無事息災(ぶじそくさい)
→ 病気や災いがなく、平穏に暮らしているさま。
無事息災という言葉は、日本人の長い歴史の中で脈々と受け継がれてきた幸福の象徴だ。
平安時代、貴族たちは宮中行事や神事を通じて「無病息災」を祈願していた。
鎌倉時代以降、庶民の間にも「無事息災」を願う習慣が広まり、現代に至るまで正月や節分、大晦日の行事で「一年の無事息災」を祈る文化が息づいている。
この言葉の背景には、日本列島が自然災害や疫病と隣り合わせで生きてきた歴史がある。
地震や台風、洪水、そして疫病は、常に人々の命を脅かしてきた。
そのため、「無事息災」は単なる健康祈願ではなく、家族や地域全体の平穏を願う祈りでもあった。
仏教や神道の影響も大きい。
仏教では「息災」とは災いを断ち切ることであり、神道では神々の加護による無事を願う。
このような宗教観が根底にあり、日本人は「無事息災」を人生の最大の願いとしてきた。
実際、江戸時代の町人や農民の日記には「家族が無事に過ごせたこと」を感謝する記述が多く見られる。
現代でも、正月の初詣や神社へのお参りで「無事息災」を祈る光景は、日本人の幸福観の根底を象徴している。
現代日本と世界の幸福度ランキング
2025年、国連の「世界幸福度ランキング」で日本は55位。
前年の51位からさらに順位を下げ、G7諸国の中では最下位だ。
一方で、フィンランドは8年連続で1位を獲得し、デンマーク、アイスランド、スウェーデン、ノルウェーなど北欧諸国が上位を独占している。
このランキングは、国民一人あたりのGDP、健康寿命、人生選択の自由、社会的支援、寛容さ、汚職のなさ、見知らぬ人への親切など、7つの指標をもとに算出される。
日本は経済的には豊かだが、社会的つながりや親切の指標で大きく引き離されている。
たとえば、フィンランドでは「見知らぬ人への親切」が非常に高く、街中で困っている人がいればすぐに助ける文化が根付いている。
一方、日本では「他人に迷惑をかけたくない」という意識が強く、社会的な距離感が生まれやすい。
この違いが、幸福度ランキングの差に現れている。
さらに、日本の幸福度は年齢によって大きく異なる。
内閣府の「国民生活に関する世論調査」によれば、40歳前後が最も幸福度が低く、高齢者ほど幸福度が高い傾向がある。
これは、働き盛りの世代が経済的・社会的プレッシャーを強く感じている一方、高齢者は家族や友人とのつながり、健康、余暇を楽しむ時間が増えるためだと考えられる。
競争社会と無事息災の矛盾:なぜ豊かなのに幸せを感じにくいのか?
現代日本は「もっと稼げ」「もっと評価されろ」という競争や成果主義が蔓延している。
企業では成果主義が導入され、学校では偏差値や学歴競争が激化している。
しかし、本当に幸福度が高いのは「病気や災いがなく平穏に暮らせること」だというエビデンスが国内外で揃っている。
イプソス2025年調査によると、日本人が幸せであると感じる要因の1位は「家族との関係(41%)」、幸せではないと感じる要因の1位は「経済的な状況(64%)」だ。
つまり、経済的な不安が幸福度を大きく下げている一方で、家族との良好な関係が幸福に直結している。
また、デジタル庁の地域幸福度調査では、日本全体の幸福度・生活満足度の平均は約6.5点(10点満点)で、高齢者ほど幸福度が高い傾向がある。
40歳を底に、年齢が上がるにつれて幸福度が上昇するというデータは、無事息災の価値を裏付ける。
さらに、厚生労働省の「国民生活基礎調査」では、健康状態が「良くない」と答えた人の幸福度は明らかに低く、逆に「非常に良い」と答えた人の幸福度は高い。
健康が幸福度に直結していることは、多くの調査で裏付けられている。
無事息災が幸福度を高める理由
第一生命経済研究所の調査によれば、精神的ゆとり感が幸福度と最も強い相関を持つ。
経済的・時間的ゆとり感よりも、心の余裕が「幸せ」を感じるために重要だ。
