レンタルスペースから始まった壺芋ブリュレの型破りなマーケティング

2022-05-07 投稿: 植田 振一郎

空谷跫音(くうこくのきょうおん)
→ 予期せぬ喜びや予期せぬ来訪者のこと。

ビジネスにおいては成功してもラッキーという見方をされることが多い。

実際にその側面があることは否めないし、予期せぬ出来事は必ず起こる。

そして、それはポジティブにもネガティブにもどっちにもということも忘れてはならない。

そんな中、また1つ話題になっているスイーツがある。

そのキャッチコピーは、欲望のままに頬張る。

2,000セットのサツマイモが数分で完売

2020年の販売開始以降、岐阜県の新名物となりつつあるスイーツがある。

2021年3月にECサイトで販売を始めると、用意した数量が2分で完売した。

こだわりのある商品やサービスを紹介するECサイトなら、生産者の声などの情報を載せるのが一般的だ。

ところが、そのECサイトに掲載されている内容は、ごくごく簡単なものだけだ。

それなのにあっという間に完売してしまうスイーツが、壺芋(つぼいも)ブリュレである。

オンラインでの発売は自社ECサイトで週に1回のみで、仕入れ状況によって販売数は異なる。

用意した2,000セットが数分で完売することもある、壺芋ブリュレはなぜこうして話題になることができたのか。

壺芋ブリュレってなぁに?

壺芋(つぼいも)ブリュレの開発元は、岐阜県大垣市にある、つぼ焼いも岐阜総本舗幸神(岐阜県大垣市)だ。

サツマイモを専用の壺でゆっくり炭火焼きすることで、芋の甘みを引き出すことにこだわっている。

芋は壺で焼くことで、噛む力を不要とするほど柔らかくなるという。

その焼き芋に、素材にこだわったカスタードクリームを合わせて開発した。

柔らかくなった芋はくり抜かなくても、押し込むだけで凹みができる。

その凹みにカスタードを詰め、砂糖をかけて炙りブリュレにしたのが壺芋ブリュレという商品だ。

時期によって使用する芋は異なるが、紅はるかとシルクスイートという人気の2種類のサツマイモを採用している。

欲望のままに頬張る、このキャッチコピーで2020年10月にリアル店舗で販売を開始した。

その後、2021年3月からは、自社ECサイトでも販売し始めた。

ECサイトから購入する場合、250円(税込)で別売りしているミニバーナーを併せて購入すると自宅でも本格的なブリュレを楽しめる。

壺芋ブリュレの誕生

このスイーツを考案したのは、発売当時大学4年生だった学生だった。

その学生は、インターン生として働きながらレンタルスペースを運営していたが、なかなか事業は軌道に乗らずにいた。

集客を目指し、レンタルスペース内に小さな喫茶店をオープンするものの、今度は新型コロナウイルス感染症拡大に見舞われて、休業を余儀なくされる。

なんとか状況を打破できないかと、集客につながる強い商品を探し求めていく中で、焼き芋に目をつけたという。

焼き芋を選んだ理由には、東海地方の情報を発信するWebメディア、IDENTITY名古屋が関係する。

壺芋ブリュレの開発を検討し始めた当時、芋系スイーツが増えていたり、その投稿に対するエンゲージメント数が伸びていたりする傾向があった。

このデータを基に、東海圏での焼き芋の盛り上がりが、全国に先駆けていることが後押しとなった。

東海圏でブームの牽引役になったのが、壺芋ブリュレの主役、つぼ焼き芋を販売する、つぼ焼いも岐阜総本舗幸神だ。

つぼ焼き芋を販売したい人の開業支援や、壺を使った焼き方の技術を伝える講習会も行っており、この活動がじわじわと東海圏で拡がり、そこから全国に派生したと考えている。

ただ、つぼ焼いも岐阜総本舗幸神の焼き芋は格別なのだが、同商品を扱うだけでは、わざわざ喫茶店に足を運んでもらうのは難しい。

ということで、考えた末に行きついたのが、クレープの表面をブリュレしたクレープブリュレから着想を得た、壺芋ブリュレというわけだ。

クレープ型にすることで、喫茶店に滞在しなくても紙に包んだスイーツを持ち帰ることができるため、感染対策にもなるだろうという狙いもあった。

なぜ壺芋ブリュレは品薄状態になるほど売れるのか?

