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2025年8月21日 投稿:swing16o

消費者心理の真実とマーケティングの落とし穴:なぜ人は嘘をつくのか?

放言高論(ほうげんこうろん)
→ 言いたい放題、声高に論じること。

放言高論という言葉が生まれたのは、明治時代の自由民権運動が活発化した1880年代のことだ。

当時の知識人たちは、西洋から流入した「言論の自由」という概念を日本的に解釈し、「思うところを憚らず述べる」という意味で使い始めた。

興味深いのは、この言葉が最初から二面性を持っていたことだ。

一方では「勇気ある発言」を意味し、もう一方では「無責任な放言」という批判的なニュアンスも含んでいた。

現代において、私はこの「放言高論」を積極的な意味で捉えている。

データに基づいた事実を、誰もが思っているけれど口に出せない形で、声高に論じることこそが必要だと考えているからだ。

特にマーケティングの世界では、きれいごとではなく、人間の本音と建前のギャップを直視することが成功への第一歩となる。

消費者の本音を見抜く5つの視点

このブログでは、以下の5つの観点から消費者心理の真実に迫る。

  1. マクドナルドの「サラダ神話」が示す理想と現実のギャップ
  2. スターバックスで見られる「サイズ選択の虚栄心」
  3. フィットネスジムの「幽霊会員現象」が語る自己欺瞞
  4. 電子書籍購入者の「積読症候群」に見る知的虚栄心
  5. オーガニック食品市場の「エコ偽装購買」の実態

これらの事例を通じて、消費者の発言をそのまま信じることの危険性と、真の顧客ニーズを掘り起こす方法論を提示する。

データが暴く真実:マクドナルドの「サラダ神話」の崩壊

マクドナルドのケースは象徴的だ。

2020年にマクドナルドは全米でサラダの販売を中止した。

その理由をマクドナルドUSAのプレジデント、ジョー・アーリンガーは明確に語っている。

「人々が本当にマクドナルドからサラダを求めているなら、喜んでサラダを再開するが、我々の経験が証明したのは、それは消費者がマクドナルドに求めているものではないということだ」

さらに興味深いのは、1987年にサラダが導入されて以来、マクドナルドは高級サラダやMcSalad Shakersなど様々な試みをしたにもかかわらず、サラダは決してバーガーやチキンナゲットほどの人気を得ることはなかったという事実だ。

2013年のデータでは、マクドナルドCEOのドン・トンプソンによると、サラダの売上は米国レストラン売上のわずか2〜3%に過ぎなかった。

この数字が示すのは、消費者が口で言うことと実際の購買行動の間には、埋めがたい溝が存在するということだ。

実際、L.E.K. Consultingの2018年調査によると、93%の消費者が「少なくとも時々は健康的な食事をしたい」と答え、63%が「ほとんどまたは常に健康的な食事を心がけている」と回答している。

しかし、マクドナルドのサラダ売上2〜3%という現実との間には、90%以上のギャップが存在する。

消費者心理の深層:なぜ人は嘘をつくのか?

この矛盾の背後には、複雑な心理メカニズムが働いている。主に以下の3つの要因が考えられる。

1. 社会的望ましさバイアス(Social Desirability Bias)

人は社会的に「正しい」とされる回答をする傾向がある。

健康意識が高いことは社会的に評価されるため、アンケートでは健康的な選択肢を選ぶと答える。

2. 理想自己と現実自己のギャップ

消費者は「こうありたい自分」(理想自己)と「実際の自分」(現実自己)の間で揺れ動く。

アンケートでは理想自己が回答し、実際の購買場面では現実自己が決定を下す。

3. 認知的不協和の解消

マクドナルドでジャンクフードを食べることへの罪悪感を、「本当はサラダが好き」という建前で中和しようとする心理的防衛機制が働く。

実際、消費者の健康食品への支払意欲に関する研究では、26の実験のうち23(88.5%)で、消費者は健康的な食品に対して5.6%から91.5%(平均30.7%)の価格プレミアムを支払う意欲があることが示された。

