自家撞着(じかどうちゃく)
→ 同じ人の言動や文章などが前後で矛盾していること。
矛盾とは、前に言ったことと後に言ったこととが一致しないことをいう。
一般的には、理屈として2つの事柄のつじつまが合わないことを指すのだが、現代社会においてはそういう場面も出てくることも頻繁にあると思っている。
それだけ、あらゆるところでのスピードがはやく、複雑化しているというところもある。
結果、矛盾したとしても最期に上手くいけばいいと思っているのだが、矛盾というよりも変化に近い感覚だろうか。
とりわけ、マーケティングの世界では著しくやるべきことが変わるということから、矛盾に近い感覚が生まれている気がするのである。
バズる意味の変化
バズるという言葉はもはや説明するまでもないが、SNS上で多くの人から注目を浴びることを意味している。
Twitterでのいいね数が何十万とついてリツイートされて世に広まったり、YouTubeでアップした動画が何百万回と再生されて有名になるといった具合いだ。
具体例を挙げたが、勘のいい人は気がついたと思う。
それは、バズらせる根本にあるのは、コンテンツだということだ。
つまり、どういったコンテンツをSNSでアップするかを考えて、ユーザや消費者を導くことが従来のバズらせるという考え方の基本にあったわけだ。
実際、バズらせるコンテンツというテーマで一時期はデジタルマーケティングの分野は話題が持ちきりになっていた。
ところが、2023年1月現在の主流は異なっている。
SNS慣れしたユーザや消費者は、コンテンツを見る目が肥えたことで、インフルエンサーや企業が意図してバズらせようとしていることが、見破られやすくなっているのである。
その結果、バズらせるコンテンツそのものを生み出すという考え方から、ユーザや顧客が自然と話題にしたくなる場を設計するという考え方に変化しているのだ。
今さら聞けないバズるってなぁに?
バズるという言葉の意味をサラッと書いたが、そもそもの語源は英語のbuzzから来ている。
buzzはハチがブンブン飛ぶ様子を表していて、1つの話題にハチが群がっているように多くの人が集まっていることを示していることに由来している。
ちなみに、英語での同義語は、バイラルに広がるという意味のgo viralと表現される。
バズるとバイラルとの違いは、バイラルにはウイルス性という意味があるという点だろう。
バイラルメディアというメディアがあるが、バイラルメディアは、SNSで拡散したくなるようなインパクトのある記事やコンテンツのメディアのことをいう。
SNSの拡散力という特性を活かしてトラフィックを集め、収益化をしているというビジネスモデルだ。
また、炎上という言葉も似たよなポジションだとされる。
ただ、バズるとの違いは、特定の話題や対象に対して批判が殺到している様子を示す点で、SNS上でネガティブなコメントやバッシングが相次ぎ、収拾がつかない状態のことをいう。
多くの人から注目を浴びるという点では、バズると似ているように受け取れるが、批判のためというネガティブな理由で注目されているところが違うのである。
いずれにせよ、SNSの上で意図的にバズらせることができれば、広告宣伝費がかからないというメリットに企業が気づいたわけだ。
そこで、マーケティング業界では、インフルエンサーたちを使ってバズるコンテンツを生み出そうとしていったという流れだ。
バズる意味の具体的な変化
ということで、バズる意味がどのように変化しているのか、より具体的に書いていこう。
くり返しになるが、かつては、SNSで話題になるようなコンテンツをつくり、企業が意図的にバズらせようとする施策が中心だった。
その発想は認知を取りに行くための、テレビCMに代表されるマスマーケティングに極めて近い取り組みだったといえる。
インターネットを活用していながら、結局はテレビCMと同じ手法で企業からの一方的な情報発信を軸としたものだったという点では矛盾が生じていたともいえるだろう。
つまり、バズれば売れるという思考になっており、とにかくウケるコンテンツをつくろうという傾向が強かったわけだ。
一方で、変化したバズるは、企業の仕掛けは当然あるものの、ユーザや消費者に自発的に参加してもらうための、一歩引いた余白のあるコミュニケーション設計がされている。
要するに、ユーザや消費者を巻き込む形で話題になっているのだ。
具体例を2つ挙げてみる。
ちいかわ
まず、動物のキャラクターを題材にした漫画、ちいかわだ。
イラストレーターのナガノ氏がTwitterに投稿していた漫画が発祥で、それをまとめた単行本が出版されると徐々にファンが増えていった。
その後、2022年4月のテレビアニメ化され放映が始まると、人気に火がついたのである。
その理由は、なんといっても魅力あふれるキャラクターたちだといわれている。
カワイイ姿とは裏腹に、人生の厳しさ、ささやかな暮らし、健気に生きる姿などが描かれている、その登場キャラクターたちに、多くの人が共感したというわけだ。
それをきっかけに、TwitterなどのSNSで、登場キャラクターのハチワレの口癖がバズった。
◯◯ってコト!?をはじめ、ちいかわ構文と呼ばれる独特な言葉遣いやフレーズを真似する人が続出したのだ。
そして、SNS流行語大賞2022では、累計270万回以上つぶやかれた、◯◯ってコト!?が大賞に輝いた。
これほどの大ブームが起きた要因は、自然発生的にユーザたちがSNSで盛り上がったことだというのは言うまでもないだろう。
お値段そのまま!! 40%増量作戦
2つ目に紹介するのが、ファミリーマートが22年8月に実施したキャンペーン、お値段そのまま!! 40%増量作戦だ。
その名のとおりだが、このキャンペーンは、ファミリーマートの人気商品を値段はそのままに40%増量するという企画だ。
改めて定番商品に目を向け、手に取ってもらうのが狙いということで始めた戦略だが、ポイントは40%をはるかに超える増量をしている商品もあるところにあった。
このキャンペーンに乗じて、ある消費者が、実際に商品の増量前後の重量を比較して検証したのが話題になった。
おにぎりの直巻明太子マヨネーズは53%増量、ホットスナックのクリスピーチキンは62%増量、総菜商品のタルタルチキン南蛮に至っては80%も増量していたのだ。
瞬く間にこのツイートのいいね数が30万を超えてバズった。
改めてこのバズったポイントは、バズらせるための施策ではなく、あくまで一連の仕掛けを消費者の発見に委ねているところにあるという点だ。
商品ごとに増量に幅を持たせたことに対して、ファミリーマートが意図的に仕掛けたことなのかは明言していない。
とはいえ、実際にどれぐらい増量になっているかは把握しているはずなのに、それをあえて全商品を40%増量と謳っていたと推測される。
そんな状況を準備することで、本当に40%増量なのかと比較検証する消費者が現れることを想定していたとしたら、優秀なマーケティングだと思わないだろうか。
まとめ
バズるやバズらせるというマーケティングの視点から見た仕掛けの変化について書いてきたが、興味がそそられる人も多いのではないだろうか。
というのも、本来のバズるとは企業側から仕掛けたもので、ユーザや消費者という立場の人はある意味でハメられた側だった。
それが、今やユーザや消費者が逆に企業側をハメているパターンもあるのではとすら感じているのである。
なにが言いたいのかと、企業の思惑にハマらないという意思を持ったユーザや消費者があえてバズに乗っかったり、外れたところでバズらせるというゲームを楽しむ感覚が生まれているということだ。
つまり、バズらせる側が入れ替わるという現象が起きたとしても、なんら不思議はないということを主張している。
このあたりも、バズらせるという言葉そのものに矛盾を感じる人もいるのではないだろうか。
だからこそ、マーケティングとかブランディングの世界は面白いともいえるのである。
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