晨星落落(しんせいらくらく)
→ 晨星とは、明け方、空に残っていた星が1つ1つ消えていくことで、転じて、仲のよかった友人が次第にいなくなることや年齢を重ねるに従い友人がだんだん死んでいなくなることをいう。
企業の創業者が死去すると、企業の未来はどうなるのか。
創業者が生み出したビジョンや価値観が、その後も維持されるのか。
また、新たなリーダーがその地位を引き継いだとき、それは成功をもたらすのか、それとも逆の結果を招くのか。
これらの問いは、多くの企業とそのステークホルダーが直面する現実の問題だ。
ということで、バイアスがかかってしまうことは否めないが、Appleとその他の世界的に有名な企業の事例を通じて、創業者の死後に起こり得る様々なシナリオを探求してみようと思う。
企業のCEOがどのように業績を上げ、どのような製品を開発したかを比較することで、企業の世代交代がどのように影響を及ぼすかを分析してみた。
Apple – スティーブ・ジョブズからティム・クックへ
スティーブ・ジョブズは、Appleの創業者として、デジタル革命の先駆者とも言える製品を生み出したことは言うまでもないだろう。
彼の在任中にリリースされた製品には、Macintosh、iPod、iPhone、iPadなどがあることも周知の事実だ。
これらの製品は、消費者のライフスタイルを変え、Appleを業界のリーダーに押し上げた。
ところが、スティーブ・ジョブズが2011年に亡くなったとき、多くの人々がAppleの未来を懸念した。
ただ、後任のティム・クックがCEOになってからのAppleは、多くの人々の期待を上回る成功を収めている。
彼の下で、AppleはiPhoneの新モデルをリリースし続け、Apple WatchやAirPodsといった新たな製品カテゴリを開拓した。
さらに、サービス業界への進出を加速させ、Apple MusicやApple TV+などのサービスを立ち上げている。
スティーブ・ジョブズとティム・クックの間には明確な思考の違いがあることは有名な話だ。
スティーブ・ジョブズは製品の革新とデザインに重きを置き、視覚的な魅力と使いやすさを追求した。
一方で、ティム・クックはオペレーションのエキスパートとして知られ、製品の品質管理と効率的な生産ラインを確保することに注力した。
こういったリーダーの違いが、Appleの製品と戦略の発展に影響を与えているわけだ。
Microsoft – ビル・ゲイツからサティヤ・ナデラへ
Microsoftの歴史は、CEOの交代とその影響を理解する上で興味深い事例となっている。
創業者のビル・ゲイツからスティーブ・バルマーへ、そしてサティヤ・ナデラへとCEOが交代した。
ビル・ゲイツの時代は、Microsoft WindowsやOfficeといった製品が世界中で使われるようになった時期だ。
ところが、スティーブ・バルマーの時代には、Windows Vistaの失敗やスマートフォン市場での苦戦など、挫折が目立った時代だとの見方が強い。
その後、サティヤ・ナデラがCEOに就任した後、Microsoftは新たな成功を収めている。
彼のリーダーシップの下、Microsoftはクラウドコンピューティングに注力し、Azureを大きく成長させた。
また、LinkedInの買収やTeamsの立ち上げなど、新たな事業領域も開拓している。
このように、Microsoftから新たなリーダーが企業の方向性を大きく変え、その成果を上げることができることがわかる。
Amazon – ジェフ・ベゾスからアンディ・ジャッシーへ
Amazonの創業者であるジェフ・ベゾスは、2021年にCEOの座をアンディ・ジャッシーに譲ったことが話題になった。
ジェフ・ベゾスは、Amazonはただのオンライン書店から世界最大のオンラインマーケットプレイスに変貌させた。
さらに、AWS(Amazon Web Services)を立ち上げ、クラウドコンピューティングの業界をリードした。
そして、アンディ・ジャッシーがCEOに就任した後のAmazonがどのように進化するかは、今後注目すべき点となっている。