しかし、この「意欲」が実際の購買行動に結びつかないのが現実だ。

5つの事例に見る「建前と本音」の乖離

1. スターバックスの「サイズ選択の虚栄心」

スターバックスでは興味深い現象が観察される。

2019年のデータによると、スターバックスで販売される全飲料の30%がVentiサイズ(20オンス)だった。

さらにアイスコーヒーに限定すると、33%の顧客がVentiを選択し、Grandeを選ぶ24%を上回った。

しかし、顧客に「健康的な飲み物を選びますか?」と尋ねれば、多くが「はい」と答えるだろう。

実際には、VentiサイズのCaramel Apple Spiceには87gもの砂糖が含まれており、アメリカ心臓協会が推奨する女性の1日の添加糖分摂取量(25g)の3倍以上だ。

この矛盾の背後には、「妥協効果」と呼ばれる心理メカニズムが働いている。

消費者は最も小さいサイズ(Tall)では量が少なすぎると感じ、最も大きいサイズ(Venti)では価格が高すぎると感じるため、中間のGrandeを選ぶ傾向がある。

スターバックスはこの心理を巧みに利用し、価格設定を調整することで、より大きなサイズへと消費者を誘導している。

2. フィットネスジムの「幽霊会員現象」

フィットネスジムの実態はさらに衝撃的だ。

米国では約6,890万人がジム会員権を持っているが、そのうち67%のメンバーが「まれにしか、または全く利用していない」と報告している。

つまり、4,600万人以上が会費を払いながら、実際にはジムに通っていない「幽霊会員」となっている。

米国人は年間約13億ドルを未使用のジム会員費に費やしている。

さらに平均的なジム会員は、会費の3分の2を「過少利用」しており、これは月額約39ドル、年間468ドルに相当する。

この現象の背後には「希望的バイアス」が働いている。

人々は「来週こそは通う」「来月から本気を出す」と自分に言い聞かせ続け、会員権を維持する。

ジムの会員権は、現実の自分ではなく「なりたい自分」への投資となっているのだ。

3. 電子書籍購入者の「積読症候群」

電子書籍市場でも同様の現象が見られる。

Jellybooksの調査によると、書籍の完読率は25%から50%の間が大半で、50%を超えるのは例外的なケースだ。

つまり、購入された電子書籍の半分以上が最後まで読まれていない。

2020年の調査では、平均的な読者が月に2.4冊の電子書籍を購入しているが、実際に読み終える本はその半分以下ということになる。

人々は「知識を得たい」「教養を身につけたい」という願望から電子書籍を購入するが、実際の読書習慣がそれに追いついていない。

この「積読症候群」は、知的虚栄心の典型例だ。

本棚に並んだ未読の本、あるいはKindleライブラリーに蓄積された電子書籍は、「知的な自分」というセルフイメージを支える小道具となっている。

4. オーガニック食品市場の「エコ偽装購買」

オーガニック食品市場でも「エコ偽装購買」という現象が顕著だ。

Pew Research Centerの調査によると、米国人の68%が過去1か月以内に何らかのオーガニック食品を購入したと回答している。

しかし、実際に食べている食事の「ほとんど」または「一部」がオーガニックだと答えたのは全体の40%に過ぎない。

さらに興味深いのは、中国での研究だ。

消費者は環境問題に関心を示し、日常生活でエコフレンドリーな製品に興味を持っているにもかかわらず、この意識がオーガニック食品への支払意欲には結びつかないことが明らかになったという点だ。

2022年の時点で、米国消費者の約30%が従来の製品と比較してオーガニック製品を購入したと報告しているが、実際の食生活におけるオーガニック食品の割合はそれよりもはるかに低い。

これは「グリーンウォッシング」の個人版とも言える現象で、消費者は環境に配慮していることを示すためにオーガニック食品を購入するが、実際の消費行動は異なっている。

5. サブスクリプションサービスの「利用幻想」

サブスクリプションサービスでは「利用幻想」が広がっている。

Self Financialの調査によると、Amazon Primeが過去30日間使用されていない有料サブスクリプションの中で最も多く(30.1%)、Netflixもテレビストリーミングサービスの中で最も未使用率が高い。

