前回(Day42)は、一般口座と特定口座の違い——損益計算を自分でやるか、証券会社に任せるかという分かれ道を確認しました。今日は、その特定口座を選んだ後にもう一段出てくる選択——「源泉徴収あり」か「源泉徴収なし」か——を見ていきます。カナは特定口座を選ぶところまでは決めましたが、この先の選択肢はまだ見ていませんでした。

カナ「特定口座の中でまた選択肢があるんですか?」
多くの人がここでもう一度立ち止まります。特定口座の開設画面をさらに進むと、「源泉徴収あり」「源泉徴収なし」という2つの選択肢が出てきます。 「徴収」という言葉の響きから、何かを取られる・引かれるというマイナスの印象を持つ人も少なくありません。

カナ「「源泉徴収なし」の方が何も引かれなくてお得ですよね?」
「あり」の方が損をする、「なし」の方が得をする——そんな印象を持ってしまうのも無理はありません。 国税庁の集計では、株の売買益などで確定申告をした人は約115万人(令和7年分、Day 42)で、多くの人は申告のいらない形で取引しています。
言葉の見た目だけで判断すると、税額そのものの理解を誤ってしまいます。

カナ「引かれない方が手取りが増えて得なんじゃないですか?」
サトル「『あり』は証券会社が売買の都度、利益に約20.315%の税金を計算して自動で納めてくれる。ほとんどの場合それで納税が完結して確定申告が要らない。『なし』は年間の報告書は作ってくれるけど、納税は自分で確定申告してやる必要がある。引かれる金額自体はどちらも同じで、手間が違うだけだ。」
種明かしです。「あり」を選んでも税額が増えるわけではなく、「なし」を選んでも税額が減るわけではありません。 どちらを選んでも、1年間の利益にかかる税金の総額は基本的に同じです。

カナ「税金の金額は同じで、「あり」は手続きも任せられるってことなんですね」
そういうことです。
ここからは、「源泉徴収あり」と「なし」の具体的な違い、なぜ「あり」を選ぶ人が多いのか、選択は途中で変更できるのか、「なし」を選んだ方がいいのはどんな人か、そして私の100万円がどちらを選んでいるのかを、順に見ます。
「源泉徴収あり」と「なし」の違い
「源泉徴収あり」を選ぶと、株式や投資信託を売却して利益が出るたびに、証券会社がその都度、所得税・復興特別所得税・住民税をあわせた約20.315%を計算して天引きし、代わりに納めてくれます。年間を通じてこの処理が自動で行われるため、原則として確定申告をしなくてもその年の納税が完結します。
「源泉徴収なし」を選ぶと、証券会社は「年間取引報告書」こそ作成してくれますが、実際の納税手続き(確定申告)は自分で行う必要があります。 年間取引報告書は、あり・なしのどちらでも、翌年の1月31日までに届きます。
天引きされない分、その年の手取りの現金は一時的に多く見えますが、後で自分で申告と納税をする義務が発生します。 「源泉徴収あり」の口座では、年間取引報告書に、その年に引かれた税金の額(源泉徴収税額)も載ります。
なぜ「源泉徴収あり」を選ぶ人が多いのか
「源泉徴収あり」の最大のメリットは、確定申告の手間がかからないことです。 売るたびに税金が引かれ、損が出たときは、その年にすでに引かれた税金から戻ってきます。 1年の計算と納税が口座の中で終わるので、投資を始めたばかりの人ほど選びやすい設定になっています。
もう1つの理由は、配当(分配金)も同じ口座で受け取れることです。 受け取り方を「株式数比例配分方式」にしておくと、配当も源泉徴収ありの特定口座に入り、その年の売却の損と自動で相殺されます。
一方で、あえて「源泉徴収なし」や確定申告を選んだ方がよいケースも存在します。どんな人がそれに当てはまるのかは、このあと見ていきます。
実際の数字で見る:20.315%の内訳と、引かれて戻る税金
約20.315%は、国税庁の説明では次の3つを合わせた税率です。
- 所得税:15%
- 復興特別所得税:0.315%(所得税15%×2.1%。 2037年までの予定)
- 住民税:5%
「源泉徴収あり」では、この税率で、売るたびに引かれ、損が出れば戻ります。 ここからは説明のための架空の例です(手数料は考えません)。
- 4月:A株を売って10万円の利益 → 2万315円が引かれる
