徙家忘妻(しかぼうさい)
→ 転居するときに、自分の妻を忘れていくことで、転じて、物忘れのひどいことのたとえ。
歳を重ねると物忘れがひどくなっていくというのは、至るところでよく聞く話だ。
その年齢を明確に区切ることは難しいとは思うが、自分は関係ないとは思わない方がいい。
誰もがいつかは通る道であって、そこに対しては抗うというか予防していくことも大切だが、知識を入れておくということも重要だろう。
ということで、よく聞くアルツハイマーと認知症についてまとめてみた。
今さら聞けないアルツハイマーと認知症ってなぁに?
アルツハイマーという言葉を聞いたことがある人も多いと思うが、医学的にはアルツハイマー病と呼ばれることが多い。
そして、アルツハイマー病は、認知症の原因疾患の1つで、脳にアミロイドβというタンパク質の蓄積が原因で、認知機能の低下を引き起こす病気のことをいう。
一方、認知症は病気ではなく、病気によって引き起こされる症状のことをいう。
認知機能の低下により、社会生活や日常生活に支障を来した状態が認知症というわけだ。
脳に蓄積した異常たんぱく質は、やがて脳神経細胞を破壊する。
脳神経細胞が破壊されることで、様々な脳器官が働かなくなった結果、認知機能が低下する。
認知機能の低下により、日常生活に支障をきたすと認知症と診断されるというロジックだ。
それから、アルツハイマー病を原因疾患として認知症に至った場合、アルツハイマー型認知症と呼ばれるようになる。
つまり、アルツハイマー病は、認知症の1つだということである。
現在の日本では、認知症を引き起こす原因のうち、もっとも割合の多い疾患で6割以上がアルツハイマー病だといわれている。
認知症の他の原因疾患には、血管性認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症などがある。
アルツハイマー病について
アルツハイマー病の疾患は具体的には、下記のような症状が現れる。
- 脳の神経細胞が減少する
- 脳の中で記憶を司る海馬を中心に脳全体が萎縮する
- 脳に老人斑というシミが広がる
- 脳の神経細胞に糸くず状の神経原線維変化が見つかる
そして、くり返しになるが、脳の中にβアミロイドと呼ばれるタンパク質が溜まり出すことが原因の1つとされている。
βアミロイドが脳全体に蓄積することで健全な神経細胞を変化および脱落させて、脳の働きを低下させ、脳萎縮を進行させるといわれている。
アルツハイマー病を発症すると、記憶障害の症状が見られ、進行にともなって場所、時間、人物などの認識ができなくなる、見当識障害の症状が現れる。
また、身体的機能も低下して動きが不自由になることもあり、進行の度合いには個人差があり、わずか数年で寝たきりになってしまう人もいる。
その一方で、10年経っても自立して穏やかに暮らしている人もいる。
そして、アルツハイマー病の根本治療方法は、まだ確立されていないのが現状だが、抗認知症薬で病気の進行を遅らせることができる。
アルツハイマー型認知症について
上述したが、アルツハイマー病を原因疾患として認知症に至った場合、アルツハイマー型認知症と呼ばれるようになる。
このアルツハイマー型認知症は、認知症の中では最も多い疾患だ。
日本における65歳以上の認知症の人の数は、2020年の時点で約600万人と推計され、2025年には約700万人と予測されている。
わかりやすく可視化するのであれば、高齢者の約5人に1人が認知症になるという予測だ。
そして、アルツハイマー型認知症の特徴的な初期症状には物忘れがある。
ただし、物忘れがあったからといって、必ずしもアルツハイマー型認知症とは限らない点には注意が必要だ。
偽性認知症といって、偽物の認知症が隠れていることがある。
それから、アルツハイマー病の説明でも書いたが、2023年1月時点の日本において、アルツハイマー型認知症を完治させるための有効な治療法はない。
そう聞くと、発症してしまったときのリスクがかなり大きいように感じてしまうかもしれない。
けれども、早期に適切な対策を行うことでアルツハイマー型認知症の発症を遅らせることは可能だということは知っておいた方がいいだろう。
また、物忘れの原因が、その他の体の病気によって引き起こされている可能性もある。
つまり、一見認知症のように見えても、適切に治療することで改善する場合もあるので、悲観的にばかり捉える必要はない。
アルツハイマー型認知症になる原因
アルツハイマー型認知症を予防するためには、その原因を知る必要がある。
基本的には、アルツハイマー病と同様に、βアミロイドやタウタンパクというタンパク質が脳に異常に溜まることにより発症する。
脳に溜まったタンパク質が、脳神経の変性を引き起こすことで、脳の中でも記憶に関わる海馬という器官から萎縮が始まり、徐々に脳全体に拡がっていく。
脳の細胞1つ1つが家で人が住んでいたと仮定しよう。
人が生活していれば、そこからゴミが出る。
それが、上述したタンパク質だとイメージしてもらいたい。
元気で身体になんにも支障がなければ、一般的にはきちんとゴミを捨てるので、ゴミが溜まることはない。
けれども、高齢になるにつれて自分でゴミ捨てができなくなっていく場合が増える。
そうなると、少しずつ家の中にはゴミが溜まっていき、それが続けば、ゴミ屋敷になってしまう。
