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2026年1月13日 投稿:swing16o

AI時代に門前成市が消える日:コミュニティの細分化が加速する未来

門前成市(もんぜんせいし)
→ 人が多く集まること。

時代は門前成市から、静寂の分散へ。

古来、権力や名声を持つ者の門前には市場ができるほど人が集まったが、AI時代の到来とともに、この光景は静かに変わりつつある。

人々が一箇所に殺到する時代から、無数の小さな居場所へと分散していく。

この変化こそ、現代におけるコミュニティのコモディティ化、つまり細分化の本質だ。

本稿では、データに基づきながら、なぜ大規模集客が困難になり、小規模コミュニティが乱立する時代が到来したのかを解き明かす。

そして、この不可逆的な潮流がもたらす未来像を描き出す。

門前成市とは?

門前成市という四字熟語は、中国前漢時代の鄭崇の故事に由来する。

鄭崇が謀反の疑いをかけられた際、「家の門の前には市場のように人がいるが、心は水のように清らかです」と訴えたことから生まれた言葉だ。

「本朝文粋」には「堂上如華、門前成市」と記され、平安時代の日本でも権力者の館に人々が群がる様子が描写されている。

門前成市は権力、名声、魅力を持つ者の下に、自然と人々が集結する現象を指す。

ビジネスの文脈では、人気店に行列ができる光景、カリスマ経営者のもとに優秀な人材が集まる状態、魅力的なイベントに何万人もが殺到する様子を意味する。

対義語は門前雀羅。門の前に雀を捕る網を張れるほど訪問者がない寂しさを表す。

歴史を振り返れば、人間社会は常に「集まる場所」を中心に発展してきた。

市場、寺社、城下町、そして現代の大都市。

限られた場所に多くの人が集結することで、経済が回り、文化が生まれ、イノベーションが起きた。

この集中のメカニズムこそが、産業革命以降の社会を支えてきた。

このブログで学べること

本稿では、3つの視点からコミュニティ細分化の実態に迫る。

第一に、イベント市場における大規模集客の困難化。

音楽フェスは2019年に336億円の市場規模を誇ったが、2020年には6.9億円へと97.9%減少した。

しかし同時期、オンラインイベントは40倍に増加している。

大規模から小規模への分散が、明確なデータとして表れている。

第二に、オンラインコミュニティの爆発的増加。

総務省の調査によれば、オンラインコミュニティのみに参加する人の割合は、2008年の16.3%から2017年には44.1%へと上昇した。

さらに矢野経済研究所のデータでは、月額課金型オンラインコミュニティ市場は2020年度に248億円、2021年度には67.3%増の415億円へと急成長している。

第三に、AI技術がもたらすプロジェクト立ち上げの容易性。

GitHub CopilotやClaude Codeなどのツールにより、個人や小規模チームでも高度なプロジェクトを短期間で実現できる環境が整った。

経済産業省のGENIACプロジェクトでは、2024年に30件以上の生成AI基盤モデル開発テーマが採択され、誰もが独自のAI活用プロジェクトを立ち上げられる時代が到来している。

データで見る大規模イベントの衰退

数字は残酷なほど明確だ。

ぴあ総研の調査によれば、2020年の音楽フェス市場規模は前年比97.9%減の6.9億円となり、動員数は9.3万人と前年比96.8%減を記録した。

2019年の336億円、290.6万人という数字と比較すれば、市場はほぼ消失したに等しい。

日本イベント産業振興協会のデータでは、2020年のイベント市場規模は8兆6,649億円と、前年の17兆4,890億円から49.5%減少した。

一般社団法人コンサートプロモーターズ協会の会場規模別調査では、大規模会場(1万人以上収容)での公演数が激減する一方、その他の小規模施設(イベントスペース、ギャラリー、カフェなど)での公演が相対的に増加傾向を示している。

しかし、この変化をパンデミックによる一時的な現象と見るのは誤りだ。

2023年のデータを見ると、イベント市場規模は17兆6,337億円と2019年比100.8%まで回復したが、その内訳は大きく変わっている。

コンベンション分野は2019年比131.7%と大幅伸長したが、商店街イベントは同15.4%と低迷したまま。

つまり、全てのイベントが元通りになったわけではなく、性質の異なるイベント形式へと再編されたのだ。

一方、Peatixのデータによれば、2020年1月から2021年3月の間にオンラインイベント数は約40倍、参加者数は約35倍に増加した。

2020年1月時点で数千件程度だったオンラインイベントは、2021年第1四半期には36,000件以上が開催された。

累計で14万件を超えるオンラインイベントが開催され、305万人以上が参加している。

この数字が意味するのは単純だ。

人々は「一箇所に集まる」ことから「それぞれの場所で参加する」ことへとシフトした。

門前成市の風景は、オンライン空間における無数の小さな集まりへと姿を変えたのである。

コミュニティ爆発:なぜ人々は小さな集まりを求めるのか?

