不聞不問(ふぶんふもん)
→ 無関心な態度のこと。
営業の現場で最も困難な相手は、商品に対して完全に無関心な顧客だ。
「不聞不問」という四字熟語が示すように、聞こうともせず、問おうともしない態度の顧客こそ、実は最大の可能性を秘めている。
なぜなら、このような顧客を獲得できれば、競合他社が手を出せない未開拓の市場を制することができるからだ。
そもそも、「不聞不問」という概念は、中国古典に由来し、取り上げて問題にしないこと、無関心な態度を表す。
この言葉は元来、権力者が民の声に耳を傾けない政治的無関心を批判する文脈で使われてきた。
しかし現代のビジネスにおいては、この「無関心」こそが営業プロセスの出発点となる。
興味深いことに、論語には「非礼勿視、非礼勿聴、非礼勿言、非礼勿動」(礼にあらざれば視るなかれ、礼にあらざれば聴くなかれ、礼にあらざれば言うなかれ、礼にあらざればおこなうなかれ)という一節がある。
この「不見・不聞・不言」の教えが8世紀ごろ、天台宗系の留学僧により日本に伝来した。
現代では、この無関心状態こそが営業における最初のチャレンジポイントとなっている。
無関心から購入までの営業プロセス解析
営業プロセスを科学的に分析すると、顧客の心理状態は段階的に変化することが判明している。
AIDMA(Attention → Interest → Desire → Memory → Action)は1920年代にアメリカの著作家であるサミュエル・ローランド・ホール氏によって提唱された購買行動モデルだ。
一方、インターネット普及後は、AISAS(Attention → Interest → Search → Action → Share)が2005年に大手広告代理店である電通が提唱・商標登録したもので、インターネット普及後の購買行動を表す代表的なモデルとなっている。
さらに現代では、SEAMS(Surf→Emotion→Action→Memory→Share)という新たなモデルも登場している。
特定のSNS上で自分に合った情報・コンテンツを眺め続ける段階から始まる、現代の一億総回遊時代といえる状況を反映したモデルだ。
また、営業成約率の平均値は30%前後、高ければ50%前後だというデータがある。
取り扱う商材や商談先によって数値は前後するが、平均値をもとに計算すると3回に1回のペースで成約が取れる計算になる。
しかし、この数字には重要な前提がある。
それは、すでに何らかの興味を示している顧客に対するアプローチの結果だということだ。
メール営業をおこなう場合、アポイント取得につながるメールを担当者に開封してもらえる割合は約24%。
電話営業では担当者につながるまで10回前後は電話をかける必要があるという現実もある。
これらの数字は、完全に無関心な状態からのアプローチがいかに困難かを物語っている。
無関心顧客攻略の心理学的アプローチ
マーケティング心理学において最も重要な概念の一つが「返報性の原理」だ。
人は他人から何かを与えられるとそれに対して返礼したいと感じる性質がある。
心理学的には「人間は他人に借りを作りたくない」という事実から説明される。
顧客が無料プレゼントを受け取った場合、返報性の法則により顧客は何かを買わなければいけないと感じるのだ。
この原理を活用すれば、不聞不問の顧客に対して最初の接触機会を作ることができる。
例えば、業界の最新動向をまとめた資料を無償で提供することで、顧客の心理的な「借り」を作り出すことが可能だ。
それから、人間には、手に入れるのが困難なものほど魅力的に感じられるという希少性の原理が働く。
心理学的には、チャンスを逃したり損をすることを嫌うという人間の性質から説明できる。
タイムセールなどの時間制限や限定商品などはこの希少性を活かしたものだ。
無関心な顧客に対しては、「今だけ」「あなただけ」「限定◯名」といった希少性を演出することで、興味の扉を開くことができる。
重要なのは、この希少性が虚偽ではなく、実際に価値のあるものでなければならないということだ。
業界別成約率データから見る戦略立案
商談化率とは、獲得したリードが商談へとつながった割合を指す。
これも営業成約率と同じく前後するが、平均値は30%程度となっている。
しかし、業界によってこの数字は大きく変動する。
例えば、BtoB企業向けのソフトウェア販売では、商談化率が20%を下回ることも珍しくない一方で、金融商品の営業では50%を超えるケースもある。
この差は、商品の性質と顧客の購買プロセスの複雑さに起因している。
営業成約率が上がらない原因として、「営業を個人に一任し属人化しているケース」「必要な営業担当者を理解していないケース」の2点が考えられる。
営業活動を各営業マンに任せている場合、属人化が起こることで営業成約率に悪影響が及ぶ。
