけなのか。
カナはDay 55の架空の例で、権利落ち日に売ると6,000円の損が出ることを見ていました。 そのときは「配当と差し引ける」とだけ聞いて、株の利益どうしでも差し引けるとは思っていませんでした。

譲渡損益と損益通算を学ぶカナの4コマ・起
カナ「配当の税金は選べるって分かりました。じゃあ、株を売って損したら、その損はどうなるんですか?」

その損にも、行き先があります。 株の利益には税金がかかります。
それなら、損のほうも税金の計算に入ってくる、と考えるのが自然です。

譲渡損益と損益通算を学ぶカナの4コマ・承
カナ「Day 55で、損と配当は差し引けるって聞きました。でも、それは配当だけの話ですよね?」

そこが今日の分かれ道です。 損をした株だけを見れば、確かに税金はかかりません。
でも、同じ年にほかの株で利益が出ていたら、配当と同じように話が変わります。

譲渡損益と損益通算を学ぶカナの4コマ・転
カナ「え、ほかの株の利益にかかった税金まで戻ることがあるんですか?」
サトル「上場株式を売った損は、同じ年の上場株式の売却益や、申告分離課税にした配当と差し引きできる。これが損益通算だ。利益にかかっていた税金が、差し引いた分だけ減る。ただし、給料とは差し引けない。」

種明かしです。 株の税金は、1回ごとの売買ではなく、1年間の利益と損を合わせた結果にかかります。 利益5万円と損3万円なら、その年の結果は2万円のプラス。 税金は、その2万円にかかります。
利益のほうで先に税金が引かれていても、あとから損が出れば、差し引いた分の税金は戻ります。

譲渡損益と損益通算を学ぶカナの4コマ・結
カナ「損は損で終わりじゃなくて、同じ年の利益と相殺できるんですね」

そういうことです。
ここからは、譲渡損益の計算のしかた、損益通算できるものとできないもの、架空の例で税金がどう変わるか、特定口座の中で自動になる場合と確定申告が要る場合、そして私の100万円の記録に何を足すのかを、順に見ます。

譲渡損益と損益通算とは?

譲渡損益とは、株などを売ったときの損得です。 計算はこうなります。

  • 譲渡損益 = 売った代金 −(買った代金 + 売り買いの手数料など)

買った代金のことを「取得費」といいます。Day 51で、何回かに分けて約定したら平均の値段で数えると書き、Day 54で、分割があったら取得単価を直すと書いたのは、この計算を正しくするためでした。

損益通算とは、損を、ほかの利益から差し引くことです(厳密には、株どうしの差し引きは同じ種類の所得の中の通算で、株の損と配当の差し引きが種類をまたぐ損益通算ですが、証券会社の画面ではどちらも「損益通算」と呼ばれています)。 株の場合、国税庁のタックスアンサーNo.1474は、上場株式の譲渡損失は「確定申告により、その年分の上場株式等の配当等に係る利子所得の金額および配当所得の金額(上場株式等に係る配当所得については、申告分離課税を選択したものに限ります。…)と損益通算することができます」と書いています。

差し引けるもの、差し引けないもの

上場株式の譲渡損と差し引けるかどうかを並べます。

  • 同じ年の、上場株式の譲渡益:差し引ける
  • 同じ年の、上場株式の配当で申告分離課税を選んだもの:差し引ける
  • 同じ年の、上場株式の配当で総合課税を選んだもの:差し引けない(昨日の配当控除を使うと、この差し引きはできなくなります)
  • 給料(給与所得):差し引けない
  • 非上場株式など(一般株式等)の譲渡益:差し引けない。国税庁のタックスアンサーNo.1463は「上場株式等に係る譲渡損失の金額を一般株式等に係る譲渡所得等の金額から控除することはできません」と書いています
  • NISA口座で出た損:ほかの口座の利益と差し引けない。NISAの中の利益に税金がかからないかわりに、損もなかったものとして扱われます

株の損は、株などの利益(上場株式等。 投資信託の売却益なども含みます)と、申告分離課税の配当とだけ差し引ける、と覚えておくと整理しやすくなります。

架空の例で、税金はどう変わるか

ここからは説明のための架空の例です。 同じ年に、同じ特定口座(源泉徴収あり)で、2つの株を売ったとします。

  • 株A:買った代金と手数料の合計20万円、売った代金25万円 → 譲渡益 5万円
  • 株B:買った代金と手数料の合計15万円、売った代金12万円 → 譲渡損 3万円

