空中楼閣(くうちゅうろうかく)
→ 根拠のない事柄や絵空事。
世の中には根拠のないのに勝手に拡がってしまう噂のようなものがよくある。
都市伝説も同様で、全く根拠がないのに不安を煽る系の話題は勝手に拡がっていくし、そういうのが好きな人が多いのもまた事実だ。
私は昔から、根拠やロジックのないことについては懐疑的に考えるタイプだった。
その影響は両親が教育者という立場にあったからだと思うが、これは別に美談ではなくむしろ真逆だ。
長く私の記事を読んでくれている人はなんとなく察していただけると思うが、とにかく根拠のないフワッとしたものが苦手だ。
定性的な表現よりも定量値な表現を好むし求める。
そのあたりを大前提に書いていくが、先日とある農家の方の話を聞いたのが面白かったのでまとめてみる。
今さら聞けない食料自給率とは?
農業と聞くと、多くの人は少し遠いところにあるように感じるのではないだろうか。
日本の食料自給率が低いということは、その昔学校でなんとなく習ったことがあるような気がするという人も多いだろう。
との印象に引っ張られて、日本で野菜を含めた食材の自給率がとても低いと思っている人は案外多い。
実はこの食料自給率というワードには、2つの指標があることもあまり知られていない。
単純に重量で計算することができる品目別自給率と、食料全体について共通の物差しで単位を揃えることにより計算する総合食料自給率の2つがあることは知っておいた方がいいだろう。
品目別自給率
品目別自給率 = 国内生産量 / 国内消費仕向量
(国内消費仕向量 = 国内生産量 + 輸入量 – 輸出量 – 在庫の増加量(または + 在庫の減少量))
この算定式により、各品目における自給率を重量ベースで算出しているのが、品目別自給率だ。
品目別自給率では、食用以外の飼料や種子等に仕向けられた重量を含んでいることも注意したい。
参考までに、2020年(令和2年)の小麦の品目別自給率は下記のとおりとなる。
小麦の国内生産量(94.9万トン) / 小麦の国内消費仕向量(641.2万トン)= 15%
総合食料自給率
総合食料自給率は、食料全体について単位を揃えて計算した自給率だが、さらに2つの算出方法がある。
供給熱量(カロリー)ベース、生産額ベースの算定式がある。
ちなみに、畜産物については、輸入した飼料を使って国内で生産した分を総合食料自給率における国産には算入していないことも併せて覚えておこう。
- カロリーベース食料国産率
カロリーベース総合食料自給率は、基礎的な栄養価であるエネルギー(カロリー)に着目して、国民に供給される熱量(総供給熱量)に対する国内生産の割合を示す指標だ。
参考までに、2020年(令和2年度)のカロリーベース食料国産率は下記のとおりだ。
1人1日当たり国産供給熱量(843kcal)/ 1人1日当たり供給熱量(2,269kcal)= 37%
- 生産額ベース食料国産率
生産額ベース総合食料自給率は、経済的価値に着目して、国民に供給される食料の生産額(食料の国内消費仕向額)に対する国内生産の割合を示す指標だ。
こちらも参考までに、2020年(令和2年度)の生産額ベース食料国産率を紹介しておこう。
食料の国内生産額(10.4兆円)/ 食料の国内消費仕向額(15.4兆円)= 67%
また、せっかくなのでもう2つの自給率の指標があることについても触れておこう。
食料国産率
1つは、2020年(令和2年)3月に閣議決定された食料・農業・農村基本計画で位置づけられた、食料国産率だ。
食料国産率は、日本の畜産業が輸入飼料を多く用いて高品質な畜産物を生産している実態に着目している。
日本の食料安全保障の状況を評価する総合食料自給率と共に、飼料が国産か輸入かに関わらず畜産業の活動を反映し、国内生産の状況を評価する指標のことをいう。
先述した総合食料自給率が飼料自給率を反映しているのに対し、食料国産率では飼料自給率を反映せずに算出している点が異なる。
