察言観色(さつげんかんしき)
→ 言葉や顔つきから、その人の性格や考えを見抜くこと。
今、世間から大注目されているアパレルブランドがSHEIN(シーイン)だ。
日本では、2022年11月に原宿に1号店をオープンさせて話題になっているが、このアパレルブランドが中国発だということを知っているだろうか。
そして、中国のアパレルと聞くと、どんなイメージを持つかも併せて聞きたいところだが、いいイメージを持たない人も多いだろう。
このSHEIN(シーイン)というアパレルの創業者は、許仰天(シュー・ヤンティエン)。
彼がどんな性格で、どんな考えを持って、SHEINを立ち上げて今の地位を築き上げたのか、実態に迫ってみようと思う。
エンジニア出身のSHEIN(シーイン)創業者
SHEIN(シーイン)創業者の許仰天(シュー・ヤンティエン)は、青島科技大学でコンピューター科学を専攻していた。
2007年に卒業した許仰天は、越境ECのシステム開発に興味を持っていたという。
中国の越境ECといえば、淘宝(タオバオ)を思い浮かべる人も多いだろう。
だだし、淘宝(タオバオ)は販売業者と購入者をマッチングしたら、後は宅配便企業にお任せというシステムだ。
輸出から税関、国際物流、法令までシステムで管理をしなければ、本来の越境ECとは言い難い。
そんな越境ECのシステム開発にイノベーションを起こそうと南京市の奥道情報技術に就職をしてエンジニアとなったのである。
許仰天の仕事は検索エンジン最適化のSEO対策エンジニアリングから始まった。
Webの構造を工夫して、どうすれば検索エンジンの上位に表示されるようにする業務だ。
こうして、社会に出た許仰天は、業界情報の収集に力を入れたという。
そして、ウェディングドレスがものすごく儲かるという話を耳にする。
中国ではウェディングドレスが大量に生産されているのだが、欧米や日本のように盛大な結婚式を行うという文化は少ない。
結婚式を盛大にと改まったことをしなくても、婚紗照というカルチャーがある。
婚紗とはウェディングドレスのことで、照とは写真のことを意味していて、景色の素晴らしい場所に行ったり、専門の演出家をつけたり、特殊効果を加えたりして、とにかくたくさんの写真を撮る。
こうして取った大量の写真からアルバムを作成し、夫婦の部屋に飾っておくというのが一般的で、結婚式が地味である分、この婚紗照にはお金をかけるのだ。
となると、ウェディングドレスもレンタルでとなりそうなものだが、ここは中国独特の習慣で何着も購入するということも珍しくないのである。
ということで、中国のどこの都市にもウェディングドレス専門店街というものがあって、そのマーケットが自ずと大きくなっているのである。
そんなウェディングドレスをアメリカに持っていくことができれば、10倍の価格で売れるので儲かるという話を許仰天(シュー・ヤンティエン)は聞いたのだ。
こうして許仰天は、2人の友人と一緒に、2008年10月に南京点唯情報技術を設立する。
中国で生産されたウェディングドレスをアメリカでオンライン販売するビジネスを始めると、これが大成功するのである。
ウェディングドレス事業からの脱却
大成功に見えたウェディングドレスの越境ECだが、すぐに問題が発生した。
続々とライバルが出現したことでレッドオーシャンになったのである。
2010年9月にはJJ’s Houseというブランドが全く同じビジネスモデルでウェディングドレスをアメリカでオンライン販売するというビジネスを始めた。
実はこのJJ’S Houseの運営企業は、拼多多(ピンドゥドゥ)で、今やSHEIN(シーイン)に並ぶ巨大ECだ。
この2社が実はウェディングドレスの越境ECで過去にバトルをしていたというのも、なかなか興味深いと思ってしまうのは私だけだろうか。
それから、許仰天(シュー・ヤンティエン)はウェディングドレス事業のデメリットがリピーターがいないというところに気がついた。
そこで、2011年にSheInsideという女性アパレル全般を扱うブランドを立ち上げた。
これが2015年にリブランドしてSHEINとなるのだ。
こういった経緯から、SHEINをシャインと読む人もいるのだが、成り立ちからシーインと読むのが正しいとされている。
中国語でも希音となり、その読み方はシーインだ。
SHEIN(シーイン)の変革が起きた2015年
上述したとおり、SHEIN(シーイン)の創業は10年以上前になる。
当時は中国の安かろう悪かろうのアパレル用品を海外に持っていくというビジネスモデルだったのだが、それではいけないと変革が起きたのが2015年あたりだという。
SHEINはZARAをモデルに体制構築を学び、さらにZARAを超えるにはどうすればいいのか、積極的な投資を始めるのである。
SHEINの生産拠点は、広東省広州市番禺区で本社もこのエリアにある。
この地区は昔から服飾品の生産基地で零細から中小までの企業がひしめいている。
2022年3月現在、服飾関連の企業は3万4,689社あり、そのうち7,281社が服飾製造を主にしており、2万7,408社が卸や販売といった内訳だ。
そして、この7,281社の製造工場の中の約1,000社がSHEINの生産を行っており、特に300社から400社がSHEINの生産を主体にしているという。
7,281社の製造工場といっても、大手ばかりではなくお父さんとお母さんがやっている下町工場のようなところもたくさんある。
