昨日はDay 59「譲渡損失の3年間繰越」で、差し引いても残った株の損は、確定申告をすれば3年間繰り越せるという話をしました。 繰り越している間は、売買がなかった年も毎年申告が要りました。
今日は、その「確定申告」そのものの話です。 誰が、いつ、しなければならないのか。
カナは、社会人になってから一度も確定申告をしたことがありません。 毎年12月に、会社で年末調整の書類を出すだけでした。

カナ「繰り越すには確定申告が要るって分かりました。でも、会社員の私って、そもそも確定申告するんですか?」
多くの会社員は、しなくて済んでいます。 会社が年末調整で、1年分の所得税を計算し直してくれるからです。
ただ、それは「給料だけ」の人の話です。

カナ「会社員は年末調整があるから、確定申告は関係ないですよね?」
そこが今日の分かれ道です。 年末調整が扱うのは、会社が払った給料だけです。
給料以外の所得は、会社は知りません。

カナ「え、会社員でも確定申告しないといけない人がいるんですか?」
サトル「給料が年2,000万円を超える人や、給料以外の所得が年20万円を超える人は、会社員でも確定申告が必要だ。ただし、源泉徴収ありの特定口座で申告しないことを選んだ株の利益は、その20万円に数えない。」
種明かしです。 確定申告は、「会社が知らない所得を、自分で届ける手続き」です。 給料以外の所得が小さいうちは、所得税の申告をしなくてよい決まりがあります。 それが20万円です。
そして、源泉徴収ありの特定口座の利益は、証券会社がもう税金を引いて納めているので、届けなくてよい側に入れてもらえます。

カナ「しなきゃいけない申告と、したほうが得な申告があるんですね」
そういうことです。
ここからは、会社員で確定申告が必要な人、20万円の数え方、申告したほうが得になる場合、申告するときの注意、そして私の100万円の記録に何を足すのかを、順に見ます。
確定申告が必要なケースとは?
確定申告とは、1年間(1月1日〜12月31日)の所得と税金を自分で計算して、翌年に税務署へ届ける手続きです。 国税庁のタックスアンサーNo.2020は、期間を「原則として、その年の翌年2月16日から3月15日までです」としています。
会社員(給与所得者)で確定申告が必要な人として、国税庁のタックスアンサーNo.1900は、たとえば次の人を挙げています。
- 「給与の年間収入金額が2,000万円を超える人」
- 「給与を1か所から受けていて、かつ、その給与の全部が源泉徴収の対象となる場合において、各種の所得金額(給与所得、退職所得を除く。)の合計額が20万円を超える人」
ほかにも、給与を2か所以上から受けている人などの決まりがありますが、この連載の話に関係が深いのは、2つ目の 「給与以外の所得が20万円を超える」 です。
20万円の数え方
「給与以外の所得」には、副業の所得や、株の利益(譲渡所得)なども入ります。 ただし、国税庁は20万円の判定から除くものとして、次を挙げています。
「特定口座の源泉徴収選択口座内の上場株式等の譲渡による所得で、確定申告をしないことを選択したもの」
なお、上場株式の配当は、申告不要を選べば金額にかかわらず申告しなくてよく、20万円にも数えません(Day 57で見た国税庁の「確定申告を要しません」です)。
株の口座の種類で並べると、こうなります(Day 43で見た口座の違いです)。
- 特定口座(源泉徴収あり):利益から20.315%が口座の中で引かれて終わる。申告しなければ、20万円に数えない
- 特定口座(源泉徴収なし)・一般口座:税金は引かれていない。利益は20万円に数える
- NISA口座:利益に税金がかからない。数えない
架空の例で比べます。 会社員で、給与は1か所だけ、ほかに副業はないとします。
- 源泉徴収ありの特定口座で50万円の利益:申告しないなら、所得税の確定申告は不要(口座で税金が引かれて終わり)
- 源泉徴収なしの特定口座で25万円の利益:20万円を超えるので、所得税の確定申告が必要
- 源泉徴収なしの特定口座で15万円の利益:所得税の確定申告は不要。ただし、住民税の申告は別に必要になる、と多くの市区町村が案内しています
ここが今日いちばん大事なところです。
「20万円以下なら申告不要」は所得税だけの話で、住民税にはこの決まりがありません。 そして、源泉徴収ありの特定口座なら、利益がいくらでも申告しないで済ませられます。口座の種類を選んだ時点で、あとの手間が決まっているのです。
