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2026年2月27日 投稿:swing16o

成功時の過信が招く80%の事業失敗率を徹底解説

油断大敵(ゆだんたいてき)
→ 注意を怠れば必ず失敗を招く。

順風満帆な時こそ、人は最も危うい。

この普遍的真理は、古代インドの仏教説話から現代のビジネス失敗事例まで、あらゆる時代と場面で繰り返し証明されてきた。

2017年の認知心理学研究によれば、成功経験は失敗経験に比べて強い自伝的推論を引き起こし、人間の判断力を鈍らせる傾向がある。

良いときほど気を引き締めるという行為は、単なる精神論ではなく、脳科学と心理学が裏付ける合理的な生存戦略だ。

このブログで学べること:データが暴く「油断」の正体

本稿では、油断大敵という概念の歴史的起源から始まり、現代科学が解き明かした「成功時の油断」がもたらす認知的歪みのメカニズム、そして実際の企業事例における具体的な失敗パターンを、すべてエビデンスベースで検証する。

経済産業省の調査によれば、新規事業展開を行った企業のうち成功したと回答したのは約29%、そのうち経常利益が増加したのは約50%にすぎない。

つまり約80~90%の企業が新規事業に失敗している。

この驚異的な失敗率の背景には、成功体験による過信と、好調時の油断という心理的要因が深く関与している。

さらに、労働災害における「ハインリッヒの法則」が示す1:29:300の比率――1件の重大事故の背後には29件の軽微な事故と300件のヒヤリハットが存在するという統計的事実は、油断がいかに段階的に破滅を招くかを数値で証明する。

油断大敵の語源:1滴の油がつなぐ命と集中力の物語

油断大敵の語源には諸説あるが、最も有力なのは仏教説話に由来する。

古代インドのある王が家来の心を試すため、油を満たした鉢を両手に持たせ、人通りの多い道を歩かせた。

「一滴でも油をこぼせば命を絶つ」という厳命の下、家来は細心の注意を払い、ゆっくりと歩を進めた。

結果、彼は一滴もこぼさず任務を完遂し、命が助かっただけでなく重要な役職に取り立てられた。

この説話が示すのは、常に集中力を保ち、慢心を排除することの重要性だ。

油を一滴もこぼさないという行為は、現代で言えば「ゼロディフェクト」の概念に通じる。

わずかな気の緩みが致命的な結果を招くという教訓は、650年以上前に創建された京都妙心寺でも伝統的に説かれてきた。

成功が生む認知の罠:脳科学が明かす「良いとき」の危険性

東京大学大学院薬学系研究科の池谷裕二教授らの研究グループは、ラットを用いた実験で驚くべき事実を発見した。

学習課題において、誤選択までの時間が長いラット、つまり熟慮後に失敗するラットほど学習成立が早いという結果だ。

逆に、結論に早く飛びつくラットほど課題の学習成立が遅くなる。

さらに重要な発見は、学習過程における正解の回数――偶然の成功――は学習速度と無関係だったという点だ。

この研究が示唆するのは、成功体験そのものよりも、じっくりと時間をかけて考慮したうえで失敗する方が、学習の成立にとって重要であるということ。

成功時の油断が危険な理由は、ここにある。成功は思考を停止させ、深い学習を阻害する。

2017年の認知心理学研究では、467名の協力者を対象に成功経験と失敗経験に対する自伝的推論を調査した。

結果、成功経験は失敗経験に比べて強い自伝的推論を引き起こすことが判明した。

つまり人間は成功すると、その経験を過度に美化し、自己同一性の核として固定化させてしまう傾向がある。

これが「成功体験にとらわれる」メカニズムの科学的説明だ。

さらに問題なのは、この成功体験の固定化が、環境変化への適応力を著しく低下させることだ。

過信が招くリスクホメオスタシス:安全装置が事故を増やす逆説

1982年にカナダの交通心理学者ジェラルド・ワイルドが提唱したリスクホメオスタシス理論は、油断の構造を見事に説明する。

この理論によれば、自動車の安全技術が進化しても、ドライバーはその分リスクを取るような行動をする傾向があり、最終的な事故発生率はあまり変わらないという。

車両に最新の安全装置が搭載された場合、ドライバーは「安全になった」と感じることで警戒心が薄れ、スピードを上げたり注意を怠ったりしてしまう。

結果として、事故リスクが減るどころか元の水準に戻ってしまう。

これは「安全の過信が危険を招く」という逆説的な現象だ。

ハインリッヒの法則として知られる1:29:300の法則も、油断の段階的進行を数値で示す。

アメリカの安全技術者ハーバート・W・ハインリッヒが提唱したこの経験則は、1件のきわめて重大な事故の背後には29件の軽微な事故が、さらにそのウラには300件もの「ヒヤリ・ハット」が起きていることを示す。

