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2024年12月20日 投稿:swing16o

高齢化時代に増え続ける葬式参列機会と死亡データから読む新たな市場動向

伯牙絶絃(はくがぜつげん)
→ 心からの友人を失った悲しみをいう。

伯牙絶絃(はくがぜつげん)は、古代中国に伝わる琴の名手・伯牙(はくが)と、彼の唯一無二の理解者であった友人・鐘子期(しょうしき)が織りなす物語から生まれた言葉だ。

伯牙が琴を奏でれば鐘子期はその音色から山や谷といった情景を正確に理解し、伯牙の心を映し取っていた。

しかし、鐘子期が病で命を落とした後、伯牙は自分の音を理解してくれる存在がいなくなったことを嘆き、琴の弦を断ち、二度と演奏することはなかった。

ここから派生した「伯牙絶絃」は、心から信頼し、理解し合える友人を失った深い哀しみを象徴する概念として後世に受け継がれている。

死別の悲しみは古代中国から現代に至るまで変わらず人々の心を打つ。

共感を呼ぶ普遍性があるからこそ、この概念は数千年を超えて生き続ける。

人はいつの時代も死と向き合う運命にあり、そこには普遍的な体験と学びがある。

この死をめぐる学びや感情は、クリエイティブ分野やエンタメ、マーケティング、ブランディング、さらにはIT・IoT技術の導入により、現代社会で新たな価値を生み出し始めている。

少子超高齢化がもたらす死者数増加のデータ的実態

現代日本は世界的にも突出した少子超高齢化社会へと突き進んでいる。

厚生労働省「人口動態統計」によれば、2021年の日本国内の年間死亡者数は約143万9,000人(正確には1,439,431人)に達している(参考: 厚生労働省『人口動態統計』2021年確定数)。

2000年頃の日本では年間死亡者数が約94万5,000人(2000年:945,107人)程度だったことから、約20年で年間死亡数は50万人近く増加した計算になる。

1970年代の年間死亡者数は約80万〜90万人規模だったため、50年弱で死者数は1.5倍以上に膨れ上がったことになる。

少子化により新生児数は減少の一途をたどっている一方、医療技術や衛生環境の改善で平均寿命は世界最長クラスにまで延び、高齢人口のボリュームは史上最大レベルに達している。

総務省「日本の将来推計人口」(2022年公表)によれば、65歳以上の人口はすでに総人口の約29%に達し、2040年には35%前後になる見通しだ。

これは日本が国全体で「死に近づく高齢者」が増える社会であることを意味し、必然的に年間死亡者数の増加が続く構図を裏付ける。

この死者数増加が意味するところは、個々人が死に触れる機会の増加に他ならない。

個人が人生の中で遭遇する死別の回数が増え、死に関わるサービスや関連ビジネスが拡大する余地が生まれる。

ここにはマーケティングやPR、ブランディングの新しい可能性が潜んでいる。

死に関する情報を整理し、発信し、新たな製品・サービスを創出することは、ITやIoT、そしてエンタメの切り口で十分あり得る戦略だ。

増え続ける葬式の数とそのデータ分析

死亡者数が増えれば、当然ながら葬式(葬儀)の数も増える。

これを定量的に把握するのは難しいが、死亡者数と葬儀件数は概ね相関すると考えられる。

1970年代には年間死亡者数が80万〜90万人台だったため、葬儀数もほぼ同程度だったと推計できる(宗教・無宗教、形式の違いはあれど、何らかの葬送儀礼が行われるのが一般的だった)。

一方、2021年には約144万人がこの世を去っている。

葬儀社や冠婚葬祭互助会連盟などがまとめた内部資料、業界紙(『月刊仏事』など)によれば、コロナ禍前後から直葬(通夜や告別式を省略する小規模葬)や家族葬が増えたため、葬儀の平均規模は縮小している。

しかし、葬儀の「件数」自体は増加傾向であることは疑いようがない。

全日本冠婚葬祭互助協会(参考: 全日本冠婚葬祭互助協会HP)や日本消費者協会の「葬儀についてのアンケート調査報告書」(2017年実施の第11回調査)によれば、直葬や家族葬が増えつつも、少なくとも家族単位で何らかの儀式を行う割合は90%以上に上る。

これは、死亡者数増→葬儀数増という図式を裏付ける。

近年の傾向として、地方では過疎化が進み参列者が減少傾向にある一方、都市部では人口ボリュームが多く、親族・知人を含めた葬儀参列機会が増加する要因にもなる。

さらに、核家族化とコミュニティ希薄化で、以前ほど「地域全体」が葬儀に参列する習慣は減ったものの、それでも都市部では職場関係やビジネス上の付き合いから葬儀に行く機会も増える。

また、首都圏における葬儀社数が年々増加していること(参考: 東京都生活文化局届出事業者統計)や、直葬や家族葬専門のサービス会社が新規参入している事実は、市場が拡大している一つの証左である。

