第16話
2017年10月以降の開発は、とにかく動くものを作るということだ。
kickstarterでプロジェクト申請をしたときのプロトタイプはライトは点いたが、リモコンモジュールはハリボテだった。
実際のソフトウェア側もできていなかったので、アプリもイメージUIを載せたり、動画もイメージに近い形で撮影をしていた。
もちろん、実際にできるよう設計は考えていたし、時間さえあればほぼ間違いなくできる自信もあった。
であれば、まずはしっかり動くものを作ろうというところからだ。
開発は少しずつ進んでいく。
購入した3Dプリンタの稼働や上本が作る基板回路を見る機会も増える。
と同時に、時間とコストもかかっていく。
2017年の年末。
いろいろとかかってきたコストは300万円を超えたあたりだろうか。
どこまでをコストと捉えるかによって変わってくるが、もっと多くコストと考えることもできる状況である。
ただ、まだそこまでの焦りはなかった。
というのも、プロトタイプが順調にできがっていたからだ。
第17話
要するに、また考えが甘かったところが露呈するのだが、プロトタイプができてからのコストがどれくらいかかるのかが未知数だったのである。
くり返しになるが、ときは2017年12月。
年の瀬である。
ちょうどこの頃、ある程度のプロトタイプが完成した。
ただ、これだけでは商品として世の中に出すわけにはいかない。
回路図は専門知識のない状況での試作なので安全設計等は皆無だし、外側は3Dプリンタで出力したものにペイントで塗装したものだ。
仮にこのまま商品として出せたとしても、どうやって販売するというのか。
3Dプリンタはスペックにも寄るが、せいぜい1日がかりでも数十個のパーツを出力するのが精一杯だ。
そんな量産に限りがあるパーツの中に火が出るかもしれない回路図を入れて販売するなど言語道断だ。
認証が必要なものもあるし、流通のことも考えなければならない。
そう、プロトタイプとは、あくまで試作なのだ。
商品にするにはここからが本番といった流れになる。
ということで、プロトタイプを販売可能な製品にしてもらえる会社が必要となる。
OEMとかODMといった委託する会社のことだ。
ちなみに、OEMとはこちらで設計したものを委託して製造を請け負ってもらうこと、ODMとは設計やら場合によってはマーケティングまで委託してやってもらうという、いわゆる丸投げスタイルである。
そして、その会社を探すにも洗礼を受けることになる。
第18話
こちらとしては、いいモノができる!これを作ってくれる協力してくれる企業はたくさんあるはずだ!というというテンションである。
ただ、現実はテンションとは甚だしい乖離があった。
「最低ロットは20万台からですね」
「予算はザッと4億円からといったところでしょうか」
「量産できるようになるのは2年後くらいだと思った方がいいですよ」
こんな答えがあらゆるところで返ってきた。
夢とか商品に対する想い入れなど、評価に値しない。
いくらでできるか、いくら儲かるか、所詮そんな観点でしか見てもらえない。
広島から来た田舎者。
現実を受け入れろといわんばかりの冷ややかな目。
こっちの勝手な思い込みかもしれないが、こんな交渉が続いた。
本当にstakは商品化できるのだろうか。。
不安になりながらも、紹介や自分たちで調べては訪問して交渉のくり返しが続いた。
急ぎたいという想いとは裏腹に時間だけが過ぎていく。
そんな中、1社の会社と出会う。
場所は福岡。
2017年12月の出来事だ。
第19話
いろんなところで玉砕してきた交渉。
今思えば、最初の打合せから他社と反応が明らかにこの会社だけは違った。
福岡の九大学研都市にあるブレイブリッジ社。
3Dプリンタで出力して基板を搭載したプロトタイプを見てもらったときに、ここまで作ってきた人は珍しいと言ってくれた。
というか、まずいないと。
後々、言ってくれたのが最低でも500万円くらいのことはできていると。
細かくやってきた経緯を知らないけれど、場合によっては1,000万円くらいのボリュームのことをやってきているとの評価だった。
正直、とても嬉しかった。
どこを回っても相手にされて来なかっただけに、本当に嬉しかった。
そこからは堰を切ったように、stakの開発に至った経緯から量産してくれるところがなくて困っていることを話した。
しっかり話を聞いてくれて、やりましょう!という流れになるまで時間はかからなかった。
年明けの2018年1月から本格的な打合せが始まり、2月からいよいよstakは量産に向けて動き始めることになる。
第20話
プロトタイプを作ったことで、ある程度のことはできるという自負があった。
だが、全くそれも勘違いだったことにすぐに気付かされる。
量産に至るまでの過程を全く知らず、まさにゼロから勉強するということになる。
ES1とかES2とかそんな言葉が出てくることも知らず、スケジュールも考えていたものと明らかに違った。
そんな無知な俺に対しても優しかった。
ロット数は3,000からいける。
ただ、量産開始までのスケジュールに関しては、思っていたよりもかかることがわかった。
プロトタイプを作ったときのようなノリに近いものではなく、綿密に組み立てていかなければならない。
そのためには課題も多くあった。
IoTデバイスなので、ハード面だけでなく、ソフト面の開発が必要なこと。
そして、普通のIoTデバイスとstakが大きく異なるのは拡張することを視野に入れた設計をしないといけないこと。
ここは本当によくできたところだという自負がある。
それだけ画期的なアイディアを形にできた。
ところが、どんな方面にも広げることができる!という可能性の話とそれが目の前の人にとって必ずしも必要か?ということは全く異なる。
「なんでもできる」は「なにもできない」と同じことだと無名の人に言われたことがあるが、当時の俺は全く気にも留めなかった。
とにかくスケジュールを確定させて、そのとおりに進めることに集中することにした。