- 9月:B株を売って6万円の損 → その年の利益は差し引き4万円になるので、引かれすぎた1万2,189円が口座に戻る
- 1年の合計:利益4万円に対して、税金は8,126円
「源泉徴収なし」でも、1年の利益が4万円なら税金は同じ8,126円です。 違うのは、この計算と納税を、証券会社が売るたびに済ませてくれるか、自分で確定申告して払うかだけです。 そして、明日見るNISA口座の中なら、同じ4万円の利益でも税金は0円です。
選択はいつでも変更できるのか
「源泉徴収あり」「なし」の選択は、1年ごとに決めます。 その年に初めて株や投資信託を売る(または源泉徴収あり口座で配当を受け取る)前までなら、その年の分を変えられますが、一度売ったあとは、その年の分は変えられません。口座を開く際、あるいは新しい年が始まる前に確認しておくのが安心です。
変更の手続きは、証券会社のマイページや届出書で行います。 なお、一般口座と特定口座の変更(Day42)と同じく、こちらも「年内に一度取引を始めたら、その年の分はその設定のまま」という考え方が共通しています。選択のタイミングは、証券口座に関わる制度全体を通じて重要なポイントです。
「源泉徴収なし」を選んだ方がいいのはどんな人か
「源泉徴収あり」が多数派とはいえ、あえて「源泉徴収なし」や確定申告を選ぶケースもあります。代表的なのは、複数の証券会社の口座をまたいで利益と損失を相殺したい場合や、その年に出た損失を翌年以降に繰り越して控除したい場合です。 証券会社をまたいだ損益通算は、源泉徴収ありのまま自動的には行われません。
これも架空の例です。 X証券(源泉徴収あり)で10万円の利益が出て2万315円が引かれ、Y証券(源泉徴収あり)では10万円の損が出たとします。 何もしなければ、X証券で引かれた2万315円はそのままです。 でも確定申告をして2つの口座を合わせれば、1年の利益は差し引き0円になり、2万315円が戻ってきます。 口座を2つ以上持つ人ほど、年末に一度、口座ごとの損益を並べてみる意味があります。
また、会社員で、給与以外の所得が年20万円以下の人は、所得税の確定申告をしなくてよいことになっています(国税庁)。 「源泉徴収なし」で利益が20万円以下なら、所得税は申告せずに済む場合があります。 ただし、住民税の申告は別に必要で、医療費控除などで確定申告をする年は、この20万円以下の利益も含めて申告します。 他の所得の状況でも変わるので、迷う場合は税理士や税務署への確認が安心です。
私の100万円と、源泉徴収の有無
この連載では、私が実際に100万円を1年間運用しています。
昨日、記録に足したのは「口座区分」の欄でした。 答えは「特定口座。証券会社が年間取引報告書を作成し、損益計算は自分でしない」。
今日足すのは、その特定口座が「源泉徴収あり」か「源泉徴収なし」かの欄です。
特定口座と分かった時点で、確定申告の手間はほぼ心配なくなりました。ただし特定口座の中にも、もう一段の分かれ道があります。 それが今日の記録項目です。 私の100万円は1つの証券会社の口座だけで運用しているので、口座をまたぐ損益通算は起きません。 年末に損が残ったときだけ、翌年に繰り越すための確定申告を考えます。
答えは、源泉徴収ありです。私の100万円は、証券会社が売買のたびに税金を計算して自動で納めてくれる区分の中にあります。 記録には、こう書きます。「源泉徴収:あり(証券会社が都度計算・納税。 原則確定申告不要)。 その年に引かれた税金と戻った税金を、月1回の記録で書く。」
カナはまだ証券口座を持っていないので、この欄はまだ書き込めません。「まだ書けない欄がある」こと自体も、比較のための記録の一部です。
よくある質問(FAQ・全6問)
Q1. 「源泉徴収あり」を選べば確定申告は絶対に不要になりますか?
多くの場合は不要になりますが、他の所得との損益通算をしたい場合など、あえて申告した方が有利なケースもあります。 別の証券会社の口座の損と合わせたいとき、損を翌年以降に繰り越したいときなどです。
自分の状況によって、あえて申告するかどうかを選べる余地は残っています。
Q2. 「源泉徴収あり」で損が出たら、税金は戻ってきますか?