実際、ゆとりがあると感じている人ほど幸福度得点が高い。
また、神戸大学の研究では、所得や学歴よりも「健康」「人間関係」「自己決定」が幸福感に強い影響を与えることが明らかになっている。
特に自己決定度が高い人は、幸福感も高い。
つまり、自分で人生を選べる環境が、無事息災に近い状態を作り出す。
さらに、日本老年学的評価研究(JAGES)の調査では、高齢者がインターネットで友人や家族とコミュニケーションを取ることで、健康感が1.6倍、幸福感が1.4倍高くなるという結果が出ている。
他者とのつながりが、健康や幸福を支えている。
また、アメリカのハーバード大学が75年間にわたって追跡調査した「幸福の研究」では、良好な人間関係が健康と幸福に最も大きな影響を与えることが明らかになっている。
社会的に孤立している人は、そうでない人に比べて死亡率が高く、幸福度も低い。
社会的つながりと共食の力:「孤食」から「共食」へ
世界幸福度報告書2025のテーマは「Caring(思いやり)とSharing(分かち合い)」。
特に「家族や友人と一緒に食事をした回数」が生活評価と強い相関を持つことが明らかになった。
調査によると、1週間で13回以上誰かと食事を共にした人は、生活評価が最高値(6.1点)に達する。
これは、無事息災が「孤食」ではなく「共食」と密接に関係していることを示している。
食事を共にする回数が増えるほど、ポジティブな感情が増し、ネガティブな感情が低下する。
また、他人への親切や見知らぬ人への支援が、幸福度に大きく寄与することも明らかになっている。
北欧諸国では、紛失した財布の返却率が高く、他人への信頼感が高いほど幸福度も高い。
一方、日本では「他人に迷惑をかけたくない」という意識が強く、社会的な距離感が生まれやすい。
さらに、内閣府の調査では、地域の行事やボランティアに参加している人の幸福度が高い傾向がある。
社会的なつながりが強い地域ほど、住民の幸福度が高いというデータも出ている。
所得や学歴よりも「無事息災」が幸福に直結
多くの人が「もっとお金が欲しい」「もっと学歴が欲しい」と考えがちだが、実際は所得や学歴が幸福度に与える影響は限定的だ。
たとえば、所得が幸福度に与える影響は、年収約1,100万円までは強いが、それ以上はほとんど変わらないというデータがある(イースト・アングリア大学の研究)。
また、学歴が高いほど幸福度が高いという傾向はあるが、その差は大きくない。
むしろ、健康や人間関係、自己決定権の方が幸福度に与える影響は大きい。
たとえば、健康状態が「非常に良い」と答えた人の幸福度は、「良くない」と答えた人の約2倍に達する。
さらに、アメリカの心理学者マーティン・セリグマンは「ポジティブ心理学」の中で、幸福の約50%は遺伝や環境、所得などではなく、「意図的な行動」によって決まると述べている。
つまり、自分の意志で「無事息災」を目指すことが、幸福への近道だ。
データで見る「無事息災」の価値
世界各国の幸福度を比較すると、北欧諸国が常に上位を独占している。
その理由は、社会的な信頼感や寛容さ、そして「無事息災」を支える社会保障制度が充実しているからだ。
たとえば、フィンランドでは「ベーシック・インカム」の実験が行われ、経済的不安を軽減することで幸福度が上がることが示された。
また、デンマークでは「ヒュッゲ」と呼ばれる「心地よさ」や「居心地の良さ」を重視する文化が根付いている。
一方、日本は経済的には豊かだが、社会的つながりや信頼感が弱く、幸福度が伸び悩んでいる。
しかし、地域コミュニティが強い地域ほど、住民の幸福度が高いというデータも出ている。
たとえば、広島市の一部地域では、住民同士の交流やボランティア活動が盛んで、幸福度が全国平均を上回っている。
また、日本老年学的評価研究(JAGES)の調査では、地域のサークルや趣味のグループに参加している高齢者の幸福度が高い傾向がある。