彼はAWSの創設者であり、成功へと導いた人物だ。
アンディ・ジャッシーのリーダーシップの下でAmazonは新たな方向に進む可能性がある。
日本企業の世代交代問題
日本企業に目を向けてみると、CEOや代表の世代交代がなかなか進まない問題がある。
これは、日本の伝統的な企業文化や長期雇用制度、後継者不在など、複数の要因によるものだといわれているが、私も同感だ。
また、日本企業では社長が最前線で経営を行う傾向が強い。
こういった傾向から、新たな視点やアイデアが導入されにくい状況が生まれているのが現状だろう。
また、一部の企業では、CEOや代表が一度退いた後、再びトップに立つ事例も見られる。
例えば、ソニーの出井伸之氏は、一度社長を退任した後、数年後に再び社長に就任している。
出井氏の2度目の社長就任は、ソニーが困難な状況に直面していたためで、彼のリーダーシップの下でソニーはV字回復を遂げた。
しかし、これらの事例は一部であり、日本企業全体として見ると、新たなリーダーが登場し、創造的な解決策を提案する機会はまだまだ少ないのが現状だといえるだろう。
創業者の死後も成功を続ける企業の特徴
創業者の死後も成功を続ける企業には、いくつかの共通点が見られる。
その1つは、強力な企業文化の存在だ。
創業者が築き上げた価値観やビジョンが、企業全体に浸透している場合、それが組織のガイドラインとなり、創業者がいなくなった後も方向性を保つのに役立つ。
また、後継者が創業者のビジョンを理解し、それを引き継ぐことも重要だ。
ただし、これは単に過去の成功をくり返すことを意味するわけではない点には留意が必要だ。
新たなリーダーは変化する市場環境や消費者の需要に対応するため、新たな戦略を立案し、革新的な製品を開発する必要がある。
そして、新たなリーダーは、組織の中での信頼と支持を獲得することが重要になる。
これは組織全体が一体となって新たなビジョンに向かうためには不可欠な要素だ。
まとめ
日本企業の世代交代問題を解決するためのアプローチをいくつか考えてみよう。
まず、後継者の育成に重きを置くことが重要だ。
これには、経営陣の中でのローテーション制度の導入や、若手社員への権限委譲などが含まれる。
また、企業文化の変革も必要だ。
これは、新たな視点やアイデアを受け入れ、組織全体が変化に対応できるようにするためだ。
企業は社員が新たなチャレンジを恐れず、失敗から学ぶことを奨励する環境を提供する必要がある。
創業者の死は、企業にとって大きな試練だ。
ただし、それは同時に新たなチャンスでもあることを忘れてはいけない。
新たなリーダーが登場し、新しいビジョンを提示することで、企業は次のステージへと進むことが可能となる。
そのためには、創業者のビジョンを引き継ぎつつ、変化する環境に対応する新たな戦略を立案することが求められる。
それから、企業の成功は、単に過去の成功をくり返すことではないということを改めて主張しておきたい。
それは、創業者が築き上げた基盤の上に新たなビジョンを構築し、それを実現するための戦略を立案し、実行することによって達成される。
そして、そのプロセスは創業者が亡くなった後も、新たなリーダーによって続けられる。
この後継者のリーダーシップが上手く紡がれている企業が真のグローバル企業だということができるだろう。
逆に、上手く紡ぐことができていない企業が多いのが日本企業の特徴でもある。
もちろん、全ての日本企業がというわけではないが、人口減少が留まることを知らない社会において、企業の存続は大きな課題になっている。
根本的な解決には、リーダーシップそのものの概念を説くことも大切なことは否定しないし、重要なことだと思っている。
ただ、それよりも経営者になること、リーダーになることが楽しくてやりがいのあるものだというマインドを持った人を少しでも多く生み出すカルチャーが重要だと思っている。
さらに、そういった人が何度もチャレンジできる環境が揃っていくことが、結果として多くの人が幸福だと感じやすい社会になるというのが私の考え方だ。
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