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2024年12月19日 投稿:swing16o

情報格差の歴史:AI時代の「博学多才」再定義

博学多才(はくがくたさい)
→ 知識が豊かで、多くの才能に恵まれていること。

博学多才という言葉は、膨大な知識を蓄え、かつ多領域で才能を発揮する人間像を指す概念として古くから存在する。

たとえばヨーロッパ文芸復興期におけるレオナルド・ダ・ヴィンチは、絵画、解剖学、建築、軍事工学など多領域に精通する万能人(ポリマス)だったとされる。

当時は書物や学術文献が極端に限られ、さらに識字率も低く(18世紀末の欧州平均識字率は約30%以下、参考: UNESCO “Historical Literacy Estimates”)、情報そのものが特権的な「知の武器」だった。

印刷技術が未成熟な時代、多くの人が基本的な読み書きすら困難だったため、限られた人物のみが情報アクセスと知識蓄積を行い、それが極度の知的格差を生み出した。

情報は常に格差を作る道具として機能してきた。

たとえば大航海時代、正確な航路情報や地理情報を握る国が植民地支配や貿易覇権を手中に収めた。

産業革命期には先進的な技術情報を独占した国家が経済成長を加速させ、他国を圧倒した。

19世紀初頭、世界平均識字率は10%台とも言われ(参考: UNESCO “World Literacy Rates 1800-2000”)、知識を所有することで発言力、交渉力、権力が増幅する構造が固定化されてきた。

20世紀前半まで、情報を独占できる者は富と権力を得ることが容易だった。

だが、この「情報特権」構造は後のテクノロジー革新によって徐々に崩れ始める。

博学多才を支えた「情報独占」という前提は、やがて大衆的なアクセスと高速な流通によって揺らいでいく。

インターネットとスマートフォンが生んだ情報民主化の実態

インターネットの登場は、情報格差縮小への大きな分岐点だった。

1990年代後半から2000年代初頭にかけて、検索エンジン(1998年創業のGoogleなど)が普及し、誰でも数秒で情報に到達できる環境が整備された。

国際電気通信連合(ITU)の報告書によれば、2000年当時のインターネットユーザーは全世界で約3億人程度だったが、2020年には40億人を超え、世界人口の半数以上がオンラインにアクセス(参考: ITU “Measuring digital development: Facts and Figures 2020”)。

この大規模な接続インフラ整備によって、歴史上初めて「情報を得る」行為が日常生活の一部となる。

次の画期的変化はスマートフォンの普及だ。

2007年の初代iPhone登場以降、スマートフォンはわずか10年ほどで世界中に急拡大した。

GSMA(携帯通信事業者連合)によると、2022年時点で世界のスマホ普及率は70%以上、契約数は60億件超に達している(参考: GSMA “The Mobile Economy 2022”)。

この結果、SNSを通じて誰もが自ら情報を発信・共有可能となり、知識流通の障壁は劇的に低下した。

Twitter(X), Facebook, YouTube, Instagram, TikTokといったSNSは、自分たちが能動的な情報発信者と受信者になる環境を築いた。

総務省の「通信利用動向調査」(2021年)によれば、日本でも20~30代のSNS利用率は80%以上に達している。

これらのツールは、知識へのアクセスコストを極限まで下げ、かつての「限られた人間だけが情報を所有する」構図を崩壊させた。

一見、「博学多才」な人材が溢れているように見えるが、実際には多くが「検索即得」の浅い知識流通であり、単なる情報保有量の多寡が価値基準にならない時代が訪れた。

AI進化による「博識」概念の崩壊と再定義

しかし本当の変革は2020年代に入ってから加速した。

AI(人工知能)が膨大なテキスト、画像、動画、センサーデータを学習し、実用段階に入りつつある。

とりわけ大規模言語モデル(LLM)の進化は驚異的で、OpenAIが開発したChatGPTは2022年末に一般公開されると、わずか2カ月で1億ユーザーを獲得し、インターネット史上最速ペースで利用者を拡大した(参考: UBSリサーチ 2023年2月報告)。

これらのモデルは数兆単位の単語データを学習し、人間が生涯かけても習得不可能な知識量を瞬時に参照する。

このような環境で、「博学」という言葉は根底から揺らいでいる。

もはや人間が膨大な知識を脳内に蓄える必要はない。

AIは質問一発で特定分野の最新研究や数十年分の統計情報を整理して回答できる。

2023年時点で科学論文は年間250万本以上発表されていると推計され(参考: STM(国際学術出版団体) “STM Report 2021”)、人間があらゆる領域の最新知見を捕捉し続けることは不可能に近い。

だがAIは数百万本の論文情報を参照し、数秒で要約できる。

ここで「博学多才」の定義は、知識量よりも「知識を活用するスキル」へと移行する。

AIが即座に答えを提示する以上、人間が競うべきは「いかに有効な質問をするか」「提供された情報をクリエイティブな解決策へと転用するか」「複数領域の知見を編集・統合できるか」という能力となる。