同じ口座の中で、その年に引かれた分までは戻ってきます。 架空の例では、10万円の利益で2万315円が引かれたあと、6万円の損が出て1万2,189円が戻りました。 ただし、戻るのはその年・その口座の中で引かれた分までです。 損のほうが大きく、翌年以降に繰り越したいときは、確定申告が必要です。
Q3. NISA口座の損は、特定口座の利益と相殺できますか?
できません。 NISA口座は、利益に税金がかからない代わりに、損が出ても「なかったもの」として扱われます。 そのため、特定口座の利益と相殺したり、翌年に繰り越したりすることはできません。 NISAの仕組みは、明日 Day 44 で見ます。
Q4. 「源泉徴収あり」でも確定申告した方がいい場合はありますか?
複数口座の損益を通算したい場合や、損失を翌年以降に繰り越したい場合などがあります。 上場株式などの売却で出た損は、確定申告をすれば、翌年から3年間繰り越して、その後の利益と相殺できます。
この損益通算・繰越控除については、後日あらためて取り上げます。
Q5. 約20.315%という税率の内訳は何ですか?
所得税15%・復興特別所得税0.315%・住民税5%を合わせた税率です。 復興特別所得税は、所得税に2.1%を掛けた分で、2037年まで続く予定です。 今後の制度変更の有無は、金融機関や公的機関の最新情報でご確認ください。
Q6. 「なし」を選んで確定申告を忘れたらどうなりますか?
無申告加算税など、本来より不利な扱いになる可能性があるため、必ず期限内に申告する必要があります。 申告の期限は、ふつう翌年の3月15日です。
「なし」を選ぶ場合は、申告の期限管理も自分の役割になります。 期限を過ぎてしまっても、税務署から言われる前に自分で早めに申告すれば、加算税が軽くなる場合があります。
まとめ
特定口座の「源泉徴収あり」は証券会社が税金を自動で計算・納付してくれるため確定申告が原則不要になる選択肢、「源泉徴収なし」は年間取引報告書は作られるものの納税は自分で確定申告する必要がある選択肢です。税額自体はどちらも同じで、違うのは手続きの手間だけです。 約20.315%は所得税15%・復興特別所得税0.315%・住民税5%で、「源泉徴収あり」なら、売るたびに引かれ、損が出れば同じ年の中で戻ります。 私の100万円は、源泉徴収ありの中で管理されています。
🎯 今日の1手(実践)
昨日は、証券口座(あるいはこれから開く証券口座)が一般口座か特定口座かを確認しました。今日は、その特定口座が「源泉徴収あり」「源泉徴収なし」のどちらになっているかを確認します。手順は2つです。
1つ目。 すでに特定口座を持っているなら、口座管理画面か口座開設時の案内で、「源泉徴収あり」「源泉徴収なし」のどちらを選んでいるかを確認します。持っていない、あるいはまだ選んでいない場合は、口座開設の申し込み画面でこの選択肢がどう表示されるかを、証券会社のサイトで確認してください。2つ目。 「源泉徴収なし」を選んでいる(選ぶ予定の)場合、確定申告が必要になる条件を合わせて確認しておきます。 配当を受け取る株を持っているなら、配当の受け取り方が「株式数比例配分方式」になっているかも見ておきます。
この点については損益通算を扱う回で改めて触れます。
今日の「特定口座(開設予定含む)が源泉徴収ありか源泉徴収なしかを、日付つきで控えること」で37個目です。
🔗 あわせて読みたい
- Day 42「一般口座と特定口座の違い」 — 一般口座は自分で計算、特定口座は証券会社が代わりに計算してくれるという話
- Day 41「証券口座とは」 — 証券口座が銀行口座とは別物で、分別管理と投資者保護基金の二重の仕組みで守られているという話
⚠️ ご注意
本記事は筆者個人の投資記録および一般的な金融知識の解説であり、特定の金融商品の売買を推奨するものではありません。
記載の運用実績は筆者個人の資金によるものです。
投資判断はご自身の責任において行ってください。
なおコンプライアンス上、当社の取引先に関連する銘柄は取引対象外としています。



