繁文縟礼(はんぶんじょくれい)
→ 規則や礼法などが込み入っていて煩わしいこと。
「繁文縟礼」は、もともと儀式や礼法などの形式が過度に複雑化し、本質を見失いがちになる状態を指す言葉だ。
古代の祭礼や宗教儀式など、ある種の権威を示すために多くの手続きが設定された結果、内容よりも形式ばかりが重視されてしまう例が少なくない。
これには、儀式そのものが権力やステータスを象徴する機能を担っていた歴史的背景が大きく影響している。
儀式や礼法が「身分の違いを明確に示す道具」にもなりうるため、複雑さが権威につながるという考えが根強く存在した。
例えば古代エジプトや中国の王朝では、王に拝謁する際の手順が多岐にわたった。
そこには「これだけの煩雑さをクリアできるのは特別な人間だけだ」という無言のメッセージが潜んでいた。
現代でも冠婚葬祭や会社の社内ルールなど、形式にこだわりすぎて当の目的がわかりにくくなるケースがある。
こうした繁文縟礼的な状況は、個人レベルだけでなくビジネス、政治、行政などあらゆる場面で見受けられる。
そしてこれらが生まれる根底には、権威や利権を守る意図が少なからず関与していると考えられる。
ルール誕生の歴史と社会への影響
人間社会において一定のルールや礼法が必要になるのは当然だ。
無法地帯になれば、個人同士の対立が絶えず、秩序が保てない。
だからこそ、文明の誕生とともにルールが存在していた事例は多い。
最古の法律の一つとして有名なのが、紀元前18世紀頃に制定されたとされるバビロニア王国の「ハンムラビ法典」だ。
約282条にも及ぶ規則群で、家族関係から商取引に至るまで細かく規定されていた。
(参考:ロウソン『ハンムラビ法典とメソポタミアの世界』)
古代中国における礼制(れいせい)も、秩序の維持のために儒教や法家の思想を基に整備された。
これにより、社会的階層の明確化やモラルの維持が図られた。
日本においても、飛鳥時代や奈良時代に律令が整備され、そこから派生した数々の決まりごとが朝廷や貴族社会を支えていたと言われる。
ただし、ルールが増えていけば増えていくほど、誰がどのような利益を得るのかが重要なテーマになる。
単純な規則が徐々に複雑化し、やがて一部の人間がそれを利用して権益を独占する現象は、過去のどの社会を見ても存在してきた。
シンプルな秩序維持のためのルールが、気づけば何重もの手続きに囲まれ、形骸化した儀式へと変貌してしまうのが、繁文縟礼への第一歩である。
利権がもたらす複雑化の本質
ルールが複雑化する背後には「利権」というキーワードが大きく絡む。
最初は社会秩序を守るための単純な規則だったものが、ある人や組織にとって有利になるように微調整されるうちに、複雑で不可解なものへと変貌する。
その複雑さこそが、既得権益を守る防波堤の役割を果たす。
例えば役所の手続きは、書類に不備があるかどうかを厳格に審査する。
これは適正な運用を維持するために必要という建前がある一方、詳細な要件を常に把握できる専門家だけがサービスを提供できる構造ができる。
それ自体が特定の人々に仕事を与え、それを業とする利権にもなる。
さらに法律や制度が改正されるたびに、新たな手続きや書式が追加される。
結果として一般人には理解が難しい領域が拡張し続け、「自分ではよくわからないので専門家に依頼するしかない」という状況を生む。
こうした構造は何も行政手続きに限った話ではない。
あらゆる業界で規則が細分化されると、必要以上に複雑化した各種ライセンスや協会への加入要件などが存在する。
そこには既存勢力が市場をコントロールする目的が見え隠れする。
(参考:PWC「Paying Taxes」2020年版の報告によれば、世界の法人税関連手続きに要する時間は国によっては年間数百時間にのぼる。この時間の長さが複雑さの証左と言える)
健康保険や税制に見る繁文縟礼の代表例
健康保険や税金などは、大人であってもよくわからないものの代表格だ。
日本の社会保険料には年金、医療、介護など多岐にわたる区分があるうえ、収める額の計算も所得や年齢、配偶者の有無などで変動する。
その上、年度ごとに改正が入るため、厚生労働省や日本年金機構、税務署といった各所への手続きの煩雑さが増す傾向にある。
税制も同様だ。
所得税、住民税、消費税、法人税、そして相続税や贈与税など多種多様に分類されている。
しかも各制度には控除や減免などの特例が存在し、常に新しい法律や政令による改正が追われる。
結果として、一部の専門家しか正確に対応できないようなグレーゾーンが広がりやすい。
