万寿無疆(ばんじゅむきょう)
→ いつまでも長生きすることで、長寿を祝う言葉。
万寿無疆という言葉は、中国の古典『詩経』や『書経』などに由来するともいわれている。
皇帝や権力者の長寿を願う祝詞として用いられたのが始まりだが、やがて「尽きることなき寿命」「果てしなく生き永らえる」というように、万人に向けた長寿祈願の概念へと広がった。
単純に生き延びるだけではなく、豊かな生活をいかに長く続けるかという視点も含まれていたとされる。
ところが、長寿を願う思想そのものは東アジアだけではなく、古今東西あらゆる文明で見られる。
ギリシャ神話でも神々は不老不死の妙薬「アムブロシア」を求め、ヨーロッパでは錬金術師が「賢者の石」を探し求めた。
いずれも長く生きる手段を得たいという欲望が根幹にある。
しかし現代社会においては、その欲望が「ただ長く生きる」よりも「健康に長く生きる」ことへシフトしているのが特徴だ。
実際、ベッドで寝たきりになって延命措置のみ続ける状態を、人は本当の意味での長寿とは見なさなくなった。
ただ寿命を引き延ばすテクノロジーよりも、健康で豊かな人生をより長く謳歌できるようなプロダクトこそが求められると考えている。
IoTやAIなどの先端技術を活用し、毎日の生活リズムや運動量、食生活などを可視化する取り組みは、まさしく万寿無疆の現代版実現へのアプローチといえる。
日本の平均寿命を徹底調査
厚生労働省が2023年に公表した「簡易生命表」によると、日本人の平均寿命は男性81.64歳、女性87.74歳となっている(※1)。
この数値は世界保健機関(WHO)が毎年公表する世界各国の統計と照らし合わせても依然としてトップクラスであり、「日本は長寿大国」という認識は世界的にも揺るぎない地位を築いている。
一方、戦後まもない1947年の日本人の平均寿命は男性50.06歳、女性53.96歳(※2)。
医療の進歩や生活水準の向上に伴い、ここ数十年で日本人の寿命は目覚ましく伸びてきた。
ただし今の日本の平均寿命がさらに劇的に伸びるかというと、統計の伸び幅は緩やかになってきている。
癌や心疾患、脳卒中などの重大疾患の予防策が進んだことで、平均寿命の底上げはある程度進んだものの、新たな社会課題として「高齢者の生活の質」がクローズアップされるようになった。
その背景には医療費や介護の問題も大きい。
長寿化によって介護が必要な高齢者が増えると、社会全体での負担も大きくなる。
だからこそ、ただ生きる年数を伸ばすだけでなく、いかに健康を維持しつつ生活していくかが重要視されるようになった。
これが後述する「健康寿命」の議論の根幹であり、日本の平均寿命の先を見据えるうえで見逃せないポイントとなる。
健康寿命こそが真の長寿
寝たきりや重篤な疾患に苦しみながら生き続けるのは、本人にとっても家族や社会にとっても大きな負担になる。
平均寿命がいくら世界一でも、健康で自立した生活が送れないまま長生きするなら、それは「豊かな長寿」とは呼べない。
そこで近年注目されるのが、日常生活を大きな支障なく送れる期間を示す「健康寿命」だ。
厚生労働省の公表する「健康日本21(第二次)」や、世界保健機関(WHO)による調査(※3)では、「何らかの介護を要せず、日常生活にほぼ支障がない状態を維持できる期間」を健康寿命と定義している。
2020年時点での日本人の健康寿命は、男性72.68歳、女性75.38歳(※4)。
平均寿命との差を男性で約9年、女性で約12年もある。
つまり統計上、日本では70代前半〜半ばまでが自立した生活を送れる目安ということになる。
この「健康寿命」と「平均寿命」のギャップを埋めることこそが、真の意味での万寿無疆への道だといえる。
超高齢社会のなかで、如何に健康でいられる期間を長くするか。
その答えは医療分野だけでなく、IoTやAIを活用した予防・モニタリング、さらには住環境のアップデートや食の選択肢にも大きく関わってくる。
stakのような機能拡張型IoTデバイスも、健康に関する情報をデジタルでリアルタイムに取得できる仕組みを担い得る。
小型センサーの発展によって心拍数や睡眠状態、体温変化などを常時測定し、異常を早期発見する試みは拡大している。
この流れをさらに最適化し、より安価でシームレスな形に落とし込めば、個々人の健康寿命を伸ばす基盤が整うはずだ。
世界各国との徹底比較
日本の平均寿命は世界屈指だが、他の先進国との比較を見ると興味深い。
例えばWHOが公表した2021年版の統計(※5)では、男性女性ともに香港、日本、マカオ、スイス、シンガポールなどが上位を占める。
ヨーロッパや北米の先進国も概して平均寿命は高いが、日本ほど顕著ではない。
特に北米やヨーロッパ諸国では肥満が社会問題化しており、心臓病や糖尿病のリスクが高いことが平均寿命を押し下げる要因のひとつとされる。
健康寿命についても似たような傾向がある。
先進国で医療が進んでいればこそ、寝たきりや要介護状態になっても生命維持装置などで生き続けるケースが増える。
一方で発展途上国や新興国では、重篤な感染症や栄養不足、医療へのアクセスが限定的な地域もあり、平均寿命自体が低い。
インドやアフリカ諸国を例にすると、WHOの報告(※6)で平均寿命は依然として60〜70歳程度にとどまっている国が多い。