実際の数字で見る:確定申告をした2,353万人のうち、1,335万人は「戻してもらう」側
国税庁が2026年5月に公表した「令和7年分の所得税等、消費税及び贈与税の確定申告状況等について」によると、令和7年分の所得税の確定申告は次のとおりでした。
- 申告した人:2,353万人(前年より0.6%増)
- そのうち、税金を納める人(申告納税額がある人):628万人
- 税金を戻してもらう人(還付申告):1,335万人
- e-Tax で申告した人:1,815万人(申告した人の77.1%)
申告した人の半分以上(約57%)は、税金を納めるためではなく、戻してもらうために申告しています。
確定申告は「しなければならない人の手続き」であると同時に、「得になる人が自分で選んで使う手続き」でもあるのです。
もう1つ、国税庁が2026年9月に公表した「令和7年分 民間給与実態統計調査」を見ます。 1年を通じて勤務した給与所得者5,163万人のうち、給与が2,000万円を超える人は約36万人(2,000万円超2,500万円以下が16.7万人、2,500万円超が19.6万人)で、約0.7%です。 会社で年末調整を受けた人は4,744万人でした。
給与の額で確定申告が必要になる会社員は、ごく一部です。 多くの会社員にとっての分かれ道は、給与の額ではなく、今日見た「給与以外の所得が20万円を超えるか」と「得になる申告をするか」の2つです。
申告したほうが得になる場合
必要ではなくても、申告すると税金が戻る、または減る場合があります。 ここ数日で見てきたものです。
- 配当控除を使いたい(Day 57):所得税の税率が低い人は、配当を総合課税にすると軽くなる
- 証券会社をまたいで損と利益を差し引きたい(Day 58):口座どうしは自動では差し引かれない
- 残った損を翌年に運びたい(Day 59):損が出た年に申告しないと、その損は消える
外国の株や投資信託で、外国で引かれた税金を取り戻す「外国税額控除」もこの仲間です。 これは Day 85「外国株式投資と外国税額控除」で扱います。
申告するときの注意
- 20万円以下でも、医療費控除などで確定申告をするときは、その所得も含めて申告します。 20万円の決まりは「申告しなくてよい」という意味で、申告するなら全部を書き入れます
- 申告した株の利益や配当は「合計所得金額」に入ります。 Day 57で見たとおり、扶養の判定や国民健康保険料などに響くことがあります
- 所得税で選んだ方式が、住民税にもそのまま使われます。 Day 57で見た「課税方式の一致」です
- ふるさと納税のワンストップ特例を使っている人は、確定申告(住民税の申告も含む)をすると、その特例が使えなくなります。 申告するなら、特例で申請した分も含めて、その年の寄附をすべて寄附金控除として書き入れます
- 申告するかどうかは、源泉徴収ありの特定口座なら口座ごとに選べます。 得になる口座だけを申告に入れることもできます。ただし、1つの口座の中で一部の売買だけを選んで申告することはできません。また、その口座の損を申告するときは、口座の中で損と差し引かれた配当もあわせて申告します
私の100万円と、確定申告
この連載では、私が実際に100万円を1年間運用しています。
昨日、記録に足したのは年末に口座の損益を締めて、損が残ったら繰越の申告をするかどうかを書く決まりでした。
今日足すのは、年末に「確定申告をする・しない」と、その理由を書く決まりです。
私の100万円は、源泉徴収ありの特定口座1つだけにあります。 だから、利益が出ても、この100万円のために確定申告をしなければならない場面は、原則としてありません。
申告を考えるのは、得になる場合だけです。 この1年で言えば、2026年分に損が残ったとき(Day 59)と、配当を総合課税にしたほうが軽いとき(Day 57)の2つです。
記録には、こう書きます。「年末に、この100万円について確定申告をする・しないを書く。するなら理由(損の繰越・配当控除など)と期限を書く。2026年分の期限は2027年3月15日(月)。」 実際の数字は、月1回の運用記録で出します。
カナの欄は、今日も空欄です。 でも、口座を開く日に選ぶことの意味が1つはっきりしました。「源泉徴収ありの特定口座なら、株の利益のために確定申告をしなくて済む」。
よくある質問(FAQ・全6問)
Q1. 年の途中で転職して、2つの会社から給与を受けた年も、確定申告が必要ですか?
