【Day 42/66|1日1マーケ用語】現状維持バイアス ——「いつものでいいや」を選び続けたカナの話

【Day 42/66|1日1マーケ用語】現状維持バイアス ——「いつものでいいや」を選び続けたカナの話

今日の主役は、お得と流行に弱いふつうの会社員・カナ。
彼女が、スーパーで「いつもの商品」を選び続けていた話から見ていきましょう。

現状維持バイアスに引っかかるカナの4コマ・起
カナ「お買い物、いつものこれにしよっと♪」

わかります、その気持ち。
迷わずに、いつものものをカゴに入れると、なんだか安心しますよね。
考えなくてすむぶん、買い物がスムーズに進みます。

現状維持バイアスに引っかかるカナの4コマ・承
カナ「あれ、隣の新商品の方が安いのに…なんでいつも同じの選ぶんだろ?」

冷静になると、気づきますよね。
すぐ隣に、安くてよさそうな新商品がありました。
それなのに、確かめもせず、いつものものに手が伸びていたのです。

現状維持バイアスに引っかかるカナの4コマ・転
カナ「えっ、変えない方を無意識に選んでたってこと…!?」
サトル「それ、現状維持バイアスだよ。人は変化のリスクが気になって、今のままを選びがちなんだ。」

種明かしです。
カナに「いつもの」を選ばせていたのは、比べた結果ではなく、変化を避けたい気持ちでした。

現状維持バイアスに引っかかるカナの4コマ・結
カナ「“今のまま”を、なんとなく選び続けてたんだな…!」

そういうことです。
ここからは、この「現状維持バイアス」をもう少しくわしく解きほぐしていきます。

現状維持バイアスとは?

現状維持バイアスとは、今の状態を基準にして、そこから変わることを避けたくなる心のクセのことです。
アメリカの研究者サミュエルソンとゼックハウザーが、1988年の実験で示したことで知られています。
人は、変えて得られるかもしれない利益よりも、変えて失うかもしれないものを、大きく感じます。
だから、はっきり損だとわかるまで、今のままを選び続けます。
新しい選択には、調べる手間や、失敗するかもという不安がつきまといます。
その手間や不安をきらって、慣れた選択に落ち着いてしまうのです。

なぜ変えたほうが得でも変えないの?

理由は、変化にともなう「失うかも」という感覚が、強くはたらくからです。
人は、同じ大きさなら、得することより損することを重く感じます(損失回避)。
乗り換えて得する金額より、「もし失敗したら」という不安のほうが、大きく見えるのです。
さらに、今の選択には「これで問題なかった」という実績があります。
新しいものには、その安心がありません。
だから、比べれば得だとわかっていても、つい手が止まってしまうのです。

現状維持バイアスの身近な例は?

わたしたちの毎日にも、「今のまま」を選ぶ瞬間があふれています。

  • スマホや通信のプラン:もっと安いプランがあっても、変えずに使い続けます。
  • サブスク:あまり使っていなくても、解約せずに料金を払い続けます。
  • 銀行や保険:見直せば得だとわかっていても、同じところを使い続けます。
  • いつもの商品:新商品を試さず、慣れたものをくり返し買います。
  • 初期設定のまま:おすすめされた設定を、そのまま使い続けます。

変えないことは、いちばん楽な選択です。
売る側はそれを知っていて、いったん選ばせたら「そのまま」でいてもらおうとします。

現状維持バイアスが問題になるのはどんなとき?

現状維持バイアスは、迷いを減らし、決断の疲れを防ぐ、便利なはたらきでもあります。
問題になるのは、見直せば得なのに、面倒だからと放置し続けるときです。
使っていないサブスクや、割高なプランを、そのままにして払い続けてしまいます。
「今のままでいい」が、実は「比べていないだけ」になっていることがあります。
大切なのは、「変えないことを、ちゃんと選んだのか?」と問い直すことです。
今のままと、新しい選択を、一度そろえて比べる必要があります。

引っかからないための3つのコツ

  1. 定期的に見直す日を決める。プランや契約を、年に一度は比べます。
  2. 「今から選ぶなら?」と考える。ゼロから選び直すつもりで比べます。
  3. 変えない理由をはっきりさせる。「面倒だから」なら、選べていません。
  4. 小さく試す。いきなり全部でなく、一つだけ新しいものを試します。

コツは、「慣れの安心」と「本当の得」を、分けて考えることです。

ビジネスでどう使う?(誠実な使い方)

現状維持バイアスは、お客さまとの関係を長く続けるために、知っておきたい視点です。
使いやすさを保ち、乗り換える必要を感じさせないのは、安心を届ける工夫でもあります。
慣れた心地よさは、それ自体がひとつの価値です。
注意したいのは、解約や見直しをわざと面倒にして、放置させることです。
その場は引き止められても、気づかれたときには、大きな不信につながります。
誠実な使い方とは、選び続けてもらえるだけの価値を、あり続けることです。
「変えにくくして引き止める」のではなく、「変えたくないと思ってもらう」ほうが、長く愛されます。

よくある質問(FAQ・全6問)

Q1. 現状維持バイアスは誰が示したの?

アメリカの研究者サミュエルソンとゼックハウザーが、1988年の実験で示しました。
人が、選択肢の中でも「今のまま」を強く選びやすいことを明らかにしたことで知られています。

Q2. 損失回避と同じもの?

深く関係していますが、同じではありません。
損失回避は「損を強く感じる」心のはたらきで、現状維持バイアスは、その結果「変化を避ける」という行動のかたよりです。
損を重く感じるからこそ、今のままを選ぶ、という関係です。

Q3. デフォルト効果とはどう違うの?

近い仲間です。
デフォルト効果は「初期設定が選ばれやすい」こと、現状維持バイアスは「今の状態が選ばれやすい」ことです。
どちらも「そのまま」が強い、という点で共通しています。

Q4. 悪いことばかりなの?

いいえ、役に立つ面もあります。
毎回すべてを選び直していたら、疲れてしまいます。
問題になるのは、見直せば得なのに、比べもせず放置するときだけです。

Q5. どうすれば気づける?

「今からゼロで選ぶなら、これを選ぶ?」と問うのが有効です。
今の選択を、いったん白紙にして考えると、慣れによる思い込みに気づけます。
そのうえで同じものを選ぶなら、それは納得の選択です。

Q6. 企業が使いやすさを保つのは問題?

使いやすさを保つこと自体は、問題ありません。
安心して使い続けてもらう、大切な工夫です。
問題なのは、解約や乗り換えをわざと難しくして、放置させるときだけです。

まとめ

現状維持バイアスは、変えたほうが得でも、今のままを選びたくなる心のクセです。
「いつものでいいや」と感じた瞬間こそ、「今からゼロで選ぶなら?」と問うチャンス。
慣れの安心と、本当の得を切り分ければ、なんとなくの継続に流されずに選べます。

第4章はまだ続きます。

次回は、自分のものを手放したくなくなる、保有効果を見ていきましょう。

🎯 今日の1手(実践)

今日、「いつものでいいや」と、慣れた選択をした瞬間があったら、思い出してみてください。
その時、すぐ決めず、いったん立ち止まってみる。
「今からゼロで選ぶとしても、これを選ぶ?」と、白紙で考えてみる。
「慣れの安心」と「本当の得」を切り分ける感覚を、今日1回だけ体験する。
これが66日の42日目です。