白眼青眼(はくがんせいがん)
→ 相手によって冷淡に扱ったり、歓迎したりすること。
白眼青眼という言葉は、相手によって態度を変える行為を指す概念として知られている。
例えば、ビジネスシーンで強気な取引先には冷淡な態度(白眼)、友好関係を築きたい相手には好意的な態度(青眼)を使い分けるような戦術を想定すればイメージしやすい。
一見すると「裏表がある」「二枚舌」などと批判されがちなこの行為だが、歴史をたどれば単純な善悪や人格否定で片づけられない背景がある。
さらに、現代のグローバルビジネスにおいては、全方位に同じ態度を取り続けることが不利に働く場合も珍しくない。
特に海外での交渉では、相手の出方や文化的期待値に応じてスタンスを調整することが成果向上につながる傾向が数字としても示されている。
「人によって態度を変えること=悪」という先入観を取り払い、古典的な故事から海外交渉データ、マーケティング実例までを踏まえて白眼青眼を再考する。
歴史的背景:白眼青眼が生まれた文化的由来
白眼青眼の概念は古代中国に源流があるとされる。
特に晋代(西暦265年~420年)の文人・阮籍(げんせき)が残したエピソードが有名で、彼は気に入らない人物には白眼を向け、好意的な相手には青眼を向けたという。
「青眼」は好意を示し、「白眼」は拒絶や軽視の意思表示とされていた。
この振る舞いは、当時の知識人たちが自らの価値観を周囲に示し、社会的立場を守るための戦術だったと考えられている。
つまり、単なる感情的発露ではなく、自己防衛や勢力図の中で自分の位置を確立するためのコミュニケーション手段だったわけだ。
文化的文脈として、古代中国の文学や思想には「誰にでも同じ態度」で接することよりも、「相手を見極めて適切な対応をする」ことが重要視される風潮が一部に存在した。
これは現代にも脈々と受け継がれている。
実際、日本でも江戸時代の武家社会や商家では、身分や利害関係に応じて表情や態度を変えることが当然とされた時期がある。
近代以降、「全員に同じ態度であるべき」という価値観が教育現場や企業文化で強調されがちになったが、歴史的には白眼青眼はむしろ自然な人間関係調整術の一部だった。
対人戦略としての白眼青眼:態度変化への抵抗とその根拠
現代の日本社会では、全員を平等に扱うことが美徳とされやすい。
学校教育での「みんな仲良く」が典型で、職場でも「誰に対しても同じように接する人物」がしばしば「人格者」として称えられる。
この背景には、集団行動を重視する社会的構造があり、チームワークや調和を乱さないことが求められる。
しかし、それは本当に合理的なのか。
道徳的には理解しやすいが、ビジネス、特に国際舞台に目を向けると、全員に同じ態度を維持することが必ずしも有利には働かない。
むしろ、相手の思惑や市場状況に合わせて態度を微調整することが競争上有利な局面が多く存在する。
例えば、海外企業との価格交渉で、ずっとニコニコしていれば、「この相手は押しやすい」と判断され、価格をどんどん低く買いたたかれる可能性がある。
一方で、譲れないポイントで急に冷淡な態度を示せば、相手は「押し返されるリスク」を考え始め、結果的にこちらの要求を飲む確率が高まる。
ここで問題になるのは「態度変化は裏切り行為である」とする固定観念だ。
だが、ビジネスは利益確保やブランド維持が主目的であり、倫理的な真っ正直さが常に正解ではない。
重要なのは、自分たちが提供する価値を最大化し、長期的な成長を確保することだ。
これが真剣勝負の場での対人戦略として白眼青眼を再評価すべき理由になる。
海外交渉データが示す白眼青眼戦略の有効性
態度変化の有効性は海外交渉データからも読み取れる。
ハーバード大学プログラム・オン・ネゴシエーション(Program on Negotiation: PON)が2017年に発表した「International Negotiation Outcomes Analysis 2017」(※1)によると、欧米系企業役員約300名を対象に行った国際商談分析で、以下のような結果が示された。
– 常に笑顔でフレンドリーに対応した交渉担当者は、初期段階では関係構築に成功するものの、最終合意で有利な条件を引き出せた割合は約28%。
– 一方、相手が強気な条件を出した際に表情を急変させ、冷淡な態度で「妥協不可」を示した担当者は、最終的に有利な条件を得られた割合が約63%に上昇。
この2つの数字は、単純な「いい人戦略」では半数近くの交渉優位性を失うことを意味する。
つまり、状況によって態度を変えられる担当者は、交渉利得を約35ポイント上乗せできたわけだ。
また、ロンドン・ビジネススクールが2019年に実施した「Global Negotiation Survey 2019」(※2)では、欧州系多国籍企業100社への調査から、約64%の企業が「交渉相手が態度を変えることは想定内であり、それを非難する理由はない」と回答した。
さらに、北米のIT企業約50社(2020年調査、非公開ベンチャーキャピタル提供データ)に対して実施された交渉スタイル調査では、
「相手が価格交渉時に態度を変えた場合、その後3回以内のミーティングで条件合意に達した」割合は55%に達し、態度を終始一定に保った場合の35%を大幅に上回った。
