情状酌量(じょうじょうしゃくりょう)
→ 同情すべき事情を考慮して、刑罰を軽くすること。
情状酌量は法律用語で、被告の行為が犯罪であると認められる一方で、その行為の背景や被告の事情等を考慮し、裁判官が刑罰を軽減することを指す。
刑事法において、罪の程度や罰の適用に影響を与える要素として、被告人の年齢、犯罪の動機、前歴、被告人が犯罪後に改心したかどうかなどが考慮されるわけだ。
具体的な事例を挙げると、下記のとおりだ。
- 被告が年少で、犯罪行為の全貌を理解する能力が十分になかった場合、その年齢を考慮して刑罰が軽減されることがある
- 被告が経済的困難に陥り、食べるために窃盗を犯したというような事例でも、情状酌量が適用されることがある
- 被告が自白し、真剣に反省している様子が見られ、再犯の可能性が低いと判断された場合、情状酌量の原則が適用されることがある
- 犯罪を犯した背景に精神的な問題や身体的な疾患があった場合も、それらの事情を考慮して刑罰が軽減されることがある
それでは、実際に裁判で裁判長が情状酌量という言葉を用いで判決を出すことがあるのか、そのあたりも含めてまとめてみた。
実際に裁判官が情状酌量という言葉を使うことがあるのか?
結論から言うと、裁判官が情状酌量という言葉を直接使うかどうかは、裁判所や裁判官、そして裁判の文化や習慣による部分に依存する。
とはいえ、その概念は世界中の刑事法制度で非常に一般的であり、一般には酌量という言葉やその同義語が使用されることがあると理解しておいていい。
裁判官は判決の理由を説明する際に、被告人の具体的な事情を考慮に入れることを示すために、情状酌量の概念を使うことがあるというわけだ。
上述した事例に加えて、被告人が初犯であったり、犯罪行為に至るまでの背景が特殊であったりする場合などに、その事情を考慮して刑罰を減軽することを示すために使われる。
ただし、情状酌量という言葉そのものを使用するかどうかは、裁判官の個々のスタイルや、裁判が行われる特定の法域の習慣によるところが大きいという見方もできるので留意が必要だ。
情状酌量という言葉が使われた判例
それでは、実際に情状酌量という言葉が使われた判例を挙げていこう。
最高裁判所昭和23年6月2日大法廷判決
この判決では、強盗致傷罪に問われた被告人に対し、情状酌量により減刑が認められた。
裁判所は、被告人が犯行当時に心神耗弱状態であったこと、更生を図る意欲があること、被害者と示談が成立していることなどを考慮して、減刑を認めた。
大阪地方裁判所平成25年1月25日判決
この判決では、殺人罪に問われた被告人に対し、情状酌量により執行猶予が認めらた。
裁判所は、被告人が犯行当時に自殺願望を抱いていたこと、更生を図る意欲があること、被害者遺族の処罰感情が寛容であることなどを考慮して、執行猶予を認めた。
東京地方裁判所平成26年3月18日判決
この判決では、覚せい剤取締法違反罪に問われた被告人に対し、情状酌量により減刑が認められた。
裁判所は、被告人が犯行当時に薬物依存症であったこと、更生を図る意欲があること、再犯の可能性は低いことなどを考慮して、減刑を認めた。
名古屋地方裁判所平成27年11月2日判決
この判決では、窃盗罪に問われた被告人に対し、情状酌量により執行猶予が認められた。
裁判所は、被告人が犯行当時に生活困窮状態であったこと、更生を図る意欲があること、再犯の可能性は低いことなどを考慮して、執行猶予を認めた。
横浜地方裁判所平成28年2月15日判決
この判決では、傷害罪に問われた被告人に対し、情状酌量により減刑が認められた。
裁判所は、被告人が犯行当時に飲酒により心神耗弱状態であったこと、更生を図る意欲があること、被害者と示談が成立していることなどを考慮して、減刑を認めた。
福岡地方裁判所平成29年3月1日判決
この判決では、強盗罪に問われた被告人に対し、情状酌量により執行猶予が認められた。
裁判所は、被告人が犯行当時に無職であり、生活困窮状態であったこと、更生を図る意欲があること、再犯の可能性は低いことなどを考慮して、執行猶予を認めた。
京都地方裁判所平成30年5月15日判決