つまり、重大事故は突然発生するのではなく、見過ごされた小さな油断が積み重なった結果なのだ。

この法則が示すのは、「ちょっとした油断」を放置することの危険性だ。

NTTドコモNOTTV:iモード成功体験が招いた500億円超の損失

成功体験による油断が企業の命取りとなった典型例が、NTTドコモのNOTTV事業だ。

2012年4月に華々しくスタートしたスマートフォン向け放送サービスNOTTVは、わずか4年3ヶ月で2016年6月30日に停波という結末を迎えた。

累計損失は500億円超。

iモードの圧倒的成功体験を持つドコモは、「自社の携帯電話契約者数を基盤にすれば新サービスも成功する」という過信に陥っていた。

NOTTVが掲げた当初目標は、初年度100万契約、2015年度末に600万契約、将来的に1,000万契約だった。

しかし実際に100万契約を突破したのは開局から1年2ヶ月後の2013年6月。

その後は2014年度末の175万件強で頭打ちとなり漸減に転じた。

対して、同じドコモが提供するオンデマンド動画サービス「dビデオ」はサービス開始後5ヶ月で100万契約を突破している。

この対比が示すのは、NOTTVの戦略的失敗だ。

運営会社mmbiの脇本祐史代表取締役社長は撤退理由をこう語る。

「契約数は、NTTドコモがiPhoneの販売に参入する2013年9月まで順調に伸びていた。当初はiPhoneを販売してもAndroid端末の販売に影響なく、iPhoneのユーザーを取り込んで全体の契約数が伸びると想定していたが、そうならなかった」。