損益通算しなかったら、株Aの利益5万円に税金がかかります。 所得税・復興特別所得税15.315%で7,657円、住民税5%で2,500円、合計 10,157円です。

損益通算すると、その年の結果は 5万円 − 3万円 = 2万円。 税金は所得税・復興特別所得税3,063円と住民税1,000円、合計 4,063円です。

差は 6,094円。 ラーメン7杯近くです。
ここが今日いちばん大事なところです。損が出た株を売ることは、同じ年の利益にかかる税金を減らすことにもなる。 株Aの5万円だけを見て「税金を1万円払った」と思っていても、年の終わりに株Bの損と合わせると、払うのは約4,000円です。
ただし、戻るのは税金の6,094円だけで、株Bの損3万円そのものは戻りません。 税金のために損を出すと、手元は減ります。

実際の数字で見る:株の売却で確定申告した人は115万人

国税庁が2026年5月に公表した「令和7年分の所得税等、消費税及び贈与税の確定申告状況等について」には、株などを売って確定申告した人の数が出ています。

  • 株式等の譲渡所得の申告人員:115万人(前年より2.5%減)
  • そのうち、所得金額がある人(有所得人員):74万人
  • その所得金額:6兆8,603億円

115万人から74万人を引くと、約41万人は、申告したのに、その年の所得金額がなかった人です。 損が利益を上回った人や、損だけが出た人が、口座をまたいで差し引くためや、損を翌年に残すために申告している、と読めます。
確定申告は、利益が出た人だけのものではありません。 なお、1つの特定口座(源泉徴収あり)の中だけで済んだ人は、申告していないので、この数には入っていません。

自動になる場合と、確定申告が要る場合

同じ特定口座(源泉徴収あり)の中なら、損益通算は証券会社が自動でやってくれます。 株Aを売ったときに引かれた税金は、あとで株Bを損して売ると、証券会社の計算で口座へ戻ってきます(配当から引かれた分は、年末にまとめて計算されて戻るのが一般的です)。
配当も、Day 56で見た株式数比例配分方式で同じ口座に入っていれば、口座の中で売った損と差し引かれます。

確定申告が要るのは、たとえば次のような場合です。

  • 証券会社を2つ使っていて、A社で利益、B社で損が出た:口座どうしは自動では差し引かれないので、確定申告で差し引きます。国税庁のタックスアンサーNo.1476も、源泉徴収口座の所得を「他の口座の上場株式等の譲渡損益と相殺する場合」は確定申告が必要としています
  • 配当を銀行口座などで受け取っていて、売った損と差し引きたい:申告分離課税を選んで確定申告します
  • 差し引いてもまだ損が残った:その損を翌年に持ち越すには確定申告が要ります。これは明日の Day 59「譲渡損失の3年間繰越」で扱います

私の100万円と、譲渡損益

この連載では、私が実際に100万円を1年間運用しています。

昨日、記録に足したのは「配当の税金の選び方」の欄でした。 配当ごとに引かれた税額を書き、年末に選び方と理由を1行書きます。
今日足すのは、売るたびに「譲渡損益」と「その年の口座の通算損益」を書く決まりです。

私の100万円は、1つの特定口座(源泉徴収あり)だけにあります(Day 43)。 だから、口座の中の損益通算は証券会社が自動でやってくれて、そのためだけなら確定申告は要りません(年間で損が残った場合は Day 59 で扱います)。
それでも自分で書くのは、戻ってきた税金も「答え合わせ」の数字に入るからです。 損して売った日に、同じ年の利益にかかっていた税金が口座に戻れば、残高は戻った税金の分だけ戻ります。 それを書いておかないと、なぜ残高が動いたのかが分からなくなります。

記録には、こう書きます。「売るたびに、売った代金・取得費(買いの手数料込み)・売りの手数料・譲渡損益を書く。その年の口座の通算損益と、引かれた税金・戻った税金を並べて書く。」 実際の数字は、月1回の運用記録で出します。

カナの欄は、今日も空欄です。 でも、口座を開く日に覚えておくことが1つ増えました。「株の損は、同じ年の株の利益と差し引ける。給料とは差し引けない」。

よくある質問(FAQ・全6問)

Q1. 年末に、損が出ている株をいったん売って、すぐ買い戻してもいいのですか?