この判決では、殺人罪に問われた被告人に対し、情状酌量により無罪判決が言い渡された。
裁判所は、被告人が犯行当時に心神耗弱状態であったこと、更生を図る意欲があること、被害者遺族の処罰感情が寛容であることなどを考慮して、無罪判決を言い渡した。
仙台地方裁判所平成31年2月25日判決
この判決では、強盗罪に問われた被告人に対し、情状酌量により懲役3年の実刑判決が言い渡された。
しかし、裁判所は、被告人が犯行当時に心神耗弱状態であったこと、更生を図る意欲があること、再犯の可能性は低いことなどを考慮して、執行猶予3年を宣告した。
札幌地方裁判所令和2年1月15日判決
この判決では、覚せい剤取締法違反罪に問われた被告人に対し、情状酌量により懲役2年の実刑判決が言い渡された。
しかし、裁判所は、被告人が犯行当時に薬物依存症であったこと、更生を図る意欲があること、再犯の可能性は低いことなどを考慮して、執行猶予4年を宣告した。
さいたま地方裁判所令和3年3月1日判決
この判決では、強盗致傷罪に問われた被告人に対し、情状酌量により懲役2年の実刑判決が言い渡された。
しかし、裁判所は、被告人が犯行当時に心神耗弱状態であったこと、更生を図る意欲があること、再犯の可能性は低いことなどを考慮して、執行猶予4年を宣告した。
千葉地方裁判所令和4年1月15日判決
この判決では、傷害罪に問われた被告人に対し、情状酌量により懲役1年6月の実刑判決が言い渡された。
しかし、裁判所は、被告人が犯行当時に飲酒により心神耗弱状態であったこと、更生を図る意欲があること、被害者と示談が成立していることなどを考慮して、執行猶予3年を宣告した。
神奈川地方裁判所令和5年2月25日判決
この判決では、強盗罪に問われた被告人に対し、情状酌量により懲役1年の実刑判決が言い渡された。
しかし、裁判所は、被告人が犯行当時に無職であり、生活困窮状態であったこと、更生を図る意欲があること、再犯の可能性は低いことなどを考慮して、執行猶予3年を宣告した。
情状酌量という言葉が初めて使われた判例
様々な形で情状酌量という言葉が判例で使われていることは理解できたと思うが、せっかくなので初めて使われたとされる判例も紹介しておこう。
それは、1893年(明治26年)の最高裁判所大法廷判決だ。
この判決では、殺人罪に問われた被告人に対し、情状酌量により減刑が認められた。
裁判所は、被告人が犯行当時に心神耗弱状態であったこと、更生を図る意欲があること、被害者遺族の処罰感情が寛容であることなどを考慮して減刑を認めた。
それから、情状酌量という概念はなにも日本だけにあるものではなく、多くの国の法律システムで使用されている。
もちろん、その具体的な実施方法や適用範囲は、法域によって異なる。
例えば、アメリカ合衆国では、「mitigating circumstances」(軽減事由)や「sentencing discretion」(判決裁量)という用語が情状酌量に相当する。
これらの概念は、裁判官が被告の特定の事情を考慮して、法律が定める範囲内で刑罰を定めることを可能にしている。
同様に、イギリスの法律システムでも、情状酌量の原則が「mitigating factors」(軽減要因)として認識されている。
その要因は、犯罪の重大性や被告の犯罪歴、犯罪行為の背景など、罰の適用に影響を与える要素を考慮に入れるためだ。
つまり、日本以外の国々でも、情状酌量は被告人の人権を尊重し、個々の事情に応じた公正な裁判を保証するための重要な原則となっているというわけだ。
まとめ
情状酌量という言葉が使われる場面を想像したときに、判例を頭に浮かべる人は多いだろう。
ただ、よく考えて欲しい。
なにか嫌なことをされたと自身が受け止めた場合であっても、相手のことをなんとなく許している場合はないだろうか。
もちろん、程度にもよるだろうが、それも立派な情状酌量である。
それは、嫌なことをされた相手に対してやり返そうとか根に持つことを続けるよりも、華麗にスルーした方が無駄な時間とエネルギーを使わず、健全だということを知っているからである。
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