第86話
1時間程度のフライトはあっという間だ。
ここからは、今回のピッチを予選大会から主催をしてくれている担当者も一緒ということで、気も楽だった。
どのくらいか詳細は覚えていないが、結構な期間をアメリカで過ごしている人なのでいろんな情報が聞けたことも新鮮だった。
カーネギーメロン大学を出ているとのことで、今回の旅のしおりにカーネギーメロン大学での交流が含まれていたことに合点もいった。
ピッツバーグ空港からもUberで目的地に向かう。
待っている間、空港内にあるスターバックスでコーヒーを買った。
このアメリカ出張で何度かスターバックスを使ったが、はっきりいって日本のスタバの方が清潔感もあるしホスピタリティも圧倒している。
オシャレな感じも日本のスタバの方がクオリティが高い。
ショートサイズがないことは聞いていたが、サイズがデカいのも少しだけでいいという感覚の人からしたら迷惑でしかない。
ということで、何回目かのデカいコーヒーを片手にタクシーに乗り込んで中心地へ向かう。
第87話
NYで数日過ごした後のピッツバーグは対照的なところしかなかった。
ゆったりと時間が流れているというか、中心地こそ高層ビルもあるが近年発達したような街づくりで、いい意味で田舎の感じが緊張を緩和させてくれる。
天気が良かったということも大きいかもしれない。
5月中旬で、ここまで気温が上がることも珍しいということで、NYでも同じようなことを聞いたな。。と思った。
中心地へ向かう途中に知るのだが、ケチャップで有名なハインツの本社もピッツバーグにあり、それこそ空港から中心地へ向かう途中にお目にかかることができる。
アメリカの著名投資家であるウォーレン・バフェット氏の投資会社が出資していることでも知られている。
そして、黄色い橋を越えると中心地への入口だと教えてもらった、まさにその橋を越えると景色も一変する。
球場が見えたり、高層ビル群が見えてくる。
ただ、NYのように混沌としておらず、空が広く住みやすそうな街だということが伝わってくる。
もちろん、NYのような刺激的な場所の魅力もあるが、それとは全く違う魅力のある街だ。
第88話
中心地から少し離れた場所がどうやらピッチ本番の会場らしい。
「ここです」とタクシーが停まった場所を見て、一瞬「?」となった。
協会の中をピッチ会場にしているということだ。
半信半疑で中に入ると、設営スタッフがせっせと準備をしてくれている。
ちょっとした展示スペースも設けてくれており、リハーサルがあるというので、そこまでの時間をのんびり過ごす。
確か、日本、香港、韓国、カナダ、アメリカから3チームといった構成で決勝戦という感じだったはずだ。
様々な国からどんなチームが来ているのかを見るのは興味深かった。
海外を感じさせてくれたのは、大型犬を会場まで連れてきているチームもあったことだ。
てっきり、ペットに携わるプロジェクトなのかと思っていたが、そのチームの発表になって全く関係のなかったことを知る。
こういった自由さというかおおらかな感じは日本ではあまり感じたことがない。
ランチも会場内に準備されており、これぞアメリカ!といったサンドイッチは普通に美味しかったし、大きな注ぎ口が付いたパックにコーヒーが入っていて、それがスタバが届けてくれるモノだと教えてもらったときには日本でも欲しいサービスだったりもした。
こういった会場1つとっても日本では体験したことのない、いい意味でほんわかしたところはリラックスさせてくれた。
第89話
本番は夕方からということで、リハーサルを終えるとホテルにチェックインしに向かった。
ホテルのレセプションもNYの機械的だった対応に比べると、とてもフレンドリーだったのを覚えている。
「日本人?」とか「ようこそ、ピッツバーグへ!」とか、こちらがいまいち英語がわかっていないこともお構いなしに、いろいろと話しかけてくれることもリラックスさせてくれた。
その後も部屋を出たときにロビーや廊下ですれ違ったときにも気さくに声をかけてくれるホテルスタッフに親近感が湧いた。
その後、ホテルの近くを軽く散策しながら、ピッチ本番へ備えた。
一番ネックだったのは、質問も全て英語だというところだったが、そこは通訳を入れてもいいということらしく、同伴してくれた担当者がしてくれるということで安心した。
とはいえ、NYで指摘された良くないところは少しでも改善したかったし、丸暗記とはいえ、自分がしゃべるところについてはしっかり暗記していこうということで、近くにあった本番とは別の教会に入った。
ステンドグラスがキレイで、日本にはない建物に最初は癒やされてこそいたが、その中で何度も何度も原稿を読み返し、頭に英語を叩き込んだ。
第90話

そして、いよいよ本番が迫っているということで、会場へ向かう。
リハーサルのときとは打って変わった雰囲気になっていた。
たくさんの人が入っていて、もちろん日本人は同行した人たち以外には皆無だ。
正直、俺はピッチで緊張したことはない。
このピッツバーグでのピッチのオーディエンスは200〜300人くらいだろうか。
それ以上の会場で話をしたこともあるが、強がりでもなんでもなく緊張よりも、せっかく時間を割いて来てくれた人に少しでも記憶に残る、来て良かったと心から思えるような時間を提供したいという気持ちが勝る。
英語縛りというのは確かに少々ナーバスにさせたが、その要因の大きなところはQ&Aがあり、そこも英語縛りだというところだった。
ただ、先にも述べたが、ここについては通訳ありということになったので、緊張という緊張は全くなかった。
むしろ、ステージから見る外国人だらけの光景に高揚したくらいだ。
あっという間にピッチは終わり、Q&Aも終わった。
結果は全く賞には引っかからなかった惨敗に終わった。
ネイティブたちの表現力に圧倒され、ただただ自分の小ささを露見するだけだった。
後から、大してレベルの高いピッチではなかったと海外のピッチ経験が多い人に教えてもらい、悔しさだけが残った。