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2026年4月20日 投稿:swing16o

流言蜚語が拡散する理由:噂とデマが止まらない本当のメカニズム

流言蜚語(りゅうげんひご)

→ 根も葉もない噂やデマが世間に広まること

SNSのタイムラインを開くたびに、誰かのデマや根拠のない噂が流れてくる。
「なぜいつもこういう情報に限って広まるのか」——多くの人がそう感じたことがあるはずだ。
実はこれは偶然でも気のせいでもなく、脳科学・心理学・情報工学の研究によって明確に解明されたメカニズムがある。
流言蜚語——根も葉もないうわさが飛び交うこの現象は、SNSが誕生するはるか前から人類とともにあった。
今日は、そのメカニズムを徹底的にエビデンスで解剖する。
知ることそのものが、騙されないための最強の防衛になるからだ。

流言蜚語の誕生——3000年前の中国に起源がある

「流言蜚語」という四字熟語は、2つの漢籍に別々のルーツを持つ。
「流言」は儒学の規範書である『礼記・儒行』に登場し、「根拠のない噂を問い詰めない」という慣例の文脈で使われた言葉だ。
「蜚語」は中国の歴史書『史記・魏其武安侯伝』に登場し、「王を激怒させた、根も葉もない噂」を意味する言葉として用いられている。
さらに古い記録では、中国最古の歴史書のひとつ『書経』に「管叔及び其の群弟、国に流言す」という記述がある。
周の初め、武王の没後に管叔らが周公の悪評を意図的に流し、幼い成王を惑わそうとした——これが文字として記録された人類最古の「デマ工作」のひとつだ。
白川静の研究によれば、中国の古代史書にすでに「流言」の実例が見られ、日本での流言の記録も1600年ごろまでさかのぼる。
つまり流言蜚語は、SNS以前どころかインターネット以前、印刷技術以前から、人間社会に普遍的に存在し続けてきた現象なのだ。

◆ビジュアルデータ①
【「流言」の出典】礼記・儒行(中国・儒学の規範書)
【「蜚語」の出典】史記・魏其武安侯伝(中国・歴史書)
【「書経」に見る流言の実例】周初期・管叔による政治的デマ工作
【日本の流言の記録】1600年ごろまでさかのぼる(白川静の研究による)
【類義語】造言蜚語(ぞうげんひご)・風言風語(ふうげんふうご)・蜚流之言(ひりゅうのげん)

なぜこれほど長い歴史を持つのか。
それは流言が、人間の脳の構造そのものに根ざしているからだ。

噂はなぜ生まれるのか——心理学が解き明かした「流言の公式」

1947年、アメリカの心理学者G.W.オルポートとL.J.ポストマンは著書『デマの心理学』の中で、噂の拡散量を数式で表すことに成功した。

「R〜i×a」——これが「流言の基本公式」だ。
流言の流布量(R:rumor)は、情報の重要さ(i:importance)と内容の曖昧さ(a:ambiguity)の積に比例する。

解読すると単純明快だ。
「命や財産に関わる重要なテーマ」で、かつ「情報が不足して曖昧な状況」にあるとき、流言は最大限に拡散する。
災害時に「〇〇地区で有害ガスが発生」「井戸に毒が投入された」といったデマが飛び交うのは、まさにこの公式の典型例だ。
重要性(命に関わる)×曖昧さ(事実が確認できない混乱状況)の積が最大化するからだ。

オルポートとポストマンはさらに、流言が生まれる感情的背景についても分析している。
流言は不安・不満・願望などの「強い感情」にとらわれている状況で生まれ、人々は流言を信じ伝え合うことによって感情の緊張を緩和し、感情を正当化しようとする——と指摘した。
噂を広めるのは「情報を広めたい」欲求ではなく、「不安を誰かと共有したい」という感情的な必要性なのだ。

◆ビジュアルデータ②
【流言の基本公式】R〜i(重要さ)×a(曖昧さ)/提唱:オルポート&ポストマン(1947年)
【流言が生まれやすい条件①】命・財産・社会的立場に関わる重要な話題
【流言が生まれやすい条件②】情報が不足・不確実な状況(災害・疫病・社会不安)
【流言が生まれやすい条件③】不安・不満・願望などの強い感情を持つ状態
【公式の実例】コロナ禍のトイレットペーパーデマ=「生活必需品への不安(重要性大)」×「真偽不明の状況(曖昧さ大)」→ 爆発的拡散

また、オルポートはデマの原動力をさらに分解している。
危機時のデマは死への恐怖、ゴシップやスキャンダルは性的興味、不気味な噂や怪談は不安、悪口や中傷は嫌悪——それぞれ異なる感情が「燃料」となって噂を走らせるのだ。
噂の内容が違えど、その背後には必ず人間の強い感情がある。

なぜデマは真実より速く広まるのか?