(参考:日本税理士会連合会のデータでは、法改正に対応するために新しい通達やQ&Aが随時発行され、その総ページ数は年々増加しているという報告がある)
これらの手続きの複雑さを解消する目的で電子申請システムが整備されつつあるものの、あまりに細部の規定が多く、システムに完全対応するまでに何度もアップデートが必要となるケースが少なくない。
さらにオンライン手続きであっても、従来の書面主義から抜け出せず、紙の書類を求められる二重手続きが問題視されている。
デジタル・トランスフォーメーションが進んでいるはずの時代に、未だに旧来の仕組みが根強く残る事例が多いのは、そこに既得権益が絡んでいるからだと推測できる。
クリエイティブとITから探る改善策
繁文縟礼が生まれる背景には、歴史的・権威的な要素だけでなく、既存勢力の利権保護も大きく関わる。
この複雑化を解消するアプローチとしては、クリエイティブな視点とITテクノロジーの組み合わせが効果的だと考える。
クリエイティブ面では、「既成概念を疑う」姿勢が重要だ。
世の中に当たり前に存在している煩雑なルールが本当に必要なのかを、改めてデザイン思考で検証する。
具体的には、ユーザー体験(UX)を最優先に考え、手続きにかかるステップを思い切って可視化し、ムダをそぎ落とすプロセスを取り入れる。
単なるマニュアル修正ではなく「ユーザーが最初から最後までストレスなく完了できるか」をゴールにすると、自然と手続き自体が簡略化される方向に動く。
ITの活用によってデータの一元管理やシステム間連携を実現すれば、既存の紙文化や多重チェック体制を大幅に削減できる。
AIやRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)を導入して、人間が判断しなくてもよい部分を自動化すれば、書類不備チェックなど煩雑な業務から開放される。
IoT技術によるデータ収集と自動レポーティングを組み合わせる事例も増えており、リアルタイムで状況を把握できれば、不要なルールを随時アップデートしやすい。
ただし、こうしたデジタル化・自動化には、常にセキュリティやプライバシー保護がつきまとう。
ここでも官民の規則が入り乱れ、さらなる複雑化を招くリスクがある。
だからこそ、抜本的な改革とシステム設計が不可欠になる。
形だけのデジタル化で済ませると、結局は繁文縟礼のデジタル版が生まれるだけだ。
まとめ
stak, Inc.では機能拡張型のIoTデバイスを企画および開発しているが、そのコアとなるのは「誰でも簡単に扱える」仕組みの追求だ。
技術や制度が複雑化しても、人が使いこなせなければ本末転倒だと考えている。
ルールづくりも同じであり、「誰でも理解できる」状態を目指さなければならない。
一度複雑化した仕組みを元に戻すのは簡単ではない。
なぜなら、その複雑さを維持することで得をする人間や組織が必ず存在するからだ。そ
れでも、理想的なルールの構築には以下のポイントが重要だと考える。
– シンプルかつ明瞭であること
誰が読んでも意図を理解できる。言葉の定義や手続きの手順をわかりやすく再設計することが第一歩になる。
– 目的と手段の区別を明確にすること
ルールがどのような目的で存在するのかを明確化し、目的と関係のない手段はどんどん排除していく。形骸化した儀式や手続きには必ず「本来の目的」を見失っている要素がある。
– 適宜アップデートしやすい仕組み
ITやIoTの活用により、状態を可視化しながら随時ルールを更新しやすい体制を築く。硬直化していると、時代にそぐわない規則がいつまでも生き残り、さらなる複雑化につながる。
– 透明性とアカウンタビリティを担保すること
なぜそのルールが存在するのか、誰がどのような利益を得るのかを見える化する。利権構造を隠すことで複雑化がエスカレートするからこそ、透明性を確保する取り組みが不可欠。
歴史を振り返ると、ルールや礼法は社会の安定と秩序を守るために必要だった一方で、時代を経るごとにそれが権威や利権の温床となり、誰もが使いづらい状態を生み出してきた。
だが今こそ、IoTやAIといったテクノロジーを使いこなし、既存のルールを抜本的にデザインし直すチャンスがあると感じている。
stak, Inc.の事業では、モノやサービスをシンプルに使いこなせる環境を整備することで、ユーザーと社会全体のリソースを解放し、新たなイノベーションを生み出す土台にしていきたい。
そのためにまずは自社のルールからシンプル化を実践し、繁文縟礼から脱却していく姿勢を示し続けるつもりだ。
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