壺芋ブリュレはレンタルスペース内の喫茶店で販売を開始するや否や、県外からも1日で250人が来訪するなど行列が絶えないスイーツとして一躍人気商品になった。

人気に火をつけたのが、InstagramやTikTokなどのSNSだ。

SNSで広まった背景には、つぼ焼き芋そのもののおいしさにもあるが、映えという現代ではスイーツのヒット必須条件ともいえる基準を大きく超えたこともあるだろう。

壺芋ブリュレの商品の特徴の1つが、食欲をそそるインパクトのある見た目だ。

定番スイーツのクレープのような形状と、一目で香ばしさが伝わるブリュレされた表面。

そこにスプーンですくって食べるという、従来の焼き芋の概念を覆す驚きも手伝った。

クレープのように片手で持てることから、スマートフォンでの撮影もしやすかった。

そこでSNS映えする特徴を最大限に活かし、食べたいという衝動を瞬時に引き出し、購買へとつなげるためのデジタルマーケティングに注力している。

最重視するKPIは、主に顧客が投稿する口コミ、すなわちUGC(ユーザ・ジェネレーテッド・コンテンツ = ユーザ生成コンテンツ)の投稿促進だ。

UGCという重要なKPIとは?

UGCとは、一般ユーザによって作られたコンテンツのことをいう。

簡単にいうと、企業側が準備したコンテンツではなく、一般ユーザが自発的にSNSに投稿してくれるコンテンツのことである。

UGCを増やすため、発売直後に自社メディアの運営で関係性ができていたインフルエンサーを数人招待した。

インフルエンサーらが自主的にSNS上にお手本コンテンツを投稿してくれたことで、少しずつSNS上での認知が高まっていった。

店頭では購入者向けに、SNSに投稿してくれたら50円引きキャンペーンを実施した。

こうした地道な施策が奏功し、UGCは自然発生的に増えていったという。

さらに、2021年3月にECサイトで発売後には、自宅でも別売りのミニバーナーを使って焼き芋をブリュレできるという、体験要素もUGC投稿を後押しした。

ミニバーナーで商品をあぶっている様子を撮影した写真や動画などがSNSに相次いで投稿されるなど、UGC投稿が加速した

2022年4月現在のUGCは500件を超え、約50万人のフォロワーを抱える人気アカウントによる紹介や、動画の再生回数が23万回を超えた投稿もあった。

UGCの真逆にあるECサイト

壺芋ブリュレをオンラインで購入する人の大半は、こうして投稿されたUGCなどを通じてSNSで商品に興味を持ちECサイトを訪れる。

そこで、新たな仕掛けをECサイト上に行っている。

訪れた人の購買意欲を逃さないよう、商品ページには多くを載せがちだ。

ところが、壺芋ブリュレのECサイトは、極力、商品にまつわるテキスト情報を載せていない。

生産者の顔や製造過程など、競合商品との差異化になりやすいポイントを前面に打ち出すのが王道の中、ストーリー重視を一貫している。

商品ページに載せる情報の取捨選択は、SNSを見て高まった、食べたいの熱量を維持したまま、迷うことなく一直線に購入できるようにするための施策だ。

焼き芋という、素材そのものを訴求ポイントとしてビジュアルで表現できる商品だからこそ可能なアプローチだともいえる。

まとめ

壺芋ブリュレはZ世代をターゲットにして、デジタルマーケティングに成功した事例だと思ってはいけない。

直感というものは、どの世代にも通じるものである。

トレンドをつくるもの、バズるものには、もちろん予期せぬラッキーも乗っかるだろうが、ロジックを考えた上でヒットしている部分が必ずある。

そこは常に追いかけないと時代に取り残されるというわけだ。

 

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