深根固柢(しんこんこてい)
→ 物事の基本や基礎を固めること。
何事にも基本や基礎がある。
それは人自身にも同様に言えることで、基本や基礎の上に個性が成り立っているという解釈をするのが自然だろう。
それでは、人の基本や基礎はどのように形成されていくのか。
人の基礎形成については、様々な論文も出ているので、そのあたりを参考にまとめていこう。
人の基礎の定義
そもそも、人の基礎とはどういったものを意味しているのか。
それは、下記の3つから成り立っていると定義する。
- 身体的な発達
- 精神的な発達
- 社会的な発達
そして、それぞれをより詳しく概説していくとこのようになる。
1)身体的な発達
一般的に身体的な成長は、出生から18歳ほどまで続くと言われているが、大部分は出生から5歳頃までに形成される。
大脳皮質の発達は、出生後の最初の数年間で急速に進行し、思考、記憶、意識、言語などの高度な機能を制御する。
その他の身体的な発達、例えば、身長の成長や性的成熟は、思春期と呼ばれる通常は10歳から14歳頃に進行する。
2)認知的・精神的な発達
思考、学習、問題解決などの認知的な発達は、ジャン・ピアジェの理論が有名だ。
後ほど詳しく説明するが、ジャン・ピアジェの理論によれば、感覚運動期、前操作期、具体操作期、形式操作期の4つの段階を通じて生涯にわたって進行する。
0~6歳の幼少期は特に重要で、この期間に基本的な思考スキルと認知の基盤が形成される。
3)社会的・感情的な発達
社会的、感情的なスキルの発達も幼少期に始まるとされているが、これは生涯に渡って進化し続ける。
この分野の権威であるエリク・エリクソンの理論によれば、人は生涯を通じて8つの「心理社会的危機」を経験するという。
そして、それぞれの危機を解決することで自己認識と社会的なスキルを深化させていく。
上述した3つをまとめると、人間の基礎が形成される時期はその要素に寄るが、多くは0~6歳の幼少期にその基盤が形成される。
とはいえ、身体的、認知的、社会的、感情的な発達は全て生涯を通じて続くプロセスであり、成長と学習の機会はいつでも存在しているのも事実だ。
身体的な発達についての論文
それでは、人の基礎の定義として挙げた3つのうちの身体的な発達について、より掘り下げてみよう。
身体的発達に関する研究は広範であり、膨大な量の文献が存在している。
その中で特に注目すべき論文として、3つ挙げてみる。
“Patterns of Growth in Early Childhood and Infectious Disease and Nutritional Determinants” – Martorell, R. and Zongrone, A. (2012)
この研究では、早期の栄養状態と感染症が児童の身体的成長に与える影響を調査している。
特に、身長や体重の成長パターン、およびそれらが成人時の健康と生産性にどのように影響するかについて分析した。
また、母親の栄養状態、低体重出生、子供の食事摂取、繰り返しの感染症が成長に及ぼす影響についても議論している。
“Influence of physical activity on human sensory long-term potentiation” – Mang, C.S., Snow, N.J., Campbell, K.L., Ross, C.J.D. and Boyd, L.A. (2014)
この研究では、身体的な活動が人間の感覚の長期的な強化(神経可塑性の一形態)にどのように影響を及ぼすかについて調査している。
一部の被験者に身体活動を行わせた後に、その神経応答がどのように変化するかを測定した。
結果として、身体活動は神経可塑性と認知機能を向上させる可能性があることが示唆された。
“Critical periods of brain growth and cognitive function in children” – Gale, C.R., O’Callaghan, F.J., Godfrey, K.M., Law, C.M. and Martyn, C.N. (2004)
この論文では、子どもたちの脳の成長と認知機能の間の関係について調査している。
具体的には、脳が最も急速に成長する「クリティカルな期間」が、その後の認知機能にどのように影響するかを検討している。
その結果、早い時期の脳の成長が子供たちの学習能力や認知スキルに重大な影響を与える可能性が示された。
ジャン・ピアジェの理論
次に、精神的な発達のところで簡単に触れたジャン・ピアジェの理論について詳しく書いていこう。
ジャン・ピアジェはスイスの心理学者で、子どもの認知的発達についての先駆的な理論を提唱した人物だ。
ジャン・ピアジェの理論は、子どもが知識を獲得し世界を理解する方法についての理解を深めるための基盤を述べている。
