雨後春筍(うごしゅんじゅん)
→ 事物が増えるのが速くて勢いが盛んなたとえ。
物事を進めるスピードがはやいというのは、とにかく武器になる。
完璧を求める必要は全くなく、とにかく進んでいくこと、推進力の重要さは経験を重ねれば重ねるほどに感じる。
そこに勢いのみのスピードだけでなく、継続性が出てくることが拡張に繋がるように思う。
継続させるためには計画性や経営能力が必要になってくるからだ。
この2つの重要性は何度も説いているので、問題ないとしよう。
今回はスピードや規模感だけに縛られると、数字の見方を誤る可能性があることについて書いておきたい。
知っているつもりでも本質を見誤る危険性
情報をただ単に鵜呑みにすると、感覚がズレて本質を見誤る危険性が高い。
ネット社会の今、アクセスを稼ぐために敢えてメディアが使う手でもあるので要注意だ。
例えばこんなニュースを目にしたとしよう。
電気自動車(EV)業界ではテスラが勢いを増している。
そんな中、中国でもEV業界で知名度を爆発的に上げているメーカーがある。
宏光MINI EVの販売をしている、上汽通用五菱汽車である。
その販売台数は2021年5月時点で、2万9,706台ということだ。
この数字はテスラのモデルYとモデル3の合計販売台数が2万1,936台なので、宏光MINI EVの販売台数が圧倒的に上回る。
中国の老舗EVメーカーであるBYDでも、各車種の合計で1万8,000台弱だ。
だから、ニュースでは宏光MINI EVはEV市場で最も勢いがあるというロジックだ。
ただ、注意しなければいけないのは、この宏光MINI EVは、中国の地方の中小都市や農村部でのEV普及を目的とした車種である。
平均販売価格は日本円にして50〜60万円程度で、サイズも小型である。
車長は2.9メートル、車幅は1.5メートルということで、日本の軽自動車の規格である車長3.4m以下、車幅1.48m以下よりも小さいサイズということになる。
このサイズにも関わらず、テスラを抜いたというような表現のニュースは果たして正確なものなのかという投げかけである。
もちろん、宏光MINI EVの車種をディスっているわけではない。
実際の販売台数は非常に立派であるし、ターゲットを絞った戦略も秀逸なものであることは十分に理解した上での投げかけだ。
つまり、日本の軽自動車メーカーがベンツやBMWの高級車の販売台数を上回っていますというキャッチコピーを掲げたとしよう。
そのキャッチコピーは果たして比較対象として正確なものなのかという疑問である。
実はこの話、株式会社ニーズキャピタルデザイン代表取締役の吉永東峰氏のコラムから抜粋させてもらっている。
もう1つ面白い話を紹介していたので、そちらもテーマをお借りしたいと思う。
豚肉価格の急落についての話
吉永東峰氏によると、知識と理解が生半可で状況を見誤ったことがあるという。
それが、豚肉価格の急落についての話。
中国の全国農産品卸売市場の豚肉平均価格は、2021年1月4日の1キロあたり45.95元から2021年7月2日には22.89元に急落し、ほぼ半値となった。
その状況を危惧した当局が2021年6月には市場介入するなどパニック感が広がったという実態がある。
この理由が吉永東峰氏はどうしても解せなかったと語っている。
というのも、農業農村部の発表によると、中国で飼育中の豚は2021年5月末時点でも、平時とされる17年末時点の97.
この状況から明らかな供給過剰とは決していえない数字だったのである。
そして、この豚肉価格の変動をめぐっては、以下のような見解が出回っていた。
- 当局が投機活動を積極的に取り締まり、一部業者の買い占め分が市場に一気に流出した
- 食品浪費防止令(日本では食べ残し禁止令で知られる)の導入で、実需が低下した
- 中国南部で例年よりもはやく、春先から気温が大きく上昇した(暑いと、豚肉需要が低迷する)
ところが、この見解にどうしても納得できない。
そんな中、別のレポートが見つかったそうだ。
豚一頭あたりの巨大化も、需給悪化の要因だ。2021年2月までの高値を見た養豚業者は、出荷を渋っていた。その結果、一頭250キロクラスに成長した豚が、市場では多数出回っていた。こうした中、価格急落を見た農家が、今度は出荷を加速。売りが売りを呼ぶ展開となってしまった。
生まれたばかりの子豚は体重がわずか1.3キロで、その後わずが6ヶ月で体重100~115キロとなり出荷されるようになる。
ただし、出荷せずに飼育を続ければ、あっという間に250キロとなるそうだ。
2021年1~2月までの上昇相場に味を占めた農家や養豚業者は出荷を遅らせて、豚をさらに太らせることで、大儲けを狙っていたのである。
豚の頭数は5月末時点で平時の97.6%だが、豚肉需給の実態は違っていたようだ。
頭数ではなく、肉の量に着目すれば、かなりの供給過剰となっていた可能性があるわけだ。
吉永東峰氏はこう警鐘を鳴らしている。
わたくしは勝手に「豚一頭は、豚一頭だろう」と決めつけていた。
つまり、販売台数という基準だけで、宏光MINI EVとテスラを比べていたのと、同じことをしていたと。
本質を見抜く思考能力を鍛える重要性
なにかを始めようとするときに市場はどうなのかとか、競合他社についてどうなのかを求められる機会がある。
その際にはいろいろと調べて自分なりのロジックを考えていかなければならない。
そこで重要になってくるのか、比較対象を見誤らないよう、つまりは本質を見抜いて仮説を立てていく必要がある。
最初の時点でのボタンの掛け違いはずっと続いていくことになる。
結果には必ず原因がある。
なぜそうなったのか、そのロジックをしっかり考える時間をつくることが大切だと改めて教えてくれるとてもいいコラムである。
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