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2025年2月23日 投稿:swing16o

データで見る約束厳守と柔軟対応の最適バランス

尾生之信(びせいのしん)
→ 約束を必ず守り抜く人のたとえ、一方で愚直で融通がきかない者のたとえ。

尾生之信(びせいのしん)は古代中国の故事から生まれた概念であり、約束を守るあまりに命を落としてしまった男の逸話に由来するとされる。

橋の下で女性と会う約束をし、相手が来るまで頑なに待ち続けた結果、大雨で川が増水して流されてしまったという話が有名だ。

この故事は「約束を守る美徳」と「融通が利かない愚直さ」の両面を強く象徴している。

同じような価値観は、日本の武士道精神にも通じる部分がある。

「武士に二言はない」という言葉が示すように、約束を守ることは古来より重視されてきた。

現代の社会でも、期限厳守や目標達成を徹底するストイックな姿勢は高く評価されがちだ。

しかし、環境変化のスピードが速いビジネスシーンでは、一方的な堅守が裏目に出るケースも少なくない。

厳しい競争環境下で新しい情報や事情が生まれたとき、初期の計画や合意事項を絶対に崩さない態度は、時として大きな損失を招く原因となる。

そのため本題として提起したい問題は「約束を守ること自体は素晴らしいのに、なぜ頑なに貫きすぎると愚直で扱いにくい存在とみなされるのか」という点である。

尾生之信が暗示するように、境界を踏み外せば周囲から敬意どころかマイナス評価を受ける可能性がある。

ここでは、その境界線を徹底的に見極めるために、具体的なデータや事例を紹介しながら解説する。

経営視点を踏まえたうえで考えると、約束と柔軟性のバランスこそが、個人の成長や組織の成果を左右する大きなカギだと言える。

約束を守りすぎる人が直面する問題

まず、何が具体的に問題なのかを整理する。

約束を過度に重視しすぎると、大きく分けて以下のような弊害が生じることがある。

想定外の状況変化に対応できない

企業経営やプロジェクト運営の場面では、環境の変化は避けられない。

競合他社の動きや市場トレンドのシフト、技術的な問題など、当初の計画では考慮していなかったハードルが出現することはよくある。

にもかかわらず、最初の合意内容や納期を神聖不可侵のように扱い続けると、後からアップデートしてきた競合の製品に追い抜かれたり、ユーザーニーズが変わってしまった結果、プロダクトそのものの魅力が色褪せるリスクが高まる。

社内コミュニケーションの硬直化

約束を守ることを極端に最優先するあまり、「変更を提案すると怒られる」「新しいアイデアを出しづらい」という雰囲気がチーム内に生まれやすい。

ミーティングで「それは最初に決めたことだから」という一言で片づけてしまうケースが増えれば、組織のクリエイティビティは下がるばかりである。

こうした事態を回避しようと部下が黙ってしまえば、結果的にリスクが顕在化してから大きなトラブルに発展する可能性も高い。

経営資源の無駄な消費

「初期合意どおりに進める」ことだけをゴールに据えていると、途中で調整や再交渉をする時間が取れず、あるいは必要性を認めずに押し通す傾向が強まる。

その結果として、無駄な作業や不要な在庫が発生するなど、経営資源を最適化できない状況になりがちだ。

特に製造業では、小さな仕様変更を機動的に加えられればコスト削減につながるはずが、「一度決めたことだから」の一言で改善のチャンスを逃してしまうパターンが散見される。

これらの現象は、個人レベルでも同様に起こりうる。

たとえば、キャリアプランを決めた時点では魅力的だった会社に対して「3年は必ず在籍する」と固く誓っていても、業界の構造変化や自分の興味関心が変わったときに全く修正しないのは、かえって自分の成長機会を逃すリスクになる。

米国のコンサルティングファーム、マッキンゼーが2019年に発表した「組織変革への柔軟対応度調査」(1)では、周囲の変化に機動的に対応できる組織のほうが売上高成長率が平均22%高いとのデータが示されている。

一方で、規律を厳守するあまり方向転換が難しくなっている組織の多くが、業績の伸び悩みや人材の流出という問題に直面している。

約束厳守は大切だが、それを絶対視しすぎると組織全体のパフォーマンスを下げる事態につながるという明確な統計がある以上、もはや個人の美徳だけでは語りきれない問題になりつつある。

データで見る「堅守」と「柔軟」のバランス

ここで、もう少し踏み込んだデータを紹介したい。

「堅守」と「柔軟」を両立する組織や個人は、どの程度うまく物事を進められているのか。

具体的な比較データをいくつかピックアップする。

社内信頼度と柔軟性の相関

米国ギャラップ社が2021年に行った「組織における信頼度と柔軟性に関する調査」(2)によれば、「リーダーが約束をしっかり守る」ことが周知されている組織と、「状況変化に応じてプロセスを柔軟に変えられる」組織の両要素を満たしているチームでは、社員エンゲージメントが平均の1.4倍に達したという。

一方で、「約束の厳守」にのみ注力して変化を許容しないチームや、逆に「柔軟すぎて計画性がない」チームでは、エンゲージメントが平均を下回る傾向が見られた。

プロジェクト成功率における仕様変更の影響

IPA(独立行政法人情報処理推進機構)の2022年の調査(3)では、ITプロジェクトの成功要因として「納期や仕様を堅守すること」と「開発中の仕様変更を柔軟に取り入れること」の比較が行われている。

