苦肉之計(くにくのけい)
→ 苦しまぎれの手段や方法。
どうにもならないときは、ジタバタしてしまうものだ。
なんとかしないといけないということで動かないといけないということは理解するのだが、冷静さを失って苦しまぎれの手段に出てしまっては意味がない。
そんなときでも現況を打破するために、いろいろと手を打たなければいけないとはいえ、すでに手遅れということも十分にあり得る。
それを回避する方法など世の中には存在しないわけだが、成功を収めている他社の事例を分析してパクることで回避できるところもある。
パクることは決して悪いことではない。
ということで、戦略的に攻めている企業の1つを紹介していこう。
BEAMS(ビームス)が仕掛ける新型EC
2022年2月17日にセレクトショップの大手であるBEAMS(ビームス)が企業内に個人商店をつくるという斬新なECサイトを立ち上げた。
その名は、B印MARKET。
企業内の個人が消費者と直接コミュニケーションを取り、まさにリアルの個店のような温かいコミュニティーづくりを目指すというコンセプトだ。
あの人が言うなら間違いない、こんなキーワードで人に着目した新機軸のECサイトとは一体どんなものなのだろうか。
B印MARKETは、ビージルシマーケットと読む。
BEAMSのスタッフが個人の視点でセレクトした商品を、ストーリー(コンテンツ)と共に届けるのが特徴だ。
コンテンツは主に2つあり、B印MARKET AWARDと個人商店だ。
AWARDはライフスタイルのシーンに合わせてアイテムを紹介するコーナーで、BEAMSのスタッフが実体験をベースにアイテムを収集し、セレクトしている。
一方で、本サービスの本丸ともいえる、斬新なのが個人商店のコンテンツだ。
ディレクターやバイヤーの経歴があるスタッフ、目利き力のあるスタッフ、さらには特別ゲストが個人商店のオーナーが店主となって商品を紹介していくというものだ。
個人が、思い思いに商品をキュレーションし、自身の言葉と写真で表現をする。
取り扱う商品はなにも既にBEAMS発売されている商品だけではなく、自分で見つけてきたモノも取り扱う。
アパレルからコスメ、雑貨、日用品、家電など、並ぶ商品には共通点があるわけではなく、個人の目利きという1点のみが選ばれる根拠となっているのである。
B印MARKETのECサイト分析
サイトのつくりも斬新で、商品の一覧性や検索性が、とにかく悪い。
強調したいのでくり返すが、商品の一覧性や検索性が良いのではなく、悪いのだ。
ECサイトといえば、ジャンルごとに整理されていたり、カラーバリエーションがわかるように商品が並べて写されていたり、購入者の評価が見やすくなっていたりする。
つまり、わかりやすさや選びやすさに力点を置いているのが定石だ。
ところが、B印MARKETはその対極にあるといっていい。
商品紹介のページには、商店主が自分でディレクションした利用シーンや世界観をイメージする写真が並び、本人の言葉で説明書きがあるだけだ。
その説明書きも、商品のスペックを載せるわけでもなければ、詳細を解説するわけでもない。
私はこう使っているといった、極めてプライベートでかつ主観的な話が並んでいる。
BEAMSが自社ECをスタートさせたのは2009年と比較的はやい段階だ。
その成果は順調に伸びていて、2021年のEC化率は約43%まで上がったという。
直近の傾向としては、リアル店舗の客足が戻りつつも、依然としてECは好調でEC化率は30%台を維持しているという発表だ。
そんな中でも攻めの姿勢を貫くBEAMSが新たなECの形として生まれたのが、B印MARKETなのである。
公式ECとの差別化を考え抜いたという、B印MARKETは選ぶプロセスかかるストレスを緩和することを目指したという。
ここでもまた、検索からレコメンドへの流れが来ていることが明確になったといえるだろう。
私がここ最近ずっと指摘している、検索からレコメンドへのカルチャーの変化をとにかく見逃してはならない。
ECの世界では、通常は大量の商品を扱うので、消費者は膨大な量の中から商品の概要や口コミなどを見て選び出すのが当たり前だった。
もちろん、商品選びを楽しんでくれる人、つまりは検索を楽しんでいる人もいるが、一方でその検索をストレスに感じているという人もいるわけだ。
そこで、重視しているのが情緒的価値とストーリーだ。
レクトショップで培ってきた目利きが得意なスタッフの個人の主観を強く出すことで共感を呼び、迷わず購入できるように意識して導線を設計しているのである。
個人商店のページは、まさに人が前面に立つようになっており、商品の概要がわかるというよりは、その店主の生活が見えてくる。
投稿画像や記事を読んでいくと、コンテンツを体験しているような感覚になるというわけだ。
第3のマーケティング手法
BEAMSがこれほど人に着目した新機軸のECを立ち上げたのか、そこには2つの大きな目的があった。
1つ目は、マイクロマーケティングの次の形を生み出すことだ。
100人いれば100通りのBEAMSがあると、BEAMSにはマスではなくマイクロマーケティングといわれるような形を自然につくり上げてきていた文化がある。
BEAMSという屋号の下に、スタッフ個人の嗜好から派生したレーベルと呼ぶブランドを30以上展開している。
それぞれのレーベルに所属する店舗スタッフなどを通じ、多様化する消費者を小さな塊として集め、ファン化してきた。
現代では消費者の嗜好の細分化はさらに加速している。
その結果、所属するレーベルの枠を超えた人の単位までマイクロ化することで共感が得られやすい時代となっている。
事実、突き抜けた特徴を持つD2Cブランドが多数登場し、規模は小さくても強固なファンを獲得しているのも、嗜好の細分化や多様化を示している証だといえるだろう。
BEAMSでも消費者との繋がり方は進化している。
スタッフの投稿経由の売り上げが増えており、スタッフのコンテンツ経由の売り上げが6割を超えることもあるという。
そして、もう1つの目的は、スタッフの活動の場をつくるということにある。
BEAMSには個性派の社員やスタッフが揃うという。
組織はリスクヘッジの面から個人の発信を含めてコントロールするのが一般的だ。
ただ、そういった個性も下手に組織化しようとすると活かすことができなくなる。
そこで、BEAMSは組織として管理のハードルは当然高いけれど、個の可能性をいかに拡げていくのかという部分にフォーカスしているのである。
つまり、好きにやっていいという領域を絶妙なところに設定しているのだ。
BEAMSの目指すべき方向は、企業であるBEAMS、もう一段細分化したブランドとしてのレーベル、さらに組織体の中にいる個人が並列となるようにすることなのである。
まとめ
BEAMSの新型ECである、B印MARKETのポイントは個人を感じてもらうことで、それを感じ取ってもらうには、自分のパーソナルをさらけ出すことが重要だ。
だからこそ、必然的に載せる写真は商品の形状などがしっかりと写るわかりやすいものではなく、実際に使っている様子やライフスタイルがイメージしやすいものになる。
そして、もう1つのポイントは、消費者とのコミュニケーションだ。
消費のトレンドは、モノ(商品)からコト(体験)へのシフトしているのは周知の事実で、その傾向は加速の一途をたどっている。
体験を出していくということは、レコメンドにも繋がるということで、この新しいマーケティングの手法はなにをするにしても意識しないと消費者はついてこない時代なのである。
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