流言蜚語はSNS時代に入って桁違いの問題に変貌した。
その証拠が2018年に科学誌Scienceに掲載されたMIT(マサチューセッツ工科大学)の研究だ。

研究チームはTwitter上の300万人のユーザー間で流布した12万6,000件のニュース項目を分析した。
その結果は衝撃的だった。
真実の情報が1,500人に届くのに要する時間に対し、フェイクニュース(虚偽情報)が同じ1,500人に届くには約6分の1の時間しかかからなかった。
さらに、フェイクニュースは多い時で10万人規模まで拡散する一方、真実の情報の拡散は1,000人程度にとどまることも明らかになった。
拡散力では最大100倍、拡散速度では最大20倍——これが科学的に計測されたデマと真実の差だ。

注目すべきはボット(自動投稿プログラム)の影響を除外しても同じ結果が出た点だ。
つまりデマを拡散しているのは、人工知能でも悪意ある特殊な工作員でもなく、普通の人間なのだ。

◆ビジュアルデータ③
【MIT研究(2018年・Science誌掲載)の主要データ】
分析対象:Twitterユーザー300万人・ニュース項目12万6,000件
真実が1,500人に届く時間:フェイクニュースの約6倍
フェイクニュースの最大拡散規模:10万人(真実の最大値:1,000人)
拡散力の差:最大100倍
拡散速度の差:最大20倍
ボットを除外した場合の結果:変化なし(人間の行動が主因)
フェイクニュースが拡散される可能性:真実より70%高い

では、なぜ人間は真実よりデマを拡散してしまうのか。
研究者たちはその理由を「新奇性(novelty)」と「感情の種類」に求めた。
デマは「目新しく」「恐怖・嫌悪・驚き」を植え付けるものが多い。
一方で真実のニュースは「悲しみ・喜び・信頼」といった感情を生む——地味で拡散されにくい感情だ。
人は「知らないと損をする情報」「驚くべき情報」に強く反応し、それを他者に伝えたくなる。
これを研究者たちは「新奇性仮説」と呼んでいる。

デマを加速させる「怒り」とエコーチェンバーの罠

MITの研究が明らかにした「感情の種類」の問題は、SNSのアルゴリズムとかけ合わさることで、さらに深刻な増幅装置として機能する。

中国版Twitterと呼ばれるWeiboで2010年から2011年にかけての約28万人・約7,000万件のデータを分析した研究では、SNS上で最も拡散されやすい感情は「怒り」であることが明らかになった。
喜び・嫌悪・悲しみより、怒りが最も強くユーザー同士をつなぎ、拡散を促進する。
ニュースをSNSでシェアする動機の調査でも、シェア理由として「特定のイデオロギーや怒りの主張」が全体の67%を占めていた。
「この人は許せない」「この事実を広めなければ」——怒りの感情が情報をウイルスのように拡散させるのだ。

そしてこれを構造的に増幅させるのが「エコーチェンバー」と「フィルターバブル」だ。
総務省「令和5年版情報通信白書」は、人が「自らの見たいもの・信じたいものを信じる」確証バイアスを持ち、SNSプラットフォームのアルゴリズムがそれを増幅させると指摘している。

◆ビジュアルデータ④
【エコーチェンバーとフィルターバブルの構造】
フィルターバブル:アルゴリズムが個人の行動履歴を分析し、「見たい情報」のみを表示する状態
エコーチェンバー:SNSで似た意見の人同士が集まり、同じ意見が繰り返し増幅される状態
【日本の認知度データ(総務省・2023年版情報通信白書)】
SNS情報がパーソナライズされていることを「知っている」割合
日本:44.7%
アメリカ・ドイツ・中国:80〜90%
【怒りの拡散力(Weibo研究・約7,000万件データ)】
分析した4感情(怒り・喜び・嫌悪・悲しみ)の中で、最も拡散力が高いのは「怒り」

