謬悠之説(びゅうゆうのせつ)
→ でたらめで、とりとめのない考え。
謬悠之説は古来より「でたらめで、とりとめのない考え」を示す言葉として使われてきたと推測されるが、由来を厳密に示す史料は意外なほど少ない。
室町時代に編纂された仏教関連の文献に一部登場するという説もあるが、定かではない。
現代では「正しくない情報を前提に好き勝手に膨らんでいく話」程度の意味で受容されていることが多い。
この言葉が改めて注目される背景には、グローバル化とデジタル化によって情報が容易に世界を巡回し、不特定多数が多量の情報を日常的に受け取るようになった社会構造がある。
特にSNSの普及やAI技術の台頭は、真偽不明のまま拡散される情報の質と量を爆発的に増大させた。
さらに「フェイクニュース」という概念が2016年頃から世界的に認知度を高めている。
そのきっかけの一つとして、アメリカの大統領選挙においてSNSを通じて流布された多数の偽情報が大きな論争を呼んだという事例がある(Statista, 2021年データ参照)。
こうした偽情報の蔓延が「謬悠之説」という言葉を再評価させ、AIを含めた技術革新が真偽の境界線をさらに曖昧にしている。
ということで、謬悠之説をキーワードに、AIの隆盛で激増する虚構と人々の認知・行動に与えるインパクトを徹底調査する。
そして、それらが生む未来を予測しつつ、対応策についてもまとめていく。
AIの台頭と情報の肥大化
AIが社会に与えている影響は、過去数年の推移を見るだけでも歴然としている。
OpenAIのChatGPTはローンチ後2か月で月間ユーザー数1億人を突破したというレポートがある(UBSレポート, 2023年2月)。
これは歴史上類を見ないほどのスピードで普及していることを示す。
GoogleやMetaなどのIT企業もこぞって類似モデルを発表し、画像や動画を生成する生成系AIも続々と市場に投入されている。
こうしたAI技術の進歩は、確かに便利さと創造性を高める。
しかしながら、同時に「大量の情報が一瞬で生成・配信される環境」を作り出しているため、真偽を判定する作業が極めて困難になるリスクも増大している。
いわばAIによるフェイク画像やフェイク音声、フェイクテキストが「謬悠之説」の拡大を後押ししているのだ。
米国のSensity社の調査(2022年)によると、インターネット上に投稿されたAIによるディープフェイクの数は、2020年から2022年にかけて約9倍に増えているとされる。
人間の目で見分けるのが極めて困難な偽映像・音声が氾濫すれば、その情報が信頼に足るのか否かを一人ひとりが判断するために多大な時間と労力が必要になる。
自分が何気なくSNSで目にしたニュースや動画の裏側に、複雑なAIアルゴリズムが潜んでいる可能性は十分にある。
まさに「謬悠之説」が乱立する下地が完璧に整いつつある時代といえよう。
肥大化する情報がもたらす社会的問題
では、膨れ上がった情報量と、そこに混在する虚偽や誤情報が具体的にどのような問題を引き起こすのか。
最大の問題は「情報の正確性」と「情報の透明性」が失われることだろう。
たとえば医療分野でいえば、誤った健康情報や根拠の薄い治療法がSNSや検索エンジンでバイラルに広がり、結果として患者の治療機会を損ねたり、誤った薬を服用する危険性すら生まれている(WHOレポート, 2019年)。
AIが生成した医療関連のフェイクニュースは、専門家が見ても判別に時間がかかるほど精巧になりつつあり、個人が鵜呑みにしてしまうリスクはさらに高まる。
政治分野においても、支持政党や政策への感情を煽るような虚偽のデータが大量拡散されれば、民主主義の根幹である選挙や議論自体に深刻な影響を及ぼす。
実際、米大統領選挙においてSNS上の政治広告が世論形成に与えたインパクトは大きく、ケンブリッジ・アナリティカ問題なども記憶に新しい。
これらはすでに世界各国で起きている事例であり、フェイクニュースへの慎重な対応は国際機関でも重要課題になっている。
そして経済分野でも、株価操作や仮想通貨をめぐる風説の流布など、AI生成コンテンツによるマーケット操作が懸念されている。
証券取引委員会や金融当局の目を掻い潜るような、高度に偽装された報道やSNS投稿が秒単位で流通し、投資家が誤った情報をもとに売買を行うことで市場が混乱する可能性がある。
ニュース速報の速度がAIを介して加速度的に上がっている以上、その真偽判定を人間が追いつくのは至難の業だ。
こうした問題の根底には「いくらでも生成できる情報」に接している消費者の時間リソースの限界がある。
消費者、つまり多くの一般ユーザーは、自分が見聞きするすべての情報について裏を取る作業を常にこなすわけにいかない。
その結果、間違った情報が公共の認識として定着してしまう危険性が高まる。
別の視点と新たなデータの裏付け
ここで視点を変えるために、逆に「どのような情報が正しいと信頼されているのか」を見てみる。
Reuters Instituteが発表した2022年のデジタルニュースレポートによれば、「信頼するニュースソースがある」と回答したユーザーは調査対象国平均で約44%にとどまっている。
また、SNSで見かける投稿を「全体的に信頼している」と答えた人は15%に満たなかったという。
これはすなわち、大多数の人々がすでに「情報には玉石混交が含まれている」という認識を持っていることを示唆する。
しかし、信頼する情報のフィルターは人によってまちまちで、いわゆる“エコーチェンバー”現象が発生しやすい。
自分の価値観に合う情報のみ集め、異なる情報源を排除し続ける結果、真偽に関係なく同じ考えの人が集まるコミュニティでは誤情報が増幅される。
