魚目燕石(ぎょもくえんせき)
→ 見た目は似ているが本物ではないもの、偽物。
いわゆるコピー品と呼ばれる偽物が世の中には溢れている。
他にもパチモノなどといわれたりするが、正式には知的財産侵害物品と呼ばれる物品だ。
そんな偽物が堂々と世に出回っていては、権利者に損害を及ぼすだけでなく、消費者の健康や安全を脅かしたり、犯罪組織の資金源となる可能性がある。
そんな知的財産侵害物品が経済的、社会的に与える悪影響が2022年(令和4年)には全世界で4兆6,800億ドル(約515兆円)に達する可能性があるというのである。
2021年の日本のGDPが世界第3位で5兆3,800億ドルだということを考えると、とてつもない規模だということが理解できるだろう。
知的財産侵害物品が輸入による悪影響
先述したが、偽物が流通すると権利者が損失を被るのはもちろんだが、経済全体にもさまざまな悪影響を及ぼす。
ICC(国際商業会議所)およびINTA(国際商標協会)のデータがある。
模倣品、海賊版の総額は2013年時点で9,230億ドル~1兆1,300億ドルだったが、2022年には1兆9,000億ドル~2兆8,100億ドルまで増加する見込みだという。
また、模倣品、海賊版は間接的に4つの悪影響を及ぼす。
- 公正な経済活動の阻害
- 海外投資活動の減少
- 税収の減少
- 犯罪の社会的費用
これら4つの分野の間接的な悪影響は2013年時点で737億ドル~898億ドル、2022年時点では1兆5,400億ドル~1兆8,700億ドル(約206兆円)と見込まれている。
模倣品、海賊版による直接的な悪影響とほぼ同規模となっていることに気づくだろう。
結果、直接的悪影響と間接的悪影響の総額は、2013年時点の1兆6,600億ドル~2兆300億ドルが、2022年には3兆4,400億ドル~4兆6,800億ドル(約515兆円)に達するというのである。
さらに、模倣品、海賊版は経済成長だけでなく、連動して雇用面にも大きな悪影響を与える。
具体的には、模倣品、海賊版による雇用面の損失は、2013年時点で200万ドル~260万ドルであり、2022年には420万ドル~540万ドルまで上昇すると予測されている。
他にもまだ、知的財産侵害物品の輸入は健康、安全への脅威にも繋がる。
近年、医薬品などの知的財産侵害物品の輸入差止めが増えている。
特に多いのは電子たばこのカートリッジや化粧品で、赤ちゃん用の抱っこひもなども差し止められている。
つまり、消費者が気づかずに利用すれば、自身の健康を害したり、子どもが危険に晒されたりする可能性があるのである。
最後に、組織犯罪に加担することになる可能性もあることも忘れてはいけない。
警察庁の2011年(平成23年)中における生活犯罪事犯の検挙状況等についてというデータによると、日本の知的財産権侵害事犯の検挙事件のうち、暴力団が関与しているものは10.2%(2012年、事件数ベース)となっている。
模倣品、海賊版の販売収益の一部は組織犯罪に利用されているのである。
ICPO(国際刑事警察機構)やWCO(世界税関機構)などの国際機関の報告書では、知的財産侵害物品の販売収益がテロ組織に流入しているとの指摘もある。
例えば、2004年にインターポールが120万ドル分の自動車のブレーキパッドを差し押さえたが、レバノンのテロ組織の支援者と関連があったことがわかっている。
加えて、ある国際テロ組織は偽物の香水、シャンプーなどを通じて、模倣品産業と関連していたこともわかっている。
税関の重要な役割
こうした背景を受け、重要な役割を果たしているのが税関である。
- 公益の保護
- 健康、安全への脅威の未然防止
- 犯罪組織への加担防止
上記を目的として、模倣品、海賊版、偽ブランド品などの知的財産侵害物品が輸出入されないよう空港や港などの水際で取締りを行っている。
海外に渡航した際や日本に帰国した際に、自分の手荷物を検査されるのも税関の一種だと思えばイメージしやすいだろう。
そんな税関の2019年(令和元年)の輸入差止状況報告によると、差止点数は7年ぶりに100万点を突破したという。
件数は、引き続き2万件を超える水準で、仕出国(地域)別では中国が8割を超えるという状況だ。
詳しい数字を表記すると、2019年(令和元年)の輸入差止件数は2万3,934件で点数は101万8,880件となっている。
1日平均にすると、66件、2,700点以上の輸入を差し止めていることになる。
知的財産別に見ると、件数では偽ブランド品などの商標権侵害物品が2万3,182件(構成比96.3%、前年比8.3%減)と大半を占めている。
次いで偽キャラクターグッズなどの著作権侵害物品が505件(同2.1%、同15.3%増)となった。
点数についても、商標権侵害物品が86万7,804点(構成比85.2%、前年比19.9%増)で大半を占めている。
次いでイヤホンなどの意匠権侵害物品が8万5,684点(同8.4%、同26.5%減)となった。
品目別に見ると、件数では財布やハンドバッグなどのバッグ類が9,639件(構成比36.8%)と最も多い。
次いで衣類が5,949件(同22.7%)、靴類が1,999件(同7.6%)、スマートフォンケースなどの携帯電話及び付属品が1,834件(同7.0%)となっている。
点数ではCD、DVD類が30万4,114点(構成比29.8%)と最も多い。
次いで包装用品などの紙製品が10万6,058点(同10.4%)、イヤホンなどの電気製品が6万5,937点(同6.5%)、衣類が4万8,933点(同4.8%)という状況だ。
2019年(令和元年)の特徴としては、東京オリンピックパラリンピックに関連して記念メダル、ピンバッジなどの増加が目立ったという傾向もある。
また、CD、DVD類や紙製品については、2019年(令和元年)に大口の摘発があったことから点数で上位品目となっている。
ちなみに、紙製品とは、ブランド品の箱や紙袋などだ。
仕出国(地域)別に見ると、件数では中国が1万9,814件(構成比82.8%)となっている。
次いで香港が1,012件(同4.2%)、フィリピンが691件(同2.9%)、韓国が649件(同2.7%)と続いている。
点数では中国59万5,421点(構成比58.4%)、次いで、台湾が19万2,883点(同18.9%)、韓国が13万0,196点(同12.8%)、香港が6万0,056点(同5.9%)となった。
件数、点数ともに中国を仕出しとするものの構成比が依然として高い状況が続いている。
まとめ
くり返しになるが、模倣品、海賊版は権利者だけでなく、多くの分野に悪影響を及ぼすものであることを知っておくべきだろう。
とりわけ、ECサイトを通じて簡単にショッピングができる時代だ。
ネットショッピングをしている際に、模倣品や海賊版であるかということは、おそらく多くの人があまり意識していないだろう。
ただ、販売されている商品の中には知的財産を侵害している物品が紛れている可能性は十分にある。
ブランドの既存というところだけに留まればいいが、派生したところにも悪影響があることは十分に理解しておいた方がいい。
そのために最も重要なのは、信用できるECサイトを通じてのショッピングを行うことは大前提で、意識の問題も大きいだろう。
この分野は決してビジネスと呼べるものではない。
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