できます。 日本には、売ってすぐ買い戻したときの損を認めない、という決まりはありません。 ただし、同じ日のうちに買い戻すと、買った順番によっては取得費が平均され、思ったほど損が確定しないことがあります。 また、特定口座でその年の取引として数えるには、受渡日が年内に来るように約定させる必要があります。 売り買いの手数料とスプレッドの分は、確実に減ります。

Q2. 株の損と、投資信託の利益も差し引けますか?

差し引けます。 公募の投資信託は、株と同じ「上場株式等」に入るので、売った利益や損は、上場株式の損益と差し引けます。 同じ特定口座(源泉徴収あり)の中なら、これも自動です。

Q3. 株の損は、給料と差し引けますか?

差し引けません。 株の損と差し引けるのは、上場株式等(投資信託なども含みます)の譲渡益と、申告分離課税を選んだ配当などに限られます。 株で損をしても、給料にかかる所得税や住民税は変わりません。

Q4. 特定口座なら、損益通算は自動ですか?

同じ特定口座(源泉徴収あり)の中なら、自動です。 利益のときに引かれた税金は、同じ年に損が出れば、証券会社の計算で口座に戻ります。 証券会社を2つ以上使っていて、口座どうしで差し引きたいときは、確定申告が必要です。

Q5. NISA口座で出た損は、損益通算できますか?

できません。 NISA口座の損は、ほかの口座の利益と差し引けません。 NISAの中の利益に税金がかからないかわりに、損もなかったものとして扱われます。

Q6. 2つの証券会社の片方で利益、片方で損が出たとき、申告しないとどうなりますか?

利益のほうの税金は、引かれたままです。 口座どうしは自動では差し引かれないので、損のほうの口座で税金が戻ることもありません。 確定申告で2つの口座の損益を合わせれば、差し引いた損の約20.315%分の税金が戻ります。 申告するかどうかは、戻る額と手間を比べて決めます。

まとめ

譲渡損益とは、売った代金 −(買った代金+手数料など)です。 上場株式の譲渡損は、同じ年の上場株式の譲渡益や、申告分離課税を選んだ配当と損益通算できます。給料とは差し引けませんし、NISA口座の損も差し引けません。
架空の例では、利益5万円と損3万円を差し引くと、税金は10,157円から4,063円になり、6,094円減りました。
同じ特定口座(源泉徴収あり)の中なら自動で、口座をまたぐときは確定申告です。 令和7年分に株式等の譲渡所得を確定申告した人は115万人で、そのうち約41万人は所得金額がない人でした。
私の100万円では、売るたびに譲渡損益とその年の通算損益、引かれた税金と戻った税金を書きます。

🎯 今日の1手(実践)

昨日は、自分の所得税の税率と、気になる株の配当を総合課税にしたときの税金・申告不要の税金を並べました。今日は、損益通算で税金がどう変わるかを、自分の数字で1回計算します。 手順は2つです。

1つ目。 証券口座を持っているなら、今年の「譲渡損益」の合計を、口座の画面で確かめます。 多くの証券会社では、特定口座の年間の損益や、引かれた税金の合計が見られます。 持っていないなら、今日の架空の例をそのまま使います。今日の日付と一緒に控えてください。
2つ目。 「利益だけのときの税金」と「損と差し引いたあとの税金」を、それぞれ計算して並べます。 利益(または差し引いたあとの金額)に15.315%と5%を別々に掛け、1円未満を切り捨てて足します。 今日はここまでで、実際に売り買いはしません。

Day 54で分割されたときの入口の値段、Day 55で権利付き最終日・権利落ち日、Day 56で配当の受け取り方式と1単元の配当・税金、Day 57で配当を総合課税にしたときの税金を控えてきました。
今日の「利益だけのときの税金と、損と差し引いたあとの税金を、自分の数字(または架空の例)で並べて、日付つきで控えること」で52個目です。

🔗 あわせて読みたい

⚠️ ご注意

本記事は筆者個人の投資記録および一般的な金融知識の解説であり、特定の金融商品の売買を推奨するものではありません。
記載の運用実績は筆者個人の資金によるものです。
投資判断はご自身の責任において行ってください。
なおコンプライアンス上、当社の取引先に関連する銘柄は取引対象外としています。