前者は予定どおりのスケジュールや予算でプロジェクトを完遂しやすいが、ユーザー評価や顧客満足度の向上という点での成果は全体の約51%にとどまった。

後者の場合は、多少の納期延長や予算オーバーを受け入れる代わりにユーザー満足度が78%と高く、最終的な製品価値を高めている例が多いという。

A軸とB軸での数値化モデル

約束を守ることをA軸(約束堅守度)、柔軟対応をB軸(柔軟対応度)として数値化する簡易モデルを考えるとわかりやすい。

A軸は1〜10で測り、10に近いほど「絶対に約束を破らない人」、1に近いほど「約束を守る意識が極端に低い人」というイメージ。

B軸も1〜10で測り、10に近いほど「どんな状況でも臨機応変に対応できる」、1に近いほど「まったく融通が利かない」という指標になる。

Aだけが高くBが低い場合、組織や上司から「信頼はできるけど融通が利かず厄介」という評価を受けるリスクがある。

逆にAが低くBだけが高い場合、「対応が柔軟すぎて予定が立たない」「肝心なところで信頼できない」という印象になりやすい。

結局のところ、この2軸をバランスよく高めていくアプローチこそが理想だと言える。

変化の時代に必要な別視点

ここで別の角度から再考察する。

世の中の変化が激しい時代においては、ビジネスの約束や契約そのものが流動的になりやすい。

特にスタートアップ企業が大企業と組むオープンイノベーションの場面では、当初の計画やスキームが途中で大きく変わることなど日常茶飯事だ。

テレワークの普及と働き方の変化

総務省の令和3年通信利用動向調査(4)によれば、企業規模の大小はあれどテレワークの導入率は大企業で57%、中小企業でも25%に達した。

勤務形態が変われば、当初の想定していた職場環境や業務フローが合わなくなり、新たなルールや合意事項を設定する必要性が高まる。

すなわち「約束していたから」と言い張るだけでは、ビジネスが回らなくなるリスクが極めて高い。

stak, Inc.の開発スタンス

自社のプロダクト開発においても、IoTデバイスの機能や通信プロトコルが進化すれば、それに合わせて仕様変更を柔軟に取り入れなければ市場に遅れを取る可能性がある。

最初に決まった仕様だけに固執し続けると、ユーザーが真に求める機能とはズレてしまうかもしれない。

ここで求められるのは「最初の約束は尊重しつつも、環境の変化を見極めて合意を再定義する」というプロセスであり、まさしく尾生之信が示唆する「約束を守る美徳」と「現実を踏まえた修正力」の両立である。

世界のユニコーン企業のアプローチ

ハーバード・ビジネス・レビューの2020年の調査(5)では、急成長を遂げた世界のユニコーン企業50社に対して、「初期の契約や約束をどのようにアップデートしているか」を尋ねたところ、約8割が大幅な見直しを積極的に行ったと回答している。

市場や技術の変化を受けて当初の計画を再構築し、パートナー企業との契約内容も随時更新しているケースが多い。

実際、約束を固守するだけではなく、新たな合意形成を通じてより高い次元の成果を狙う姿勢が、最終的な成功に結びついている。

まとめ

最後に、前述の問題提起へ結論を示す。

「どこからが愚直な頑固者で、どこまでが評価される約束厳守なのか」を数値化する場合、A(約束堅守度)は7を目安とし、B(柔軟対応度)は5〜7程度を常に確保することを推奨する。

Aを7以上に保つことで信用を積み上げながら、Bを5〜7に設定しておけば、想定外の変化に対してもある程度の余地を持って行動できる。

Aが極端に10に近づけば、確かに「絶対にブレない人」として高い信頼を得られる一方、環境変化への適応力は下がる。

逆にBだけが10に近いと、柔軟すぎて周囲から計画性を疑われるリスクが高い。

結局はこのバランスが鍵になるわけだ。

尾生之信の故事が現代ビジネスに教えてくれるのは「美徳の徹底」ではなく、「美徳を発揮しつつも過剰にはならないさじ加減」の大切さだと言える。

まとめとして、尾生之信は約束を守ることの価値を再認識させると同時に、周囲の状況を客観的に見極め、必要なときには再交渉や合意更新を行う柔軟性の欠如がいかに危険かを教えてくれる。

頑なすぎる態度は評価されるどころか、むしろ敬遠されてしまう可能性が高い。

逆に、変化を言い訳に安易に約束を反故にするような姿勢も信頼を損なう原因となる。

だからこそ「約束堅守」と「柔軟対応」の両輪を高い次元で回すことが、個人も組織も大きく成長するために必要な戦略だと考える。

 

【参考文献】
(1) McKinsey & Company「Building the flexible organization」(2019年)
(2) Gallup「Trust & Flexibility in the Workplace」(2021年)
(3) IPA「ITプロジェクト成功要因調査」(2022年)
(4) 総務省「令和3年通信利用動向調査」(2021年)
(5) Harvard Business Review「How Unicorns Adapt Their Contracts in Rapidly Changing Markets」(2020年)

 

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植田 振一郎 X(旧Twitter)

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