これはAI技術の有無にかかわらずすでに起きていたが、AIによってさらに加速し、一部の人々が「謬悠之説」を肥大化させる温床になっている。
視点を変えてデータを追うと、AI技術が提供するメリットも巨大であることは否定できない。
例えば自然言語処理技術を使えば、大量のSNS投稿を短時間で解析して、誤情報の拡散速度や主な流布源を特定できる可能性がある。
欧州連合(EU)ではすでにフェイクニュース対策の一環としてAI分析ツールを活用する実証実験が行われている (European Commission, 2022年報告) が、その効果は徐々に出始めているとみられる。
しかし、こうした対策は常に「追いかける側」の立場であり、生成技術の進化スピードに対応しきれない懸念がつきまとう。
新たな生成モデルが登場すれば、そのたびにディープフェイク検知アルゴリズムを更新しなくてはならないというイタチごっこになりがちだ。
ここにさらなるブレイクスルーが必要とされている。
スタートアップとしての一視点
謬悠之説が横行する時代には、もはや「何を信じて行動するのか」が一段と重要になる。
個人の視点であれ企業経営の視点であれ、信用を勝ち取るにはエビデンスを明確に示し、実績と透明性を高める努力を継続するしかない。
メディアリテラシーの啓発やAIリテラシーの底上げといった地道な活動こそが、大きな差異を生むと考えている。
私はstak, Inc.のCEOとして、機能拡張型IoTデバイスの開発やデータ利活用の事業を手掛けている。
IoTの分野もまた、センサーなどが生成する膨大なデータがリアルタイムで飛び交う世界だ。
ここにはフェイクニュースほどセンセーショナルではないものの、「ノイズデータ」と「有用データ」の振るい分けが必要で、偽のセンサー値や改ざんされたデータは重大なトラブルを引き起こす。
stak, Inc.としては、情報の検証を簡易化する仕組みや新たな体験価値を創出するサービスの提供を使命と考えている。
IoTは人間の生活をリアルなセンサー情報から変えていく可能性を持つが、同時にフェイクやデマからの防御策を組み込むことがビジネスの信頼性に直結する。
だからこそ、AIと共存する形で情報の信憑性を高める技術や仕組みを積極的に取り入れる予定だ。
もちろんスタートアップが一社で世界を変えるのは簡単ではない。
だが、社会の課題を解決することは企業価値の向上にもつながる。
結果として「謬悠之説」が蔓延する世界で信頼を得る企業としてブランド認知が進むなら、会社としての成長スピードも加速する。
必要なのは革新的な技術だけでなく、ユーザーの声に耳を傾けて真に求められているエビデンスと透明性を提供し続ける姿勢だ。
まとめ
謬悠之説が渦巻く社会の行き着く先を考えると、あまりに大量のフェイクやノイズ情報に人間が疲弊し、情報の価値そのものが相対的に低下する危険がある。
しかし、逆説的だが、そのタイミングこそ「本物の情報」や「信頼に足る検証過程を経たデータ」の価値が高まる瞬間でもある。
ここまで見てきたように、AIによる情報生成とその拡散は爆発的に加速している。
Sensity社のディープフェイクに関するデータや、Reuters Instituteのニュース信頼度調査などの数値は、「人々が何を信じているのか、何を疑っているのか」を定量的に把握するうえで貴重な情報源となる。
そして、フェイクを検知する技術開発も活発化しているが、そのスピードも需要に追い付いていない現実がある。
では、最終的にどうすべきか。
自分の結論としては「AIと人間が継続的に学び合うサイクルを回すしかない」というシンプルな答えに行き着く。
AIが進化すれば新たなフェイクが生まれる。
それを見破る技術やリテラシーを高めることで対抗し、それをさらにAIに学習させる。
こうした反復を怠らずに回していけば、人類全体で謬悠之説をある程度コントロールできる可能性は残されている。
私がCEOを務めるstak, Inc.においても、IoTという別分野でありながら「データの信頼性」という本質的なテーマは共通している。
企業としてのブランディングや採用の観点から見ても、フェイクやノイズを除去し、本質的な価値を追求する姿勢こそが時代の要請に合致すると確信している。
謬悠之説の存在が当たり前になる未来だからこそ、膨大な情報のなかから裏付けを引き出し、正しいデータを可視化する技術と姿勢を持つ者が抜きんでる。
今まさに社会全体がその転換点に立っている。
だからこそ、どの業界であれ必ず「信用の担保をどのように行うか」という問いは避けて通れない。
AIが引き起こすでたらめでとりとめのない情報洪水を攻略できた者が、未来をリードする。
ここまで約数々のデータを見ながら問題提起をしてきたが、結局は「フェイクか否か」という白黒二元論では終わらないのが現実だ。
情報にはグラデーションがあり、人々の認知バイアスも複雑に絡み合う。
ゆえに最終的な解決策は「リテラシーの向上」「技術的対策の進化」「組織的なチェック体制の整備」、これらを統合して進めるしかない。
謬悠之説の時代を生き抜くには、自らが情報発信者としての責任を持ち、受信者としての批判的思考を磨き続けることだ。
AIを恐れず利用し、誤情報の検知も積極的にAIに任せ、常に最先端の情報技術を学び取りながら自らの判断力を高める。
これらが唯一の防御策であり、同時に次のイノベーションを起こすための武器になる。そう信じて先に進むのみだ。
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