すなわち、博学多才は「知識暗記型」から「知的共創型」へと変容している。

AGI・ASIが迫る新時代:データで読む知的進化のシナリオ

AI進化の果てにはAGI(汎用人工知能)やASI(超知能)の到来が議論される。

AGIは人間並み、あるいはそれ以上の知的タスクを汎用的にこなす存在、ASIはそれをはるかに超える知能体を指す。

2020年代後半から2030年代にかけて、トップAI研究者の約50%がAGI実現の可能性を高いと予測しているとする調査報告もある(参考: AI専門家インタビュー集計 “2022 Expert Survey on Progress in AI”, Metaculus Community予測)。

オックスフォード大学の「The Future of Employment」研究(2013年, 2021年更新)は、多くの知的労働がAIに代替または補助される確率が極めて高まると示唆している。

PwCはAI技術が2030年までに世界経済に約15.7兆ドル(約1700兆円規模)の付加価値をもたらすと試算(参考: PwC “Sizing the prize: What’s the real value of AI for your business and how can you capitalise?” 2017)。

AGI・ASIが実用段階に達すれば、あらゆるビジネス領域で情報処理が瞬間的かつ高度に行われ、知識の「質的飛躍」が連続的に起こる可能性がある。

このとき、人間が単純な知識蓄積で勝負することは完全に無意味になり、豊富な情報源にアクセス可能な機械知性を前提とした新たな価値創造が中心軸となる。

IoT革命とstak, Inc.的視点で見る知識創造エコシステム]

さらにIoT(Internet of Things)によって世界は加速度的にデータ化され、リアルタイム情報が絶えず生成・蓄積されていく。

IDCによれば、2025年までに世界のIoT接続デバイス数は約410億台に達する見込み(参考: IDC “Worldwide Global DataSphere IoT Device and Data Forecast, 2021–2025”)。

膨大なセンサーデータ、位置情報、行動ログが収集され、これらをAIが分析することで、従来想像できなかった意思決定や発想が可能となる。

stak, Inc.が手掛ける機能拡張型IoTデバイスは、こうした環境で知的エコシステムの一端を担える存在となる。

従来、複雑なデバイス間連携やデータ解析にはエンジニアリングリソースが大量に必要だったが、AIを組み合わせることで開発・運用コストを劇的に下げることが可能となる。

Gartnerによると、2025年までに企業のデータ分析の半数以上が自動化されたAIツールによって実行されると予測(参考: Gartner “Top Strategic Predictions for 2021 and Beyond”)。

この自動化基盤上で、IoTはリアルタイム分析と自動制御を駆使し、ビジネスやクリエイティブ領域に新たな価値を生む。

例えば、エンタメ分野では数百万件の視聴データをAIが解析し、次にヒットするコンテンツの特徴をリアルタイムで抽出する。

PRやブランディングでは数千万人単位のSNS発信データを参照し、市場の空気感やブランドエンゲージメントの微妙な変化を即時反映してマーケ戦略を調整可能となる。

AIとIoTを軸にすれば、数人の少人数チームであっても大規模な専門家集団を凌駕するスピードと精度でイノベーションを実行できる。

ここで問われるのは、溢れる知識をどう組み合わせ、どのような文脈で新たなアイデアを創り出すかという創発力であり、それが「博学多才」の新しい定義を形作る。

まとめ

歴史的に「博学多才」は、限られた情報を必死に蓄積し、他者が手に入れられない知識を持つことで成り立った概念だった。

しかしインターネット、スマートフォン、そしてAIの驚異的進化によって、情報独占による優位性は崩壊した。

2020年代にはAIが「情報を保持すること」にほとんど価値を残さず、AGIやASIの到来が真実味を帯びる中、知識とは「必要なときに必要な形で呼び出し、組み立て、新価値を生むスキル」へと進化している。

さらに、IoTが現実世界から膨大なデータを常時供給し、AIがそれらを瞬時に解析することで、人間の発想力、クリエイティビティ、統合的思考がより重要になる。

単なる知識量ではなく、知識活用力こそが「博学多才」の本質となる。

大量のエビデンスやリアルタイムデータが容易に手に入る世界では、情報は無限に近い公共財へと近づき、人間は「知の共創者」としての役割を求められる。

つまり新時代の博学多才とは、AI・IoT時代に最適化された知的エコシステムの中で、人間が創発的なアイデアや文脈を付与し続けることに他ならない。

このような時代、単なる記憶量や多領域への中途半端な精通ではなく、AIとIoTを強力なツール群として活用し、従来不可能だった知識編集術で常に新しい価値を生み出せる者こそが「博学多才」を再定義する。

歴史的概念の変容を数値的エビデンスと共に見渡せば、今まさに知識観が激変する過渡期であり、この変化を捉えた者がビジネス、クリエイティブ、エンタメ、ブランディング、マーケティングなどあらゆる分野で新たな指標となり得る。

 

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植田 振一郎 X(旧Twitter)

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