鉛刀一割(えんとういっかつ)
→ 自分の力量を謙遜して言う言葉で、鉛の刃は一度斬ると刃こぼれすることから由来している。
謙虚でいることの大切さは数々の偉人たちも説いているし、多くの昔話に残っている。
昔話によくあるのは、欲を出しすぎると良くないという戒めのパータンだ。
竜宮童子(りゅうぐうどうじ)という昔話をご存知だろうか。
竜宮童子を学ぶ前に
竜宮という言葉を聞くと、多くの人は竜宮城をイメージするのではないだろうか。
その竜宮城が出てくる昔話といえば、浦島太郎となるのが定石だと思うが、背景が似た別の昔話がある。
それが、竜宮童子(りゅうぐうどうじ)である。
ということで、竜宮童子とはどういう昔話なのか紹介していこう。
竜宮童子(りゅうぐうどうじ)
むかしむかし、あるところに貧乏な若者がいた。
その若者は、毎日山から花を切っては町で売り、ほそぼそと暮らしていた。
そして、花を売った帰り道に決まって川のそばを通り、竜宮の乙姫さまに届くように売れ残った花を川に流していた。
そんな日々を送っていたある日のこと、海辺を通りかかった若者は、後ろから美しい娘に声をかけられた。
彼女は竜宮の乙姫さまの使いの者で、乙姫さまが毎日もらうお花のお礼に竜宮へお連れするようにとの言いつけに従って、若者のもとにやってきたという。
そんな申し出に対して、若者は毎日の花売りで忙しく、とても竜宮に行く暇などないと断る。
ところが、使いの娘が少しの間だけでいいからというので、娘が化けた亀に乗ると、はるばる竜宮に向かった。
若者が竜宮に行く途中、亀は若者にあることを教えた。
それは、お別れのとき乙姫さまは何かお礼をということで、金銀をくださろうとするけれど、それは断るべきだという。
それよりも、乙姫さまに寄り添う、汚いはなたれ小僧が欲しいと言って、それをお礼にもらってきなさいと言うのだ。
そんな会話をしているうちに、竜宮に着くと若者は、美しい乙姫さまに迎えられ、手厚くもてなしを受けた。
その後も、毎日ごちそうを食べて美しい場所を満喫する日々が続いた。
そんな日が続いていたが、若者はそろそろと暇乞いをする。
すると亀の言っていたとおり、乙姫さまは、金銀の財宝を若者に持たせようとしてきた。
しかし、若者は亀に言われたとおり、金銀の財宝はいらなからそこにいた汚いはなたれ小僧さんをくださいと伝えた。
乙姫さまは、これは私の大切な宝であるからと一旦は断る。
けれども、お望みならば仕方がないと、その小僧さんを差し出した。
そのときに乙姫さまは、この小僧さんに頼めば、なんでも願い事が叶うから、ずっと大切にして欲しいと若者に何度も言ってきた。
こうして、若者は再び使いの娘が扮した亀の背に乗って家に戻った。
若者は我が家に帰ると、早速、願いを叶えてみることにした。
自分の汚い掘っ立て小屋を大きく立派な家にして欲しいと、はなたれ小僧に言った。
すると、はなたれ小僧が手を叩いた瞬間に、若者の家は立派な御殿となった。
その御殿に入ると、はなたれ小僧に続けざまに今度は金銀を出して欲しいと言った。
はなたれ小僧が手を叩くと、たくさんの金銀が出てきて、若者は長者と肩を並べるほどの大金持ちになった。
それからは、身分の高い人たちとの付き合いも始まり順風満帆な生活を送るようになった。
ところが、若者が行くところには、必ずはなたれ小僧がついてくる。
若者は、日に日にそれが気に障るようになる。
はなたれ小僧に向かって、その汚い着物を着替えたらどうかと詰め寄るけれども、はなたれ小僧はできないと答える。
また、はなくらいかんだらどうかと言っても、いくらでも出てくるから無意味だという。
それなら、これからはついてこなくていいから、留守番していろと言っても、どうしてもついていくといって聞かない。
そんなはなたれ小僧に対して、若者は考えに考えた末に決断をする。
ある日、自分はもう何一つ不自由しなくなったので、はなたれ小僧に帰ってくれないかともちかけたのだ。
はなたれ小僧は、帰れというならいつでも帰ると言って、外に出ていった。
その途端、御殿のような家は元の汚い掘っ立て小屋に戻り、金銀も全部消えてなくなってしまった。
竜宮童子(りゅうぐうどうじ)から学ぶ教訓
よくあるパターンの昔話だと言ってしまえばそれまでだが、謙虚でいることの大切さを説いている昔話の1つだ。
タイトルからから、この物語のはなたれ小僧が竜宮童子(りゅうぐうどうじ)と呼ばれる存在なのだろう。
従うものに福をもたらしてくれるのですが、その外見は汚らしいのが特徴だ。
福をもたらしてくれる存在としては、座敷童子とどこか似ている。
違いは、座敷童子は家に付き、その姿は人の目からは捉えることが難しいとされる。
また竜宮童子は、その人次第でついていくし離れても行くのに対して、座敷童子は自らがついていくか離れていくかを決める。
ただ、共に異界の存在であろうことは共通している。
竜宮童子は竜宮からきた存在ということだが、竜宮を死者の国とする考え方もあるそうだ。
主人公である若者は貧しくて、最初はどんなものにも敬意を払う謙虚な存在として描かれている。
ところが、竜宮童子のおかげで富を得ると、みすぼらしい、はなたれ小僧である竜宮童子を邪険に扱ってしまった。
人とは富を得ると、とたんに謙虚な姿勢が失われがちで、この物語のように竜宮童子を失ってしまう。
まとめ
謙虚さという徳は、世界の昔話で求められている傾向にある。
その根本には、生命を第一義的に考えているところがあることにも注目したい。
竜宮童子も、若者は元の貧しい身分に戻ってしまうわけだが、決してそれが悪いこととは限らないのである。
つまり、どのように生きるかについては自分の振る舞い方で決まるという人生観を説いているということである。
反面、謙虚さを大切にすべき昔話が多いということは、謙虚さという徳にいつの時代も重きが置かれていることも頭に入れておくべきだろう。
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