日本人の約55%がSNSのパーソナライズを認識していない。
つまり多くの人が、自分が「偏った情報環境の中にいること」すら気づいていない状態でスマートフォンを開き、情報を判断しているのだ。

さらに見落とせないのが「真実性の錯覚効果」だ。
心理学の研究によると、同じ情報を繰り返し耳にするだけで、脳はそれを「真実らしい」と感じるようになる。
信頼性のない情報源からの情報であっても、繰り返し触れることで「粘着性」を獲得し、判断に影響を与えるのだ。
これはデマを繰り返し流すことが、単純に有効な戦略であることを意味する。

デマは「産業」になっている——経済的動機と拡散構造の現実

流言蜚語の問題をビジネスと切り離して考えることは、もはやできない。
国際大学グローバル・コミュニケーション・センター准教授・山口真一氏の研究によると、ネット上に広く拡散しているデマには「スーパースプレッダー」と呼ばれる特定の人物が存在し、その中にはデマを広めることで大きな収益を上げている者もいる。
フェイクニュースは今や「産業」として成立しているのだ。

2016年のアメリカ大統領選挙では、マケドニアの学生が広告収入を目的に大量のフェイクニュースを製造していたことが判明した。
ニュースガードとコムスコアの共同調査によると、広告業界は意図せず誤情報を拡散するサイトに毎年20億ポンド(約3,027億円)もの広告費を支出しており、英国だけでも約1億1,000万ポンド(約166億円)規模に達すると推計されている。
デマを広めるサイトに広告が掲載されるアテンションエコノミーの構造が、流言蜚語を経済的に支える仕組みを作り上げているのだ。

日本でも2020年の1年間だけで2,600件以上のフェイクニュースが確認され、そのうち2人に1人以上が当時フェイクニュースに接触していたことが総務省の調査(2021年4月発表)で明らかになっている。

◆ビジュアルデータ⑤
【フェイクニュースの経済規模】
世界の広告業界がデマサイトへ誤って支出する額:毎年20億ポンド(約3,027億円)
英国内の同推計:約1億1,000万ポンド(約166億円)
【日本のフェイクニュース実態(総務省2021年4月データ)】
2020年に確認されたフェイクニュース件数:2,600件以上
2020年にフェイクニュースに接触した人:2人に1人以上
【コロナ禍の危険なデマの被害】
「メタノールを飲むと治る」などの誤情報を信じた死亡事例:世界で少なくとも800件以上確認
【日本の歴史的事例】
1923年関東大震災時の流言蜚語:少なくとも6,000人の死者に関連したとされる

歴史を振り返ると、流言蜚語がもたらす被害の規模は平和時の比ではない。
関東大震災(1923年)では、「朝鮮人が井戸に毒を入れた」などの根も葉もない噂が広まり、少なくとも6,000人の朝鮮人が震災の混乱の中で命を落とした。
流言蜚語は単なる情報のゆがみではなく、人命を奪う凶器になりうる。

まとめ

流言蜚語が3000年以上にわたって人類と共存し続けてきた理由は明確だ。
それは人間の脳の構造——不安・怒り・好奇心という感情の回路——に根ざしたメカニズムだからだ。

オルポートの公式「R〜i×a」が示す通り、重要性と曖昧さが重なるとき、人は噂を信じ、広める。
MITの研究が証明した通り、フェイクニュースは真実より最大20倍速く、100倍遠くへ届く。
エコーチェンバーとフィルターバブルはそれをさらに増幅し、日本人の約55%がその仕組みに気づいていない。

私がこのテーマを書いた理由はひとつだ。
流言蜚語のメカニズムを知ることは、騙されないための知性であると同時に、ビジネスリーダーとして正確な情報に基づいた意思決定をするための必須スキルだからだ。
「何となく不安だから」「怒りを感じたから」——そういった感情に引きずられて情報を拡散することは、自分自身を流言の加害者にする行為でもある。

情報と向き合うとき、私は常に1秒だけ立ち止まるよう心がけている。
「これはなぜ自分が不安になっているのか」「なぜ怒りを感じているのか」——感情を意識することで、デマのフックを外せる確率が格段に上がる。
流言蜚語が飛び交う時代に、冷静な判断力を持ち続けることそのものが、最大の競争優位になると私は確信している。

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