さらに衝撃的なのは、ある調査によると、月額サブスクリプションの30%が未使用で、英国人は年間250億ポンドを不要で未使用のサブスクリプションに浪費しているという事実だ。

一般的に、85%以上の加入者が過去1か月に少なくとも1つの有料サブスクリプションを未使用だと示しており、平均的な米国消費者は毎月3.3のサブスクリプションを使用していない。

消費者は月額86ドルをサブスクリプションサービスに費やしていると最初に見積もったが、実際の詳細な支出を確認すると、平均月額支出は219ドルで、当初の見積もりの2.5倍以上、133ドル高かった。

この「利用幻想」の背景には、便利さへの憧れと実際の時間管理能力のギャップがある。

人々は「いつでも見られる」「必要な時に使える」という可能性に対してお金を払っているが、実際にはその時間を確保できていない。

データが示す不都合な真実:なぜマーケティングは失敗するのか?

これらの事例から明らかになるのは、消費者の発言と行動の間には構造的な乖離が存在するということだ。

その主な要因は以下の通りだ。

1. アイデンティティ投資としての消費

現代の消費は、単なる商品やサービスの購入ではなく、「なりたい自分」への投資となっている。

ジム会員権、電子書籍、オーガニック食品、サブスクリプションサービスは、理想の自己像を支える小道具だ。

2. 社会的シグナリングとしての購買行動

購買行動自体が社会的なメッセージとなっている。

「健康的」「知的」「環境に配慮している」というシグナルを送るために、実際には使わない商品やサービスにお金を払う。

3. 選択のパラドックス

選択肢が増えれば増えるほど、実際の選択は保守的になる。

マクドナルドでサラダが選べることで罪悪感は軽減されるが、実際に注文するのはビッグマックだ。

真実を直視する勇気

私たちstak, Inc.では、このような不都合な真実を直視することから始める。

美しいアンケート結果や理想的な消費者像に惑わされることなく、実際の行動データを重視する。

例えば、私たちが手がけたあるプロジェクトでは、クライアントが「健康志向の高い消費者向け」の商品開発を進めていた。

市場調査では90%以上が「健康的な食品を求めている」と回答していた。

しかし、私たちは実際の購買データ、検索履歴、SNSでの行動パターンを分析した。

結果は驚くべきものだった。

「健康」を検索する人の70%以上が、実際には「健康的に見える」「罪悪感が少ない」商品を探していたのだ。

彼らが本当に求めていたのは、健康そのものではなく、不健康な選択をしても罪悪感を感じない「言い訳」だった。

この洞察に基づいて、私たちは「ギルトフリー・インダルジェンス」というコンセプトを提案した。

健康的な要素を含みながらも、満足感を犠牲にしない商品開発だ。結果、売上は予想を150%上回った。

まとめ

マーケティングやブランディングの世界で最も危険なのは、消費者の言葉をそのまま信じることだ。

人々は嘘をつく。

意図的にではなく、無意識に、そして構造的に。

成功するマーケティングとは、この真実を受け入れ、人間の本質的な欲望と向き合うことから始まる。

きれいごとではなく、データが示す現実を直視する勇気が必要だ。

私たちstak, Inc.は、この「放言高論」の精神で、クライアントの真の成功を追求し続ける。

美しい理想ではなく、醜い現実と向き合うことで、本当の価値を生み出せると信じているからだ。

最後にこの記事を読んでいるあなたに問いたい。

あなたの会社は、顧客の「建前」に基づいてビジネスを構築していないだろうか?

もしそうなら、今すぐデータを見直すべきだ。真実は、アンケート結果ではなく、レジの売上データの中にある。

人は理想を語るが、財布は本音を語る。

この単純な真理を忘れた瞬間、マーケティングは失敗への道を歩み始める。

 

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