数字はさらに続く。

総務省「ICTによるインクルージョンの実現に関する調査研究」によれば、コミュニティに参加していない人の割合は2008年の16.7%から2017年には11.7%へと減少した。

一見すると人々の社会参加が進んだように見えるが、実態は異なる。

オフラインコミュニティのみ参加する人は24.9%から7.8%へと激減し、オンラインコミュニティのみ参加する人は16.3%から44.1%へと急増している。

つまり、人々はコミュニティから離脱したのではなく、所属するコミュニティの形態を変えたのだ。

矢野経済研究所の調査では、月額課金型オンラインコミュニティプラットフォーム市場が2020年度の248億円から2021年度には415億円、2022年度予測では580億円へと成長している。

ICT総研のデータによれば、オンラインサロン利用者数は2019年末に25万人、2020年末に53万人と倍増し、2021年末には74万人、2025年末予測では145万人に達する見込みだ。

この急成長の背後には、人々の価値観の変化がある。

Peatixの2021年調査では、コミュニティ参加者の32.9%が「参加するコミュニティ数が増えた」と回答している一方、「交流・つながりは減った」との回答が約半数を占めた。

つまり、人々は複数のコミュニティに所属しながらも、それぞれのコミュニティでの深い関係性は希薄化している。

この現象は、コミュニティがコモディティ化した証拠だ。

かつてコミュニティは、地域や職場など限られた選択肢の中から選ぶものだった。

しかし今や、趣味嗜好に応じて自由に選び、組み合わせるものとなった。

一つの大きなコミュニティに深く所属するのではなく、複数の小さなコミュニティに浅く所属する。この変化が、細分化の本質である。

AI時代の必然:誰もが簡単にプロジェクトを立ち上げられる世界

そして、AI技術の進化がこの流れを決定的にした。

経済産業省とNEDOが推進するGENIACプロジェクトでは、2024年2月の第1期で10件、同年10月の第2期で20件の基盤モデル開発テーマが採択された。

2025年7月には第3期として24件が追加され、合計54件以上のAI開発プロジェクトが並行して進行している。

これは、AI開発という高度な技術プロジェクトですら、もはや一部の巨大企業だけのものではなくなったことを示している。

GitHub CopilotやClaude Codeといったコーディング支援ツールの登場により、プログラミング効率は飛躍的に向上した。

2024年の調査では、これらのツールを活用することで、プロジェクト全体を俯瞰した実装が可能となり、従来は大規模チームが必要だった開発を、小規模チームや個人でも実現できるようになっている。

さらに、プロジェクト管理にもAIが活用され始めている。

JootoのAIタスク生成機能のように、業種やプロジェクト概要を入力するだけで必要なタスクを自動洗い出しする機能が実用化されており、プロジェクトマネジメントの専門知識がなくても、誰もがプロジェクトを立ち上げられる環境が整いつつある。

AWSの生成AI実用化推進プログラムでは、2024年7月のスタート以来、200社を超える企業・団体の生成AI実用化を支援している。

戦略策定からモデル開発、システム実装まで一貫してサポートする体制が整い、AI活用の敷居は劇的に下がった。

この状況が意味するのは明確だ。

かつては資金力、技術力、人材を持つ大企業だけが実現できたプロジェクトを、今や個人や小規模チームが数週間で立ち上げられる。

イベントやコミュニティの運営も同様だ。オンラインコミュニティプラットフォームの利用調査では、noteが18.2%、pixivFANBOXが12.0%の利用率を記録し、誰でも自分のコミュニティを簡単に立ち上げられる環境が整っている。

結果として、「大きな一つ」への依存から「小さな無数」への分散が進む。

門前成市が消え、無数の小さな門が生まれる。これがAI時代の必然である。

まとめ

すべてのデータが同じ方向を指している。

イベント市場は一時的に崩壊したが、その再建は従来型への回帰ではなく、新たな形態への移行だった。

大規模イベントは特定分野で復活しつつあるが、全体としては小規模化、オンライン化、ハイブリッド化が定着した。

Peatixの調査では、イベント主催者の78.3%がハイブリッド形式を検討しており、37.8%は「ほとんどのイベントをオンラインで開催する」と回答している。

オンラインコミュニティは爆発的に増加し、人々は複数の小さなコミュニティに分散して所属するようになった。

総務省のデータが示すように、オンラインコミュニティのみに参加する人は44.1%に達し、もはや主流の選択肢となった。

矢野経済研究所が予測する通り、この市場は今後も年率30〜40%で成長を続けるだろう。

そしてAI技術の進化により、プロジェクトやコミュニティの立ち上げコストは劇的に低下した。

GENIACプロジェクトが支援する54件の開発テーマ、AWSが支援する200社以上の企業、誰でも利用できる生成AIツールの普及。

これらすべてが、個人や小規模グループによる自律的なプロジェクト立ち上げを可能にしている。

この流れが意味するのは、コミュニティの完全なコモディティ化だ。

かつてコミュニティは希少で価値の高いものだった。

しかし今や、誰もが簡単に立ち上げ、参加できる商品のように扱われている。

選択肢が無限に増えれば、一つ一つの価値は相対的に低下する。

門前成市のように一箇所に人が殺到する現象は、特殊な例外を除いて消えていく。

そして最も重要なのは、この細分化がAIによる「完結可能な世界」の拡大によって加速されていることだ。

AIツールを使えば、少人数でも企画、開発、運営、マーケティングまで完結できる。

大規模組織への依存が不要になり、人々は自分たちだけの小さな世界を構築できる。

この自己完結性こそが、細分化を不可逆的なものにしている。

門前成市の時代は終わった。

これからは、無数の小さな門が、静かに、しかし確実に、社会のあらゆる場所に生まれ続ける時代だ。

人々は大きな集まりではなく、自分に最適化された小さな居場所を求める。

そしてAIは、その実現を限りなく容易にする。

コミュニティのコモディティ化は止まらない。

細分化の先に何が待つのか。

それは、完全に個別化された、無数の小さな世界の集合体である。

 

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植田 振一郎 X(旧Twitter)

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