そのため健康寿命を確保する以前に、生活環境の改善や初期医療の整備が優先課題になっている。
他方で、中国や韓国など経済発展が著しいアジア諸国では、食生活の欧米化と都市部への人口集中によるストレスなどが課題として浮かび上がる。
一人あたりのGDPの上昇にともない医療へのアクセスも充実しつつあるが、同時に生活習慣病の増加が見過ごせない。
一連のデータから見えてくるのは、国や地域ごとに抱える課題によって平均寿命や健康寿命を左右する要因が異なるという事実。
日本が世界のトップクラスにいる理由は、医療保険制度の充実、衛生環境の整備、和食文化によるバランスのとれた食生活といった複合要因が寄与していると考えられる。
健康寿命を伸ばすエビデンスベースの方法
健康寿命を延ばすには、身体的・精神的なケアの両面を重視した生活習慣が欠かせない。
ハーバード公衆衛生大学院(Harvard T.H. Chan School of Public Health)の研究(※7)では、以下の習慣を満たす人は満たさない人よりも平均寿命が10年以上長くなる可能性を示している。
1. タバコを吸わない
2. 適度な運動(週150分程度の有酸素運動)
3. 適切な体重を保つ(BMI18.5〜24.9程度)
4. 適度な飲酒(女性1日1杯、男性1日2杯程度まで)
5. バランスの良い食事(野菜、果物、全粒穀物、健康的な脂質を多く含む)
さらに、睡眠の質を高めることも重要だとする研究が増えている。
東京大学の調査(※8)では、1日7〜8時間程度の睡眠を確保する人ほど肥満や生活習慣病のリスクが低いとされる。
また、メンタルヘルスのケアも軽視できない。
長期にわたるストレスは免疫系を弱体化させ、心疾患やがんのリスクを上げると報告されている(※9)。
これらの健康指標をチェックしながら日々の生活を最適化するテクノロジーとして、ウェアラブルデバイスやIoTセンサーが加速度的に進歩している。
心拍数や血圧、睡眠状態などのバイタルデータを常時取得することで、健康診断のようなスポットチェックだけではわからない変化を補足可能になる。
さらにAIによる機械学習が進めば、蓄積されたデータをもとにパーソナライズされた健康アドバイスが自動生成されるようになる。
まとめ
万寿無疆を現代的に再定義すると「健康寿命を最大限に伸ばして、人生を充実させること」と言える。
それをさらに推し進めるなら、IoTやAIだけでなく、バイオテクノロジーやブレインテックなども視野に入る。
遺伝子治療や再生医療によって、がんや難病を克服する未来が実現すれば、健康寿命はさらに延びるかもしれない。
実際に、世界中の研究機関やベンチャーが高性能ワクチンやゲノム編集技術を進化させており、その成果が医療現場で応用され始めている。
stak, Inc.の事業領域でも、クリエイティブかつエンタメ要素を組み合わせたデバイス開発を通じて、人々が生活習慣を自然に改善できるプラットフォームを作りたいと考えている。
日常生活に溶け込む形で、いつの間にか健康に良い行動が習慣化されている。
そんなユーザー体験をデザインしていくことが、これからのIoT開発の鍵になると確信している。
人類は寿命をひたすら延ばすだけではなく、個々人が活力を保ちつつ社会に貢献できるかどうかを重視する時代に移行しつつある。
平均寿命や健康寿命のデータを踏まえたうえで、テクノロジーと人間の創造性を掛け合わせれば、まだまだ大きな成長や進化の余地がある。
万寿無疆を実現するために必要なのは、科学と社会の最前線で生まれる知見を活かして、一人ひとりが自分のライフスタイルをアップデートする意識だ。
これこそが「ただ生きる」だけでは意味がない時代において、本当の長寿を祝う価値観といえる。
長く、そして健康に生きることで人生を積極的に楽しむ。
stak, Inc.としても、その実現を後押しするデバイスや仕組みを創り出し、世界の誰よりもどこよりも詳しく、そして分かりやすく発信していく所存だ。
(※1) 厚生労働省「令和5年簡易生命表」
(※2) 厚生労働省「戦後の平均寿命の推移(1947-2019)」
(※3) WHO「World Health Statistics」
(※4) 厚生労働省「健康寿命の動向」
(※5) WHO「Life expectancy and Healthy life expectancy, 2021」
(※6) WHO「Global Health Observatory Data Repository」
(※7) Harvard T.H. Chan School of Public Health「Impact of Healthy Lifestyle Factors on Life Expectancies in the US Population」
(※8) 東京大学「睡眠と生活習慣病に関する研究報告」
(※9) 国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所「ストレスが健康に及ぼす影響研究」
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