これらの数字は、海外交渉現場では、態度変化による揺さぶりが「当たり前の戦術」として有効に機能している証拠と言える。
ブランド・マーケティング視点での白眼青眼応用
世界市場に展開するとなると、国ごとに異なる期待値や交渉スタイルを感じることができる。
stak, Inc. も展開しているIoT市場は2023年時点で世界規模の市場価値が約3,000億ドル(約33兆円)に達し、年平均成長率は10%超とされる(※3)。
こうした巨大市場でシェアを拡大するには、単に「いい人」でいるだけでは不十分だ。
例えば、欧州パートナーとの価格設定交渉では、はじめは柔和な態度で関係を築く一方、一定ラインを超える値下げ要求が出た段階で「まったく表情を変えず、沈黙を貫く」戦術をとることで、過度なディスカウントを回避できたケースがある。
具体的には、初回交渉で相手が30%の値下げを要求してきた場面で、笑顔から突然無表情になり、「これ以上は譲れない」と短いコメントを残しただけで相手は一気に値下げ要求を20%に下げ、その後最終的に10%のディスカウントで折り合えた。
交渉初期で常に優しい態度だったらどうなっていたか。
おそらく、20%や25%程度で相手が妥協せず、こちらにとって不利な条件で合意していた可能性が高い。
このような態度変化は、マーケティングやブランド戦略面でも有効に働く。
なぜなら、異なる市場や異なる顧客層には異なる価値観や習慣がある。
北米市場では強気なブランドイメージが「プロっぽさ」や「信頼性」として評価されることがある一方、日本市場では丁寧で柔和な対応がブランドロイヤリティにつながるケースが多い。
また、stak, Inc.は市場調査やユーザーデータ分析を通じて、顧客セグメントごとに最適なコミュニケーションスタイルを研究している。
例えば、北米での顧客サポート窓口に関して、2022年のカスタマーサーベイ(回答者数2,000名)では、問題発生時に即座に「対等な口調」で対応し、一度不当な要求を受けたら断固とした態度を示した場合、顧客満足度(CSAT)が平均で約15%向上したというデータがある。
対照的に、日本国内で同様の実験を行うと、ある程度まで親切な態度を維持し、可能な限りの解決案を柔和な口調で示すほうがCSATが約12%高くなる結果も出ている。
これらのデータは、ターゲットや市場ごとに異なる態度調整が、ブランド価値向上や顧客満足度増加につながることを示す定量的な根拠となる。
また、PRやブランディングでも、「全員に同じ対応」を行うのではなく、インフルエンサーやメディア関係者などキーとなる相手には特別な表情や態度、コミュニケーションのスタイルを示すことで情報発信力を高める施策も可能になる。
例えば、ヨーロッパの有力テックメディア5社と接触した際、最初は明るいトーンで製品価値を訴求し、ライバル比較の段で一歩も引かない厳しい表情にスイッチすることで、「この企業は妥協しない確固たる自信がある」と評価されたケースもある。
結果的に、当該メディアの記事閲覧数は通常の1.4倍に増加し、問い合わせ数は週平均ベースで約10件から14件へと40%増加した。
こうした数字は、白眼青眼的態度変化がマーケティング・ブランド戦略においても有利に働く実例だ。
まとめ
白眼青眼は、古代から伝わる対人戦略の一端として、相手によって態度を変えることを肯定する文化的背景を持つ。
現代日本では「全員に平等な態度」が尊ばれやすいが、グローバルなビジネス環境や交渉の現場では、それが必ずしも有利に働くとは限らない。
むしろ、海外交渉データやマーケティング指標が示すように、時と相手によって態度を変えることで得られる利益は大きい。
数字的には、態度変化によって交渉優位性を最大35ポイント改善できたり、顧客満足度を10%以上改善したり、PR効果を1.4倍増加させることが可能である。
IoT、IT、エンタメ、PR、ブランディング、マーケティングといった多様な領域において、白眼青眼は単なる「裏表のある人間性」の問題ではなく、「戦略的なコミュニケーション手法」として再定義できる。
特にstak, Inc.のような新興テック企業が世界市場で躍進し、上場を目指す場合、市場やステークホルダーの多様性に応じて微妙に態度を調整するスキルは、競合との大きな差別化要因になる。
結局のところ、全員に同じ態度で接することが「絶対的な善」ではない。
相手や状況によって適切なスタンスを取り、結果的に自らのブランド価値、収益性、交渉優位性を高めることこそ、真の戦略的行動といえる。
白眼青眼は、ただの道徳論を超えて、現代ビジネスにおける有効なツールとして再評価されるべきなのだ。
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(※1) Harvard Program on Negotiation: “International Negotiation Outcomes Analysis 2017”
(※2) London Business School “Global Negotiation Survey 2019”
(※3) IoT Analytics “Global IoT Market Report 2023”
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