参考までにこちらも2020年(令和2年度)の食料国産率のデータを書いておこう。
- カロリーベース食料国産率
1人1日当たり国産供給熱量(1,052kcal)/ 1人1日当たり供給熱量(2,269kcal)= 46%
- 生産額ベース食料国産率
食料の国内生産額(11.0兆円)/ 食料の国内消費仕向額(15.4兆円)= 71%
先述した総合食料自給率と比較すると、これだけ差が出ることも知っておくといいだろう。
飼料自給率
最後に紹介する飼料自給率は、畜産物に仕向けられる飼料が国内でどの程度賄われているかを示す指標だ。
繰り返しになるが、この指標を含むか含まないかで、総合食料自給率と食料国産率の差が出る。
参考までに、2020年(令和2年)の小麦の品目別自給率は下記のとおりとなる。
純国内産飼料生産量(620万TDNトン)/ 飼料需要量(2,498万TDNトン)= 25%
日本の野菜が甘くなった理由
さて、話を本題に戻そう。
農家の方から聞いたのは、なぜ日本の野菜たちは糖度が高く甘くなっていったのかということについてだ。
結論からいうと、品種と栽培方法が変わったことにある。
例えばトマトについてだが、1985年にタキイ種苗が桃太郎の育成を完成したことが転機だそうだ。
それまでの一般的なトマトの糖度は4.6程度だったのが、桃太郎は5.5あり、完熟させると5.8になる。
別のカテゴリになるが、ミニトマトだと9〜10程度になるという。
また、桃太郎は今までのトマトより糖度が高く果実が固いので、完熟させてから流通できたこともあって、1988年頃にはトマトの主要品種となったわけだ。
一方で栽培方法は、水をやる量を制御する、塩類を高濃度に含む養液を与えるなどの方法が一般的だ。
水を絞ると機能性成分の割合も一緒に上がる。
トマトは2000年代の健康ブームで、抗酸化物質のリコピンなどの機能性成分が注目されたこともあり、味と健康の両面から高糖度化に拍車がかかったというわけだ。
それから、水分を減らすと重量も減るというのも影響しているそうだ。
野菜の運送はバーチャルウォーターを運ぶ面があるので、なるべく水分を減らして運びたい、傷みにくいものを運びたいというニーズがあるのである。
運ぶ際に崩れにくく、量販店の加工担当者からしても、色がよく形がしっかり見えて味が悪くなったり、食べにくくなる要因となるドリップが少ない品種が求められている。
生産量と糖度は矛盾している事実
とはいえ、実は生産量と糖度は二律背反の関係にあるという事実もある。
日本のトマトは10アール当たり10トンの収穫量に対して、オランダではその5~6倍穫れるという。
ただし、オランダのトマトは糖度が4ぐらいで、日本人からすれば美味しくないと感じる。
こういった性質は、栽培法だけでなく品質にも大きく依存するが、トマトが光合成をする際、受けた光でできた炭水化物を甘くする方向に回すのか、生産量に回すかの違いだ。
また、日本は農地が狭いことから、生産者が効率的に経営しようと甘いトマトを選んでいるという側面もある。
まとめ
今や野菜や果物は糖度を競っているような印象も受けるようになった。
果物のはしりは、2000年くらいにミカンから始まったといわれている。
その後、桃、ナシ、柿、メロン、スイカと対象が拡がって、糖度を測ることがスタンダードになったというわけだ。
とはいえ、誰もがいつも高糖度の野菜を求めているわけではない点にも留意したい。
例えば、大玉の糖度3~4の一般的なトマトは、火入れする料理に向くし、トマトジュースは6ぐらいがベストだといわれている。
流通業者では、大手スーパーが糖度6~7、高級スーパーは7~9、百貨店は差別化するために10〜13のトマトを求める傾向があるという。
必ずしも糖度が高く甘ければいいというものでもないという、このロジックもしっかりインプットしておきたい。
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