杞人之憂(きじんのゆう)
→ 取り越し苦労のこと。
企業が不祥事を起こした後に、イメージを回復させるために取る手法がある。
ポジティブなことよりネガティブなほうが長期間、消費者の知識に組み込まれやすいという研究がある。
つまり、一度ネガティブな感情がインプットされた消費者の知識を再びポジティブな気持ちへ変容させることは時間的にも金銭的にも簡単ではないということである。
そんなとき企業は好感度の高い有名人を使ってCMを打ったり、リブランディングを試みる。
これが上手くハマれば、企業は復活することができるというわけだ。
実際にどんな事例があるのか、見ていこうと思う。
イメージダウンした日産が取った戦略とは?
「やっちゃえNISSAN」のフレーズでテレビCMにインパクトを残しているのは、元SMAPの木村拓哉氏だ。
2018年にカルロス・ゴーン氏の金融商品取引法違反容疑の逮捕によりイメージダウンした日産は、2020年にアンバサダーとして木村拓哉氏を起用した。
CMでは木村拓哉氏が新型EVのアリアを運転しながら、消費者に語りかけている。
「上等じゃねえか、逆境なんて。さあ行くぞ、もう一度、やっちゃえNISSAN」
さらに、テレビCMを見たことがあるという人は、NISSANのロゴが同じタイミングで変わっていることに気づいただろうか。
そもそも企業ロゴの変更は慎重になる場合が多い。
というのも、80年代のアメリカではM&A(企業買収)の普及により、ロゴのブランド価値は資産価値があるものとして、会計上でも無形資産として計上されているからである。
せっかく培ってきたブランド価値や信用をみすみす失うわけにはいかない。
ところが、日産は心機一転、新しく黒を基調にしたシックなイメージのロゴに変更し、新型EVのアリアに採用した。
そして、キムタクがアリアに乗車しているCMは、2020年9月度のCM好感度ランキング総合1位(CM総合研究所)となった。
日産としては7年ぶりの1位奪還となり、過去の不祥事のイメージを一変させることに成功したといえるだろう。
2021年上期の日産の営業利益は1,391億円で、パンデミック前の前年同期比の1,588億円の赤字から2,979億円も増加している。
売上高営業利益率も3.5%増加し、世界中で半導体不足が懸念される中、新車などの1台あたりの収益率が向上している。
コロナ禍で収益が下がったJR東海のリブランディングとは?
誰もが経験したことのないパンデミックが起こり、旅行に行くことさえタブー視されていた頃、JR東海が打って出た戦略がある。
言わずもがな、JR東海のドル箱といえば新幹線だが、緊急事態宣言などの影響で大打撃を受けていた中のリブランディングだ。
「ずらし旅」というワードに大胆に変更してアピールすることで、売上を大きく伸ばしたのである。
連結子会社であるJR東海ツアーズにおける2020年11月の販売実績は、8月と比較して約8倍に伸びたという。
Go Toキャンペーン期間と重なった上、2020年9月下旬から約1ヶ月間、ずらし旅のテレビCMなどが流れたことが要因だとされている。
JR東海は地域名を入れたディスティネーションキャンペーンなど、従来のままの商品名で販売していたら売り上げは低迷していたままだっただろうと振り返る。
ずらし旅は、分散型旅行として新幹線や電車、飲食店にも混雑する時間を避けることで、3密も防げる。
キャッチフレーズも大きく変更した。
ひさびさ旅は、新幹線! ひさびさ旅は、ずらすと、面白い。旅する時間や場所、行動をずらして、あなただけの『ずらし旅』をはじめませんか
この変更で、コロナ禍でも消費者が旅行しやすい雰囲気を作ると同時にアンバサダーに俳優の本木雅弘氏を起用した。
スマホで自撮りしながら。シェアサイクルに乗ったり、道頓堀では川から見上げて街の見方もずらすなどとアピールし、これまでの旅行とは一味違う体験ができることを印象付けたのである。
JR東海では2021年4~9月期の運輸収入は前年同期を上回ったが、7~9月は再び緊急事態宣言になったこともあり、コロナ禍前の4割以下となった。
それでも第2四半期決算(2021年4~9月中間連結決算)は、売上高が前年同期比14.5%増となったことは一時的にも効果がみられたといってもいいだろう。
先述したとおり、JR東海は売上の多くを新幹線に依存しているが、2021年末から2022年1月の年末年始の売上は前年同期比の2.5倍となった。
今の消費者になにが受け入れられるのか、スピード重視で臨機応変に商品名に反映させることが重要だと改めて気づかせてくれた。
リモートワークにより売り方を変えたカルビーの戦略とは?
通勤する人が減ったことで、駅売店などでのガムやキャンディーなどの購入者が減った。
その一方で、子どもが家にいることからファミリーパックのビスケットやチョコレートなどの売り上げは増加している。
この流れに、カルビーは2020年9月から、1人でも食べやすい個食用のお菓子を、otomo pack(オトモパック)シリーズとして展開している。
リモートワークのお供(オトモ)となり、働く人の気持ちに寄り添うイメージにしたという。
一口サイズで小さめのポーションに変更し、癒やし系のパッケージに変更し、自宅の狭い机の上に立てられるスタンドパック包装でチャックを付けた。
また、ソラマメなど偏りがちな健康にも配慮してニューノーマル時代に合わせた商品ラインナップだ。
その結果が、大手お菓子メーカーで差が出ている。
2020年度の菓子類の売上高は、前年比でカルビーは国内売り上げが10%ほど増加している。
反面、森永製菓は10%減少、江崎グリコの菓子・食品部門は7.2%減少、明治ホールディングスは6.3%減少している。
メッセージだけを変えたキリンビバレッジの戦略とは?
誰もが一度は飲んだことがあるであろう、午後の紅茶。
CMには女優の深田恭子氏を起用し、商品名は午後の紅茶に加えて幸せの紅茶とし、幸福感のある内容となっていることが共感を得ている。
ブランド好意度がアップすると、販売実績にも変化が起こった。
2020年の午後の紅茶ブランド全体の販売実績は、コロナ禍で外出を避けたこともあり前年比12%減だった。
とはいえ、健康意識の高まりから、午後の紅茶 おいしい無糖と、甘くない微糖紅茶、午後の紅茶 ザ・マイスターズシリーズは、販売数量が同6%増加している。
時代に合わせてイメージの転換を上手くやることが企業にとってどれほど大切かを教えてくれる事例だ。
まとめ
未だに新型コロナウイルスの話題が連日されている。
その影響を受けていない企業の方が少ないと思うが、影響を受けたからといってずっと大人しくしているわけにもいかない。
時代に合わせて、どのような戦略を打ったのか、その結果がどうなったのか、多くの企業から学んだ方がいい。
引き出しが多ければ、いざというときの手数が変わってくるからである。
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