NOTTVはiPhoneに対応しておらず、さらにドコモの販売機種の6割以上がNOTTV対応だったにもかかわらず、売れ筋はiPhoneと廉価版端末だった。

NTTドコモの販売数に占めるNOTTV対応端末の割合は実質3割程度まで低下した。

最も致命的だったのは、視聴にドコモ専用端末と専用チューナーが必要という閉鎖性だ。

2011年に終了したテレビのアナログ放送に使われていたVHF帯を使用したため、携帯電話だけでは受信できず専用チューナーが必須となった。

ソフトバンクやauの対応は鈍く、視聴エリアも首都圏・東海・関西・福岡・沖縄に限定され、全国90%のカバー率達成は2015年8月とサービス末期だった。

元ドコモ執行役員でiモード立ち上げに参画した夏野剛氏は、「こんなものどう考えたって上手くいくわけないでしょう、と主張した」と当時を振り返る。

それでも「いけるんだ!」と主張する経営陣がいたという。

これこそが成功体験による過信の典型だ。iモードの成功が、ドコモ経営陣の判断を歪めた。

ユニクロSKIP事業:アパレル成功法則の農業への誤適用

ファーストリテイリングが2002年に開始した生鮮野菜の生産・販売事業SKIPも、成功体験の罠にはまった事例だ。

ユニクロの成功を支えた生産と流通ノウハウを活かせば野菜事業も成功すると考えたが、開始から1年半で約30億円の赤字を出し撤退した。

後の社内反省会で明らかになった失敗の原因は、顧客ニーズを掴み切れなかったこと、農産物業界の知識不足、パートナーとなる関係者への影響への認識が甘かったことだった。

アパレル業界で通用した「大量生産・大量販売・低価格」というビジネスモデルを、在庫管理の難易度が高く、安定供給が困難な野菜に適用しようとした判断ミスだ。

野菜の安定的な供給には、天候、季節変動、産地との長期的信頼関係が不可欠だ。

さらに価格の高さと会員制コースの使い勝手の悪さも影響した。

この失敗が示すのは、「隣接市場」への安易な進出の危険性だ。

成功している事業の強みが、必ずしも他の事業領域で通用するとは限らない。

興味深いのは、SKIP事業の責任者だった柚木治氏がその後、ファーストリテイリング子会社となったジーユーの社長として大成功を収めたことだ。

柚木氏はSKIP事業の失敗で得た教訓を活かしたという。

これは、じっくりと考慮したうえでの失敗が学習を促進するという池谷教授らの研究結果と一致する。

失敗そのものが問題なのではなく、失敗から学ばないことが問題なのだ。

新規事業失敗率80~90%:中小企業白書が示す油断の代償

経済産業省の新事業の取り組みに関する調査データは、衝撃的な数字を示す。

新規事業展開を行った企業のうち、成功していると回答した企業は約29%。

そのうち経常利益率が増加したと回答した企業は約50%。

つまり、新規事業で実際に利益を増やせた企業は全体の約15%程度にすぎない。

約80~90%の企業が新規事業に失敗している計算だ。

2017年版「中小企業白書」のデータによれば、新規事業を積極的に展開している企業の方が、新規事業を展開していない企業に比べて利益率が増加傾向にある。

つまり新規事業に自主的に取り組んでいる企業ほど成功率が高く、他方、市場環境の変化など外部要因にきっかけを持つ企業ほど失敗率が高い。

これが示すのは、「油断からの事業展開」と「危機感からの事業展開」の違いだ。

好調時に「もっと儲けよう」という油断から始めた事業と、「このままでは危ない」という危機感から始めた事業では、準備の質が全く異なる。

UCLA のマーヴィン・リーバーマンらが2010年に「ストラテジック・マネジメント・ジャーナル」で発表した研究では、1973年から2000年までの全米の製造プラント約55,000のデータを使って「経験の学習効果」を推計した。

結果、医薬産業やコンピュータ産業では学習効果が強く、製紙業や製糸業などは学習効果が低いことが明らかになった。

つまり業界によって失敗から学ぶ能力に差があり、学習効果の低い業界では同じ失敗を繰り返しやすい。

エビングハウスの忘却曲線:振り返りの先延ばしが教訓を消す

ドイツの心理学者ヘルマン・エビングハウスが提唱した忘却曲線は、油断が失敗を繰り返す理由を説明する。

情報を学んだ直後は記憶が鮮明だが、時間が経過するにつれて忘れやすくなる。

学んでから20分後には約42%の情報が忘れられ、24時間後には約70%が忘れ去られる。

つまり、成功や失敗の経験から教訓を得るには、できるだけ早く振り返りを行う必要がある。

要領のいい人と要領の悪い人の違いは、この振り返りと学びのプロセスにある。

要領のいい人は経験をした直後に振り返りを行い、新鮮な記憶を活用して具体的で有意義な教訓を引き出す。

一方、要領の悪い人は経験から直ちに学ぶことを怠り、行動の結果をしっかりと振り返ることなく次のタスクに移行する。

その結果、同じ過ちを繰り返す傾向にあり、成長の機会を逃す。

好調時ほど「振り返り」を怠りがちだが、それこそが次の失敗への布石となる。

まとめ

油断大敵は単なる精神論ではない。

認知心理学、脳科学、組織学習論、そして膨大な企業事例データが一貫して示すのは、「成功時の油断」が人間の判断力を系統的に歪め、破滅的な失敗を招くという科学的事実だ。

東京大学の研究が証明したように、成功体験は深い学習を阻害する。

リスクホメオスタシス理論が示すように、安全への過信は新たな危険を生む。

ハインリッヒの法則が教えるように、重大事故は300回の小さな油断の積み重ねだ。

NTTドコモのNOTTV事業が示したのは、iモードという圧倒的成功体験が経営判断を盲目にする恐ろしさだ。

500億円超の損失は、「過去の成功法則が未来も通用する」という油断の代償だった。

ユニクロのSKIP事業が証明したのは、一つの業界での成功が他の業界での成功を保証しないという冷徹な事実だ。

30億円の赤字は、アパレルのノウハウを農業に誤適用した油断の結果だった。

経済産業省のデータが暴露する80~90%という新規事業失敗率は、油断がいかに普遍的で致命的かを物語る。

UCLA の研究が明らかにした業界間の学習効果の差は、失敗から学ぶ能力の欠如が油断を固定化させることを示す。

エビングハウスの忘却曲線が教えるのは、成功の興奮が冷めぬうちに振り返らなければ、教訓は霧散するという時間的制約だ。

良いときほど気を引き締める。

これは根性論ではなく、認知科学が要請する合理的戦略だ。

成功時こそ、リスク認知を高め、過去の成功パターンを疑い、小さなヒヤリハットを見逃さず、即座に振り返りを行う。

データが示す真実は明確だ――油断を制する者が、未来を制する。

 

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植田 振一郎 X(旧Twitter)

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