SHEINはここに目をつけて、技術は持っているのに生産能力が小さいところと上手くタイアップしているのである。
こうして、SHEINの最低発注ロット数は100点という体制を整えているのだ。
もちろん、これでは製造工場はコスト割れしてしまうので、生産した商品が売れるとすぐに追加発注が行われる。
原則、週に30着売れると追加発注がかかり、この追加発注のロット数も小さく50点から300点ほどで、これをこなしていくことで利益が出るというわけだ。
ちなみに、ZARAの最低発注ロット数は500点なので、いかに小回りが利くかがわかるだろう。
小ロット生産の4つのメリット
こうして小回りが利く生産フローを整えていったSHEIN(シーイン)だが、小ロット生産には下記の4つのメリットがあるという。
1)在庫が少なくてすむ
まず、少量生産でこまめに追加発注をするため、在庫が増えることも最小限ですむ。
売れない商品が出てきてしまったとしても在庫コスト少なくてすむし、売れない商品は追加発注がないので最悪、廃棄するコストも少なく抑えられる。
2)納期の短縮が可能
製造ロットが少ないことで、納期の短縮ができるようになり、そのスピードは驚異の7日〜11日で納品となっている。
ZARAの納期でも3週間〜4週間ということなので、いかにスピードがはやいか理解できるだろう。
また、デザイン企画に1.5週間、製造に1週間、合計2.5週で商品を販売することができるということで、ブームを確実に押さえることができることも圧倒的な強みだ。
ZARAでの企画から商品発売までは5週間〜6週間、他のアパレルブランドでは企画から商品発売まで6ヶ月〜9ヶ月ということなので、その差は歴然だ。
3)多品種少量生産が可能
約1,000社の製造工場があるので、複数の受注を同時にこなすことが可能になり、多品種の製造を可能としている。
SHEINでは、平均して毎日1,000点の新商品が発売されるという。
ZARAは年に2.5万点の新商品を発売するということで一世風靡をしたが、SHEINの新商品販売は単純計算で年に36.5万点となり、これまた驚愕の数字である。
4)ヒット商品の量産が可能
多品種少量生産ができるということはヒット商品の量産に繋がるという強みも生まれる。
3,000点の商品を製造する場合を考えた場合、SHEINの場合は100点ごとの注文可能なので30種類の商品がつくれる。
一方で、ZARAは最小ロットが500点なので6種類の商品がつくれるということになる。
もちろん、全てをヒットさせることは不可能なのだが、確率論でいけば打席に多く立たなければヒットも打てないことは明らかだということがわかるだろう。
SHEIN(シーイン)の5つの特徴
ということで、改めてSHEIN(シーイン)の特徴をまとめてみると下記のとおりとなる。
- 広州市番禺区の服飾生産地帯である下町工場がベースにあること
- 小ロット生産から始める独特の発注システムを保有していること
- AIアシストによる効率的なデザイン作業をしていること
- KOCを活用し消費体験を変えたこと
- 可処分所得の少ない女子大学生をターゲットにしたこと
上述してきた以外にも、AIアシストによる効率的なデザイン作業を行っていることも注目されている。
と書いていくと、AIがデザインをしているように思うが、そう簡単な話ではない。
AIはデザインの質を上げるためではなく、生産効率を高めるために使っているという点が注目すべきところだ。
アパレルデザインの世界には、4321の法則という言葉がある。
デザインの4割は既存デザインの手直し、3割はライバルに対応するためのデザイン、2割がブランドオリジナルのデザイン、1割はデザイナーの個性を出したデザインという意味だ。
つまり、デザインの仕事の7割は既存商品の焼き直しで、その精度を上げることでヒット商品も増やせるというわけだ。
さらに、KOCを徹底して活用していることで、可処分所得が少なくても消費意欲の大きい女子大学生をターゲットにしているマーケティング能力にも長けている。
KOCとは、Key Opinion Consumerの略称で、特に中国の消費者の購買意志決定の際に強い影響力を持つ、なんらかの専門性を持ったインフルエンサーのことだ。
KOLという、Key Opinion Leaderの略称もほぼほぼ同じニュアンスで捉えておくといいだろう。
このマーケティング手法がSHEIN(シーイン)の特徴の1つになっているというわけだ。
まとめ
SHEIN(シーイン)が日本に本格進出したのは2021年のことだ。
2021年前半に日本法人が設立されると、日本版のECサイトもオープンした。
2021年夏にはアプリの日本語版をローンチし、短期間でアプリストアのダウンロードランキング上位に登場するようになって依頼、注目を浴び続けている。
2022年上半期のGMV(流通取引総額)は前年同期比50%増の160億ドル(約2兆3,300億円)に達し、ZARAとH&Mを抜いたとも報じられている。
そんなSHEIN(シーイン)に戦々恐々としているアパレルブランドは多いだろう。
今後のアパレル業界をどのように変えていくのか、引き続き注目していこうと思う。
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