対策として重要なのは営業プロセスの可視化だ。
営業プロセスを可視化し、プロセスごとに数値化することで、営業上の課題や成約に至らないボトルネックの発見が可能になる。
また、数値化した情報を共有したり、教育に用いたりすることで、組織全体で営業スキルの標準化が行える。
デジタル時代の不聞不問顧客へのアプローチ
現代の購買行動モデルでは、SIPS(Sympathize → Identify → Participate → Share)という概念も登場している。
マスメディア時代の「Attention(注意)」からはじまるのではなく、ユーザー同士の「Sympathize(共感)」から情報が伝わることが特徴だ。
ユーザーが、SNSを通じて企業の営業活動に参加することも、ほかのフレームワークにはないプロセスといえる。
AISASの最大の特徴は、消費者が情報を「検索」し、その後の行動を「共有」する点にある。
従来の消費者行動フレームワークである「AIDMA(アイドマ)」では、情報の受け手が受動的に行動する過程を重視していたが、AISASはインターネットを介して消費者が能動的に情報を収集し、体験を他者と共有する行動に焦点を当てている。
これは不聞不問の顧客に対するアプローチにおいて重要な示唆を与える。
完全に無関心な顧客でも、何らかのきっかけで情報収集行動を開始することがある。
その瞬間を捉えるためには、SEO対策やコンテンツマーケティングによる「待ちの営業」が有効だ。
データドリブンな営業戦略の構築
HubSpotが2023年2月に発表した「日本の営業に関する意識・実態調査2023」によると、「働く時間のうち無駄だと感じる時間の割合」を営業担当者に質問したところ、業務時間のうち22.37%が無駄だと感じられていることがわかった。
これは金額に換算すると年間約9,802億円にものぼり、前回調査時より約1,500億円の増加となっている。
この無駄な時間の多くは、不適切なターゲティングや非効率な営業プロセスに起因している。
不聞不問の顧客に対するアプローチを効率化することで、この無駄を大幅に削減できる可能性がある。
HubSpot Researchの調査によると、1か月間にパイプラインに追加される商談数が50件以下の企業では、収益目標を達成できない割合が72%であるのに対し、51~100件の企業では15%、101~200件の企業ではわずか4%にとどまる。
このデータは、営業活動における量的側面の重要性を示している。
不聞不問の顧客にアプローチする場合、初期の接触率は必然的に低くなるため、十分な母数を確保することが成功の鍵となる。
「不聞不問」攻略法
stak, Inc.では、不聞不問の顧客に対するアプローチにAI技術を活用している。
過去の成約データを分析し、無関心だった顧客が興味を示すタイミングやトリガーを特定することで、アプローチの精度を大幅に向上させている。
特に重要なのは、顧客の行動データを継続的にモニタリングし、関心度の変化を察知するシステムの構築だ。
WebサイトへのアクセスパターンやSNSでの反応など、微細な変化を捉えることで、最適なタイミングでのアプローチが可能になる。
無関心な顧客に対しては、いきなりの売り込みではなく、段階的な信頼構築が必要だ。
まず業界の専門家としてのポジションを確立し、次に顧客の課題解決に役立つ情報を継続的に提供する。
この過程で顧客の不聞不問の態度は徐々に関心へと変化していく。
重要なのは、各段階で適切なKPI設定を行い、プロセスの進捗を定量的に評価することだ。
例えば、メール開封率、資料ダウンロード率、セミナー参加率などの指標を通じて、顧客の関心度の変化を測定する。
まとめ
営業において最も困難とされる不聞不問の顧客攻略は、実は最も大きな成果をもたらす可能性を秘めている。
なぜなら、多くの競合他社がこのような顧客を敬遠するため、成功すれば独占的なポジションを獲得できるからだ。
重要なのは、心理学的アプローチとデータドリブンな戦略を組み合わせることだ。
返報性や希少性といった人間の根本的な心理特性を理解し、同時に購買行動モデルや成約率データに基づいた科学的なアプローチを行う。
stak, Inc.では、このような統合的なアプローチにより、従来は不可能とされていた不聞不問顧客の獲得を実現している。
テクノロジーの力と人間心理の深い理解を組み合わせることで、営業の新たな可能性を切り開いているのだ。
営業とは単なる商品の売買ではない。
それは人間の心理と行動を深く理解し、価値ある関係性を構築するプロフェッショナルな活動だ。
不聞不問の顧客こそ、その真価が問われる最も重要な舞台なのである。
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