前の会社の源泉徴収票を新しい会社に出して、年末調整でまとめて計算してもらえば、原則として不要です。 源泉徴収票を出しそびれた場合や、年の途中で会社を辞めて年末調整を受けていない場合は、確定申告で精算します。 2つの会社から同時に給与を受けている人とは、決まりが別です。
Q2. 源泉徴収ありの特定口座で損が出ました。申告しないと、何か不利になりますか?
申告しなくても、罰則などはありません。 ただし、ほかの証券会社の利益と差し引くこと(Day 58)と、残った損を翌年以降に繰り越すこと(Day 59)は、できなくなります。 損が出た年に「申告しない」を選ぶと、この2つを手放すことになります。
Q3. 給与以外の所得が20万円以下なら、何もしなくていいですか?
所得税の確定申告は不要ですが、住民税の申告は別に必要になる、と多くの市区町村が案内しています。 20万円の決まりは、所得税だけのものです。
Q4. 確定申告の期間はいつですか?
原則として、翌年の2月16日から3月15日までです。 2026年分なら、2027年2月16日(火)から3月15日(月)までになります(土日祝日にあたると、ずれることがあります)。 税金が戻るだけの申告(還付申告)は、翌年の1月1日から出せます。
Q5. 税金が戻る申告(還付申告)は、3月15日を過ぎたら出せませんか?
出せます。 還付申告は、対象の年の翌年1月1日から5年間出せます。 2026年分なら、2031年12月31日までです。 ただし、税金を納める必要がある申告は、期限を過ぎると延滞税などがかかることがあります。 納める側か戻る側か分からないうちは、期限までに出すのが確実です。
Q6. 確定申告をすると、ほかに気をつけることはありますか?
申告した利益や配当は合計所得金額に入り、扶養の判定などに響くことがあります。 また、ふるさと納税のワンストップ特例を使っている人は、確定申告や住民税の申告をすると特例が使えなくなるので、その年の寄附をすべて申告書に書き入れます。
まとめ
会社員でも、給与の年間収入が2,000万円を超える人や、給与以外の所得が20万円を超える人などは、確定申告が必要です。源泉徴収ありの特定口座で申告しないことを選んだ株の利益は、20万円に数えません。 20万円の決まりは所得税だけで、住民税の申告は別です。
必要でなくても、配当控除・口座をまたぐ損益通算・損の繰越のために申告すると得になる場合があります。 申告期間は原則2月16日〜3月15日で、2026年分は2027年2月16日(火)〜3月15日(月)です。 令和7年分では、申告した2,353万人のうち1,335万人が、税金を戻してもらうための還付申告でした。
私の100万円は源泉徴収ありの特定口座だけなので、原則として申告は不要です。 年末に、する・しないと理由を書きます。
🎯 今日の1手(実践)
昨日は、今年の損益に入れられる最後の約定日と、来年の確定申告の期間を控えました。今日は、自分が確定申告をする必要があるかを、3つの質問で確かめます。 手順は2つです。
1つ目。 次の3つに「はい・いいえ」で答えます。 (1) 給与の年間収入は2,000万円を超えるか。 (2) 給与以外に、副業や、源泉徴収なしの口座での株の利益などが年20万円を超えそうか。 (3) 給与を2か所以上から受けているか。今日の日付と一緒に控えてください。
2つ目。 使っている(使う予定の)証券口座が、特定口座の「源泉徴収あり」か「なし」かを書きます。 口座を持っていなければ「開くときは源泉徴収ありにするか」を1行書きます。 今日はここまでで、実際に申告も注文もしません。
Day 56で配当の受け取り方式、Day 57で配当を総合課税にしたときの税金、Day 58で損と差し引いたあとの税金、Day 59で今年の最後の約定日と申告期間を控えてきました。
今日の「確定申告が必要かの3つの質問の答えと、自分の口座が源泉徴収ありかなしかを、日付つきで控えること」で54個目です。
🔗 あわせて読みたい
- Day 59「譲渡損失の3年間繰越」 — 残った損を運ぶには申告が要る。今日はその申告そのものの話
- Day 58「譲渡損益と損益通算」 — 証券会社をまたぐ差し引きは確定申告で
- Day 57「配当控除」 — 税率が低い人は、配当を総合課税で申告すると軽くなる
- Day 43「特定口座の源泉徴収あり・なし」 — 源泉徴収ありなら、株の利益のために申告しなくて済む
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