そして、ジャン・ピアジェは、子どもが認知的に成長する過程を4つの段階に分けた。
1)感覚運動期 (出生-2歳頃まで)
この期間、子どもは主に感覚と運動能力を通じて環境を探求し、言語の発達が始まる。
また、この段階では「物の恒常性」を理解する、つまり、物や人が視界から消えても存在し続けるという概念を理解する。
2)前操作期(2歳-7歳頃まで)
この段階では、子どもは言語を使用し、想像力を用いて遊ぶようになるが、論理的な思考はまだ発達していない。
この段階の子どもたちは自己中心的で、他の人の視点を理解するのが難しい。
3)具体操作期(7歳-11歳頃まで)
この段階で子どもたちは、物事の原因と結果を理解し、具体的な状況に対して論理的に思考する能力を発達させる。
また、他人の視点を理解する能力も獲得する。
4)形式操作期(11歳-15歳頃まで)
この最期の段階では、子どもたちは抽象的な概念を理解し、仮説を立てて試すための論理的な思考を用いることができるようになる。
また、事象を複数の視点から考える能力を発達させる。
これが、ジャン・ピアジェの理論で、子どもたちの思考がどのように進化するか、そしてそれがどのように世界を理解する能力に影響を与えるかを理解するためのフレームワークだ。
もちろん、特定の年齢で全ての子どもが通過するわけではなく、あくまで一般的なガイドラインだということは一言添えておく。
エリク・エリクソンの理論
3つ目に挙げた、社会的な発達のところのエリク・エリクソンの理論についても詳しく説明しておこう。
エリク・エリクソンは心理学者で、人間のライフスパン(一生涯)にわたる社会的および感情的な発達を強調した理論を提唱した。
エリク・エリクソンの理論では、生涯を通じて8つの発達ステージを経るとされている。
そして、各ステージでは、危機または重要な発達課題が存在し、その解決によって個人は成長し、次のステージへと進むとされている。
1)基本的信頼対基本的不信(0-1歳)
このステージでは、赤ちゃんは信頼感を発達させるか、不信感を発達させるかのどちらかだ。
これは主に、世話をする人が一貫性と信頼性を持って世話をするかどうかによる。
2)自立心対恥・疑惑(1-3歳)
この期間、子どもたちは新たな技能を学び、自己制御を発達させることで自立心を養う。
上手くいかない場合、恥や疑いの感情が生じる。
3)主導性対罪悪感(3-6歳)
このステージでは、子どもたちは新しいことを試し、自分自身の能力をテストする。
成功すれば自己信頼と主導性が育つが、失敗や批判を経験すると罪悪感を感じることがある。
4)勤勉さ対劣等感(6歳-青年期)
学校での学習や社会的な活動を通じて、子どもたちは自分の能力を試す機会を持つ。
成功を経験すると勤勉さが育つ一方で、困難や失敗に直面すると劣等感を感じることがある。
5)アイデンティティ対役割混乱(青年期)
このステージでは、個人は自己のアイデンティティを模索する。
自分自身の価値観と信念を探し、社会的な役割を理解しようとする。
これが上手くいかない場合、役割について混乱を感じることがある。
6)対人関係の深化と持続対孤立(若年成人期)
このステージでは、個人は恋愛関係の確立と維持に焦点を当てる。
深い人間関係を築けると安定した感情を持ち続けることができるが、それが難しい場合には孤独感を感じることがある。
7)産みの喜び対停滞(中年期)
このステージでは、個人は仕事や育児などを通じて生活に価値を見い出す。
それが上手くいけば、自分自身の生活に喜びを感じるが、そうでない場合、停滞感や生産性のなさを感じることがある。
8)自己の統合対絶望(老年期)
この最期のステージでは、個人は自分の人生を振り返る。
自己の達成を認識し、自己の人生に満足感を持てれば、晩年期は穏やかで有意義なものになる。
一方で、未達成感や後悔に囚われると、絶望感を感じることがある。
これが、エリクソンの理論で、人間が社会的な環境の中で経験する心理的な課題と、それが自己の理解と成長にどのように影響するかを理解するためのフレームワークだ。
まとめ
様々な論文や理論を基に、人の基礎形成のされ方についてまとめてみた。
くり返しになるが、人の基礎形成を画一的に当てはめることはできない。
けれども、大まかな流れを知っておくということで、その段階の人がどういったステージにいるかを把握できれば、対応が変わってくる。
なによりも、0~6歳の幼少期に人間の基礎が形成される基盤ができるというのが印象的だ。
三つ子の魂百までという言葉があるが、あながち間違っていないということだろうか。
いずれにせよ、人としての基礎形成の一般的な解釈を知っておくことに損はないだろう。
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