社会的なつながりが、健康や幸福を支えていることは、国内外のデータで裏付けられている。
高齢者の幸福度が高い理由
高齢者ほど幸福度が高い傾向は、国内外の調査で一貫して見られる。
その理由は、健康や人間関係、自己決定権、そして「無事息災」を実感しやすいからだ。
たとえば、内閣府の調査では、60代以上の約70%が「幸せである」と答えている。
一方、30代~40代は約50%にとどまる。
これは、高齢者が経済的なプレッシャーから解放され、家族や友人とのつながりを大切にしているためだと考えられる。
また、高齢者は「今を生きる」ことに集中しやすく、過去の失敗や将来の不安に縛られにくい。
この「今を楽しむ」姿勢が、幸福度を高めている。
アメリカの心理学者エレン・ランガーは「マインドフルネス」の研究で、「今この瞬間」に意識を向けることが幸福につながると述べている。
さらに、高齢者は社会的な役割やボランティア活動を通じて、他者とのつながりを実感しやすい。
これが、健康や幸福を支える大きな要因になっている。
テクノロジーと無事息災
テクノロジーは、現代社会で失われがちな「無事息災」を支える力を持っている。
遠隔地の家族や友人とのコミュニケーション、高齢者の健康データ共有、地域コミュニティの活性化など、stak, Inc.が目指すのは「誰もが無事息災に暮らせる社会」だ。
たとえば、スマートフォンやタブレットを使った遠隔コミュニケーションは、高齢者の孤立を防ぎ、健康や幸福を支える大きな役割を果たしている。
日本老年学的評価研究(JAGES)の調査でも、インターネットを活用して友人や家族とつながっている高齢者は、健康感や幸福感が高いことが明らかになっている。
また、AIやIoTを活用した健康管理システムは、病気の早期発見や予防に役立っている。
これにより、無事息災を実現しやすくなっている。
さらに、地域コミュニティの活性化を支援するアプリやサービスも、社会的つながりを強化し、幸福度を高める効果がある。
stak, Inc.は、テクノロジーを通じて「無事息災」の価値を最大化することを目指している。
まとめ
現代社会は「もっと稼げ」「もっと評価されろ」という競争の渦に巻き込まれている。
しかし、国内外の膨大なデータが示すのは、本当の幸福は「病気や災いがなく平穏に暮らせること」、つまり無事息災にあるということだ。
- 家族との関係が幸福度に最も大きく寄与する
- 経済的な不安が幸福度を最も大きく下げる
- 精神的ゆとり感が幸福度と最も強い相関を持つ
- 自己決定権が高い人ほど幸福感が高い
- 社会的つながりや共食が幸福度を高める
- 高齢者ほど幸福度が高い傾向がある
これらのデータは、無事息災が単なる「健康」や「平穏」だけでなく、人間関係や自己決定、社会的つながりも含むことを示している。
競争社会の中で忘れがちな「無事息災」の価値。こそが、人生の最期に「本当に良かった」と思える幸せの本質だ。
競争や成果主義が蔓延する中で、私たちは「無事息災」の価値を改めて見直すべきだ。
テクノロジーを通じて、人と人のつながりを強化し、誰もが心から「幸せ」と思える社会を実現したい。
それが、stak, Inc. のCEOとしての使命だと思っている。
無事息災は、単なる「病気や災いがない」状態ではない。
家族や友人とのつながり、自己決定権、精神的ゆとり感、社会的信頼感、共食の習慣など、多様な要素が絡み合って生まれる「幸せの総合力」だ。
国内外の膨大なデータが示すように、競争や成果主義だけでは本当の幸福は手に入らない。
人生の最期に「無事息災で良かった」と思えることが、最高の幸福だ。その価値を、改めて見直すべき時が来ている。
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