自らが出したゴミが長年に渡って溜まりに溜まり、いよいよゴミに埋もれて家主が死んでしまった。
これが、アルツハイマー型認知症の原型というわけだ。
つまり、アルツハイマー型認知症は、症状が出るかなり前から進行が始まっていて、発症したときには、既にゴミ屋敷が完成してしまっているので、治療が難しい。
ちなみに、なぜ、脳にたんぱく質が溜まってしまうのか、上述した例でいうと、なぜゴミ出しができなくなるのかは、2023年1月時点ではわかっていない。
そして、この溜まったゴミを処理できるような薬の開発が、世界各国で行われているというのが現状なのである。
アルツハイマー型認知症の症状
重複する部分もあるが、アルツハイマー型認知症の代表的な初期症状は記憶障害、いわゆる物忘れだ。
過去のことはしっかりと覚えているのだが、新しい情報を記憶するのが困難になってくる。
そのため、何度も同じ話をしてしまったり、片付けたことを忘れて探し物をしていることが増えたりする。
正確には、記憶の障害ではないのですが、見当識障害といって、初期では特に時間の感覚がなくなることがある。
また、実行機能障害も気を付けなければならない症状だ。
いつもはできていたことができなくなる、段取りが悪くなることがこれに該当する。
よく例に挙げられるのが、料理好きのお母さんの料理の味が変わったとか、調理に時間がかかるようになったといったところだ。
そして、記憶障害や実行機能障害のことを、認知症の中核症状と呼ぶ。
中核症状は、脳の神経細胞の障害によって起こる認知機能障害のことだ。
しかし、認知症では、その中核症状に加えて、環境要因や心理要因などが加わり、結果として様々な精神症状や行動障害が出現し、それをBPSDという。
BPSDとは、Behavioral and psychological symptoms of dementiaの略称で、アルツハイマー型認知症の初期に見られるBPSDは、2つある。
1つ目が、apathy(アパシー)といわれる、日常生活において様々な場面で、やる気や関心が失われていく状態だ。
周囲からは、無気力に感じられたり、だらしなくなったなどといわれることがあるのが特徴なのだが、ハッキリと目に見えて現れるものではない。
そのため、周囲の人たちも症状の進行に気づくのが遅れてしまいがちになる傾向がある。
そして、もう1つが、物取られ妄想だ。
短期の記憶が失われやすいために、自分で片づけたにも関わらず、片づけたことを忘れてしまうため、なくなってしまったと誤解してしまうという症状だ。
それが結果として、誰かに取られてしまったという妄想に繋がってしまうのである。
明らかに間違った内容を信じてしまい、周りがそれを是正しようとしても受け入れられない考えになってしまうのである。
アルツハイマー型認知症になりやすい人
まず、アルツハイマー型認知症と遺伝の関係についてだ。
遺伝との関係については、2つの側面があるといわれている。
それは、家族間の遺伝が関係するとされる家族性アルツハイマー型認知症と、遺伝は関係しない孤発性アルツハイマー型認知症だ。
そして、アルツハイマー型認知症の約90%は、後者の遺伝と関係のない孤発性アルツハイマー型認知症で、全体の約5%が遺伝と関係するアルツハイマー型認知症だといわれている。
また、それとは別に、症状の出現をより高めてしまう性質を持つ遺伝子があり、それを感受性遺伝子という。
現在では、アルツハイマー型認知症の発症に関係する感受性遺伝子が多く見つかっている。
その中でも特に関係性が深く、危険性が高いとされているのが、アポリポタンパクE4遺伝子(APOE4)だ。
この遺伝子は、日本人の約10〜15%が保有しており、この感受性遺伝子がある人とない人を比較した場合、約3〜5倍アルツハイマー型認知症を発症しやすいとされている。
ただし、感受性遺伝子そのものが発症の原因になるわけではないことはしっかりと覚えておいた方がいい。
感受性遺伝子を持っている人が、生活習慣や他の病気などと複合的に関係して認知症の発症に至るというわけだ。
そのため、発症のリスクを高める1つの要因と考えるべきだということを認識しておこう。
まとめ
最期に、アルツハイマー型認知症による記憶障害は、加齢による物忘れと異なり、体験を丸ごと忘れる点が特徴だという点も記憶しておこう。
例えば、昨日財布をどこにしまったかを忘れてしまったというのと、財布をしまったこと自体を忘れてしまうのでは、大きな違いがある。
アルツハイマー型認知症でみられるのは、明らかに後者なのである。
そして、財布が見当たらなくなってしまった状況に混乱した結果、財布は誰かに盗まれたに違いないと自分を納得させる理解をし、物取られ妄想が出現する。
そんな症状に陥らないようにするための予防策は、生活習慣の観点が大きいとされる。
高血圧、糖尿病、脂質代謝異常症、食生活の偏り、運動不足、アルコールの過剰摂取といった様々な指摘がある。
適度な運動や食生活の見直しといった、当たり前のようで実際にはできていないことを自分から率先して取り組んでいくことが大切だということはいうまでもない。
健康第一という言葉の意味の重さを知らない人が世の中にはあまりにも多い。
自分を律することで豊かな人生を送れるのであれば、私は間違いなくそちらの道を選ぶだろう。
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