News

お知らせ

2024年8月27日 投稿:M

新札のデザインから見るデザインの定義

デザイナーのMです。

新札が導入されてから2ヶ月経ち、新札を触る機会も増えてきました。

新札のデザインが発表された際、皆さんはどんな印象を持ちましたか?

ネット上では「ダサい」「数字が揃っていなくて気持ち悪い」など、ネガティブな反応が多かったように感じます。

今回は、デザイナーの視点から見た新札のデザインや、そもそも「デザイン」とは何かについて書いていこうと思います。

ビジュアルデザインとは

デザインが包含する幅広い領域の中で、

一般的にデザイナーと言われて想像する多くは「ビジュアルデザイン」の領域です。

「ビジュアルデザイン」は、その言葉の通り視覚情報をデザイン(設計)する人のことで、その他にも「サウンドデザイン」「空間デザイン」などさまざまな領域があります。

ビジュアルデザインの中でもさらに細かく領域が分かれており、分野は違いますが、

烏滸がましくも、同じビジュアルデザイナーとして、Webデザイナーの視点から新札のデザインを見てみたいと思います。

新札と旧札の大きな違い

まず最初に感じる違和感は、お札の中心にある数字です。

旧札では漢数字がセンターにあり、角に小さくアラビア数字(算用数字)が載っています。

新札ではそれが逆になり、アラビア数字が大きいことでよりモダンな印象を受けます。

「外国のお金っぽい」と感じた方の1番の理由も、このアラビア数字が原因です。

ではなぜ、アラビア数字を大きくしたのでしょうか?

せっかく伝統的な漢数字があるならそちらを目立たせた方がよかったのではないでしょうか?

あなたの「わかりやすい」が、わかりやすいとは限らない

あなたは普段、何を見てお札を見分けていますか?

大きく配置された漢数字、肖像画、色、サイズ…お札には小さな違いがいくつもあります。

これらの違いは、その文化に属していないと分かりにくいものです

漢字ネイティブは、日本人を除けば中国語圏だけです。

諭吉だから一万円、英世だから千円だとわかるのは、見慣れているからです

今日の実質的な世界共通語は英語で、ローマ字とアラビア数字が世界を支配しています。

グローバル化が進む中で、世界中の人がすぐに識別できるように、アラビア数字を目立たせたのでしょう。

「1」の書体の違い

千円札と一万円札でアラビア数字の「1」の書体が違うことについても、

ネット上で批判的な意見を多く見かけました。

私は新札発表で初めて知ったのですが、

旧札の「1」も、千円札と一万円札で違っていました

ではなぜ、わざわざ「1」の書体を変更しているのでしょうか?

私はディスレクシアや視覚障害の方のためだと考えています。

ディスレクシアとは、文字の読み書きが苦手な学習障害の一つです。

健常者でも、コンマがないと1000と10000は少し読みづらいのではないでしょうか。

「1」の書体を変えることで、「0」の数以外の差を出したと考えるべきでしょう。

「美しい」デザインとは

ネット上で、新札のデザインを「添削」したポストの中では、主に上記の部分をメインに批判が上がっているように感じました。

その他の違和感もまとめると、新札をより「美しく」する場合、大体以下の修正になります。

  1. アラビア数字より漢数字を大きく配置する
  2. アラビア数字の書体を統一する
  3. 色味の彩度を落とし、統一感を出す
  4. サイズを同一にする

これらは全て、「統一性」を強化する修正です。

「統一性」は、ビジュアルデザインを考える上でとても重要な要素になります。

デザインの統一性

まず、1の「アラビア数字より漢数字を大きく配置する」について考えてみます。

紙幣は偽造防止の観点もあり、華やかなデザインになっていますが、

サンセリフ体のアラビア数字はとてもシンプルであるため、装飾性のレベルの違いがミスマッチを引き起こしています

漢数字の書体は、華やかな背景に負けない装飾性を持っているため、紙幣のデザインによりマッチします。

デザインのテイストを合わせることで、より「美しい」デザインになります

書体の統一も、色彩の統一も、サイズの統一も、全て規格やテイストを合わせることにより「美しさ」が向上します。

美しいデザインとデザインの敗北

しばしばネットで、「デザインの敗北」という言葉が使われます。

シンプルすぎるコーヒーメーカーが、わかりづらいために説明書きのテプラだらけになるなど…

シンプルであるということは調和が取れているということです。

ノイズのない統一された規格は、ぱっと見た時の心地よさを生みますが、

自分で必要な情報を見つけ出さなければならないため、

認知力の低い人や、社会通念がわからない人を排除してしまう可能性があります

例えば、赤いマークが女性、青いマークが男性と認識できるのは社会通念があるからです。

社会通念は曖昧で、地域や世代によって大きく変わります。

「デザインの敗北」とは、調和を意識しすぎた結果、ユーザーを排除してしまうようなデザインです。

なぜ新札は否定的な意見が目立ったか

新しいものが発表されると批判の意見が目立つのは今回に限った話ではありません。

ただ、今回の批判的な意見は「デザイン」の認識に差があったことが理由だと考えます。

多くの人は、デザインを「調和が取れている」かどうかで瞬間的に評価します。

実際のデザインの評価は「その目的に沿っているか」です

紙幣のように、公共性の高いものでは「ユーザビリティ」が重視されます。

ユーザビリティは簡単に言えば「使いやすさ」です。

老若男女、国籍問わず使用される紙幣は、万人が使いやすいことが目的です。

しかし、往々にして使いやすさは調和と反比例します

「わかりやすい」違いを生むことは、調和を崩すことだからです。

まとめ

今回は、新札からデザインの定義や目的は何かについて書きました。

ぱっと見てかっこいいと思っても、ダサいと思っても、

なぜそう思うのか、なぜそんなデザインなのかを一度立ち止まって考えてみると、世の中のプロダクトがより深く見えるかもしれません。

stakの最新情報を受け取ろう

stakはブログやSNSを通じて、製品やイベント情報など随時配信しています。
メールアドレスだけで簡単に登録できます。