人が一生に経験する葬式参列数の変化:定性・定量の交差

個人が生涯に参列する葬式の回数についても、傾向の変化が見られる。

昭和30〜40年代、密な近隣コミュニティが存在した頃には、近所の人々が亡くなるたびに弔問する文化があり、数十回以上の参列が当たり前だった。

一方で、1980〜90年代以降は都市化・核家族化で地域コミュニティが縮小し、葬式に足を運ぶ機会は一時的に減少した。

しかし21世紀に入ってから、少子超高齢化で高齢者人口が増加し、職場関係・友人関係・遠縁の親戚など、多面的な人間関係での死別が増えることによって、生涯の葬式参列回数は再び増加に転じていると推測される。

日本消費者協会が定期的に行う「葬儀費用・意識調査」(直近2020年前後の調査)では、50代以上の回答者で「過去10年間に5回以上の葬儀参列経験がある」とする割合が約60%以上に上る。

同様に、冠婚葬祭関連企業が行った独自調査(業界紙『ライフエンディングビジネス』2019年特集号より)でも、30代後半以降は5年〜10年スパンで複数回の葬儀に出席するケースが増え、60代以上では10回以上の経験を持つ人が珍しくないと報告している。

昭和後期〜平成初期にかけて、ひとりが生涯で経験する葬儀参列回数は10〜20回程度とも言われたが、現代では20〜30回、あるいはそれ以上の数に増えている可能性が高い。

社会全体が高齢化し、人々が避けられない死別に向き合わざるを得ない現実が、こうした数字に表れている。

エンタメ・IT・IoTが切り拓く死周辺産業の新局面

死者数増、葬儀数増、参列機会増という現象が生み出すのは、負担や悲しみだけではない。

ここにはビジネス的なチャンスと新たな価値創出の余地がある。

従来の葬儀は、僧侶を呼び、焼香し、弔問客が集まるという定型的なスタイルが主流だったが、近年はITやIoT技術、さらにはクリエイティブ手法を組み合わせて新たなサービスを提供する試みが増えている。

例えば、インターネット上でリアルタイム配信するオンライン葬儀は、遠隔地にいる親族や友人にも葬式に「参列」する機会を提供する。

ARやVR技術を用いて故人ゆかりの土地や思い出の場を仮想空間で再現し、参列者に体験させる取り組みも進行中だ。

IoTデバイスを活用して故人の生前データ(写真、動画、音声記録)を簡易に閲覧できるメモリアルデバイスを開発する企業も登場している。

これらは単純に儀式を効率化するだけでなく、エンタメ的要素やブランド体験を加えることで、葬儀という場を新たなコンテンツ空間へと転換する可能性を示している。

経営戦略の観点では、人口動態データをもとにピーク需要期を想定し、マーケティング施策を組み立てることが可能だ。

PR手法として、死をタブー視せずに「人生を締めくくるセレモニー」として前向きなイメージを打ち出し、ブランディングを強化することも考えられる。

葬儀会社が企業ロゴやコンセプトムービーを制作したり、クリエイティブなストーリーテリングを導入したりすることで、ブランド価値向上と差別化を図る動きもある。

実際、都市部を中心に「完全オーダーメイド葬儀」を謳う専門業者が増え、故人の生前趣味やパーソナリティに合わせたメモリアルイベントを企画するケースも増加中だ(参考: 業界紙『フューネラルジャーナル』2021年特集記事)。

まとめ

伯牙絶絃が示す深い悲しみは、個人が死別に直面する普遍的なテーマだが、現代においては少子超高齢化が死をより身近にし、社会全体が死別体験を共有する局面が増えている。

データは明確だ。

2000年から2021年にかけて年間死亡者数は約50万人増加し、高齢化に拍車がかかる2020年代以降はさらにその傾向が続く見通しだ。

葬儀件数も増加必至であり、人々が生涯で遭遇する葬式数が増えることで、死別は日常的な事象へと近づく。

こうした社会状況は、葬儀や死に関わる産業に多面的なビジネスチャンスを生み出している。

IT・IoT技術を活用することでオンライン参列や遠隔追悼が可能となり、AR/VRによる新体験の創造も進む。

エンタメ要素やクリエイティブ視点を取り込むことで、従来の「重く沈んだ儀礼」から「故人の人生を映し出すストーリー空間」へと変貌する葬儀が出てきた。

これら一連の動きは、マーケティング戦略やPR施策、ブランド構築にも大きく寄与し、終活・葬祭市場は新しい価値創出のフィールドへと進化を遂げている。

伯牙絶絃が映し出した「理解者を失う悲しみ」は、人類に普遍的なテーマであり続ける。

しかし、現代ではデータとテクノロジーの力で死と向き合う環境が整いつつある。

高度な市場分析やユーザーエクスペリエンス設計、コンテンツ発信によって、死周辺産業はより豊かな価値を紡ぎ出し、消費者に新たな選択肢と学びを提供する可能性を秘めている。

少子超高齢化、増大する死亡者数、増え続ける葬式機会。

これらを悲観的に捉えるだけでなく、死を取り巻く環境を再発明し、新しい文化、ビジネス、クリエイティブな潮流を生み出すことが、これからの時代に求められる変革なのかもしれない。

 

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植田 振一郎 X(旧Twitter)

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